ザ・シェイプ・オブ・ニンジャ・トゥ・カム・イン・ゲンソウキョウ 作:毛糸ー
忍殺語は難しい……。
【ニンジャとは】
・ある日突然ニンジャになる(=憑依ニンジャ)
・常人を遥かに上回る身体能力を持ち、超能力じみた力「ジツ」(術)を持つ者も多い
・昔のニンジャは修行でなった(=リアルニンジャ)
・平安時代をカラテで支配した半神的存在。彼らは歴史の表舞台から姿を消し……そして帰還する。
【幻想郷とは】
・外の世界からは博麗大結界で隔絶された『忘れられたものの楽園』
・外の世界では実在が否定された神やヨーカイ、フェアリーなどが存在(人間もいる)
・揉め事は『弾幕ごっこ』と呼ばれる遊戯で解決する
【これまでのあらすじ】
ニンジャの祖カツ・ワンソーに忠誠を誓うリアルニンジャ集団、『ダークカラテエンパイア』が開催する暗黒遊戯カリュドーンの代理戦士としてネオサイタマを訪れたコンヴァージ。しかし、カリュドーンの獲物であったニンジャスレイヤーに奇襲され、彼は爆発四散してしまう。
だが、コンヴァージは如何なる事情か、神やヨーカイの住まう地、幻想郷に流れ着く。そこで紆余曲折あって新地獄を治める鬼の女、日白残無の配下に収まったコンヴァージは、彼女の命令で地上で暴れる。だが、博麗霊夢、霧雨魔理沙、東風谷早苗の3人と戦い、敗れた。
コンヴァージは苛立っていた。目の前の
「貴様はイディオットか?残無=サン。宴会など、罠に決まっているだろう」
読者諸君がニンジャ考古学に精通しているならば、コンヴァージの顔面の異様さに気付いたであろう!鋼板がまるでメンポめいて張り付いており、あからさまにニンジャなのだ!そしてコンヴァージは実際、ニンジャである!
彼はスクラップや泥土を自身の身体にまとわせて自在に操るアカラ・ジツの力を持つ恐るべきニンジャであり、カラテも相当強い。その強さを見込まれ、東南アジアを支配するリアルニンジャ、ムカデ・ニンジャ(またの名をシャン・ロア)にスカウトされたほどだ。
そしてコンヴァージが残無と呼んだ女も、ただのモータル*1ではない。服装こそ幻想郷で一般的な着物だが、その頭からは小ぶりな角が生えている。彼女は元々モータルの僧であったが、オニとなった人鬼である。その彼女はクツクツとコンヴァージの懸念を笑い飛ばす。
「これが幻想郷のやり方だ。学べよ?コンヴァージ」
「チッ……」
コンヴァージの懸念も、もっともな事ではあった。実際残無たちは、最近までこの幻想郷で起きていた『畜生たちが、所有者が消えた土地を巡って争う異変』の黒幕的立ち位置であったのだから。加えてコンヴァージは妖怪の山と呼ばれる地で派手に暴れ、地形を変えてしまったのだから。
ケイトー・ニンジャに嵌められ溶けた鉛のセントーに落とされ滅びたダイコク・ニンジャめいて殺されても文句は言えないほどの蛮行である。
……しかし、幻想郷においては話が違う。基本的に幻想郷で起きた異変は『弾幕ごっこ』と呼ばれる遊戯で解決される。そして、『弾幕ごっこ』に則って異変を起こす限り、命を脅かされることは無い*2。
そして、異変が終結すれば、博麗神社*3で宴会を開くのが一種の不文律となっており、そこで異変の事は全てチャラとなる。狂暴なニンジャであるコンヴァージには理解の出来ない世界だ。だが、
コンヴァージが幻想入りした直後、彼は動物霊がいくつかの勢力に分かれ争う畜生界に落ちた。コンヴァージはそこで、ほぼすべての勢力を敵に回して大暴れし、最終的にはジゴクを支配する日白残無に敗れ、彼女の説得もあり、その下についた。
その過程で彼は数多の動物霊や人間霊をアカラ・ジツで取り込んだ結果、デミ・ユーレイと化したため、幻想郷の外に出れば実在を否定され消えかねない状態となった。それゆえ、幻想郷で生活していくしかない。この胡乱な主人、日白残無の元で。
実際、日白残無は彼を上から抑え、幻想郷のルールに従うよう強いるばかりではない。切れかけていたロウ・ワンの印*4を彼女の力で上書き*5し、また『弾幕ごっこ』に従うよう言い含めた上である程度の自由行動が許されている。
主人の背中を睨みながらスクラップの集積を尻尾めいて引き摺るコンヴァージ。残無は普段と違いにぎやかな博麗神社にたどり着くと、コンヴァージに振り返って、いたずらっぽく笑うと、大声で叫ぶ。
「ようこそ!コンヴァージ!幻想郷へ!」
