オルバの纏う気配が変わった。
これまでの暴れ惑う魔力は息を潜め、さらに濃密に圧縮された魔力が肉体に内包された。
血管が破裂し血を吹き、筋肉が裂け、骨が折れ、しかし瞬時に修復する。
人間の限界を超え、その身に莫大な魔力を宿す。
教団はこれを『覚醒』と呼んでいた。
セイドはバカだろこれと時々思っていた
こうなれば最後、もう元に戻る術はない。
一応治せはする、魔力回路がその後生涯ずっと使えなくなるけど
しかし……代わりに絶大な力を得る。
「アアアアァァァァァァァァァァアッ!!」
獣のような雄叫びと共に、オルバの姿がかき消えた。
そして鈍い音が鳴ったのと、漆黒の少年が吹き飛ばされたのは同時だった。
少年はそのまま壁を蹴り、体勢を整えて着地する。
が、オルバの剣は立て続けに少年を吹き飛ばした。
「遅い、軽い、脆い! これが現実だ小僧っ!」
オルバの追撃が続く。
音が鳴り、少年が吹き飛ぶ。
オルバの斬撃はただひたすらに速く、重く、無慈悲だ。
圧倒的な暴力。
虎が兎を殺すのに、小細工などいらない。ただ、力を振るえばいい。
抗うことなどできはしない。
漆黒の少年はただ一方的に壊される。
そのはずだった。
「っ!?」
オルバの胸に血が吹いた。いつの間にか、そこには浅くない刀傷があった。
オルバは一瞬動きを止め、しかし即座に少年を吹き飛ばす。
「効かぬ、効かぬぞ小僧おぉぉぉぉ!!」
オルバの傷は肉を裂き骨にまで達したはずだ。しかし、傷は泡立ち、一瞬にして再生をはじめる。
「これが力だ!! これが強さだッ!!」
オルバが加速する。
血を噴きながら、空気を切り裂き戦うその様は、朱い閃光のようだった。
漆黒と朱。
二つはぶつかり、漆黒が吹き飛び、朱が血を噴く。
その攻防は目に追えない。
ただ、朱い残像と、漆黒が吹き飛ぶその様だけが、そこで何かが起こっていることを知らせるのだ。
しかしそれも、長くは続かない。
両者の差は明らかで、いずれ漆黒が壊されることは容易に予想できた。
絶対に負けるはずのない勝負だった。
何度も剣を薙ぎ、圧倒的な力をもって漆黒を蹂躙した。
なのに、なぜ。
なぜ漆黒の少年は、変わらぬ姿で立っているのだ……?
「なぜだ……何故届かぬ……?」
少しはダメージを与えら得ているがそれもほとんど相手だわからしたら誤差のような傷だ
しかし流されるだけでなく、オルバの勢いを利用し、的確に刃を刺した。
無駄なこと、余計なことはしない。ただ自然に、あるがままに。
「まだ、信じてはくれないのかい?娘の話」
漆黒が言った。その瞳はすべてを見透かすかのように、オルバを見据えていた。
「何が分かる……貴様に何が分かるッッ!!」
オルバが吼えた。
そして剣に、肉体に、総ての魔力を注ぎ込み、咆哮と共に薙ぎ払う。
たとえ命が朽ちようとも、漆黒を絶つ。
その一撃はまさしく、オルバの人生最大の一撃となった。
が。
「説得は無理か、なら少し強硬手段を使わせてもらおう」
ただ、いなされた。
オルバの剣も、膨大な魔力も、鍛え抜いた肉体も、総て纏めてただ一刀の下に止められた。
「悪いけど僕じゃこの暴走を完全に止めることはできないけど魔力回路を犠牲にすれば君を元にも戻せる」
「バカなことをほざくな」
「僕は自分ができないことはできるって言わない主義でね」
えーとこれをこうしてここをこうすれば
「なぜだ。なぜ治るんだ」
「一応ある程度の確証は持ってこの話、提案してたんだけどね」
「何?娘が本当に生きてるとでも言うのか」
「部下からの情報によれば王都で実験台にされているそうだから今の所生きてはいる」
「それで?一旦俺に何をしろと」
「ただ知っている事を話してもらえればそれだけでいいけど」
「え?え?( ˙-˙ )…………まじ?」