いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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修正入ってます
「エクリプス」のところの注釈を参照してください
投稿時点では「エボ」でした

(2025/01/28 02:00)


狂気をその手に

辰巳JCTより、R35・GT-R──湾岸合流──ッ

 

狂気(ルナティック)を──その手のうちに──吼えろ、GT-R──ッ!」

 

辰巳の右コーナーを立ち上がりながら、一気に低段ギアへ──タコメーターが跳ね上がり、リニアに吹け上がるVR38──

 

爆発的なパワーと極太のトルク──4WDの理知性が、その狂気を路面にあますことなく伝達する。

加速が生む破滅的なGに、少女の小さな身体はシートに張りつく。

 

その勢いのまま、湾岸本線合流後もR35はなお加速。

湾岸線の流れは良好──まばらな一般車を縫いながらも、少女はアクセルを緩めない。

 

「──スタビリティが高すぎる。このぐらいの交通量なら、左足ブレーキだけで十分、って──げえ、もう有明なの?踏みっぱなしでこっちやっと5速なんだけど──」

 

そう、R35のミッションは6速。

少女はまだ最後までこの600馬力を絞り出していないのだ。

だというのに、もう11号台場線と接続する有明JCTが迫っている。

 

「辰巳─有明できっちりトップエンド*1まで回していったら、5速までだね。強化ついでにギア比は変えたけど……この仕様なら多分、大井まで行ってやっと6速トップエンド、かな。加速が途切れないから、平均速度が高い──だから伸び切る前に有明まで来てしまう」

 

そう言いながら、少女は有明JCTで左にウインカーを出す──台場線入りだ。

ちらりとバックミラーをみながら、少女は呟く。

 

「──魔理沙は、さすがについてきてないか。芝浦PA集合って言ったから、大井まで行くわけにはいかない*2もんね。800馬力を試すなら、羽田──いや、神奈川エリアしかないか。でも──」

 

少女は120km/hクラスまでスピードを落としながら考える。

 

「最近神奈川エリアはきな臭い話が多いんだよね。なんか走り屋狩りをやってる34Rが出没してるとかなんとか……っておや?」

 

パッシングされている──これは直4のターボか?

少女がさらにスピードを落とすと──後ろに張りつく。

 

レインボーブリッジの橋上──試しに少女はアクセルをにじませる。

120から150km/h──そして180km/h。

中速域からのツキもこちらと遜色ない──

 

おそらくだが、湾岸線ですれ違ってから追いかけはじめて──台場線でこちらが減速したことで追いついたのだろう。

少女が思いつくかぎり、直列4気筒でそれができるエンジンはただ一つだ。

 

「──4G63。ランエボのシリウスエンジンだね。あまり知られてないけど、あのエンジンの鉄ブロックは強い。ピストンとかコンロッドこそ限界は500馬力前後だけど、きっちり手を入れてやれば──」

 

千馬力──そしてトルクは約100kg・m*3

それが4G63のポテンシャルだ。

 

ルナティック・パワーの源流であるEclipse Tunedでも、過去にドラッグレースマシンにエクリプス*4をチョイスした実績がある。

圧倒的パワー志向でアメリカ人の心を掴んだEclipse Tuned──そこで認められた唯一の直4ユニットが、4G63だった。

 

「おそらくこちらと同じ600馬力──しかも同業者かな、多分。さっきまでC1周回してたから、こっちのデモ車が出てきたってバレて──湾岸で待ち伏せしてたってとこかな。千葉方面にたしかエボのパワーマシンつくってたショップあったし、ルナティック・パワーの勢いがつく前に撃墜(オト)しとく算段か。──OK、やろうか。もしあのショップのデモ車なら、魔理沙に任せるのは荷が重いしね」

 

たしかあのショップはオーナー自身が元ラリーストだったはずだ。

公道をヤメられなくて、結果競技の世界を追われ──チューナーとして再出発した元ラリースト。

 

SS*5はクローズドとはいえ、公道を主戦場にするラリーストは、正直レーサーよりも手に負えない──富士のストレート*6で踏みきることと、湾岸で踏みきることの意味がまったく違うことを、彼らは競技レベルで理解している。

 

「スキルはおそらくあちらが上──マシンは互角か……こちらが上かな。ちらりと見えたけど、マシンはエボⅨか。コースは浜崎橋からC1外回り、江戸橋までにケリがつかなきゃ9号・湾岸でいいでしょ。それならイーブンだし」

 