コンヴァージは周囲を睨みながらサケを呑んでいた。宴会ではコンヴァージが危惧していたアンブッシュ(注:奇襲)もなく、ただただ平和に宴会が進んでいるだけ。そんな現状を持て余し、コンヴァージは周囲を見渡し、睨んでいた。
コンヴァージの先の異変における暴れっぷりは、フード付き襤褸、テックゴーグルを纏う異様な風体と共に知れ渡っており、変にちょっかいをかけてくるものはいない。唯一ちょっかいをかけてきそうなオニたちも、今は残無と旧交を温めている所だ。
したがって、今のコンヴァージに声をかけてくるのは一人しかいない。
「聞いてますかぁ?残無様のぉ、一番はぁ、私ですよぉ?」
それがコンヴァージににじり寄って来た女、
「奴は俺の主で、俺は奴の部下だ。それ以上でもそれ以下でもない」
コンヴァージが何度こう言っても、日狭美は聞く耳を持たず、からんでくる。更に悪いことに、宴会の席であるため、日狭美はサケ臭い息でまくし立てる。普段のコンヴァージならとうに殴り倒している所だが、日狭美は残無の同僚であるため、それも出来ない。
「残無様はぁ、すごいんですよお!おまえなんかぁ、目じゃないんですよぉ!そこを分かってるんですかぁ!」
「貴様の言う通り、残無=サンは実際、恐るべき女ではある……」
コンヴァージはこの異変における残無の恐るべき策略を見聞きし、畏怖の気持ちを新たにしていた。
残無がこの異変を起こしたそもそもの狙いは、畜生たちの地上進出に伴う争いを止め、ついでに自分の名を幻想郷に知らしめることにあった。畜生たちの地上進出を止めた方法については、コンヴァージは興味もなかったため、仔細は知らぬ。
しかし、地上が地獄絵図になっていないということは、その企みは完全に上手くいったということであろう。加えて、幻想郷に名を知らしめるという目的も、ほとんど達成していると言ってもいい。
当初、残無は『弾幕ごっこ』にて霊夢に倒されることで、異変の黒幕として自分の名を幻想郷に轟かそうとしていた。だが、オニである伊吹萃香*7の入れ知恵により、その要求は拒否され、残無は感情のまま霊夢を打ち倒してしまう。
だが、残無は先んじてコンヴァージを大暴れさせていた。土地を取り合う者たちを押し留めるために。……しかし、コンヴァージは残無の想定以上に暴れすぎた。否……すべては残無の想定通りなのだろう。
テングの根城であるヨーカイの山で、数多くのテング*8や畜生をぶちのめし、恐るべき博麗のミコーをして、友人の霧雨魔理沙やヨーカイの山にある守矢・シュラインのミコー、東風谷早苗と協力しなければ打ち果たせなかった*9怪物。
そのコンヴァージを部下めいて伴い宴会に現れた残無の悪名は、瞬く間に宴会の場にいた者たちの間に広まった*10。残無の意図通り、その名は幻想郷の有力者の間に知れ渡ったのだ。
……残無の深謀遠慮に畏怖しているコンヴァージは、新地獄に戻った際、酔っぱらった残無にどつかれることをまだ知らない。
残無は旧知のオニたちとサケを呑みながら、溜息をついていた。
「「ギャハッハッハ!アッハッハッハッハ!」」
「……うるさいぞ!」
今回の顛末を知り、爆笑する旧友たちを一喝する残無。しかし、旧友たちの笑いは止まらぬ。
「はぁっ、はぁっ……それにしてもさ、お前の掌から離れた奴がお前の計画を達成するなんてなぁ……」
爆笑を止め、目に涙を浮かべながらも、何か感慨深い様子でいるチビのオニは伊吹萃香。筋金入りの飲兵衛である。その言に対して、残無は拗ねるような調子で応える。
「儂は畜生共が結託して相手をする程度に暴れろとは言ったが……幻想郷の全勢力が敵対しかねないほどに暴れろとはいっとらん!」
残無はそう怒鳴ると、サケを呷る。普段よりもかなりハイペースにサケを呷りながら、残無はさらに文句を連ねる。
「まったくあいつは……あいつを部下にしたのは、日狭美を抑えるためでもあるのに……。日狭美以上に暴走しては意味がないじゃろう……」
真っ赤な顔で愚痴り酒に突入した残無を、二人のオニはニヤニヤしながら見る。彼女がこのようにやけ酒をしているのを見るのはいつぶりであろうか。楽しくて仕方ない。これだけで何杯もサケが飲めそうだ。
「おいおい、残無!制御できない奴を部下に選ぶとは、お前らしくもないミスじゃないか!」
「……いや。ミスではない」
「「うわぁ!急に落ち着くな!」」
