「初めて見るクルマ……魔理沙、知ってる?」
「いや……S14のシルビアなんて今更だが、ホワイトの前期は知らないぜ」
私と咲夜が言ってる間に、S14は白線におさまり、ドライバーが降りてくる──緑髪の巫女服──
「お前は──東風谷早苗」
「お久しぶりです、魔理沙さん。異変以来ですかね。諏訪子様や神奈子様のところにはちょこちょこ顔を出されてたみたいですが、いつもすれちがっていたようで……今夜は霊夢さんと一緒じゃないんですね。そちらは──」
「私は十六夜咲夜。レミリア・スカーレット様の従者として、紅魔館のメイド長を任されているわ」
「ありがとうございます。私は東風谷早苗。守矢神社の風祝です」
咲夜と早苗はそう言って自己紹介を済ませる。
まさか早苗がシルビア乗りだとは思わなかった。
まあ、幻想郷じゃ走り屋なんて珍しくないが……第一印象では走りに興味を持つタイプに見えなかったのが本音だ。
テンションが空回りしてるタイプっていうか……周りに無理に合わせてるけど、根っこは陰気なタイプ──弾幕ごっこも、異変の空気にのっかる、くらいな感じで、好戦的な雰囲気はあまり感じられなかった。
一番柔和なS14前期ってあたりは、まあ、「ぽい」っちゃぽいが。
「こんな時間にシルビアで冥界ハイウェイ──早苗、お前走りに来たのか?」
「ええ、走りに──バトルをしようと思いまして。ここの最速は誰か、魔理沙さんご存知ですか?」
「上り最速は、知る限り咲夜だと思う。下りに限れば、咲夜か妖夢──あとは霊夢、この三人か。──冥界ハイウェイの下りは幻想郷で一番危険なステージだ。早苗、お前ここ初めてだろ?バトルはやめといたがいいぜ。まずはソロで慣らしな」
「お気遣いありがとうございます。……でも、私なら大丈夫です。外界では東名で走ってましたから。私のシルビアはNAですが、正直この最高速ステージでも、下りなら幻想郷レベルに負けるとは思ってません。……受けてくれますね?十六夜咲夜さん」
正気かこいつ。
よりによって、咲夜とFC相手に、この冥界ハイウェイ下りでバトルを挑むとは──ここはあいつのプライドだ、どうする咲夜──
「悪いけど、実力がわからない人とバトルするわけにはいかないわ。冥界ハイウェイの怖さがわかってなさそうな相手なら、なおさらね。レイクサイド・パークウェイで、私のレコードから5秒以内のタイムを出してきなさい。話はそれからよ」
「でも──ここは公道。あなたが走り出した後、私が『偶然』その直後に追いかけても、構いませんよね?」
「構わないけど、『一緒に走ってる』と私が認識していない以上、後ろで壁に刺さったところで止まらないわよ?それに……私はこのウジウジ魔法使いの相手しなくちゃだから、すぐには出ないわ。そのつもりでいなさい」
「おい咲夜、誰がウジウジ魔法使い──」
私が言いかけたところで、誰か一台上ってくる──直管のVTECサウンドだ。
減速──
紅白ツートンのワンダーシビックが私たちの前を爆音で駆け抜ける──霊夢のワンダーだ──
「咲夜!私は出るぜ!」
言うが早いか、私はRに乗り込み、キーを回す。
「待ちなさい魔理沙!あんたそのテンションで霊夢と走ったら──」
咲夜の制止も聞かず、私はPAを飛び出した──
冥界ハイウェイ下り合流──
ワンダーはまだ捉えられる距離だが──速い──
「いくぜ、私のGT-R。吼えろ、RB26ツインターボ!」
2500回転──ブーストがかかりはじめる。
最近ライトチューンを施して、400馬力弱にパワーアップした私のGT-R。
内容はマフラー交換と燃圧調整、ECUマッピングの変更、最大ブースト圧は1.1──「こいつで峠は厳しい」そう判断した私は、最高速ステージに向けたチューニングを施し始めた。
いずれレミリアのように首都高湾岸線を狙うんだったら、どっちにしろハイパワー化は避けられない。
アクセルレスポンスの向上と「軽い」馬力アップ、しかし──
こうしてブーストをかけながら本気で回していくと──正直、怖い。
手の内に入り始めたと思っていた──それが錯覚だったと気づかされる。
ノーマルで「乗れるようになってきた」私は、Rの爪の先しかモノにできてなかったと痛感する。
