いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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舌戦

「みなさん剣呑ですねえ。一面記事は血の海(ブラッド・バス)で決まりですか?」

 

声の主はそう言って、一本歯下駄で器用に着地する。

黒い羽の天狗──鴉天狗だ。

──場合によってはそこの白狼天狗共々「壊す」べき?

私のなかで黒い衝動が問いかけ──皆の目が鴉天狗に吸い寄せられている間に、魔理沙が私の手を握り「大丈夫だ、フラン」と私だけに聞こえる声量で呟く。

 

鴉天狗はちらとこちらを見て──私の一瞬の殺意を見逃さなかった──口を開く。

 

「状況は大体わかりました。まずは椛、刀をおさめなさい。これは命令です」

 

「ですが(あや)さん──」

 

「大天狗様がひとり、飯綱丸龍(いいずなまる・めぐむ)様の命令です。──決裁書を出さなくては理解できませんか?」

 

文と呼ばれた鴉天狗がそう言うと、椛は黙って刀をおさめる。

それを見た文は満足そうな顔で椛に頷いたあと、霊夢に顔を向ける。

 

「よろしい。近頃の天狗は、二言目にはやれ書類だ、やれハンコだとやかましいですからね……椛、あなたの理解が早くて助かりましたよ。さて、霊夢さん。あなたはいま無防備な──『上司の都合』で武装解除された妖怪に札を向けているわけです。その意味がわからないあなたではないでしょう?魔理沙さんは状況を理解してるみたいですよ?」

 

「──わかったわよ。あんた、その上から話すような物言い、直さないとそのうち取材受けてもらえなくなるわよ」

 

霊夢はそう言って不満げに御札をしまう。

魔理沙は既に八卦炉を下げていた。

 

文はよしよし、と頷いて、私たちに口を開く──私からは目を離さずに。

 

「取材を受けてもらえないのは今更ですよ、霊夢さん。そもそも、記者たるもの夜討ち朝駆け、アポ無し取材こそ真相真理への最短コースです。──話が逸れましたね。皆さん話が早くて助かります。万事こういう風に解決したらいいんですが。……さて、七色の羽を持つ吸血鬼さん。私は射命丸文、文々。新聞(ぶんぶんまるしんぶん)なるつまらない新聞を発行している鴉天狗です。それこそ私の黒い羽みたいにつまらない新聞をね……あなたの羽は羨ましい限りです」

 

射命丸文と名乗った鴉天狗の第一印象は慇懃無礼──相応の実力と知性を兼ね備えている。

その気になれば「壊す」ことなど容易いが、そうすることで私と魔理沙たちが被る不利益と、それを理由に私が理性的に振る舞うこと──すべて見越した上での態度だろう。

「銃を向けてはいないが味方でもない」射命丸文の態度はそのメッセージを率直に示すものだ。

私も相応の態度で望まなくては。

 

「お褒めに預かり光栄よ、射命丸文。でも、私はこの羽、あまり気に入ってないの。あなたの濡羽色(ぬればいろ)の方が素敵だわ。……私はフランドール・スカーレット。紅魔館の主にしてスカーレット家当主、レミリア・スカーレットの妹よ。文々。新聞は紅魔館でも愛読してるわ……日本(こっち)に来てからというもの、『ザ・サン』*1が恋しくってね。その発行者に会えて光栄の極みといったところよ。……親愛の意をこめてあなたのことは『文』と呼ばせてもらうわ。私は吸血『鬼』だけれど、あなたも『フランドール』って呼んでくれて結構……仲良くしましょ?私たち良い『お友達』になれそうだわ」

 

隣で魔理沙が「ヒューッ」と口笛を吹く。

霊夢は興味なさげにつま先で地面をこすり、椛はハラハラした顔で私と文を交互に見ている──若き白狼天狗よ、これが「挨拶」、刀を抜くだけが戦いじゃなくってよ。

 

文はすこし目を細め、わずかに顎を上げながら口を開く。

 

