いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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カタパルト

芝公園の二連S字を、黒いFCのリードで駆け抜けていく。

 

アクセルを抜くところ──そして踏むところ。

FCの緩急は、後ろに目がついているのではないかと思わせるリズムだ。

私の33Rと、それに続くZ31──その二台とアザーカーの位置関係まで把握したうえで、FCはラインをつくっていく。

 

端から見れば、よく競り合ってる三台──熾烈なデッドヒート。

しかし、当事者たちはわかってる──いまこのバトルをコントロールしているのは、先頭のFCだ。

 

走りのスタイルそのものはイカれてるのに、場の空気だけはコワさない。

公道をある程度やった奴ならはっきりわかる──こいつは速い。

 

FCの走りを見て、私はふと、レミリアのアドバイスを思い出した。

 

「複数車線あるステージで一般車をパスしながら走るときのコツは、相手に自分を気づかせないこと。気配を殺して、一瞬でパスすること。一般車に恐怖心をすこしでも抱かせたらダメなの。予期しない他者の動きは、アクシデントの原因になるから」

 

「たとえば湾岸線──延々とストレートが続く3車線。よく『まっすぐだから簡単』なんて言う奴がいるけど、私に言わせれば大したことないわ。それはただ、一般車が避けてくれているだけ。クリアを一般車がつくってくれてるだけなの。バカでもアクセルを踏むだけならできる──でも、そんなのはただの独りよがり、ただアクセルをベタ踏みしてるだけなのよ」

 

引きこまれる──空気の壁をいなしていくようなランデブー──

FCと私とZ──三台の一糸乱れぬリズム。

こんなにも常軌を逸しているのに──どうしてこんなにも心地良い──

 

だけど、私はわかってる。

そして、追走するシルバーのZも。

 

この先は浜崎橋JCT──C1内回り継続、あるいは──

 

「そうだよな──そうこなくちゃな──」

 

浜崎橋JCTを前に、FCは右にウインカーを焚く。

Rの息遣いを私は右足で感じる。

お前も予感してるのか、R──他で生きられたとして──しかしお前の居場所はそこにしかないんだと──

 

この先引き離されなければ──三台のバトルは、あのステージに届く。

この右分岐は、FCが私たちに叩きつける試しの一手だ。

──お前たちに「その先」へ進む資格はあるのか、と。

 

浜崎橋JCTの右コーナーを、緩やかに立ち上がる。

コーナーが終わりに近づくにつれ、Rを縛る鎖が引きちぎれていく──600馬力で駆ける四肢の筋肉が、コーナーを抜ける毎瞬にほぐされていく──

 

横羽線入り──ペースが一段階上がる。

シート越しに横羽の荒れたアスファルトを撫でる。

ストリートチューンの本質──33R・インフェルノスペック──その本性が剥き出しになっていく。

 

あくまでも公道の非合法なスピードで──ミッドナイトパープルは、清濁の区別すらつけずに、併せ呑もうとする意思表示──

 

前方30メートルがクリアになった瞬間、Zが右から私をパスする姿勢をとる。

私はアクセルを緩め、Zに譲る。

 

「あら?バトルじゃないの?」

 

ヘカーティアがすこしからかうような口調で私に問いかける。

 

「わかってんだろ、ヘカーティア。性格悪いぜ、お前」

 

「まあ、ね。魔理沙あなた、結構空気読めるタイプ?」

 

「スペルカードに『恋符』ってつけるくらいだぜ?魔理沙さんをナメんなよ。……いま、FCとZの雰囲気がいい感じだったから譲っただけさ。勝負は──な?思った通りだ」

 

私が話してると、先頭のFCが左にウインカーを出す──11号台場線だ。

レインボーブリッジを渡り、接続する路線はただひとつ──

 

「──昂ぶる?魔理沙」

 

「そうだな……自分のマシンじゃないのは不本意だけど、興奮してる。冷静さを装うのが精一杯だ。それは『この先』のせいもあるけど、多分、このFCに遭遇したからだと思う。Zも速いが──わかるだろう?ただ速いだけじゃない──引力があるんだよ、走りに──」

 

その気配はまだ薄い──お前はきっと抑えこんでいるんだろう──

 

見た目には大人しいFCだ。

咲夜ならわかるかもしれないが、私からしたらほぼノーマルに等しい。

 

だけど、はっきりわかる──お前はあの速さの住人なんだと──

生まれ持ってしまった、非合法な狂気──それを解放する、唯一とびっきりの場所──

おとなしそうな、モノわかりの良さそうなツラをして、きっとお前は一から十までボタンをかけ違えてる。

 

たったこれだけの時間なのに、お前の走りはなんて濃密なんだろう──お前のことをわかってしまえる気になる──それほどに、FC──お前の走りは語りかけてくる──

 

レインボーブリッジの夜景すら、もう目に入らない。

FCとZを結びつける熱波、それに私は手を伸ばす、手繰り寄せていく。

二台のホンネが開かれていく──それがどれほどの猛毒だとして、飲み干したくなる甘露── 

 

なれたのか?

Z──そしてFC──私はお前たちと「走り合える」相手になれたのか?

 

こころが震える。

それは、全盛期最高の走り屋と出会えたから?

それは、再びこの身でクルマを走らせているから?

それとも──

 

有明JCTにさしかかる。

台場線からの分岐は二つ──緑色の看板に、二つの「B」の字が踊る。

空港を示す飛行機のマークが二つ、左右の端で外向きに飛びたとうとしている。

 

そうさ──私たちが駆るのはクルマであってクルマじゃない──チューンド──それは地上の戦闘機──

 

FCが左の分岐に入る──Zに続き、私も左へ──

 

水温、油温、油圧、すべてOK。

ブースト圧異常なし──オールグリーン──

 

最後の左を抜けて、合流に向けアクセルを全開──

それはさながら、戦闘空域へ飛びたつ助走──カタパルトの加速そのものだ──

 

FCに続きZが射出され、非合法(イリーガル)の翼でアスファルトの黒い空をさえぎっていく──

有明のカタパルトから33Rの四肢が放たれる──私はアクセルを踏み抜き、機首を上げる──

 

 

首都高湾岸線──合流──ッ

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