FFと4WDは後日やる予定です
「今夜はお客様が多くてなによりね。咲夜、せっかくだからシャンパンで始めましょう。ワインも普段より良いものをチョイスしてちょうだい」
「かしこまりました、お嬢様。皆様のクルマはどういたしましょうか」
「パチェ、
「……はい。全員のクルマを自宅に届けたわ。魔女は便利屋じゃないのよ?」
「お客様に飲酒運転をさせてしまっては、スカーレットの名が廃るわ。かといって、お客様をもてなさないわけにもいかないし。ありがと、パチェ。今度から『なんかします』って書いた看板出してもいいんじゃない?」
「おいおい、それはこの霧雨魔理沙様に対する挑戦かあ?」
そう言いながら魔理沙さんは既にシャンパンをラッパ飲みしてる。
……そのシャンパン一本で魔理沙さんのS13より高いって言ったらどんな顔するんだろう。
「あなたさっそく……まあいいわ。今日はうちの小悪魔のクルマ選びに付き合ってくれたみたいだし、思う存分飲んで食らってちょうだい。ここは紅魔館、夜の支配者たるレミリア・スカーレットの屋敷……つまり遠慮は無用、私たちがマナー。シャンパンラッパ飲み上等よ、魔理沙。ダースで飲みなさい」
「サンキュー、レミリア!やっぱ持つべきは気前のいい
紅魔館晩餐室──午後八時
試乗の後、私たちはそのまま紅魔館で夕食に移った。
名目は晩餐会ではあるものの、もはや雰囲気は宴会だ。
主に約一名の魔法使いの飲み方が凄まじい。
「そういや、小悪魔。フランと美鈴、パチュリーはどうしたんだ?」
魔理沙さんがここにいない住人について言及する。
「パチュリー様は研究ですね。捨食の法で食事する必要がないので、ここに来ることはほとんどありません。妹様と美鈴さんは……咲夜さん聞いてます?」
「妹様は調子が良くないそうで、地下室で食事をとられるみたい。美鈴は外界に仕事があると、先ほどお嬢様が。私はこれから妹様に食事を持っていってくるわ」
「なんだ、フラン調子悪いのか。それなら咲夜、地下室は魔理沙さんに任せな。私はフランと地下室で食ってくる。いいだろ、レミリア」
「そうね……あなたはゲストだけど、お願いできるかしら。あなたが来ればフランも喜ぶでしょう。咲夜、お願い」
「かしこまりました。それじゃ魔理沙、お願いね。あなたの分も取り分けておくわ。……おまけにいいブランデーつけといてあげる」
「サンキュー、咲夜。それじゃ行ってくるぜ」
魔理沙さんはそう言うと、カートを押して地下室へ向かう。
それを見送りながら、パチュリー様が私に問いかける。
「さて、小悪魔。あなた今日アルピーヌ・A110とRX-7に乗ってきたそうだけど……どうだったかしら」
「そうですねえ……どちらもコントローラブルで楽しかったです。ただ、私はパワーはあまりいらないかなといったところですね。ヒラヒラ走るクルマが好きかなという意味では、アルピーヌの方が好みかもしれません」
「多分それは車重の問題でしょうね。普段あなたは私のヨーロッパに乗ってるから、ライトウェイトが馴染みやすいんだと思うわ。MR車で運転覚えたから、フロントが軽くても不安にならず、むしろヒラヒラ軽いって印象なのね」
それを聞いて鈴仙さんが口を開く。
「最初に乗ったクルマの駆動方式って、後々にも影響しますよね。私は四駆から入ったので、咲夜のFCや妖夢のAWを運転するとどこか不安定だなって感じます」
「私のFCも妖夢のAWも、コーナリング命みたいなクルマだから余計にそうかもね。まあ、妖夢はちょっと軽量化しすぎたのもあるでしょうけど」
「後日FFと4WDも知ってもらうけど、小悪魔は後輪駆動に落ち着きそうね。私が横乗りした感じも本人の好みも、ヒラヒラ走る軽いクルマと相性良さそうだし、その方向性なら後輪駆動ね。じゃあ、最後の後輪駆動、MRの解説に移りましょうか」