二人のオニのうち、長身で、額に赤い一本角が生えた女オニ、星熊勇儀が残無をからかうと、残無は急に素面に戻ったかのように落ち着いた。驚く萃香や勇儀に構わず、残無は続ける。
「……最近ニンジャスレイヤーが外で暴れた結果、怨霊が大量発生する異変が起きたのをお主らも知っておるじゃろう」
「……ああ。酷いもんだった」
ニンジャスレイヤー。ニンジャを殺すニンジャ。幻想郷に流れ着いたヨーカイ達にとって、それは忌まわしき名である。赤黒の炎を操り、モータル・ニンジャ・ヨーカイ・神とのべつ幕なしに燃やし、いたぶり殺していく災厄。
さらに、ニンジャスレイヤーが活性化している際には、ヨーカイにとって極めて有害な怨霊も活性化する。怨霊とニンジャスレイヤーの操る赤黒の炎は、根源が似通っているからだ。そしてシトカで今までにない活性化を見せたニンジャスレイヤーに呼応し、怨霊も恐ろしいほどに活性化した。
その際には
「奴がおれば、ニンジャの怨霊が出ても、幻想郷は安泰じゃろう。奴には、平安時代の平均的なリアルニンジャ程度なら楽勝で仕留められるだけのワザマエがある」
「でもお前の掌からは出ていくって訳か」
茶化した勇儀をキッと睨むと、残無はヤケ酒に戻る。それを萃香と勇儀はニヤつきながら見ている。
「ねぇあんた、今日は宴会なんだから、周りにガン飛ばすの止めてくれる?」
コンヴァージは紅白のミコー、博麗霊夢と対峙していた。彼女はズカズカと彼の元にやってくると、いきなりコンヴァージの飲み方に文句をつけてきたのだ。無論、小娘の文句で委縮するコンヴァージではない。コンヴァージは目を細めると、その言葉に抗するようにニンジャアトモスフィアを強める……!
「お、おい霊夢……」
トラディショナル・ウィッチガールめいた格好をした小娘が、後ろから霊夢とやらの袖を引っ張る。あの小娘は、確か霧雨魔理沙とか言ったか。コンヴァージ自身は自覚していないが、暴力の予感にぎらついた目を向けると、そそくさと霊夢の後ろに隠れる。
「そうですよ!コンヴァージ=サン!楽しい宴会の席なんです!そんな辛気臭い顔をしていないで」
「雁首そろえて、俺をからかいに来たのかァ?」
緑のミコー*11が場を和そうとしたところ、コンヴァージは暴の気を爆発させる。緑のミコーとウィッチガールは息を呑んだが、霊夢とやらは平然としている。むしろ、溜息をついてコンヴァージを見据える。
「あんたねぇ、それを止めろって言ってんのよ。せっかくの楽しい宴会なのに、あんたがキレてると雰囲気が悪くなるでしょうが」
「ホォ……。俺はただ、普通にしておるだけなんだがなァ……」
「あんたの普通ってのは随分物騒なのねぇ」
霊夢とコンヴァージの一触即発のアトモスフィアは、突如破壊される。コンヴァージの真後ろから盃が後頭部に当たったのだ。普段から纏っているジャンクの甲冑を貫通する衝撃!
「グワーッ!?」
コンヴァージと霊夢がとっさに盃が飛んできた方向を見ると、そこには顔を真っ赤にした残無が!完全に酔っぱらっている残無は、普段の冷静さをかなぐり捨てた声で叫ぶ!
「おい!おまえ!そんなに殺気を出すな!サケが不味くなるだろうが!!」
「……ああ、すまん」
酔っぱらってイントネーションも滅茶苦茶な残無の声に毒気を抜かれたのか、暴の気も剣呑なアトモスフィアも一切が霧散する。追加で残無は博麗霊夢に大声で伝える。
「霊夢ぅ!そいつはなぁ、今までの人生で暴れることしかしてこなかった大馬鹿野郎だから、こんな場でのサケの飲み方なぞ知らんのじゃぁ!少しは大目に見ろぉ!!」
「……分かったわよ。ところであんた、相当悪酔いしてるみたいだけど、自力で帰れるの?」
「儂を誰だと思っておる!」
博麗霊夢も邂逅した際の底知れなさが全くない残無の様子に毒気を抜かれたのか、コンヴァージのいる場から立ち去る。が、その前に、彼の方を振り向き、釘を刺す。今度は彼も素直に聞いた。
「……ああ、あんた。今の感じよ。今の感じのまま、サケを呑みなさいよ」
「…………」
半分に砕けた月が、黙ってサケをちびちびと飲むコンヴァージと、一気に活気づいた幻想郷の住人を見下ろし、「トレジャー・エヴリー・ミーティングな」と呟いた。
コンヴァージは意外と幻想郷に適応できそうだなと思いながら書いてました。
月の文明はそこそこ打撃を受けてます。月が半分吹き飛んでますんでね。