吾輩は、猫である。
名前は、タマ・クラネル。
現在、寝坊した為、ダンジョンに向かってメインストリートを爆走する、間抜けな冒険者である。
猫になってわかったことだが、この体は本当によく眠るのだ。
人間の生活に合わせて起きていようと思えば可能なのだが、その分とんでもなく眠くなる日が週に一度ほどある。
ベルもそれがわかっているから、吾輩を置いていったのだろう。
「あら!タマちゃんじゃない?今日はダンジョンお休みするって聞いてたんだけど、今からベルちゃん追いかけるの?」
「ナー!」
冒険者になって一週間ほどだが、猫を連れた冒険者としてベルも吾輩も、ご近所さんではプチ有名人になっていた。
私に話かけてくれたのは、贔屓にしてる肉屋のおばちゃんだ。
「そうだ!今日もおやつ用意してあるわよ!ベルちゃんは遠慮して貰ってくれなかったから、追いついたら2人で食べてちょうだい。」
「ニャー♪」
毎朝、礼儀正しく挨拶するベルに好印象を持ったのか、ただの猫好きなのか、吾輩を見かけると小さな包みに入った魚の干物をくれるのだ。
この匂い、今日は燻製肉も入っているな・・・・・・ヘスティアに持って帰ってやろう。
「ベルちゃんなら、2時間前にここを通ったばかりよ。気をつけて行ってらっしゃい!」
「ナーオ!」
手を振る代わりに尻尾をを降りながら、別れを告げる。
ここまでが吾輩の、朝の日課だ。
それにしても2時間前か・・・・・・それならば、まだそんなに潜っていないだろう。
運が良ければ、2階層で合流できるかもしれん・・・・・・ん?何だ?何やら赤い物体が近づいて来ているような・・・・・・
「フギャッ⁉︎」
なんだなんだなんだ!?人攫いならいざ知らず、猫攫いって何が目的だ!?急に抱き抱えるとは、失礼なんじゃないか!?・・・というか臭い!臭すぎるぞ!どこの誰か知らないが、シャワーぐらい浴びたらどうだ?吾輩ですら、毎日風呂に入っているぞ!猫なのに!あれ?これギルドの方向かってない?
「エイナさーーん!アイズ・ヴァレンシュタインさんについて、教えてくださーーい!!」
・・・・・・・・・・・・間抜けな格好で何をしているのだ?ベルよ。
「うわああああああああああ!?」
エイナ嬢、ご迷惑おかけして、本当に申し訳ない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
シャワーを浴びたベルと吾輩は、再びギルドへと訪れ、エイナ嬢と3人で面談していた。
ベルが纏っていた異様に臭い赤い液体の正体は、モンスターの返り血だったらしく、どうしてそうなったのか?その経緯を含めて、説明を聞く。
「・・・もう、どうしてキミは私の言いつけを守らないの!タマ様もいるとはいえ、実質ソロと変わらないんだから、不用意に下層に行っちゃあダメ、冒険なんかしちゃいけないって、いつも口を酸っぱくして言ってるでしょう!?」
かいつまんで説明すると
最近調子がいいので、5階層まで降りた。
見学だけで終わらせるつもりが、中層のモンスターであるはずのミノタウロスと遭遇。
逃げ回って追い詰められた所を間一髪、件の女性に助けられる。
ベル、恋に落ちて、思わず猛ダッシュ。ということらしい。
エイナ嬢は、不用意に到達階層を更新したことを怒っているが、吾輩は5階層にミノタウロスが出たことの方が気になるぞ。
「タマ様!知らないフリしてますけど、タマ様にも言ってるんですならね!」
すまないエイナ嬢。
恐らく、吾輩がついていながら止めなかったのか?と言いたいのだろうが、吾輩は先程目覚めたばかりだ。
「待ってくださいエイナさん、タマは多分さっき起きたばかりで・・・今日は一緒に潜ってないんです。」
「え?そうだったの?」
うむ、そうである。
「はい・・・タマは猫ですから、熟睡したら全く起きない日がよくあるんです。」
「そっか!猫だもんね!・・・・・・・・・猫?」
「ニ、ニャーン・・・」
そうです。吾輩は猫です。なのでそれ以上吾輩の話題を掘り下げないようお願いします。これ以上はマズイ予感がするのだが
「猫は猫でも、タマは特別なんですよ!何たって妖精ですから!」
予感的中!というか聞かれてもないのにバラすんじゃないよ!登録用紙に敢えて、猫と書いた意味がなくなるではないか!
「へー、ようせい・・・・・妖精!?」
「あ、コレって言ったらまずかったんだっけ?」
もう遅いわ!
この後、エイナ嬢の絶叫を聞かされることになったのだが、不幸中の幸いは個室で面談していたことと、近くに誰もいなかったことであろう。・・・・・・誰も聞いてないよね?
そして、長い面談を終えて帰路につく。
吾輩はダンジョンに潜ってもいないのに、本当に色々と濃い1日だった。
エイナ嬢には、しっかりと口止めもしたし、後は彼女の口が軽くないことを信じるしかなかろう。
それにしても、ベルがとうとう恋を知ったか・・・
前の環境では、同年代の女性はおろか男友達すら出来なかったことを考えれば、大きな成長だ。
本当に小さな頃からベルのことを見てきたが、我が子でなくとも子供の成長を嬉しく感じるものなのだな。
冒険者としての目標も見つかったようだし、この子はこれからどんどん強くなるだろう。
この調子で、爺さんの英才教育(ハーレム願望)も消えてくれれば、言うことはないな。
ともあれ、意中の相手に振り向いてもらう為にも、明日からもダンジョン探索を頑張らねばならないぞ?ベルよ。
相手は大派閥の幹部らしい、周りにはさぞや魅力的な人物も多いだろうからな・・・・・・・・・
なーんて、考えていた昨日の自分を捌き回してやりたい。
「雌のお前はどっちの雄に尻尾を振って、どっちの雄に滅茶苦茶にされてえんだ?」
「お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」
「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねえ」
吾輩は、猫である。
付け加えるなら、超絶不機嫌な猫だ。
次回予告
猫、大暴れ
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ベルに誰の魔本を持たせるか、悩んでます。
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