有明JCTを──いま、飛びたつ。
湾岸のアスファルト──非合法な最速の空へ。
200km/hまで加速して──テイク・オフ──
三台、いや──三機の戦闘機がいま、湾岸を戦闘空域と定義する。
本性を表すハイチューンのエンジン、牙を剥く大口径タービン。
空気が違う。
ここはなんて──冷たいんだろう。
私とZ──そしてFC。
私たちのエンジンはこんなに真っ赤に燃えているのに、この湾岸はとても「冷たい」。
こころのピアノ線がピンと張っていくような──薄氷の剣先を渡っていくような──
250km/hを境に、目に映るすべての動きが止まって見える。
咲夜が見ていた世界は、こういう景色だったんだろうか。
だけど──ここの孤独はきっと、ここだけのもの。
この速度域のなかにだけ垣間見える、とびっきりの孤独。
高速道路に輝く街灯、一般車のテールランプ、東京都心の夜景──灯りのひとつひとつがつながって、線になって飛び去りゆく──それでいて、窓のひとつひとつ、テールランプの電球ひとつまで見分けられる気がする。
終わらないでほしいと願いたくなる。
夜空にたったひとりで投げ出されて、星々に囲まれながら浮かんでいるような心地よさ。
私とZとFC──それぞれの
私は冥界ハイウェイの最後の夜を思い出した。
この心地よさは──そう。
死を目の当たりにした心地よさ。
暖かな春の光に包まれながら、身体の底から冬の冷たさが沸騰する──張りつめた陶酔感。
やがて私たちは、死のゴールポストにおもむく。
終わらない加速と終わらないストレートのなかで、私たちは誰よりも速く──そして誰よりも前へと──死に向かってアクセルを踏み抜いていく。
生きとし生けるもの、その絶対の宿命──それが「死」──たったひとつだけ変わらないモノ。
その真実を、かぎりなく濃縮して飲み干していく心地よさ。
湾岸東行き、有明JCTから辰巳JCT──距離にして4km強。
それを私たちは、たった1分間で走破する──250km/hオーバー、狂気のスラローム。
数字にすればはっきりとわかる──これは絶対に理解されない。
誰にも理解されない、誰にも理解できない──それはいま、エンジンの咆哮に身をやつす私たちとて、同じこと。
私はさっきまで、この二台の前に出れば勝者だとばかり思っていた。
だけど、きっとそんな単純な話じゃない──ここに勝者はいないから。
私たち三台は互いを
一般車がまばらになっていく──中央車線、最後の一台をFCとZが左右からパス──
オールクリア──
全開とパーシャルを行き来していたアクセルを、前へ──RB26エンジンが身を捩る──シリンダーの爆発とタービンの過給──ブースト圧2.0──お前のエキゾーストは苦痛?それとも歓喜?
私自身すら透明になっていく──大気からオブラートを、ノーズ越しにめくり剥がしていくような──33Rのノーズが、私の指先になっていくような──
──これが、300km/hオーバーの景色。
250km/hで止まって見えたクルマたちが、再び動き出す。
まるでこっちに向かって、100km/hオーバーでバックしてくるみたいに──
250km/hはすべてのモノが止まって見えた──平等に生命を失うスピードだった。
いまは──私たち以外のなにもかもが、フロントガラスに飛びこんでくる。
死へとおもむく孤独な最高速ランナーに、生あるすべてが飛びこんでくる。
そのたびに、私たちの体温は下がっていく──生の輝きが、私たちは走る死人なのだと定義づけていく。
バックミラーの奥で赤いモノが、光った。
300km/hオーバーの世界では、どんな速さよりよく見えるから──私はそれが、Z31の光だとわかった。
宙を舞い、爆ぜながら──燃え上がって地に堕ちる。
シルバーのボディが、ガソリンの業火に包まれていく。
500馬力のパワーと、300km/hオーバーの速さに自壊していく最期の姿。
私は冷静にそれを、綺麗だと思った。
FCは止まらない──そして私も、止まらない。
敵機であり、戦友だった。
その死を前に、私は止まらなかった。
私は辰巳JCTを左──9号深川線へ。
FCは直進し、走り去っていく。
その姿を見送りながら私は、夜の雛鳥がいま、産声をあげたのだと理解した。
あのFCこそがレミリアの追った夜の怪鳥であり──死をはこぶ歌声がいま、始まったのだと理解した。
私たちはいまこの夜に「