いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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長くなりましたが、FFはこれで終わりです
このあと4WDをやったら、第二部スタートの予定です

「小悪魔さんのクルマ選び」はマニアックなTipsに近いので、多分本編にはあまり関係ありません
マニアックな作風になってきたので、おさらい的なニュアンスのエピソードです
読むと本編味わい深くなれますが、読まなくても味わい深いはずです、きっと


小悪魔さんのクルマ選び(FF編・後編 / シビックタイプR・EK9)

「さて、ここからはFF車特有のテクニックとVTECについて解説していきますね。一度そこの路肩で解説を済ませましょう。そこからは全体を通してVTEC、直角クランクでタックイン・左足ブレーキ、ヘアピンでFドリを体験してもらいますね」

 

「わかりました。お手柔らかにお願いします……VTEC以外は初めて聞く単語ですね」

 

「私は霊夢さんほどトンでないので大丈夫ですよ……身近にいるFF乗りは霊夢さんだけですか?」

 

「そうですね。紅魔館にFF乗りは今のところいませんし」

 

「それなら、聞いたことなくても不思議ではないですね。霊夢さんは多分無意識にやってますし……おさらいですが、FF車は曲がりにくく、旋回中アンダーステアが出やすい性質があります。ここまでは大丈夫ですか?」

 

「はい。それと引き換えに、直進安定性に優れるんでしたよね」

 

「その通りです。タックインと左足ブレーキは、そのアンダーを消すために使うテクニックです。レーシングカートも左足ブレーキですが、あれはそもそも構造上右足でブレーキが踏めないので別物ですね。閑話休題、FF車は旋回中外に膨らみますが、アクセルを抜くとオーバーステア──つまり、内側に切り込む動きが発生します。これを意図的に発生させるのがタックインです。左足ブレーキも同じような目的ですが、使い分けは人によりますね」

 

「なるほど。私の経験だと、後輪駆動はアクセルを踏むと内側に切り込みますが、FFは逆なんですね」

 

「その認識で大丈夫だと思いますよ。速く走るには理屈は大事ですが、頭で考えてたら間に合いませんからね。物理的な理屈は省きますが、FF車はこれらのテクニックを利用して、ハイスピードコーナリングしたり、立ち上がり姿勢をつくったりすることになります」

 

「後輪駆動から入った私だと、慣れが必要になりますね。タックインと左足ブレーキの使い分けは人によるとのことですが……」

 

「そうですね……左足ブレーキについてですが、立ち上がり姿勢をつくるために使う人もいれば、雪道やダートといった滑りやすい路面でしか使わない人、アクセルオフの代わりに使う人、様々います。自分の走りやすさとマシンに合わせていいように、私は思いますね」

 

「ありがとうございます。私も練習用に安いFF買おうかなあ……X1/9買ったばかりだけど」

 

「FFも乗れれば幅が広がりますからね。いいと思いますよ。さて、次はFドリですが……幻想郷でドリフトしてる人たちはシルビアや180SXが多いですよね。あれはFRがドリフトに向いてるからです」

 

「たしかに。FFは直進安定性に優れる──ということはドリフトできない……?」

 

「一般的には、ですね。FFでもできなくはないんですよ、難易度が跳ね上がるだけで。それがFドリです」

 

「どうやってやるんですか?」

 

「Fドリはサイドブレーキできっかけをつくります。FRならフットブレーキだけで上級者はドリフトしますが、FFはサイドブレーキです。サイドを引いて、後輪をロックさせます。これでリアがグリップを失って滑り出します。その後アクセルやブレーキで荷重をコントロールして、ドリフトを維持するわけです。……口で言うと簡単ですが、とっても難しいですよ。アクセルを踏まないとスピードが落ちてドリフトが終わりますし、アクセルを踏むと荷重は後ろへ──リアのグリップが回復するので、それでもドリフトが終わります。伝わりますかね、この説明で」

 

「理屈はなんとなく……流れにするとどうなるんですか?」

 

「ハイスピードからサイドを引きリアをロック、ドリフト開始。スピードが落ちたらアクセルON──荷重は後ろへ。リアのグリップを回復させないために、今度は左足ブレーキで荷重を前へ──簡単に言えばこの流れです。FドリはFF車における荷重移動の最終形かもしれないと、私は思います」

 

「聞いてるだけでも忙しいですね……それを自由自在に繰り出す霊夢さんは一体……」

 

「理屈がわかると、あの人がどれだけ天才かよくわかりますよね……さて、解説の最後はVTECです。小悪魔さん、VTECがなにかわかりますか?」

 

「エンジンの……種類ですか?ホンダ乗りの人はよく言われますよね、VTECって」

 

「エンジンのことではありますが、VTECというのはエンジン内部の機構のことですね。しかし、その性能と独特のサウンドで、ホンダの代名詞となっています──それこそ、マツダのロータリーみたいに。まず、エンジンというのは取り入れた空気に燃料を吹きつけ、圧縮して爆発──そのエネルギーを取り出すものです。……ここまでは大丈夫ですか?」

