「さ、到着だ」
川の真ん中にぽつんと佇む小さな島に、小町は船を寄せながら霊夢に言う。
島の大きさはおよそ、都心の戸建て一軒分程だろうか。
その島の面積いっぱいに、紫色の八角推を屋根としていただく、赤色の建物が佇んでいる。
霊夢は船から降り、その壁をコツコツと叩いてみる──何の素材だろうか?
木とも石とも、金属とも違う不思議な質感だと、霊夢はいぶかる。
「あんたに用件がある人は中でお待ちだよ。あたいはここまで。先の話は中で聞きな」
「紅魔館と負けず劣らずな趣味ね……まあいいわ、ご苦労様」
霊夢は疑問も文句も何一つ言わずに扉を開き、その中に入っていく。
その姿を見て小町は、執着のなさは相変わらずか、と来た
この屋敷までの水路の長さは、運ばれる死者の未練や執着の度合いで決まる。
この間運んだ「一人目」も短かったが、ここまでではなかった──今代の博麗の巫女は特級だね、と小町はひとりごちて、来た路を戻り始めるのだった。
─────
「誰かいるの?待つのは嫌いなんだけど」
部屋の中は外見に似合わずシンプルなつくりだった。
これといって特徴のない、白い壁に囲まれた玄関ホール──あえていうなら、特徴がないことが特徴だろうか。
調度品も装飾の類もなく、入ってきた扉の他に、扉が三つほど。
うち一つには複雑なダイヤルがついているようだ。
「妙に広い部屋ね……というか、他の部屋があるとしたら、外見の大きさと釣り合わない気が──」
霊夢が無意識にそう呟いたとき、後ろから肩を叩かれる。
「──ッ」
霊夢が懐に手を入れながら振り向くと──
「あはは、びっくりした?」
一言で表現すれば「星条旗柄のピエロ」。
奇妙な風貌の、金髪の少女がいたずらっぽく霊夢に笑いかける。
「……あんた何者?あと、御札がないんだけど」
「んー?あたいはクラウンピース。地獄の妖精だよ。御札は──あなた相当不真面目なのね、巫女なのに」
「どういう意味よ」
「えっと……あなたもう死んだわけじゃない?だから、いまのあなたの姿形や持ち物って、あなたが執着するイメージを
ひらひらと手を振りながら、クラウンピースは説明する。
霊夢は自分の姿を見下ろし──いつも通りの巫女服で、傷一つないのはそういうことかと納得する。
霊夢は顔を上げ、クラウンピースに案内を促す。
「なんとなくわかったわ。それじゃ、さっさと私に用事がある人とやらに会わせてちょうだい」
「はーいはい。──ご主人様ー。客人ですー」
クラウンピースはそう言いながら、ダイヤルのついていない扉の一つを開いた。
─────
「あらー、早かったわね。さ、さ、座ってちょうだい。地獄の職員以外が来るのはいつぶりかしらね〜」
二人が部屋に入ると同時に、赤い髪の女性が霊夢の手を引いて中央のソファに案内する。
頭には赤い球体が載っており、首のチョーカーと鎖で繋がっている──チョーカーからは他に二本鎖が伸びており、それぞれ地球と月を模した浮遊する球体と接続されている。
服装はカジュアルな肩出しの黒いTシャツと、赤青緑のミニスカート──Tシャツには「Welcome♡Hell」のプリント。
されるがままソファに腰かけた霊夢は、一つ疑問を口にする。
「……その球、重くないの?」
「へっ……?」
「いや、だから……そんなの頭に載せて、首からもぶら下げて……重くないのかって」
女性は予想外の質問にフリーズし、すぐにけらけらと笑いだす。
「一番最初の質問がそれ?噂通り変というか、肝がすわってるというか……紫が気に入るだけのことはあるわ。この球だけど……うーん、軽くはないわね。外しましょうか」
言うが早いか、女性は手際良くチョーカーから鎖を外し始める。
「え、ご主人様の『それ』って外せたんですか?」
「いや、外れるわよ。知らなかったの?」
驚愕の表情を浮かべるクラウンピース。
女性は「そういえば言ってなかったわ」と呟いている。
空気感は違うが、どことなく紫と藍のコンビに似ている──霊夢がそう思ったとき、扉が開かれる。
「ヘカーティア様、こちらでしたか」
そう言いながら入ってきた緑髪の女性に、霊夢は覚えがあった。
四季
閻魔が来た以上、これから何をするにせよすぐ終わりそうにはないなと、霊夢は宙を仰ぐのだった。