いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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大井Uターンが存在していてスカイツリーがないくらいの時代を想定しています
オービスは幻想的な存在なので、あったりなかったりします


汐留S字

バトルが始まった。

私がアクセルを踏むと同時に、銀座料金所からの合流車が左に並ぶ。

この左車線前方には一台のバン──おそらく右車線に移って合流車にスペースを空けるだろう。

ブーストはかかってる──素早くアクセルをにじませ私はFCを右へ。

動かれる前にバンをパスする。

 

この汐留JCTからC1は地下に潜って、浜離宮の角をかすめる。

いまの判断で70スープラとはすこし距離が空いたが、汐留S字までの浜離宮と並走する区間はストレートだ。

すぐに距離を縮めてくるだろう。

 

「咲夜、首都高のバトルにおいては『どこで』戦うかも大事だけど、『どこから』始めるかも大事なの。あのスープラ、多分それなりにやり手と思っていいわ。少なくとも、C1のレイアウトは頭に入ってるでしょうね」

 

「そうなの?アリス、解説お願い」

 

「まず、首都高で特にテクニカルなのがこのC1。タイトかつJCTの合流が左右からくる上に、コーナーの数は『高速道路』の常識から外れたものよ」

 

首都高C1は東京都心を環状に繋ぐ。

1964年の東京オリンピックに合わせて急ピッチで建設されたC1は、用地買収の手間を嫌って川などの公共の土地の上下を通っている。

その結果──上に下にうねりながら蛇行する。

自然と都市の必然によってつくられたその構造は、海外から「日本人は都市のなかにサーキットをつくってしまった」と言われたほどだ。

 

「だから、軽量コンパクトなロータリーマシンは特にC1で強いわ。その点、ステージから見ればスープラが不利ね。でも、ここからの浜崎橋JCTまでは汐留S字くらいしかコーナーがないの。あのスープラは多分最高速仕様、銀座を抜けるあたりからバトルが始まるようにしかけたのは確信犯ね」

 

「そうなんだ……でも、アリスは負けるつもりないんでしょ?」

 

「当たり前じゃない……私は負けるバトルなら最初から受けないわ。……咲夜、次が汐留S字よ。バンクを活かしていかに速くクリアができるかが大事──ッ」

 

言うと同時に私はブレーキを踏み、FCを滑らせる──このFCの首都高デビューだ、すこし華やかにいってもいいだろう。

汐留S字は瞬間的にクリア──70スープラ、あなたの仲間に、このFCをよく伝えることね──

 

最初の左は三車線をフルに使った四輪ドリフト──振り戻して──次の右は右二車線でコンパクトにドリフトしながら、立ち上がりで一気に加速──

 

私はバックミラーを見る──スープラは離れている。

パフォーマンス系のドリフトだったが、まさか汐留S字でそう仕掛けるとは思わずに動揺したのだろう。

最高速仕様の足回りではタコるところをうまくクリアしているが、ブースト圧の落ち込みは隠せない。

 

「さすがアリスだね。スープラが一気に離れていったよ」

 

「最高速仕様のマシンをC1仕様で相手するなら、この区間はいかに汐留S字を詰められるかが勝負よ。覚えておいて。……次は浜崎橋JCT。C1方面は右の一車線。ただ、分岐直後に二車線になるから覚えておくといいわ」

 

スープラが追い上げるが、浜崎橋のコーナーで再び離れる。

湾岸線を意識したセッティングでは思うように踏んでいけない──スープラは大方、汐留S字でキメて浜崎橋JCTから羽田方面、レイブリから湾岸線に逃げるつもりだったんだろうが、相手を間違えたな。

 

JCTを越えて交通量が変わる──増える方向に転んだのは僥倖(ぎょうこう)だ。

咲夜の組んだ250馬力13Bターボなら踏んでいける。

次の芝公園のコーナーで決められるか?

 

「ここからは芝公園のコーナー、左の次に短いストレート、そして右よ。ストレートは次の右への姿勢づくりと思ったほうがいいわ」

 

そう言いながら、私はFCのノーズを緩やかに左へ。

立ち上がって──右か?

ストレートで右車線に素早く移り、次の右コーナーに飛びこむ。

苦しいラインだが、トータルではこっちだ。

スープラはもうバックミラーから消えている。

 

「アリス!あれが東京タワー?あの右前に見えてるやつ!」

 

「そうだけど……咲夜、あなたちゃんと見てた?」

 

「……ごめん、東京タワーが見えてからはあんまり」

 

「まあいいわ……芝公園で見えなくなったし、この流れならスープラも追いつけないでしょ。このままC1で勝負しても向こうに勝ち目はないし。ここからは観光気分でいきましょう」

 

今夜は咲夜に首都高の走り方を教える口実で来てるが、観光して気持ちを切り替えて欲しいという目的もある。

──慎重にいくため、芝浦からはレイブリ経由で湾岸入りするつもりだが。

横羽線を走れば、咲夜が何を思い出してしまうかわからない。

物事には順序があるのだ。

 

「次は一ノ橋JCTね。分岐が生えてくるタイプだから、C1なら本線の二車線はそのままよ」

 

「スピードが乗りやすいタイプの右コーナーだね。二車線あるし、バンクもあるからかなり乗せていける……でも、ブラインドコーナーなんだ」

 

「そう、一ノ橋のコーナーはスピードが乗りやすいのにブラインド……そして、ほら。立ち上がりから上り坂でしょ?だから、コーナーのスピードにジレンマがあるけど、脱出スピードが乗らないとこの先で失速するわ」

 

「上り坂からは三車線に増えるんだ……出口って書いてあるけど……」

 

「飯倉出口に向かう車線だけど、結構長いでしょ?三車線になるから、スピードを乗せてないとこの区間はツラくなるわよ。ここからは飯倉トンネルに向かって下り坂だし、一ノ橋コーナーの処理でかなり差がつくわ。そして飯倉入口からの合流を過ぎると谷町JCT、六本木のあたりよ」

 

私はそう言いながら、飯倉トンネルに向かってアクセルを深く踏み込んだ。

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