「パチュリー様のヨーロッパや、レミリアお嬢様のエリーゼがMRなんですよね。どちらもエンジンが運転席のすぐ後ろでしたが、それがMRってことですか?」
私の言葉を受けて、アリスさんは首肯する。
「そう。MRっていうのはミッドシップエンジン・リアドライブのこと。車体の真ん中あたり──乗用車の場合は、厳密には運転席のすぐ後ろね──にエンジンをレイアウトする方式よ。小悪魔、クルマのなかで一番の重量物は?」
「エンジンですよね。一番重いエンジンが重心になるから、レイアウトの違いが挙動の違いになる」
「そうよ。MRの利点は運動性能の高さ。コマをイメージしたらわかりやすいわね。コマは軸一本でくるくる回るでしょう?あれは重心が正中にあるから。コマが回るように、重心を真ん中に置けばクルマもコーナリング性能が上がるわ」
「……あれ?でも、くるくる回ったらスピンしません?」
「まさにそういうこと。高いコーナリング性能の代わりに、MRはコーナリングの制御がシビアなの。FRに分類されるRX-7やS2000は、前車軸よりも後ろにエンジンをマウントするフロントミッドシップを採用してるわ。ただ、どちらも50:50の重量配分によるコーナリング限界の高さと引き換えに、限界近くでの扱いはものすごく繊細ね」
「でも、扱えるなら楽しいですよね。ハイパワーでなければ、そこまでの緊張感強いられずにコーナリング楽しめそうな気がします。MRのデメリットはあるんですか?」
「……まあ、ぶっちゃけデメリットも多いわ。乗用車ではMRの車種が少ない上に、ほぼスポーツカーしかないことがすべてを物語ってるわね。まず、MRはエンジンの位置から基本的に2人乗りになるの。まともなトランクがないことも多いから、積載力は一番低い駆動方式ね。あと、エンジンが頭のすぐ後ろになるから、うるさい。スポーツカーを選ぶ人ならむしろプラスだけど、そうじゃない人にはデメリットよね」
「人もモノも乗らない上に、運転中はうるさい……でもコーナリングはピカイチ、ですか。それは……スポーツカーにしか使えませんね」
「まあ、乗用車以外ならMRも、RRだってあるけど、目的が違うからね。MRは遊び用のセカンドカーにする人が多いんじゃないかしら」
アリスさんがそう言うと、お嬢様が反応する。
「そうね。実際私とパチェはMRだけど、モノを運んだり移動したりするのにクルマを使わないからっていうのは大きいわ。エリーゼのトランクなんて、エンジンルームと板一枚で仕切ってるだけのシロモノだし。食品なんて入れた日には一発アウトね。外界の移動用がブレラなのはそういうことよ。アレだって、移動に重きを置くなら159*2を選ぶべきだし」
「なるほど。私は飛べるし、外界ではブレラ使うから趣味に振ってもいいわけで……どうしよう」
「まあ、まだFFと4WD見てないわけだから、ゆっくりでもいいと思うわ。後日色々見ていきましょ」
「ありがとうございます、アリスさん」
「面倒見がいいわね、アリスは。小悪魔、イギリス車に乗るならTVR*3にしなさい。あれこそ英国の誇りよ」
「自分はちゃっかりロータスに乗ってるところが、パチェはさすがよねえ」
お嬢様がからからと笑い、鈴仙さんは困惑している。
カジュアルな態度のお嬢様を見るのが初めてだからだろう。
咲夜さんは黙々と食べているが、お嬢様の機嫌がいいからか、つられて嬉しそうな雰囲気だ。
次はFFと4WD……誰のクルマになるのだろうか。
まだ見ぬクルマと未来の愛車に思いを馳せながら、私はぱくりとフォークをくわえるのだった。