いのち短し走れよ少女   作:夏色バレッタ

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ツインチャージャー

近づいてきたのは、リトラクタブルヘッドライトのクルマだった。

車幅からして2Lクラスのマシンだろうか。

私と鈴仙の姿を確認して、そのクルマはライトをロービームに下げる。

 

「あれは──180SX(ワンエイティ)?でもあんな色のワンエイティって幻想郷にいたっけ?妖夢知ってる?」

 

「私は知らないかな。ライムグリーンツートンって純正色にあったっけ」

 

私たちが言ってる間に、180SXは転回の動きに入る。

どうやらAW11の隣に駐車するつもりらしい、が、そこで私たちは気づく──

 

「……ねえ、妖夢。180SXってハッチバックだよね。あれ、S13シルビアのノッチバックじゃない?」

 

「ニコイチってやつだよ、鈴仙。シルビア系なら珍しくないけど……」

 

ニコイチ?と聞き返す鈴仙の声は、私の耳に残らなかった。

私にはもっと、注意を引く音が聞こえたからだ。

 

──これは、スーパーチャージャー?

 

得体の知れないマシン──ドライバーは誰だ、と思ったとき、そのマシンから少女が一人、降りてくる。

 

「……大妖精さん?」

 

「あ、妖夢さんに鈴仙さん。こんばんは。走りに来たんですか?」

 

「こんばんは、大妖精。走りに来たんですか、はこっちのセリフよ。あなたクルマ手に入れたの?その──180SX?シルビア?……ごめん妖夢、どっちなんだっけ?」

 

意外な人物の登場にぼんやりしていた私に、鈴仙が困った顔で聞いてくる。

外界だとそれなりに有名なカスタムだが、幻想郷ではまだいなかったか。

大妖精のパターンは、外界でもマイナーかもしれない。

 

「えーっと、車検証の上ではS13シルビアになるかな、この場合。S13と180SXは姉妹車で、フロントフェイスを入れ替えられるの。いわゆる顔面スワップってやつだね。大妖精のクルマは、S13シルビアに180SXのフロントをスワップした形になるから、車検証ではシルビアになる……よね?大妖精さん、合ってます?」

 

混乱する私たちを見て、大妖精はくすくす笑う。

 

「それで合ってますよ。シルビアの顔面スワップを知ってる人が幻想郷にいてくれて嬉しいです。……このマシンはシルビアに180SXのフロントなので、通称『ワンビア』ですね。逆に、180SXにシルビアのフロントで『シルエイティ』になります。メジャーなのはシルエイティのほうですかね」

 

「へえ、ワンビアっていうんだ。私はノーマルの180SXより、ワンビアの方が好きかも。エボみたいにリアがカクカクしてるからかな。でもなんで、シルエイティの方がメジャーなの?」

 

「あー、鈴仙。私がAW11乗りたてのとき、フロント潰したの覚えてる?」

 

この説明をするには実例を持ちだしたほうが早いだろうと思ったが……うん、もう既に恥ずかしい。

 

「あったね、そういえば。大蝦蟇コーナーでスピンしてフロントから刺さったときでしょ?フロントバンパーとボンネットがオシャカになった事件。フレームには問題なかったけど……そういえば妖夢あのとき『AWのライトが固定式だったら安かったのになあ』ってぼやいてたっけ」

 

「うん、まさにそこなんだよ。リトラは開閉式な分、修理代が高いんだよね。あと重量がかさむから……シルビアの固定式ライトのフロントを移植した方が、安い上に軽量化できるの」

 

私が説明すると、大妖精はこくこくと頷く。

 

「妖夢さんの言った通りです。元々シルビア系のニコイチは安く修理する知恵だったので。ワンビアがマイナーなのは、あくまでスタイル重視だからですね」

 

「……でも、リトラはいいんですよね。カパッて目が開くのが可愛くて」

 

「あっ、妖夢さんはわかってくれますか!そうなんです……S13のキリッとクールな表情も良かったんですけど、私は180SXの柔らかさが好きで。ノッチバックの真面目な感じとのギャップが良さそうと思ってワンビアにしたんですが、正解でした!」

 

