モンスターに生まれたので自由に生きる。 作:のーとりあす
転生したらモンスターだった件。
というわけで森の中。生い茂る木々と木漏れ日が見える。
「がるる、がるるるる」
え、獣の声? どこどこ!?
――なーんてね。これ俺の声。
近くにあった湖に自らを移すと、そこには四つの不気味な赤い目に黒紫の体毛をもった四足歩行の狼のような何かがいた。説明下手か。要するに俺である。
俺であり俺であって俺であるからして、俺であるのである。以上。
「ぐるぅ」
はらへった。
飯食おう。
取り合えず、小動物かな?
肉食動物って獲物を皮ごと食べるのかな?
「がうっ! あむ」
がさがさと揺れた草陰に高速で突っ込んで噛みついた。
すると口の中に美味がした。――血の味だ。
ゴリッと頭部を噛み砕いたような感触とともに命を奪った感触がした。
美味い。そう思った時だった。
「がう? が、がぅぅぅうう!」
――レベルが上がりました。
「がう?」
レベルが上がったらしい。
もしかしてそういう系の世界?
えー、そうと決まったら……――レベル上げでしょ。
◇◆◇
「ぐらぁぁぁああああ!!」
――スキル『威嚇』を発動しました。
発動してみました。
効果は抜群だ!
「きゅぅ」
「がぶ、ごり、ぐちゃむしゃ」
今噛み砕いたのはゴブリンである。ゴブリンである。大事なことだから二回言った。
小動物と違ってあまり美味しくはない。だけどだ。
――レベルが上がりました。
何故か知らんがこいつを食うとめっちゃレベルが上がるんだよな。
こいつの他にもファンタジー風味な動物は鳥やら兎やらといたが、それよりもこいつ一匹食った方が効率が良い。それがここ二か月ほど狩りを続けた結果だった。
はい、二か月です。慣れたもんですよ。なんなら進化しました。えへへ。
体が二倍くらいになって目が八つに増えました。完全にモンスターです。もしかしたらフェンリル説なんかもなくなりました。完全に魔の手の者です。はは。
別にいいんですけどね。人間とか見てないし、なんならこの世界には人間がいないのかもしれないし。……それはそれで悲しいというか寂しいけど。
さすがにそれはないと思いたい。
モンスターに転生したら現地の人間と、特に可愛い女の子と謎の意思疎通で仲良くなるのがテンプレでしょ?
まぁ、俺ってば割と強いから? 人間くらいなら容易く守れちゃうんじゃないかなぁなんて、思うんですがね。えへへ。どうです? 一家に一匹飼ってみません?
「――見つけたぞ! ボスグラムだ!」
「ぐる?」
とか言ってたら何故か聞き取れる言葉でおっさんが俺を指さして叫びました。
おお! この世界初の人との交流! へーい! あいあむじゃぱにーず……あ、これヤバいやつだ。
「射て!」
「はい!」
「ぐらぁ! (やめんかーい)」
とりあえず威嚇。これ定石。
あ、あれ?
「きゃあっ!?」
「なんだと!? どういうことだ。何故、未成熟体のグラムがこれほどの威圧感を……」
「ぐるる」
脅しすぎた? これは、あれか!
「ぐるぅぐるるぅ?(あれぇ僕なにかやっちゃいました?)」
「くっ、俺たちなど眼中にないとでも言うのか」
「た、隊長、どうするのですか?」
「うむ……俺がやろう。お前は下がって見とれ」
「は、はい!」
「ぐるぅ? (やる気?)」
いやぁ、それはちょっとぉ――無謀じゃあないかぁ?
「『怪力』『俊足』!」
「ぐらぁ(それは見たことある)」
おっさんの体が赤と青の光に包まれた。あれはあれだ。あれであれであれだから、うん。バイ〇ルトとピ〇ラだな。
だけどさぁ、それって……今時ゴブリンでも使えるスキルなんだよねぇ!
二番煎じはお帰り頼んます!
「――グラァァァァァアア!!!」
エクストラスキル『覇気』を発動しました。
威嚇の上位互換スキルである。
どんな効果かって? そりゃあ……ハオウ色の覇気だよ。
「が、ア……な、に?」
「ぐるる、ぐらぁ、ぐるるぅ(取って食ったりしないからさ、大人しく帰ってくれない?)」
「隊長!? くっ、これでも喰らえ!」
「ふんっ」
仲間らしき男が弓を放ってきた。
だが、そんなもの鼻息一つで防げる。
えぇ、よわっ。まじかよ。これならゴブリンの方が強いぞ。たまにいるでっかいやつ。ホブゴブリン的な。
もっと頑張れよ人間。
んー、もしかしてここが特別強い魔物がいる森とか?
いやぁ? そんな感じじゃない。だとしたらこの程度の強さで人間二人で森に入ってくるわけない。
それに、俺は二か月結構走り回ったけど人里なんて見当たらなかった。
――この森は何かがおかしい。
どこまでいっても森は途切れず、いるのは小動物と魔物、ゴブリンだけ。
――ここには虫がいない。それが何よりの違和感だった。
ここである一つの推測が立った。
もしやここは……――ダンジョンの中なのではないかと。
あるいは本当にここが森の奥深くであれば、人二人があんな軽装で来れるわけがない。
であるならば……俺には感知できない出口があるのではないか?
人だけが入れるような。ダンジョンの魔物が脱走しないように隠された出口が。
つまり、真実はいつも一つだ。
――俺は縛られている。
ここに。何の因果もなく。何者かの意志によって。
――それは許せない。俺がわざわざ転生を選んだのは縛られるためじゃあない。――自由に生きる為だ。
轟々と胸中に湧き上がる混沌。怒り。憤怒。
それらを心臓の辺りに溜めて、解き放つ。
「アオォォォォォォォォォン」
――ユニークスキル『恐怖の咆哮』を発動しました。
「ひぃぃぃっ」
「こいつはヤバいッ、逃げるぞ! 脱出装置は!」
「こ、ここここ、ここに……っ!」
「今すぐ使え!」
「はいぃ!」
「……ぐる? (あれ?)」
バシュンと一瞬、眩い光を放って……光が止むと、そこには何も残っていなかった。
えぇ……戻り玉とかあるんですかぁ。
当てが外れたなー。恐がらせて出口まで逃げさせようと思ったのに。
……それともまさか、出口なんてないのか?
人間はなんらかの装置で転移してここに入ってきてて、それ以外のまっとうな出口はないとか……それは、最悪だな。
うん、まさかね!
そんなわけない。そんなわけない。
とりあえず探すか! 人里!
まぁ脱出装置なんてある時点でダンジョン説が濃厚だけど、てか今思い出したけど俺の事ボスグラムとか言ってたな。それも未成熟個体だって。……てことは俺、まだ進化できるのでは? ……そしたらほんまもんの化け物になりそうだけど、生きる上で強さは大事だからな、うん。
それからもう二か月経っても、出口は見つからなかった。人を見かけては逃がして、逃げられて、怖がられて。いつしか俺は、やり場のない怒りを溜め込み始めた。