いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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居場所

「やかましいクルマが二台上がってきたと思ったら……あなたたちでしたか」

 

EK9から降りたドライバーは私と霊夢、魔理沙の一行を見てそう呟く。

白い髪に獣耳、ふさふさの尾もクルマと同じく真っ白だ。

私はさっと魔理沙の後ろに隠れる──魔理沙は「フラン。あいつは犬走椛、白狼天狗だ。まあ、この妖怪の山の風紀委員みたいなもんだな」と耳打ちしながら、私を背後にかばってくれる。

 

「魔理沙さんの32Rはいいとして、霊夢さんのワンダーはなんとかなりませんかね?今日は連絡なしの来訪だったので、その直管マフラーの音で新手の妖怪かと思いましたよ」

 

「まあ間違っちゃいないな。霊夢のワンダーはそこらの低級妖怪よりよっぽど妖怪やってるし」

 

「なによ魔理沙、それ褒めてるの?」

 

「褒めてるぜ」

 

「ならいいわ」

 

椛はため息をつきながら言う。

 

「……にしても、来るときは連絡してくださいよ。いつもは射命丸がその場の空気で通してるみたいですが……ここ私有地なんですからね。警備する身にもなってください」

 

「わかったわかった、霊夢も私も気をつけるよ。それで?椛、お前クルマ乗り換えたのか。前はプジョー205GTIだっただろ?」

 

「私のワンダーから三代後のミラクルよね、これ。シビックも三代で随分雰囲気変わったもんね」

 

魔理沙が話題をクルマに逸らすと椛の表情が一変する──本当は語りたくて仕方なかったのかもしれない。

ただ様子見するだけなら飛んできたほうが早いし。

 

「そう、そう!乗り換えたんです!状態のいい子探すの大変だったんですよ。ボリューム感あるリアハッチと犬のように愛嬌あるフロントマスク……こんな愛くるしいデザインなのに、テンロク(1.6L)クラス最強の性能だなんて……私のEK9……最高です。ギャップに弱いんですよ私」

 

「椛もみもみギャップに弱いのか。いいこと聞いたぜ」

 

「あっ、射命丸には言わないでくださいね」

 

「本人今夜来てないから大丈夫よ。……前々から気になってたんだけど、椛あんた(あや)のやつと関係悪いの?」

 

「ああ、それ私も気になってた。お前文のこと『文』じゃなくて『射命丸』って呼ぶよなって。なんかあったのか?言いにくいようなら私から文に伝えるぜ」

 

「なにかあったってほどではなく……だから伝えてもらうほどのこともないので、まずは気持ちだけ。ありがとうございます。私と射命丸ですが、お互いを管轄してる部署が違うため、業務上の関わりはあまりありません。よって上下関係もありません。同じ天狗の縦社会なので、外の人にはフォーマルな呼び方をしてるだけです。ただ、プライベートには問題があって……あの人私のリーク記事書きすぎなんです!しかもガセネタばっかり!」

 

椛は地団駄踏みながら訴える。

……すごいなあ、「地団駄踏む」を実践してる人初めてみたかも。

ああいや、お姉様がいたか。

外の世界の「い◯旅・夢◯分」ってテレビ番組を紅霧異変で見損なったときやってた。

ビデオデッキの使い方わからないなら、せめて番組表見て異変起こせばよかったのに。

 

「この間の文々。(ぶんぶんまる)新聞には『犬走椛、次期マシンはダイハツ・シャレード・デ・トマソか?』って書いてあったな。『か?』がやたら小っちぇーの。蓋開けたらEK9だし」

 

「シャレードもワンダーと迷ったのよねえ、カクカクしててかっこいいから」

 

「私もシャレードは好きですが……こうして混乱を生むのが嫌なんですよ。文々。新聞の走り面は人気がありますし、メディアとしての影響力を考えてほしいものです……てか私のプライベート覗きすぎ」

 

「わかったよ、文に言っとく。だから落ち着け」

 

「……はい、すみません。もう大丈夫です……あら?目が夜闇に慣れてくるまで気づきませんでしたが、魔理沙さんの後ろにいらっしゃる人は?」

 

椛はそう言うと、魔理沙の後ろに隠れた私に目を向ける。

「ほらフラン、挨拶だぜ」と魔理沙が言い、私はおずおずと前に出る。

 

