いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

44 / 144
次の話から第二部です
次の話から本編、「お前は生き急ぐ、まるで流星のように」の続きに入ります


小悪魔さんのクルマ選び(4WD編 / ランサーエボリューションⅣ・R32型スカイラインGT-R)

「ありがとうございました、椛さん」

 

「こちらこそ、ありがとうございます。同じライトウェイト仲間ですし、またいつでもいらしてください」

 

私たちはそう言ってEK9から降りる。

 

「二人ともお疲れさま。小悪魔、どうだった?」

 

「ありがとうございます、アリスさん。いやあ、FFは初めてだったので全然踏めませんでした。ですが、椛さんに解説してもらったので、結構わかるようになりましたよ」

 

「そうよね、あなたは後輪駆動メインだったから、慣れないのも無理ないわ。それでさっき鈴仙と相談してたんだけど、4WDは座学メインにしようと思って」

 

アリスさんがそう言ったところで、椛さんと話していた鈴仙さんがこっちにやってくる。

 

「小悪魔さん、お疲れさまです。最初は実走メインのつもりだったんですが、初めてのランエボで妖怪の山は流石に危ないかな、とアリスさんと話してまして。エボの性能を体感できるスピードとなると、正直私もここでやる自信全然ないんです。あと、4WD乗りの魔理沙さんが今日捕まらなかったというのもあります。実走は先で、迷いの竹林でやれたらと思いますが、どうでしょう?」

 

「そういうことでしたか。大丈夫ですよ。迷いの竹林は走ったことないですし、先の楽しみにしておきますね」

 

「ありがとうございます。それでは解説していきますが……アリスさん、どういう順番がいいでしょう」

 

「うーん、4WDは複雑だし、話していくとキリがないのよね。まずは一般的な挙動、そしてエボとGT-Rの比較でどうかしら。多分幻想郷に入ってきてる4WDの主流は、このあたりとインプレッサだし」

 

「そうですね。まず4WD一般についてですが……このクルマ選びで小悪魔さんが乗ってきたものは、すべて二輪駆動です。それに対し、駆動輪が四つのものは四駆、4WDです。海外ではAWDという呼び方をすることも多いですね。FRベースやFFベース、フルタイムやパートタイムなど細分化できますが、とりあえず駆動輪が四つだとすべて4WDです」

 

「二輪駆動はいろいろありましたが、四輪駆動だとひとくくりなんですね」

 

「はい。これは解釈の問題ですが……4WDというのは二輪駆動に後から足す要素、と思ってもらったほうがわかりやすいかと。私のエボのベースである5代目ランサーはFFですし、魔理沙のRはFRがベースです。なので、基本的に二駆で設計し、四駆化すると思ったほうがいいです。下味が二駆なら四駆はあとがけのソースですね」

 

「なるほど~。そういえば紅魔館のブレラも、他のグレードはFFだった気がします。後から4WD化するのなら、メリットがあるってことですよね?」

 

「メリットはFF以上の安定性ですね。あとは、出足の加速力でしょうか。4WDは雪道やダートで無類の強さを発揮すると言ってもいいでしょう。四駆であれば、タイヤ一輪が担当する駆動力は半分になるので、二駆よりも無駄なく大パワーを扱えます。身も蓋もないことを言ってしまえば、ランエボやインプレッサWRX STi、GT-Rは『そうした方が勝てるから』4WDになっているわけです」

 

「たしかに、魔理沙さんのRや鈴仙さんのエボはゴツいというか、競技向けって雰囲気が強いですよね」

 

「そうですね。設計思想から見た場合、4WDは基本的に、雪国向け、競技向け、悪路走行の三種類に分けられます。雪国向けはそのまま、雪道を安定して走行するためですね。一般的な乗用車の4WDはこれになります。競技向けの代表例はエボやRです。速く走るための4WDですね。悪路走行はちょっと別にしましたが、こちらはパジェロやジープが代表格となります。軍事用途にも使われる、まあ言ってしまえば『地面なら基本どこでも走れる』系のクルマです」

 

「色々あるんですね。メカ的なところより設計思想から考えた方がわかりやすいのは、ある意味特殊な気がします。二駆が下味で四駆はあとがけソース、っていうのも納得です。挙動はどうなんですか?」