「──たしかに、私たちは仲の良い『お友達』になれそうです。よろしくお願いしますね、フランドールさん。今度一緒に『遊び』ましょう。……さて、本題です。飯綱丸様は、スカーレットが妖怪の山に立ち入ることをとやかく言うつもりはありません。紅魔が持ちこんだ自動車は、妖怪の山に利益をもたらしているのも事実ですから。これは白狼天狗達に自らの意思を伝えていなかった大天狗としての落ち度、深くお詫びするとの伝言を承っています」

 

文がそう言うと、魔理沙はほっと胸をなでおろす。

霊夢はまだ得心いかないという目で文に続きを促す。

 

文は霊夢の目線を受け、続きを話す。

 

「わかってますよ、隠すつもりもありませんから……こう言ったところで、椛も霊夢さんもおさまりがつかないでしょう?飯綱丸様はすべてお見通しです。上が頭ごなしに言ったところで、現場の溜飲は下がりませんからね。現場の収拾は私に一任されました──そこで提案なのですが、クルマでバトルしてはいかがでしょう?折よく二人ともシビックですし、比較的フェアでしょう?これなら死人も出ませんし、異変でもないのに弾幕で解決するのはすこし違うかな、というのが私の見解です」

 

椛は黙考した後、文に答える。

 

「それで構いません。やらせてください。これから妖怪の山で往復一本。下りきったところでターンし、上ってスタート地点に戻ったらゴール。形式は先行後追いバトルで、私が先行。霊夢さんをちぎれば私の勝ち、霊夢さんが私を抜くかちぎられずにゴールすれば霊夢さんの勝ち。……それでどうです?」

 

「乗った。普通先行後追いバトルなら、後追いがちぎられなかった場合ポジション入れかえてもう一本だけど……いいの?あんた不利よ?」

 

「問題ありません。ここは私のホーム……それに、テンロク(1.6L)最強のEK9が、ワンダーシビックに負けるわけにはいきませんからね」

 

──うわあ、いま霊夢青筋立ってた、目に見えてわかった。

さすがの私も正気に戻らざるをえない。

魔理沙なんて冷や汗かいてるどころじゃない。

 

「──上等じゃない。吠え面かかせてやるわ。早速始めるわよ。誰でもいいからカウントとりなさい」

 

霊夢はワンダーに乗り込み、椛のEK9に続いてスタート地点までクルマを動かす。

 

眺めていると魔理沙が私の手を引く。

 

「おい、なにやってんだフラン。私たちも後ろから追うぜ。成り行きが成り行きだから素直に喜べないが、お前が見たいって言ってた『バトル』だ。私のRの助手席に乗れ。ちゃんと四点(シートベルト)つけとけよ。文、カウント頼む」

 

「仕方ないですねえ……フランドールさん、またじっくりお話しましょう。私は組織人としての立場がありますから、椛の手前ああいう態度を取らざるを得ませんでした。……椛もすこし仕事熱心なだけで、本当はいい子なんですよ。椛ともお友達になってくださいね」

 

「……考えとくわ」

 

「いまの『考えとくわ』は『わかった』って意味だぜ、文。まったく、お前ら素直じゃねーの」

 

「……魔理沙さんのそういうとこ、直したほうがいいと思います」

 

「それは私も同感……文、やっぱり私たち素敵な友人になれそうだわ」

 

「それはよかった。私もですよ、フランドール。たまには魔理沙さんも役に立つものです。……それでは、カウントいきますかね」

 

文はそう言うと、椛のEK9の前まで飛翔する。

 

「ったく、私はいつも役に立ってるっつーの。フラン、四点つけたか?始まるぞ」

 

「知ってるよ、魔理沙。いつもありがとう。ちゃんと四点着けた。いつでもいける」

 

文がカウントを始める。

魔理沙は小声で「ちぇっ、よせやい。照れるじゃねーか」って呟いてる。

ちょっぴり素直じゃないけどかっこいい──そんな魔理沙が私は大好き。

 

カウントがゼロになる。

シビックが同時に妖怪の山の夜闇に飛び込む。

魔理沙がクラッチを繋ぎ、32Rが地を蹴って走り出した──

*1
イギリスの日刊タブロイド紙。日本でいう週刊誌に近く、セレブのゴシップ記事が多い。スカーレットのような上流階級にはあまり馴染みがないと思われる。

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