少女はバックミラーをちらりと見て、回転数を落としながらシフトダウン。

後続のエボも呼吸を合わせ、シフトダウン──その度に4G63が唸り、その牙からは唾液がしたたる──

 

一般車がクリアになると同時に、エボが右に並ぶ──少女は右を向く──エボⅨのドライバーと視線がぶつかり合う──

 

瞬間、二台同時にアクセルをON──レインボーブリッジの中間地点で、トラクションの怪物たちがいま──地を蹴ってアスファルトを軋ませる──

 

「さァ始めようか、エボ──GT-Rこそが首都高の帝王──その絶対的真理はR35(いま)も不滅と、このクラウンピース直々に教えてあげる──」

 

 

─────

 

 

「あーあ……こりゃ芝浦PA合流かな……」

 

霧雨魔理沙、クラウンピースに続き、辰巳JCTより湾岸合流。

合流車線からはR35の機影が確認できず、魔理沙はペースダウン──トラックの台数もそれなりに多い。

 

「まあ、バトルじゃねえけどさ……ちぎられちまったな。葛西(かさい)方面からの集団が間に挟まっちまったし、大人しくしとくか」

 

高速道路では、一般車は集団で動く。

一般車のカタマリとカタマリの間に、オールクリアの空白がある──これは魔理沙の経験則だ。

クラウンピースはおそらく、空白のタイミングで湾岸入りしたのだろう。

そうだとすれば、ここから追いつくのは厳しい。

 

以前の自分なら、ムキになってスラロームしていたのだろう。

知れば知るほど、慎重になっていく自分がいる──クルマに手を入れること、公道で最高速を求めること。

 

かつての自分は、無謀だったのだろうか?

それとも、闘争心に満ちていたのだろうか?

 

──わからない。

ただ一つ言えることは、かつての走りの方が死に近かっただろう──ただそれだけ。

 

それでいいのだ──いまの私の方が、死なないし、誰も死なせない──死を剥奪されてやっとわかるなんてな、と魔理沙は自嘲気味に笑った。

 

そのとき──後ろから一台のマシンが迫る──

これは──

 

「速い──ロータリーサウンド──?それにしては音が変だ。13Bじゃない──」

 

魔理沙はバックミラーを見る。

左後ろから──?

 

「辰巳からの合流……9号でロータリーを抜いた記憶はない……となると、9号から追いついてきたってことか?」

 

迫る──音が迫る──

魔理沙はクラウンピースから紹介された、かつてEclipse Tunedが制作した一台のドラッグマシンを思い出していた。

そうだ、この音は──あの動画で聞いた音だ──

 

「これは13Bじゃない──20Bターボ──3ローターターボだ──」

*1
エンジンの回転数、そのレッドゾーン付近のこと。

*2
芝浦PAは11号台場線上り方面に設置されている。大井まで行ってUターンした場合、横羽線に入るため芝浦PAには入れなくなる。

*3
キログラム・メートル。物理学ではkgf・m(キログラムフォース・メートル)が用いられ、1993年施行の新計量法ではSI単位のN・m(ニュートン・メートル)の使用が義務付けられているが、クルマの世界ではkgf・mからフォースを省いたkg・mがメジャー。

*4
「エボ」→「エクリプス」。2025/01/28に修正入れました。ワイスピ観てて気づきましたが、Ⅶ以前のエボはアメリカに入ってません。アメリカにおける4G63の供給元のひとつが、エクリプスでした。同じ型式でもバリエーションが多いので、Eclipse Tunedはエボのエンジンだけを輸入してエクリプスに積んでいたのかもしれませんね。

*5
スペシャルステージの略。ラリーは公道でタイムアタックをする競技であるが、閉鎖してそれを行う区間。SSとSSの間にはロードセクション、あるいはリエゾンと呼ばれる区間が設置され、そこでは一般車に混じり交通法規を守って走行する。

*6
富士スピードウェイのホームストレートのこと。全長は世界有数の約1.5km、GT500クラスのマシンなら最高速は300km/hに到達する。湾岸線で言えば、辰巳JCTから東雲JCTが約1.7km。余談ではあるが、作中時点では東雲JCTは存在しない。これは10号晴海線が未開通のため。




犬走椛
プジョー・205GTI:山梨
EK9:静岡
白狼天狗・大井川伝承より

古明地こいし
RX-7・SA22C:相模
箱根で登録、作中現在再取得した場合湘南ナンバー

ミスティア・ローレライ
RX-7・FD3S:愛媛
夜雀の伝承は主に四国から近畿
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