ザ・シェイプ・オブ・ニンジャ・トゥ・カム・イン・ゲンソウキョウ 作:毛糸ー
コイシがいつものように無意識の中でうろついていると、眼前に謎めいた裂け目が開く。目玉の覗く異様な亜空間が広がる裂け目を見て、コイシ……否、その身体を借りしリアルニンジャ、オモイ・ニンジャは溜息をつく。
「ハァ……。ヤクモ=サンさぁ、普通に出てくるとか、出来ないわけ?」
はたしてその溜息と同時にぬるりと裂け目から体をのぞかせたのはヤクモ・ユカリ(八雲紫)。ゲンソウキョウの賢者の一人にして、強大なスキマ・ヨーカイである。そのユカリはどこからか取り出した扇で口元を覆い、目を細める。
「……カリュドーンの儀の出席を取り付けてもらう身で、随分と上から目線ですわね」
「アハハッ!どうせあなたもその件で来たんでしょォ!さっさと話し合おうじゃない!」
オモイ・ニンジャの狂笑を背に、ユカリは落とし穴めいて大量の目玉がのぞく異空間、スキマを開く。ニヤニヤと、ニマニマと笑いながらオモイは落ちていく。
「あ~れ~……」
溜息をつきながらユカリはスキマの内に戻る。そこには、スキマ内の不気味空間の中に奇妙に固定された応接机と椅子がある。片側にはすでにコイシが座し、茶菓子と紅茶を優雅に飲む。
「ありがとね、ユカリ=サン!お茶菓子おいしいよ!オモイ=サンとお話しするんでしょ!変わるね!」
「…………」
ユカリはコイシの天真爛漫を呆れた顔で見、そして気を引き締める。程無くして、コイシの背中から強大なニンジャアトモスフィアが漂い出す。硬い表情のユカリを見ると、オモイは耳まで裂けた口をかっ開いて笑う。
「アハハハァ!そんなに気を張らないでよ!ウフフフフ!」
「……あなたをカリュドーンの儀に出席させる引き換えに私が求めることは二つ。一つ目は、あらゆる手を使ってでも他のリアルニンジャ、ひいてはカツ・ワンソーからこのゲンソウキョウを守る事。二つ目は、カリュドーンの儀で爆発四散した狩人ニンジャ達がなぜこのゲンソウキョウに現れたのか調べること」
オモイは狂笑を引っ込めると、椅子に思い切りもたれる。椅子がギシギシと鳴り、ユカリは身構える。オモイは思う。予想よりも面倒だ。
「……アンタたちヨーカイ共はさぁ、父祖をちょっと舐めてるんじゃないの?そりゃ、私だってダークカラテエンパイアの一員だし、ハトリの雑魚共やおんなじダークカラテエンパイアの連中の目は誤魔化せるよ。……だけどね、偉大なる父祖を欺くなんてことは私には出来ない。その辺、分かってる?」
「…………」
「……まだ父祖は甦ってないし、今の所は他のリアルニンジャがゲンソウキョウへ手出しするのは止めてあげるつもりだよ」
「……まぁ、良いでしょう。カツ・ワンソーに臣従するあなた方に、彼の者に逆らわせるのは酷でしょうからね」
「……ま、いっか。二つ目の条件は時間をチョーダイ!知ってると思うけど、私も色々あってあのニボシとか他の狩人がここに来た理由とか考えていられなかったしね!」
「そうですわね。では……」
ユカリが扇をたたみ、外に通じるスキマを開くと共に、コイシの背中から立ち昇るニンジャアトモスフィアは霧散した。虚無の目をした少女、コイシはユカリに手を振りながらスキマの向こうに去る。ユカリはゆっくりとため息をつく。
(コイシに首根っこを押さえられているのが効いていますわね……。ふざけた要求を叩き付けられるかと思っていましたが)
机に残された紅茶を飲みながらユカリは考えを巡らせていく。オモイ・ニンジャの件は片付いた。後は狩人共だが……。
(コンヴァージは元の主に対する忠誠心が引くほどないから、本人は狂暴だけどこれ以上のニンジャの呼び水にはならないでしょう)
(ベルゼブブは現れた場所が良かった。今の所は畜生界で勢力拡大に腐心してるだけだけど、うまく対処しないと将来的に不味い事になるかもしれないわね)
(サロウはもう完全にサトリ=サンに首根っこを押さえられてるわね。オモイ・ニンジャも側にいることだし、変な真似はできないでしょう)
紅茶を飲みながら、ユカリは物思いにふける……。
オモイが表出した時のこいしちゃんのイメージは『古明地こいしのドキドキ大冒険』の一話に出てきたこいしちゃんをモデルにしてます。