「オラァ!!」
褐色肌の黒髪が長い女から放たれる鋭い拳。それをなんとかバク転しながら躱し、机の上に乗る。こちらを睨みつけてくる女は、息を荒くしながら飛びかかってくる。
女の顎を蹴り上げ、なんか柔らかいものを掴むと、俺の後ろに投げ飛ばす。柔らかいものを掴んだ際に声が聞こえたけど、今は無視でいい。
意識を切り替えよう。あの女は俺を見るなりいきなり殺そうとしてきた。つまり……
「敵……っ!! ルラァァァ!!」
体に力を込め、女に向けて走る。手からバチバチと黒い雷のようなエネルギーが溢れ出す。
「そこまでっ!!」
俺の手が女の顔に当たるその瞬間、フィンの声が聞こえ体がピタリと止まる。
「だ、団長!! どうして止めるんですか!?」
「ティオネ、君が何を勘違いしてるのかはわからないが、ハッキリ言っておくよ。彼はダンジョンで拾ってきた子供なんだ。傷つけることは許さないよ」
「で、でもぉ……」
キッと俺のことを睨みつけながらもフィンに言い訳をしている女。俺は俺で何が起こってるのか理解できていない。
「フィン、ロキがあの少年を連れてくるように……何だこれは?」
しょくどうの出口からリヴェが入ってくるなり、フィンと同じように頭を抑え始めた。
「ある程度は読めた……が、それでも敢えて聞こう。何だこれは?」
「ティオネの勘違いによる戦闘……そういえばわかるかな?」
「あぁ、ずいぶんと簡単だな……はぁ、頭が痛い」
「わかるよ」
なんだろう。なんか面白くない。
「リヴェ、ロキ?」
「ん? あぁ、ロキが準備できたから来てほしいと言っていた」
「わかった」
「それと、アイズは今から勉強だ」
今にも逃げ出そうとしていたアイズの首根っこを掴み上げながらリヴェは出ていく。掴まれた時に物凄く嫌そうな顔をしていたから、相当嫌いなのだろう。その、べんきょうというやつは。
「ティオネ、君は少し落ち着いてくるといい」
「はい……わかりました、団長」
なぜか肩を落としている女、…多分ティオネはそう言って出ていった。残ったのは何がなんだかがわかっていない俺と、そんな俺を見て苦笑しているフィンだけだった。
フィンに連れられてまたもやロキの部屋にやってきた。相変わらず臭い匂いは消えていないものの、部屋の中は比較的きれいにはなっていた。
「さぁて、そこに寝転がってや」
遠慮がちになりながらもベッドの上に寝転がる。すると俺の背中にロキが跨り、服を捲ってきた。
「安心してな? すぐに終わるさかい」
そう言うとロキは俺の背中の上で何かをしているらしく、すぐに生暖かい液体が背中に垂れてきた。
熱い……物凄く熱い。だけど我慢する。
「な、なんやこれ……?」
ロキがなにやら驚きながら背中から降りた。そしてすぐに一枚の紙に何かを書くと、俺に渡してきた。
「これがアルムのステータスや」
俺は首を傾げながらも渡された紙を見る。
〜〜〜〜〜〜
アルム・ウェスター
レベル0
力???
耐久???
器用???
俊敏???
魔力???
スキル
『神殺しの勇者』
戦闘開始と同時に身体能力が上昇する。時間が進むごとに強化される。敵対勢力に「神性」があるとき、強化値が2倍になる。
『黒雷拳』
神殺しの雷を纏う。力と俊敏が上昇する。
『???』
???
