いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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月より速く

「二人とも速いねえ……私コーナー三つ抜けたあたりでちぎられちゃった……」

 

鈴仙・優曇華院・イナバはアイセルブルーのランサーエボリューションⅣから降り、先に(くだ)りきって談笑していた十六夜咲夜と魂魄妖夢に話しかけた。

 

 

冥界ハイウェイ第一PA──午前一時

 

 

一年ほど前、冥界と顕界を結ぶ高速道路が開通した。

緩いS字とストレートだけで構成された、幻想郷一の最高速ステージ。

冥界ハイウェイの下りを本気で攻めるなら、一にブレーキ、二にブレーキ。

三にドンガラ、四がなくて──五より先は「女の度胸」。

 

「私もさすがに無理だったよ……枝垂(しだ)れ桜のコーナーでちぎられちゃった。下りならいけるかなって思ってたけど、咲夜速すぎ。人間のブレーキングポイントじゃないよ」

 

「私のFCは高速下りSPL(スペシャル)だから。でも、スーパーチャージャー仕様とはいえ、妖夢のMR2(AW11)は直四テンロクでしょう?私のFC、軽く350馬力は出てるんだけどね」

 

「まあ、私のAW(エーダブ)はパワーよりも軽量化を優先してあるから……車重800kg前後ってとこかしら」

 

「ええ……?妖夢のAWそんなに軽いの……?私のエボⅣより500kgも軽いって……」

 

「その代わり、ものすごくピーキーよ。一度運転させてもらったけど、軽すぎて四輪の接地感皆無。でも鈴仙、軽量化は良いチューニングよ。まず手始めにエアコン取っ払ったら?」

 

「ダメよ咲夜、エアコンレスなんて姫様が死んじゃうわ。送迎にも使うから、セダンのマシンにしたんだし」

 

「不老不死がエアコンレスごときで死ぬわけないでしょうに……」

 

私は苦笑する。

妖夢と咲夜に影響されて、私はランサーエボリューションⅣで走り始めた。

元々従者つながりでつるんでいた面子だが、咲夜が走り出し、妖夢がそれを追いかけ始めて、私たちの生活はすっかりクルマ中心だ。

私は二人の助手席専門だったが、姫様とお師匠様の許しを得て、エボⅣを購入。

迷いの竹林で日々腕を磨いている。

 

「さて。そろそろ上り一本いく?」

 

「そうね。ゴールは白玉楼インター。いつも通り、妖夢が先行。今回はその十秒後に鈴仙ね。私は鈴仙の五秒後に出るわ」

 

「あれ?下りは同時にスタートだったわよね?」

 

「そっか、鈴仙はここでつるんで走るのは初めてだったね。冥界ハイウェイは勾配がきつい高速コースだから、上りは馬力にあわせてスタートをズラすの」

 

「そういうこと。PAを上り方面に出て、合流ポイントから全開。OK?」

 

「OK。それじゃあ妖夢、あなたのAWをつつかせてもらうわ」

 

「言うね鈴仙。上りだって、私とAWが勝てないマシンはあんまりないんだよ」

 

妖夢はそう言って、シルバーのAW11に乗り込む。

エンジンに火を入れると、リアのボンネットを通して空気が震える──リトラクタブルのヘッドライトが目を開き、メタリックグリーンのフロントフードに闘志がみなぎる。

 

妖夢が出た──わたしは十秒数え、エボのクラッチを素早くつなぐ。

四輪駆動のトラクションが地面を蹴飛ばし、鋭く加速を始める。

中程度のRのコーナーを、定常円を意識して旋回──合流地点で2速にシフトを叩き込み、フル加速。

4G63が過給の熱を帯び、咆哮する。

 

いくわよ、私の4G63(シリウス)──そして、4WDターボ。

──上りで二駆のテールを眺めるわけにはいかないでしょう?

 

本線合流から250m、最初のS字。

一般推奨速度ならなんてことはないコーナーが、私とエボに向かって鋭角に迫りくる。

AYCを効かせながら無駄なく旋回──このS字には、一本だけ直線を描けるラインがある。

 

乗せていけるか──私に──

乗せていけるか──エボⅣ──いける──

 

ラインが見えた瞬間、私はアクセルをいっぱいに踏みこむ。

エボがぶるりと震え、カアァァと雄叫びを上げる。

運転席窓際にコンクリートの壁が迫る──しかし私はアクセルを緩めない──クリア──

 

400m先に妖夢のAWが見えた。

まだ全然離れてない──捉えられる──

妖夢が右の緩いコーナーに消えていく。

背後からは濁った高音──咲夜のロータリーサウンドだ。

 

──楽しい。

地上でこんなに充実しているのは初めてかもしれない。

エボ──あなたに会えてよかった──あなたとなら私、きっと月より速く、地球を周回できると思う。

エボとなら、私は誰にも縛られない──私の瞳にAWのテールランプが映り込む──私の瞳が妖しく光る。

そこよ、妖夢──射程圏内──

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