いまさらですが、この小説は(連載当初から)不定期投稿です
なんか奇跡的なハイペースになってましたが……
ゆるりお付き合いください
神奈川県足柄下郡箱根町──午前二時
コンビニの駐車場に佇むパールホワイトのS14シルビア。
そのクルマにもたれかかって月を見つめる洩矢諏訪子は、一台のエキゾーストに気がついた。
「──早苗、お出ましだよ」
そう言って諏訪子は、シルビアの運転席側の窓を軽く叩く。
フルバケットシートで瞑目していた東風谷早苗は、ゆっくりと顔を上げる。
シルビアから降りた早苗は、壁に掲げられた「当店の駐車場ではお静かに!」という看板を見やり、口を開く。
「相変わらず近所迷惑なクルマですね。このあたりは人家が多いのに」
「私たちのシルビアもまあまあうるさいけど、やっぱ直管は特別だね。とはいっても、ここを指定したのは私たちだし。……早苗、本当によかったの?」
「ええ。私のホームである長尾では、こちらに地の利がありすぎますから。ここでしたら私は数えるほどしか走ってませんし、何より──」
早苗の言葉を諏訪子が引き取る。
「──ここは神奈川随一のダウンヒルステージだからね。軽自動車だと3速で上るのが厳しいほどの急勾配。……峠とシルビアにひとつのケジメをつけるバトルなら、あのドライバーとこのステージしかないね、たしかに」
「……ええ。見届けてください、諏訪子様。私はこの七曲りで、博麗霊夢を
─────
「そこよ、霊夢。そこのコンビニ。もう来てるみたい」
「あそこね。にしても、遠いったらありゃしない。紫、あんたがスキマで送ってくれたらよかったのに」
箱根──京都からクルマでおよそ五時間ほど。
近いとも遠いとも言えない距離。
高速は私が代わったが、霊夢はなお愚痴をこぼしている。
今夜のバトルは、守矢神社から頼まれて私が仲介したものだ。
意図は定かではないが、私としても霊夢の様子を見に行くつもりだったからちょうどよかった。
霊夢の様子は、レミリアの予言通りだった──天賦の博才を存分に発揮し、パチンコ・競馬・競艇・競輪を総なめ。
一ヶ月のギャンブル生活で妹紅の運送業の三倍の利益を上げていた──妹紅の方は一年分の利益である。
このままでは本当に巫女を廃業してパチプロになりかねない──危惧した私は霊夢をバトルに引っ張り出した。
このバトルが着火剤になればいいのだが。
「でも霊夢、緊張がいい感じにほぐれたでしょ?
ワンダーも道中で回してあげたから、十分コンディション戻ってきたし。スキマだったらこうはいかなかったわよ?」
「誰が緊張してるってのよ。咲夜ならまだしも、早苗に負ける予定はないわ。──魔理沙に笑われるわけにはいかないの」
霊夢はそう言いながら、ぐっと目に力をこめる。
日付が変わり、今日は魔理沙の月命日。
日にちを指定してきたということは、おそらく意図したものだろう──だが、そこにどんな思いがあるのかまでは、わからない。
コンビニにワンダーを停め、霊夢はエンジンを切った。
クルマから降りようとする霊夢に、私は言う。
「──霊夢。魂は錆びるし、贅肉もつく。生半可な気持ちでかかれば、あなた負けるわよ。勝ちたいのなら、迷いは一旦置いておきなさい」
霊夢はちらとこちらを見、一瞬目を伏し、何も言わずにワンダーのドアを開いた。
私も続いて助手席から降りる。
いつのまにか雲が出ていた──分厚い雲が、いまにも月を呑みこもうとしている。
雨になる──私はそう思いながら、霊夢とともに、シルビアの方に向かって歩き出した。
─────
「こんばんは、早苗、諏訪子」
「紫さん、こんばんは。……仲介してくれてありがとうございます」
「やあ、八雲紫。いい夜だね。すこし降りそうだけど。……霊夢は?」
礼儀正しく挨拶する早苗を横目に、私は八雲紫に問う。
「煙草吸ってくるって。いつのまにか不良娘になっちゃったわ、まったく」
「未成年でしょ?って言いたいけど、今からやることに比べたらかわいいもんか」
私がそう応じていると、霊夢がこちらに近づいてくる。
「ガス切れだわ。誰かライター持ってない?」
「誰も持ってないわ。いい機会だから禁煙しなさいな。ここはコンビニだけど、深夜に未成年がライターなんて、多分なにか聞かれるだろうし」
「それに、そんなワンダー通報されかねないからね。さっさと最終確認してから出よう。──早苗」
私が呼びかけると、早苗が一歩前に出て口を開く。
「はい、諏訪子様。──スタート地点はこの先のバス停です。そこでハザードを焚くので、確認したら右に並んでください。私のハザードが五回点滅したら全開です。ヘアピンを抜けた先のストレートで、高架下をくぐります。そこがゴールです。……霊夢さん、いいですか?」
「構わないわ。……降り出したわね。さっさと始めましょう」
霊夢が言うと同時に、雨粒が私の頬を滑る。
レインバトルになっちゃったか。
霊夢と早苗のバトルじゃなければ、無理矢理にでも中止させているところだ。
だが、早苗には私が、霊夢には紫がついている。
万が一の場合でも問題はない。
ワンダーに向かって歩き始めた霊夢の背中に、早苗が問いかける。
「──霊夢さん。なぜ私がバトルを挑んだか聞かないんですか?」
「聞かないわ。興味ないもの。──バトルが終わって、気が変わったら聞く」
わかりました──早苗は悔しそうな表情でそう呟く。
走り屋なら、速さでわかり合うしかない──速さでわからせるしかない。
「始めよう、早苗」
私は早苗にそう言って、シルビアの助手席のドアを開けた。