「私は──」

 

「こいつはフランドール・キリサメ。私の妹だ。金髪がそっくりだろ?」

 

私に挨拶を促した癖に、魔理沙が遮って堂々と嘘を言う。

 

椛は呆れた顔で口を開く。

 

「……魔理沙さん、姉なのに羽がないんですね」

 

「あー……どこかに置き忘れてきたみたいだ。今度ドライカーボンで作り直しとくか」

 

「まったく、この黒白は……すみません、挨拶の最中に。私は犬走椛、白狼天狗です。普段はこの妖怪の山の警備をしております。あなたのお名前は?」

 

「私はフランドール・スカーレット、吸血鬼。霧の湖湖畔にある紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹よ」

 

私の名前を聞くと、椛の眉がピクリと上がる──視界の端で霊夢が御札に手を伸ばしたのがわかった。

私、なにかしただろうか。

 

「……すみませんが、お引き取りください。吸血『鬼』である以上、あなたをこの山に入れるわけにはいかないのです。ましてやあなたはフランドール・スカーレット。この妖怪の山が外界にあった頃から噂は聞いています……吸血鬼の純血種『スカーレット』。かつてグレートブリテン島を追われ、現在のルーマニアに潜伏。トランシルヴァニアにて勢力を伸ばし、大航海時代の波に乗って十八世紀に渡英、ふたたびブリテンの土を踏む……レミリア・スカーレットに代替わりすると、大英帝国繁栄の舞台裏で権力闘争に参戦。反抗する吸血鬼勢力をすべて抹殺し、東インド会社の利権を裏側で独占した……それが吸血鬼の名門、スカーレット家」

 

椛は言葉を切り、私達三人をじっと見わたす。

衝撃の事実に言葉を失う霊夢と魔理沙をよそに、椛は続ける。

 

「スカーレットの名はこの極東の島国にも届いていました。もっとも、『レミリア』のファーストネームつきでですが……我々天狗衆は、スカーレットの妹の危険性も掴んでいました。そのスカーレット姉妹が幻想入り……穏やかではありませんが、ここは幻想郷。我々に関わりを持たないのであれば、とやかく言うつもりはありませんでした。しかし、いまあなたはここにいる。そうなれば無視するわけにはいかない……どうしても、と言うのなら、刺し違えてでもあなたをここから排除します」

 

椛はいつのまにか手にしていた刀に手をかけている。

霊夢は御札を構え──臨戦態勢だ。

 

その体勢のまま、霊夢が口を開く。

 

「……私たちはただ走りに来ただけ。ここは私有地だけど、この道路自体は紫やその他幻想郷の実力者も敷設に関わってる……つまり、公道としての一面もあるってわけ。フランドールの排除は、あまりにも横暴すぎやしないかしら」

 

「そうですね……しかし、公道にも幻想郷にも秩序は必要なんですよ、霊夢さん。そしてこの妖怪の山においては、我々天狗衆が秩序(ルール)です。……それで理解してもらえませんか?」

 

椛と霊夢が睨みあっているなか、魔理沙が割って入る。

 

「おいおい待てよ。いろいろと衝撃の事実が多くて追いつかないが……要はスカーレットが危険で強大な妖怪だから出ていけっていうんだろ?椛、フランは別にここを壊しにきたわけじゃない……そりゃあすこし情緒不安定だが、今夜は安定してるし、ただ走りを楽しみにきただけだ。それでいいじゃねえか、見逃してくれよ」

 

「それだけの力を持ちながら、気が触れてるのが問題なんです。……これ以上は埒が明きません。実力行使といきましょう。……けしてこれは『ごっこ』ではありませんよ?」

 

椛が刀を抜く。

刀身が月光にきらめき──霊夢の御札を持つ手に力が入る。

魔理沙が慌てて八卦炉を取り出し、私はうつむいて目をつむる。

 

思い出すのは過去──望まれないスカーレットの暗部、吸血鬼としての狂気を凝縮し産まれ落ちた存在──純粋な暴力、血の衝動──お姉様、幻想郷でも私の居場所はないみたい──

 

そう思ったとき、上空から声がした。

 

「みなさん剣呑ですねえ。一面記事は血の海(ブラッド・バス)で決まりですか?」

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