 

「はい。エンジンは吸気・爆発・排気のサイクルを繰り返すんですよね」

 

「そういうことです。ざっくり言えば、そのサイクルのペースが『回転数』、タコメーターの数字です。回転数が上がることは、それだけ速いペースでそのサイクルをこなしていることを意味します。さて、レシプロエンジンにおいては、この給排気はバルブで制御されています。低回転ならバルブは少ない時間で少なく、高回転時は大きい時間で大きく開けるのが理想です。──このバルブ開閉のタイミングと開度を回転数に応じて調整する機構、それがVTECです」

 

「うーん、段々難しくなってきました。つまり、VTECがあるとどうなるんです?」

 

「まあ一言でいえば、パワーが上がります。直4同士で比較すると、魔理沙さんのS13に元々積まれていたCA18の場合、NA──つまりノンターボで135馬力、ターボで175馬力です。NAの場合、リッターあたり75馬力ですね。私のB16Bは純正でチューンドみたいなものですが、NAで185馬力、リッターあたり115馬力ほどになります」

 

「ええ……なんですかそれ、圧倒的すぎません……?」

 

「そうですよ。NAでターボ並のパワーを出せる──それがVTECです。独特のエキゾーストノートも魅力ですが、それをこれからはお見せしましょう。いきますよ?」

 

椛さんはそう言って発進──初っ端からアクセルをベタ踏み──う、わ──

 

「なんですか──この加速──」

 

「これがVTECです!テンロク(1.6L)のNAとは思えない加速でしょう?」

 

「はい!それに、音がすごい──ときどき聞こえてた『ンバアァァァ』って音の正体はこれですか」

 

「そうです!──話すのが大変なので回転数落としますね。一気に加速して音が変わるあたりが、カムシャフトの切りかわりです。高回転域のターボみたいな加速と『その気にさせる』音が、VTEC人気の理由ですね」

 

「いやあ、すごかったです。本当にターボカーみたいな……」

 

「このEK9は後期型なので、まだマイルドみたいですよ。前期はもっと激しいみたいです──さて、次の直角クランクでタックインを実演しましょう。私は左足ブレーキも入れますので、足にも注目してみてください」

 

言っている間に直角クランクが迫る──ラインが膨らむ?──私がそう思ったとき、EK9は内側にノーズを向けようとする。

視界の端では左足を細かく動かしている──これが左足ブレーキか。

たしかに、左足とEK9の挙動が一致している。

 

「わかりましたか?」

 

「はい。後輪駆動乗りからしたらクルマが未知の動きをしてるので新鮮ですね──それに、めちゃくちゃ速い」

 

「ありがとうございます。テンロクならフロントヘビーもさほど問題になりませんからね。このクラスだとFFの方が速いというのは、いまので実感していただけたかと……あと、ヘアピンでFドリですね」

 

「わくわくしますね!わくわく!」

 

「……小悪魔さんって動作があざとかわいいですよね。何の悪魔かうかがってませんが、色欲だったりします?」

 

「それアリスさんにも言われましたけど、本物のサキュバスはこんなもんじゃないですよ?私はただの低級悪魔なので……」

 

「そうなんですか……低級悪魔の割には雰囲気があるので……それはさておき、Fドリいきます──」

 

言うと同時に、椛さんはサイドブレーキを引く──うっわあ、これは──

ドリフトの景色自体には特に驚きはないけれど、椛さんの動きがなんか──すごい。

美鈴さんが酔っ払ったときにやる「本物の酔拳」くらい忙しい。

 

「どうでしたか?とはいっても、ドリフト自体は珍しい体験ではないかもしれませんが」

 

「正直言えば……私はFFでドリフトしようとは思いませんね……。すごいのはわかるんですが、動きがめちゃくちゃ忙しいというか……」

 

「それが普通の反応だと思いますよ。私はEK9とFFを極めるために練習してますが、ドリフト自体が目的なら素直にFR買ったほうがいいです。……小悪魔さん、大蝦蟇(おおがま)コーナーってわかります?」

 

法起坊(ほうきぼう)線と、この三郎清滝(さぶろうきよたき)線を繋ぐ円形コーナーですよね。前に魔理沙さんが『ドリフトの見せ場』と言ってました」

 

「そうです。あそこを流しっぱなしで抜けるとカッコいいんですが──霊夢さんはFFでそれをやってのけました」

 

「……あの旋回時間の長いコーナーを?」

 

「そうです。あそこを終始Fドリで抜けた人は霊夢さんしか私は知りません。だから、霊夢さんを超えるのが私の目標なんです──内緒ですけどね」

 

「ふふっ、わかりました。二人だけの秘密です」

 

「ありがとうございます。そろそろ駐車場ですね。あとは4WDですか」

 

「そうです。多分鈴仙さんのエボⅣになるかと。椛さん、ありがとうございました」

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