レースに勝つためにメーカーが本気で開発したエンジン──市販で600馬力を前提としたRB26DETT──その意味を思い知らされる。
だけど、こないだの環状で感じた──踏めなきゃ霊夢の前は走れない──霊夢なら躊躇なく、こいつをレブリミットまで回すだろう──
だから──怖いけれど──怖くても──
「私は踏み抜くぞ、霊夢!3速レブリミット──4速へシフトアップ──」
高いボディ剛性はこのスピードでも踏み抜くため──アテーサE-TSが介入、さらにアクセルをON──前へ、そしてさらに前へ──
霊夢──お前はいつも私の先をいく──お前は待たない──いますぐにでも消えてしまいそうな流星みたいに、お前は生き急ぐ──私のスペルカードが星ばかりなのは、霊夢──お前への憧れって意味もあるんだぜ──
捉えられる──ワンダーが目の前に──アウトからパスできる──見たかよ霊夢──これが私とRのパワーだ──
ワンダーを置き去りに──ブーストはMAX──すべて終わってもいいと思える陶酔感、かつて感じたことのないGが私をシートに押しつける──GT-R、お前の加速は終わらない──
「次のコーナーでおさらばだ、霊夢!バックミラーから消してやるぜ!──下りきって、PAであらためて話そうな。こんな気持ちの走りじゃ、私もお前もわかりあえねえよ。先に行って待ってるぜ──」
コーナーが近づく──ブレーキを踏む──私とRは旋回姿勢へ──
─────
────
───
──
「待ちなさい魔理沙!あんたそのテンションで霊夢と走ったら死ぬわよ!」
魔理沙は私の制止を無視してRに乗り込む。
憔悴してるところに霊夢との遭遇──ああいう形で火をつけられたテンションは大体手に負えないし、ロクな結末にならない。
それに──エンジンをかけたとき、Rの音が変わっていた。
なにか嫌な予感がする。
私も魔理沙を追ってPAを飛び出す──バックミラーを見ると、早苗も追ってきているようだ。
バトルというテンションではないが、追いたければ勝手に追えばいい──だが、最悪のケースでは私は魔理沙を優先する──ぶつけてでも魔理沙を止める、そのために飛び出したんだから──
「速い──私のFCでも離されるなんて」
私のFCは350馬力。
魔理沙のRはノーマルで約300馬力出ていたはずだ。
マフラー交換だけでも、おそらく私のFCとパワーは並ぶ。
霊夢や妖夢は例外としても、冥界ハイウェイは結局馬力だ。
霊夢はイカれた突っ込み、妖夢は徹底的な軽量化と走り込みで、あの速さを実現している。
正直、私はターボパワーなしであの二人にここで追いつける気がしない。
魔理沙は冥界ハイウェイはあまり走っていないはず──それでも離されるということは、おそらくパワー負けしているのだ。
アテーサもよく効いている──コーナリングでも前に進む──二駆のFCではどうしてもロスが発生する。
結果、コーナーでも魔理沙に離される。
「まずいわね。全然近づかない。それどころか、じりじり離される──魔理沙、あなたそのRをちゃんとモノにできてるの?」
コーナーを挟んでいる間は魔理沙が視界に入らなくなってきた。
バックミラーの早苗は──ついてきてる。
言うだけのことはある──後ろの心配はしなくてよさそうだ。
走りの流れもよくわかってるやつだ──最悪、私の意図を察して魔理沙の制止を助けてくれるだろう。
いまは前だけ見てればいい──
「──次のコーナーでいくつもりね」
ワンダーが射程圏内に入った──魔理沙はアウトラインから霊夢を
いくら霊夢でも、ワンダーでは逃げきれない──あの紅白ワンダーが
二台がコーナーに飛びこんだ──私も遅れてコーナーをクリア──ポジションは入れ替わった──魔理沙が前だ。
「あの霊夢が──あれが、スカイラインGT-R──」
魔理沙は霊夢と私、そして私を追う早苗をストレートで引き離していく。
四灯のテールランプが赤く輝く──次のコーナーに飛びこみ──
──金属が潰れる、甲高くも鈍い音。
そして──すこし遅れて、爆発した音──
私たち三人が見たものは──
大破して燃え盛るGT-Rの姿だった。