幻想郷が騒がしくも憎めない一人の魔法使いを失って、およそ半年ほどが過ぎた。
かつての走りの興奮は、いまの幻想郷には存在しない。
だが、走りの規模自体は、半年の間に大きく膨らんでいた。
走りを通して、誰もが霧雨魔理沙を知ろうとしていた──幻想郷は新しい時代を迎えつつある。
それは前向きな沈痛──矛盾する言葉選びを、どうか許してほしい。
私は他に、半年で変わってしまった幻想郷の「走り」を表現する言葉を持たない。
これはあくまで私個人だけが読むものだが、私には「次の私」に対する責任がある──
人妖問わず関係を結び、常にその輪の中心にいた「普通の魔法使い」霧雨魔理沙。
それは私を含め、幻想郷の住民にとって初めて遭遇する存在だった。
代々博麗の巫女も、幻想郷における人妖の架け橋であった──だがそこにビジネス的な側面が全くなかったとすることはできない。
「被食者と捕食者」という人妖の関係、博麗大結界──博麗の巫女は、幻想郷のあり方そのものを定義する
ゆえに、人妖の中心にいることはある意味必然──率直に言ってしまえば、義務の要請。
今代の博麗霊夢は妖怪に「好かれて」いるが、博麗の巫女と妖怪という立場である以上、一定の「ビジネス」がそこにはある。
そうした点で、霧雨魔理沙は「新し」かった──利害に基づかない形で、人妖の中心に居座った。
それは、悠久の時を生きた人外でも、初めて目にする存在だった。
「前の私」「その前の私」……すべての「私」とて、例外ではない。
そして、その死もまた、初めての経験になったのである。
私たちは霧雨魔理沙の死によって、初めての喪失を知ることとなった。
いつだって、気づいたときには遅すぎる──それは人も妖怪も変わらない。
霧雨魔理沙が愛したクルマと速さ、そして「走り」──それを通して、幻想郷中の存在が霧雨魔理沙を知ろうとしている。
──稗田阿求の手記より引用。
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「これからの走り屋
「霧の湖に24時間の衝撃走る」
「
霧の湖外周、レイクサイド・パークウェイに「ドライブイン
八目鰻の屋台を営むミスティア・ローレライ氏が、走り屋人口の増加に合わせ開始した新業態である。
食堂、自動販売機、ゲームセンター、ライブ設備、シアターと、幅広いサービスを展開する。
夜間は店主が屋台を引いているため、食堂は昼のみの営業。
自動販売機とゲームセンターは24時間無人で営業している。
ライブ設備とシアターは不定期営業。
自動販売機はうどん・そば、カレー、ホットサンド、八目鰻串焼きなどの軽食が中心。
その他、酒類を除いた飲料、煙草、菓子なども自動販売機で取り扱う。
軽食は店主と河童の共同開発。
店主のローレライ氏がメニュー考案・調理、河童が長期保存技術を提供する。
自動販売機の珍しさにメニューの新規性が相まって駆け出しは上々。
「酒を飲む者は屋台、走る者はドライブイン──客層を住み分けることにより、幅広い飲食環境を提供したい」と店主は語る。
ゲームセンターはかつて外界で普及し、廃品になったものを再生して運用している。
ゲーム機の画面では「コインいっこいれる」「コインをいれよ 1クレジット」という文言たちが、日夜を問わず
命は「コインいっこ」では買えない。
そのため、「コインいっこ」は危うい走りを戒める警句として、ドライブインの常連客に定着している。
ライブ設備は、ローレライ氏が
これは音楽活動による騒音問題について
「需要次第では、カラオケとしての開放も視野に入れている」(ミスティア・ローレライ)。
シアター設備はドライブイン夜雀の目玉だ。
これは駐車場に巨大スクリーンを設置し、車に乗ったまま映画を楽しむというもの。
ドライブイン・シアターとして、かつて新大陸で人気を博した。
命蓮寺、および人里との取り決めにより、上映はサイレント映画*1のみ。
取材に対しローレライ氏は「先では利用者の車載スピーカーから映画の音声を出せるようにしたい。河童との技術連携を深めていく方針だ」とコメントした。
走り屋人口の劇的な増加に伴い、自動車に関連した文化の流入も進む。
冥界ハイウェイのパーキングエリアに次ぐ、新たな走り屋文化の黒船になることは間違いないだろう。
幻想郷管理者八雲紫の代理、八雲藍氏は取材に対し「速さを競い合うのが走り屋だが、こうして『クルマを楽しむ』のも走り屋の一面だ。各々のキャパシティに応じ、十分安全に配慮してクルマを楽しんでほしい」とコメントし、「ここ半年、首都高を中心に外界の交通事故が増加傾向にある。事故の『幻想入り』は拒否する気持ちを、幻想郷の走り屋はいま一度強く持ってほしい」と強調した。
(射命丸文)
──文々。新聞、本紙一面より引用。