ロングストレートを臆することなく踏みきっていく二台のマシン。
先行する紅白のワンダーの走りは、夜闇を噛み砕く虎の牙を想起させる。
八雲紫は落ち着いた表情で、運転席の博麗霊夢を見やる。
紫の卓越した頭脳は、このバトルの行き着く先を読み切っていた。
──そして、すべての準備は整えてある。
霊夢の走りは、ひどく破滅的で、コントロール不能な幼いエゴに自壊していくようだと、おそらく誰もが思うことだろう。
後ろから追うシルビアの二人は、もはや勝ち負けよりも、無事に二台が走りきることに目的を変えたことだろう。
止めようと思えば止められる──だが、と八雲紫は涼しい顔で霊夢をちらと見る。
──問題はない。
今夜、霊夢は「死ぬ」
──そして、霊夢は「生き続ける」
どこぞの性悪が愛弟子にお節介をしたから、私もかわいい霊夢にそうするだけ──八雲紫はひとりごちる。
きっとレミリアや諏訪子も、同じツテがあれば同じ仕掛けを施したことだろう、とも。
次のステージは、死の先にある──
─────
「早……八雲紫は……気がないみたい……」
諏訪子様の声が遠い──
シルビアを通してまとわりつく大気が重い。
S14のボディがそのまま、自分の皮膚になったような錯覚を覚える。
分厚い空気の壁を押しのけて──前へ──
スリップストリームを存分に活かせる車間距離へ。
イカれてる、と私は苦笑する。
峠の下りでスリップストリームに、空気抵抗──まるで正気じゃない。
そして、それを苦笑ひとつで片付けてしまう自分が一番、正気じゃない。
今夜、霊夢さんは死ぬかもしれない──
──だが、私がそうはさせない。
いまなら咲夜さんが悔いた気持ちがわかる気がする。
何のために走る?
そんなものたくさんありすぎる──でもいまは、霊夢さんを守りたいと願う私がいる。
思いあがりの奇跡を願う私でいい──
うだうだ迷って、速くなりたいのかすら、わからないままでいい──
だけどいま私は、目の前の
ロングストレートのどんつき──二連ヘアピン。
博麗坂をしのぐ急勾配ロングストレートからのハードブレーキング。
ブレーキングポイントはひとつだけ。
ミスが死に直結する、七曲りの最難関ポイント。
最高速はもはや互角──だが、スリップストリームの余力分、私に分がある。
ここで前に出る──高速域のコントロールは、ボディサイズの大きいS14が有利だ。
目印のガードレールが近づく。
右に飛び出し、車体半分前へ──
私はブレーキペダルを力任せに踏みつけ、限界まで荷重を前にかける。
飛び込むスペースを与えない程度にラインを取って、旋回のヨーを与えたそのとき──
荷重の抜けた右リアを、強い衝撃が襲った──