 

「あくまで電子制御なしの話になりますが……FFより安定性が高い分、FF以上に曲がらないという認識で大丈夫だと思います。基本的に頑固なアンダーステアです。FFと4WDの進歩は、シャシやサスペンション、そして『曲げる技術』の発達に比例します。特に4WDは、メーカーの『曲げる』ノウハウの差が、モロに性能の差になりますね」

 

「『曲げる技術』ですかあ……椛さんのFFのときはタックインの話がありましたが、あれはドライバー側の技術ですよね。クルマ側の『曲げる技術』は初めて聞くかもしれません」

 

「たとえば、私のエボⅣだとAYC*1という技術が投入されています。これはコーナリング中にセンサーで感知したGなどの情報を基に、左右の駆動力を制御するといったものですね。さらにあとのエボⅦになるとACD*2を投入してるようで、さらに『曲がる』みたいですよ」

 

「なんかすごいメカメカしいというか、『男の子のロマン』の塊みたいな話ですね。4WDのデメリットも教えてもらえますか?」

 

「了解しました。デメリットも知らなければ、モノの価値はわかりませんからね……四駆は曲がらない、これは先ほどお話した通りです。それにくわえ、構造が複雑なので値段が上がり、車重も大きくなる分燃費が悪化します。なので、雪道走る予定がなく、4WDしかない車種が欲しいという人でなければ、あまり4WDを選ぶ必要性はないでしょうね」

 

「たしかに……紅魔館のブレラはV6エンジンでよかったと、サウンドを聞くと思います。でも4WDは正直いらないんですよね……ブレラのV6は4WDしかないので仕方ないところありますが……。話が逸れました。魔理沙さんのRについても教えてもらえますか?」

 

「GT-Rですね。まず、Rはスカイラインなので、ベースはFRです。Rがエボやインプと違うのはアテーサE-TSの存在になるでしょうか。アテーサE-TSというのは、FRと4WDをいったりきたりする電子制御です。基本はFRなんですが、後輪がスリップし始めたらそれに応じて前輪を駆動させていくんです。だから、コーナリング中に二駆ではこれ以上踏めないときでもさらにアクセルON──Rなら前へ前へ進みます」

 

「ええ……私すこし調べたんですが、エンジンはレース前提でツインターボなんですよね。そこにアテーサE-TSって……そんな盆と正月とクリスマスがいっぺんにきたみたいな……」

 

「おまけにSUPER HICASっていう電子制御四輪操舵システムまでついてますからね。後輪にも電子制御で舵角をつけることで、コーナリング性能も向上させてます。盆と正月とクリスマスとひな祭りくらいはきてますね」

 

「半端ないなあ……速いクルマが欲しい人ならハイテク4WDはたまらないだろうなって思います」

 

「逆に、速さよりも楽しさを優先するタイプだと、二駆の方が(しょう)に合うと思います。私は『4ドアでカッコいいクルマ』って基準でエボに入ったので、正直勝つための速いクルマを求めていたわけではないんですよね。エボと走る中で速くなることや勝つ喜びを知りましたが、エボからクルマに入らなかったら、私は4WDに落ち着かなかったかもとはときどき思います」

 

「たしかに、最初から入るクルマって大事ですよね。紅魔館は速くはないけど走って楽しいクルマが多いので、私のX1/9もその影響はあるかな、と思います」

 

私がそう言うと、話を聞いていたアリスさんが口を開く。

 

「そうね。クルマの価値観って、人生の価値観と同じかもしれないとは、私は思うわ。なにが正解って決めつけることなく、良いと悪い、好きと嫌いを冷静に見つめられたら素敵よね。小悪魔、あなたのクルマ選びを通して、あなたの中でのクルマの価値観の幅を広げられてたら幸いと、私は思うわ」

 

「このクルマ選びをきっかけに、私もクルマ選びの幅を広げていけたらと思いました……もちろん、X1/9と一緒に。アリスさん、鈴仙さん、椛さん。今夜はありがとうございました」

 

*1
アクティブ・ヨー・コントロール

*2
アクティブ・センター・ディファレンシャル




第一部、これにておしまいです
ありがとうございました
第二部もよろしくお願いします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。