「わかる……わかりますよ、大妖精さん……ボディには質実剛健な精悍さがあるのに、リトラが開くとね……きゅんとくるんですよね!」

 

きゃいきゃいとはしゃぐ私たち。

リトラ好きがこんなところにいたとは。

咲夜はリトラ自体にあまりこだわりがない──というより、リトラとハッチバックがRX-7のアイコンだから、くらいの反応だったため、大妖精さんのリアクションはかなり新鮮かもしれない。

 

思わず手を取り合って喜んでいると、鈴仙が口を開く。

……すこし引いた目になってる、このくらいにしておこう。

 

「あー、コホン……リトラもいいわよね、うん。雪の季節は開いておかないと大変なことになっちゃうけど。ねえ、大妖精。エンジンルーム見せてよ。『博麗坂(こんなところ)』に来てるんだもん、それなりに『やって』るんでしょ?」

 

鈴仙が言うと、大妖精さんはそうだった、という顔でボンネットをいそいそと開く。

私も気になっていた──ノーマルのシルビアからはするはずのない音がしていたから。

 

その間に私はAW11をワンビアの向かいに回し、ヘッドライトでエンジンルームを照らす。

 

「はい、どうぞ!慣らしが終わったばかりで、誰かにお披露目したかったんです。じっくり見てください」

 

「どれどれ……うわっ。……なによ、これ。ねえ妖夢、シルビアのエンジンルームって『こんなん』なの?」

 

「……私もシルビア系は詳しくないけど、『こんなん』じゃないと思うよ。普通はこんないかついパイピングしてない……はず。エンジンはSR20なんだね……それに──」

 

じっくり見てると……奥まっていたが、やはりあった。

予想通り、H社のやつを入れてたか。

 

「──スーパーチャージャーだね」

 

「えっ。シルビアってスーチャーあったの?」

 

鈴仙のリアクションは大妖精の期待に沿うものだったらしい。

普段こういうサプライズはチルノのほうが好きな印象だったが、なんだかんだ大妖精もしっかり「妖精」だったということか。

 

「ふふ……シルビアの純正はNAとターボだけですよ。だから、このスーチャーは社外です。エンジンは元々CA18のNAでしたが、チルノちゃんに譲ってもらうときにスワップしました」

 

「そういえばチルノはS13だったっけ。魔理沙と同じやつがいい、ってCA18のNAで探してて。これベースはチルノの13だったんだ……あれ?いまチルノは?」

 

「チルノちゃんは乗り換えましたよ。100系チェイサーです。いまは仕上げてる最中ですね。今日も手が離せなくて、私一人で来たんです」

 

私がエンジンルームを舐めるように見ている間、鈴仙と大妖精は話しこんでいる。

──鈴仙は気にならなかったようだが、スーチャーだけでこんなパイピングになるだろうか?

 

「……ねえ、大妖精さん。これ過給器はスーパーチャージャーだけですか?SR20にスーチャーやっただけにしては、やたら複雑なエンジンルームなんですけど」

 

「妖夢さん、気がつきましたか。幻想郷では多分私一人、ワンビアでとなると、外界でもほとんどいないんじゃないでしょうか。このワンビアはツインチャージャー──ターボとスーパーチャージャー両方を搭載しています」

 

「げえ。大妖精、あんたまでパワー厨になっちゃったの?」

 

どうしちゃったのよ幻想郷……と頭を抱える鈴仙。

エボに乗っててそれを言うのが不思議だが、そんな鈴仙だからエボと事故なくステップアップできるのかもしれない。

 

「パワーは多分そうでもないよ、鈴仙。H社のスーパーチャージャーでこの型番なら、わりと小径な方だと思うし……多分、ターボも小径タービンだと思う。レスポンス重視のチューニングじゃないかな……合ってます?」

 

「合ってます。さすが、幻想郷一のスーチャーマニアなだけありますね。先での拡張性は確保してありますが、いまの私のワンビアは250馬力くらいです。ツインチャージャー化したのは、『いいとこ取り』をするためですね」

 

「……?どういうこと?妖夢、大妖精。2基がけしてパワーアップ狙ったんじゃないの?」

 

