「あと上下一本走ったら帰りましょうか。そろそろガス減ってきたし」
冥界ハイウェイ第一PA──午前二時
十六夜咲夜は下り終えてきた魂魄妖夢と鈴仙・優曇華院・イナバに呼びかける。
エボⅣから降りるなり、鈴仙がガッツポーズを決める。
今回は鈴仙の勝利だったようだ。
「今回はいただいたわよ、妖夢」
「鈴仙かなり上手くなったね。途中咲夜にも食いついてたし。咲夜結構ヒヤヒヤしてたんじゃない?」
「まだまだ余裕よ。霊夢以外に下りで負ける予定はないわ。でも鈴仙、上手くなったのは私も妖夢と同意見。今回の課題は4WDドリフトだったみたいだけど、大体のコーナーを流しっぱなしで抜けてるのは大したものだわ」
「ありがと、でも二人とも褒めすぎ。下りだからドリフトが続いてたけど、平地とか上りだとまだまだ厳しいわね。重力と慣性さまさまって感じ」
鈴仙はそう言いながらも嬉しそうだ。
バックミラー越しに見ていたが、エボⅣでよくもまああそこまでドリフトするものだと思う。
FRに乗り換えたらすぐにドリコンで好成績を残せるだろう。
私がそんなことを考えていると、妖夢が私と鈴仙に口を開く。
「そういえば、今回の下りはジュース賭けてたんだったね。二人とも何がいい?」
「私レモン水!」
「私はコンポタ」
「鈴仙がレモン水で咲夜がコーンポタージュね。……にしても、咲夜コンポタ好きすぎじゃない?自分で作ったほうが美味しいんじゃないの?」
「たしかに、咲夜メイド長だし。てかそんなに飲んでたら高血圧でそのうち死ぬわよ。あなた一晩に三本は飲むじゃない」
「医者の弟子が言うと説得力が違うわね。でも大丈夫、いつも塩分控えてるから。それに妖夢、缶のコンポタにしかない良さってものがこの世にはあるのよ。コンポタより尊いものはお嬢様くらいね」
「え、そんなに?咲夜、たとえばさ……美鈴さんとコンポタだったらどっちが尊いの?」
「決まってるじゃない。……コンポタよ」
「そういうものなのかなあ……。まあいいや、私買ってくるね。私もコンポタにしよっと」
そう言って妖夢は自動販売機の方へ駆けていく。
この冥界ハイウェイのパーキングエリアには自動販売機が設置されている。
現在幻想郷にある数少ない自動販売機のひとつ──夜闇に光る人工の明かりは、誘虫灯のように走り屋
「咲夜さ、なんか走りがちょっと変わったよね」
私と同様に自動販売機を見つめていた鈴仙が唐突に口を開く。
あの青白い明るさには、なぜか人間人外問わず目を奪われる。
「そうかしら?自分ではあんまり変わった気がしないけど」
「なんていうかな。速いことに変わりはないんだけど、力みが取れた感じがするんだよね。その分キレが増して、増えた余裕分安全マージンとれてるって印象。……なんかあった?好きな人ができたとか?」
「なんであなたはいつもわからない疑問の答えはそこに着地するのかしらね……ウサギって万年発情期なのかしら」
「ち・が・い・ま・す!私たちお年頃じゃない!このくらいの女の子の変化は大体恋って言うでしょ?」
「言わないわよ……あなたどこからそんなこと聞いたの?」
「……外の世界の少女漫画」
私は頭に手をあて、ため息をつく。
「あー!咲夜もお師匠様と同じリアクションするのね!いいじゃない夢見たって、女の子なんだから!今度貸してあげる。エボのトランクいっぱいに詰めて持っていくから。……で、本当のところはどうなの?」
「貸さなくていいから……そうね……」
私はレイクサイド・パークウェイでアリスに諭された夜を思い出す。
だめだ、すこしニヤけてしまう。
私は口に立てた人差し指をあて、鈴仙にウインクしながら言う。
「……ないしょ」
「……うっわ、あやしい〜!いまニヤけてたじゃない!てかあんた無駄に顔がいいんだからそんなことしちゃダメよ。年頃の男の子だったら簡単に人生狂うわ」
「狂気のプロが言うと説得力が違うわね。ほら、妖夢が戻ってきたわよ」
妖夢が缶を三本抱えて戻ってくる。
私たちに缶を手渡し、私と鈴仙は口々に礼を言いながら缶を開ける。
うん、やはりこの味。
私は走りとコンポタのために生きていると実感する。
無論、一位は言うまでもなく大差でお嬢様だが。
「あ、結構おいしいんだね、コンポタ。ゲテモノかなって思ってたの損した気分」
妖夢がコンポタを一口飲み、驚いた顔で言う。
「あたり前田のクラッカー、よ。ゲテモノは余計だけど」
「飲んでるとこ咲夜しか見たことないけどね……あ、いま妖夢が増えたわ。てか咲夜あなた、魔理沙の口癖がうつってない?」
「よく魔理沙それ言うよね。『あたり前田のクラッカーだぜ』って。どういうことなの?鈴仙知ってる?」
「私は知らない。咲夜は知ってるんじゃないの?」
「『当たり前』って意味なのはわかるけど、なんでクラッカーなのかは私も知らないわ」
そういうものかあ、まあ魔理沙だからなあ、と妖夢と鈴仙は口を揃えて言う。
魔理沙と仲が良いと思われているのは構わないが──実際紅魔館によく出入りしてるし──口癖が似てきているのはなんだろう、すこし我慢ならない。
魔理沙の太ももにナイフを刺す想像をしていると──「いってえな!なんでだよ!」想像の中でも魔理沙はやかましい──妖夢が思い出した顔で言う
「あ、てかさ。さっき私が自販機行ったときなんか騒いでたじゃない。何の話してたの?」
「なんでもないわ。ちょっと鈴仙の頭に春が来てたってだけ」
「ちょっと!春は別に来てないわよ!」
「そうね。そもそも最初から春だものね」
妖夢はなかば困った顔で苦笑する。
「鈴仙、少女漫画は私も好きだけど、読み過ぎは良くないと思うよ?」
「妖夢まで!私はちょっと人より好きなだけよ!」
「はいはい。あなたの
「……いいわ、咲夜。決着は走りでつけましょう。クールダウンに上りは流して、下り一本勝負。私が勝ったらセー◯ーム◯ン全巻貸してあげる。きっちり仕込んであげるから」
「『こんなに月も紅いから』まだまだ『月にかわって』お仕置きされるつもりはないの。……私をお仕置きしていいのはお嬢様だけ。本気できなさい。私が勝ったらコンポタ三本ね」
私と鈴仙のやりとりを聞いた妖夢が笑う。
「いいね。私が勝ったらコンポタ二本。一本は幽々子様に差し入れするんだ。……にしても咲夜、なんか変わったね」
「幽々子が一本で足りるとは思えないけどね。……変わっただなんて、妖夢も鈴仙と同じこと言うのね」
「鈴仙と?……そうだね。なんていうか、前はもっとよそよそしかったっていうか、そこまで冗談言うタイプじゃなかったかなって。なんかあった?」
「だーかーらー!絶対これはこ……」
私は素早く時を止めて鈴仙の口を塞ぐ。
時を動かすと鈴仙がもごもご言ってる。
手を離すと「能力はズルいわよ!」とわめく。
「ほら、行きましょう。私に勝ったら教えてあげる。二人とも、かかってらっしゃい」
私はそう言ってFCに乗り込み、エンジンを始動した。