いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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はんぶん

「あ、映姫ちゃん。おつかれさま〜。こっちに座って」

 

ヘカーティアと呼ばれた女性は、気楽な調子で四季映姫・ヤマザナドゥの挨拶に応え、自分の隣を指す。

映姫はやれやれといった表情を浮かべながら、ヘカーティアの隣、霊夢の斜め向かいに腰かけた。

 

「……それで、話はどこまで進んだんですか?私は今日非番なので、早く終わらせて自分の用事に移りたいのですが」

 

「んもう、せっかちねえ。用事っていっても、現世に説教しにいくだけでしょ?そんな慌てないの。……クラウンピース、どこまで私たち話したっけ?」

 

「ご主人様の自己紹介がまだ済んでないくらいですね。あたいはもう済ませてます」

 

それを聞いてヘカーティアは両手を口に当て、「びっくり」という表情をつくる──博麗霊夢はこの瞬間、直感で「なんとなく苦手なタイプ」にヘカーティアを分類したと、(のち)に回顧している。

 

「あれ、そうだっけ。それなら挨拶の間に全員分の飲み物取ってきて」

 

「わかりました、ご主人様。……ドクターペッパーでいいんですよね?」

 

「他にないでしょうに。お願いね」

 

そう言ってクラウンピースを送り出したヘカーティアは、霊夢の方に向きなおる。

 

「さて、博麗霊夢ちゃん。私はヘカーティア・ラピスラズリ。……何者でしょう?」

 

「クイズは嫌いよ。余計な茶番で待たされたから、すこし機嫌悪いの。とりあえず紫の友人ってことくらいはわかったわ。紫ほどじゃないけど、なんか胡散臭いし」

 

「言うわねえ。まあ、当たらずとも遠からずか。紫はまあ、友人というか知り合いというか……あるいはビジネスパートナーというか。浅くはないけど、ベッタリもしてない関係ね。私はまあ、地獄の女神やってるわ。地球と月と異界……それぞれに『地獄』ってあるんだけど、その全てを統べるすごい神様ってわけ」

 

「あっそ。なんとなくはわかったわ。……で?その『すごい神様』が私に何の用?私は箱根で事故って死んだ。だからそこの『閻魔様』に裁かれて地獄行き、でいいんじゃないの?」

 

霊夢の冷めたリアクションに固まるヘカーティア。

フリーズしている間に戻ってきたクラウンピースが、各人に飲み物を配りはじめる。

 

「戻りましたよ〜。霊夢、隣座るね。はい、ご主人様と霊夢にはドクターペッパー。映姫は緑茶でしょ?別に持ってきたよ」

 

「ああ、ありがとうございます、クラウンピース。あなたにしては気が利いて……なんですかこれは。『緑茶サイダー・人工玉露入り』って書いてあるんですが」

 

「あはは。ヘカーティア様の冷蔵庫って炭酸以外ないんだよね。大丈夫、多分おいしいよ」

 

ジト目でクラウンピースを睨んだ映姫は、それでもと一口飲み、顔をしかめる。

そして、途切れていた話題に皆の意識を戻し始め──

 

「黒です、黒。玉露が『人工』な時点で黒ですよ、こんなもの。……そして、博麗霊夢。あなたは真っ黒、地獄行きです。自覚あるだけ白……いや、自覚あるからタチが悪いんです。あなた、自分が何をしてきたかわかっているのですか?妖怪退治はまあこの際おいておきましょう。無差別な退治はいただけないにしても、博麗の巫女の役割として──」

 

──結局、説教に脱線してしまった映姫を、他の三人は話を聞くフリだけしながらやりすごす。

霊夢のドクターペッパーが半分になった頃、映姫は本題に入る。

 

「──つまり、公道レースなどという馬鹿げた振る舞い……くわえて、外界人への暴力的行為。あなたの地獄行きは確定していたんです。──ですが」

 

映姫は言葉を切り、ヘカーティアに続きを促す。

 

「うん。そこに私がストップをかけたってわけ。個人的には霊夢ちゃんに地獄落ちてもらったほうが色々楽しそうなんだけど──紫に頼まれちゃってね」

 

「紫が?……ああ、なるほど。だから私が死ぬのを止めなかったのね。次代の博麗の巫女を確保しないうちに私を失えば、幻想郷の維持に支障をきたすし」

 

「そんなにドライな理由ばかりでもないんだけど……まあいいや。とりあえず、あなたの地獄行きは私がストップをかけたわ。そして、あなたはこのあと再び現世に戻る」

 

霊夢は興味なさげに「ふーん」とだけ答え、クラウンピースに「これおかわり」とドクターペッパーの空き缶を振る。

 

「ふーん、って……紫に聞いてた通りの子ねえ。もうちょいなんかないの?」

 

「おいしいわねこれ……ヘカーティア?だっけ。特に何もないわよ。だって生きるも死ぬも、結局なんだかよくわかんないし……死んだのに私は私として、この『どくたーぺっぱー』を飲みながらあんたたちと話してる。こんなの日常の延長線だわ。そして今度は生き返るんでしょ?」

 

「それは違いますよ、霊夢」

 

霊夢の言葉に、映姫がぴしゃりと否定を叩きつける。

 

「いいですか、生と死は一方通行……それを覆すことは、この世の理に大きく反した振る舞いです。ゆえに、死者が生き返ることはありえないし、(ゆる)されないことなのです……ですから……」

 

映姫はそこまで言うと、苦虫を噛み潰したような顔をした後うつむき、ヘカーティアが続きを引き取る。

 

「そこに紫が介入したってわけ。地獄のトップである私と、西行寺幽々子といった大駒二つを押さえた上で、『生と死の境界』を曖昧にする算段をつけたの。だから霊夢、あなたは生者とも死者ともつかない存在として、現世に戻ることになるわ」

 

「ふーん?つまりどういうこと?死体の身体で現世に存在する、みたいなことかしら。それは嫌ね。臭そうだし、腐りそうだし」

 

「ああ、そういうゾンビみたいなやつじゃないの。……クラウンピース、説明してあげて。私お手洗い行くから」

 

「りょーかいです、ご主人様……さて、霊夢。あたいたちの解釈では、人間は肉体と精神と魂の三つで成り立っているの。この三つはしっかり結びついていて、どれか一つを切り離すことはできない……ここまではいい?」

 

クラウンピースは、どこからか取り出したメモ用紙に図解しながら霊夢に説明する。

 

「そのくらいはわかるわ。たとえば右腕を切り落としたとして、右腕と残りの身体それぞれのパーツに、肉体と精神と魂が入ってる……そういうことよね?」

 

「そういうこと。そして、欠損したパーツ分の割合だけ、肉体と精神が損なわれる……魂は基本的に損なわれないんだけどね。さっきの例なら、右腕とそれ以外に魂が100%ずつ入った形になる──コピーされるイメージかな」

 

「そして、右腕に肉体・精神20%ずつ、残りの身体に80%ずつ、といった具合ってわけね……それが私に関係あるの?」

 

「大アリなのよ、霊夢」

 

霊夢の問いに対し、部屋に戻ってきたヘカーティアが答える。

 

「さっき『生者とも死者ともつかない形で』戻ってもらう、と言ったわよね。それはつまり、あなたの『半分』を死後の世界に残してもらうということなの。あなたの半分は、この後裁きにかけられるわ」

 

「つまり──」

 

霊夢が言わんとすることを、映姫が引き継ぐ。

 

「──左腕と右足。博麗霊夢、あなたの利き手と利き足を、地獄に置いていってもらいます」

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