鈴仙はそう疑問を口にする。

スーチャーは比較的マイナーな過給器だ。

ターボ乗りの鈴仙が知らないのも無理ないかもしれない。

AW11の純正にターボはないし、スーチャー乗りは今のところ私しかいなかったから。

 

「うーん……詳しい理屈は省くけど、スーチャーの強みは低回転域なの。エンジンの吹け上がりと連動してリニアにパワーを出していけるから、『NAでボアアップ*1した感覚』っていう人もいるね。その代わり、スーチャーは構造上パワーロスが大きいの。高回転域ではタービンにエンジンパワーを『食われる』って弱点がスーチャーにはあるんだよね」

 

「反対に、高回転域に強いのがターボですね。その代わり、エンジンの吹け上がりとタービンの出力にラグがある分、低回転域のツキが悪い──出足が遅れやすいんです」

 

「なるほどねえ……じゃあ、低回転域でスーチャー回して、高回転域ではターボ回したら解決するよね。って……もしかして……」

 

鈴仙が言うと、大妖精はこくりと頷く。

 

「その通りです、鈴仙さん。私のワンビアは全天候型過給器チューン──低回転域ではスーチャー、中回転域ではスーチャーとターボ、高回転域ではターボだけで過給する仕様になってるんです」

 

「うわあ、すごいねそれ。弱点ないじゃん」

 

色々あるんだなあ、と感心する鈴仙に、大妖精は苦笑する。

 

「そうでもないんです、これが。……妖夢さんはお気づきでしょう?」

 

「まあね……私も一度考えたチューニングだから、なんとなくはわかるよ。コストもそうなんだけど──なにより、重量だよね?」

 

「そうなんです。スーチャー用の電磁クラッチも新たに取り付けが必要でしたし……でも、良いマシンですよ。──どうです?妖夢さん。スーチャー使い同士、開通したての第二博麗坂で上り勝負というのは」

 

まあ、こうなるか。

初めて相まみえるスーチャー使い──かたやギリギリまで軽量化したスーチャーチューン、かたや重量と引き換えに弱点を打ち消したツインチャージャーチューン──いつのまにか敬語すら忘れていた自分に、闘争心を感じずにはいられない。

 

「──受けない理由がないよね。喜んで、相手させてもらうよ。……スーチャー使いに言葉はいらない。過給する音だけが、お互いを知る唯一の手段だから」

 

「え、なんかアツい展開なとこ悪いんだけど、私どうしたらいい?」

 

私がバトルを受けると、鈴仙が慌てて間に入る。

余分なウエイトになってしまうことを懸念して、自分は博麗神社まで飛んで先回りしようかと聞きたいのだろう。

 

「そうだね……鈴仙は私の方に乗って。パワーウェイトレシオ的に、AW11の方が有利だから。……パワーウェイトレシオがイーブンになるほど、鈴仙が重いってわけじゃないよ?安心して」

 

「パワーウェイトレシオ」という言葉にぴくりと眉を上げた鈴仙を見て、私は付け加える。

 

「そうですね。私もまだまだ若輩なので、鈴仙さんは妖夢さんの方に乗っていただいたほうが安心かと。──バトルの形式は先行後追いにしましょうか。ゴールは出口ゲートがあるはずなので、そこで。どうです?妖夢さん」

 

「OK。ポジション入れ替えはなし。追い抜きもラストのストレート以外はなしでいこうか。ポジションどっちがいい?」

 

「選んでいいんですか?それなら──先行でいきますね。よろしくお願いします」

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

私と大妖精は互いに一礼し、それぞれのマシンに乗りこむ。

鈴仙がシートベルトを締めたのを確認し、私はAW11のエンジンに火を入れた。

*1
やり方は色々あるが、端的に言えばレシプロエンジンで排気量を増大させるチューニング。




ターボとスーパーチャージャーのメカ的な話は後々修正入るかもです
調べてたんですが、なんか諸説ある?みたいなので
幻想的フィクションで片付けてもいいんですが、ちょっとね……

↑は修正入れませんでしたが、AW11のエンジンが後ろにあることを忘れてたので、そっちの修正入れてます
申し訳ない(8/16)
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