魔法
「リアネイル・オーガスター」
体内で魔力を溜め込み、敵に向けて開放する究極殲滅魔法。魔力の開放の仕方は使用者のイメージにより変わる。
詠唱
「我らが母の願いよ、我が力となれ。願いよ集え、光となりて刃向かう敵を殲滅せよ」
〜〜〜〜〜〜
「こ、これは……凄まじいね」
ロキから渡された紙を見た感想がそれだった。レベル0という見たこともない数字に、すべてのステータスが謎に包まれている。
ダンジョンの子なのであれば、神ロキのファルナを弾いてもいいはずなのに、弾かずにいる。謎ではあるが、彼自身僕らに危険なことをするつもりはないだろう。
「どうするんや?」
「そうだね、しばらくは様子見かな」
これは僕たち幹部レベルが付き添って様子を見なければいけないかもね。となると後でガレスにも説明しなければいけないのか。
「流石にウチもこんなん予想外やわ。ウチを持ってしてもわからずじまいやったもんもあるしな」
「スキルの一部が表示されてないのはそのせいかい?」
「そや! ギルドなんかに見せられへんで。一発で討伐対象や」
「そんなことは僕がさせない。僕の予想が正しければ、彼は僕たちの希望になりうる存在だ。僕みたいな人口的な英雄なんかじゃない、正真正銘の英雄にね」
ロキはいつものニヤニヤとした笑みはなく、真剣に僕の話を聞いてくれている。こういうところは好感を持てるよ。
「やったらどうするんよ? いくらウチかて偽造とかはせぇへんからな?」
「あぁ、わかっているよ」
「にしても、とんでもない問題児やで、こやつ」
「ははっ……そうかもね」
僕の背中ですやすやと眠るアルムは、ロキの言うような神殺しにはとても思えない。でも、ロキが警戒するだけのなにかがあるはずだ。
〜〜次の日〜〜
「今日はダンジョンについて勉強するぞ」
「べんきょう……?」
「学んで賢くなることだ」
リヴェに連れられてたくさんの紙が一つになった物が、たくさん並んでいる大きな部屋にやってきた。そこで椅子というものに座った俺は、なぜか隣でいやいやそうな顔をしている金髪の女の子……たしかアイズを見る。
「ん? あぁ、アイズは私が無理やり連れてきた。いい機会だからな」
「わ、私はもう勉強しなくても」
「ほう? 未だに私が教えたことを守らずにいる小娘が、か?」
「うっ……勉強します」
俺がここ『おらりお』に来るまでに起こった最大の事件として暗黒期と呼ばれるものがあったらしい。おらりおを破壊して何をしたかったのかは終わったあとだからわからないけど、多分しょうもないことなのだろう。
「お、驚いたな……フィンから聞いてはいたが、まさか私が出したテストが満点だとは」
「ダンジョンはこきょう……? だから、ある程度はわかるよ」
「どこまでダンジョンについて把握している?」
「ん? ダンジョンが我らが母であること、我らが母は神を憎んでいること、ダンジョンの最下層には我らが父がいること」
「なに? 最下層に父だと!?」
なんだろう? 凄い驚いた顔してるけど、そんな驚くことあったかな?
「本当に……本当にいるのか、その最下層には、その……お前の父が」
「いるよ……? すべてを滅ぼす邪神が」
「そ、そうか……」
アイズは目を見開いているし、リヴェは疲れた顔してる。なんでだろう?
「べんきょうは……?」
「お前にダンジョンについての勉強はいらなかったかもしれない……いや、予想外の情報を得ただけでも良しとするしかないか」
頭が痛そうに椅子に座るリヴェ。
取り敢えず暇ができてしまった俺は、庭っぽい場所にやってきた。静かで良い風が吹いている。
芝生に寝転がり空を見る。
(いつの間にか、地上のことを誰かに聞かなくてもいいほど詳しくなってきた……これも我らが母の恩恵なのか?)
目を閉じ息を吐く。神経を耳に向け、様々な音を聞く。風の鼓動、鳥の声、街に住む人のざわめき……そして、誰かが近づいてきた足の音。それも2人分。
「アンタ、こんなところで何やってるのよ?」
「わぁ~! この子が新しく入団した子なんだね」
目を開ければ昨日俺に喧嘩売ってきた女の子と、その女の子と顔が似ている褐色肌の女の子がいた。
〜〜〜〜〜〜
ダンジョンの最下層にて、黒い靄に包まれた人型のモンスターがいる。彼は我が子の望みを叶え、一人で生きられるだけの十分な知識を与えると、片手に持っていた大剣を地面に突き刺し、腕を組むと眠りについた。
我が子が自分のもとに到達するのを楽しみにしながら……。
どうだったでしょうか?
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