モンスターに生まれたので自由に生きる。 作:のーとりあす
「グラァアアア!!!」
「くっ、聞いてないぞ! 緊急依頼難度はCじゃなかったのか! こんなのどう見てもB、いやそれ以上の可能性も……!」
「リーダー! これは俺たちの手には負えません! 一端引きましょう!」
「っ、しかしなんの成果もなくおめおめと逃げ帰ってはパーティーの信用が落ちる……それにギルドに依頼放棄と判断される可能性も……」
なんだか判断に迷っている様子のリーダー格の男がいたので追加でユニークスキル『恐怖の咆哮』をお見舞いする。
「ギャウガァアアアア!!!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょうッ! 探索者は命あっての物種! 俺らは冒険者じゃないんですよ!」
「ッ、背に腹は代えられんか。緊急脱出装置を使え!」
「はいッ!」
「ガァ! …………ふん」
やっと帰ったか。最近はずっとこの調子だ。冒険者だか探索者だか知らないが武装した人間を追い返す日々。空いた時間にレベルを上げて、ご飯を食べて寝るだけの日々。
……正直嫌いじゃない。割と楽しくすらある。このまま平穏にぬくぬくと過ごせるならそれもアリだと思ってしまう程度には俺はこのモンスター生を気に入っている。
――だが、それじゃあダメだ。
まず第一にこの状況がいつまでも続くはずがない。何故ならここに訪れる冒険者は日に日に強くなっているからだ。『恐怖の咆哮』が効かない相手が来る未来はそう遠くないだろう。
それにこの環境が誰とも知らぬ何者かに与えられたものであるということが安心できない。いつこの平穏が理不尽に他者の都合で奪われるかわからないからだ。
――俺はここから脱出しなければならない。
しかし出口は一向に見当たらず、強い人間と戦闘になるまでにあまり時間はない。今のところ人間と戦って負ける気はしないが、如何せん戦闘経験がなさすぎる。それに……未知のスキルやこの世界特有の魔法なんかが使われれば単純な力関係なんて簡単にひっくり返ってしまいかねない。
俺は自由に生きたいが死にたいわけじゃない。
束縛されて生きるくらいなら死んだほうがマシだ――なんて思わない。
……これは一度死んだ俺からのアドバイスだが、安楽に死ぬよりかは生きてた方がマシだ。
何故って?
――人生は百年。死後は永遠だからだ。
転生先が決まるまで、いつまでもいつまでも、死後の世界で待機を命じられる。あの世に縛られる。
それは何よりも避けなければならない地獄だ。
俺がこうして転生できたのも転生先に『人』を選ばず、それどころか転生先の『希望』を出さずにランダムにしたからだ。だから、俺はもしかすれば『ウジ虫』や『ゴキブリ』なんかに転生する可能性もあった。
俺が比較的まともな今の『狼のようなモンスター』に転生できたことは極めて幸運と言っていい。
それでも、俺は二十年待った。
前世で生きた年齢と同じだけの時間だ。
それだけの時間をただ思考するだけの場所で過ごした。
――まるで神様に悟りをひらけと促されているようだった。
転生するときには『前世の記憶』を消して転生するという選択肢もあった。だが俺はそうしなかった。それは俺にとって転生でもなんでもなく――真なる死だったからだ。
記憶を失うことは死だ。自分が自分でなくなることは死だ。俺は命は捨てても『存在』の死は許容できない。
…………来世に夢見て自ら命を捨てた馬鹿の妄言とでも思ってくれればいい。
少し話が逸れたが、つまりはそう。
――俺はもう縛られたくないのだ。死ぬのも勘弁。
ゆえに、俺はこのダンジョンらしき場所を脱出する。
その方法は――――スタンピードを利用するというものだ。
◇◆◇
『スタンピード』。それはダンジョンの魔物の数が一定数を越え、ダンジョンの許容量をオーバーすることでダンジョンの外に魔物が大量に溢れかえってしまう現象である。ダンジョンって三回も言ってごめんな。それはさておき。
要するにダンジョンを魔物で溢れかえらせればいい。その為に、俺はこの階層より先に人間を進ませないことに決めた。まだここがダンジョンであることも階層制であることも確信に至ってはいないが……言うなれば、勘だろうか。ここがダンジョンであり、俺が『この階層のボス』であることが俺の本能にインプットされているように感じるのだ。
確信はなく、その確証はなんとなくの域を出ない。
それでも、なんでもいい。可能性があると思わなければ、この胸に湧き上がる不安と絶望を押さえられなかったのだ。
そうでなければ、俺は人間を殺したいというモンスターとしての本能に呑まれてしまいそうだった。
「くぅん」
情けない鳴き声を出すなよな。いや俺だけど。
兎にも角にも今は地道に人間を追い返す他に手段を思い浮かばない。
その為にも――どれだけ強い人間が来ようと追い返す為の強さが要る。
すなわち、レベル上げだ。
今のレベルはおそらく六十前後。数えていたわけではないのだが、なんとなく凡その値がわかるのだ。おそらくそういうものなのだろう。
第一進化は三十、次が六十だった。そう、最初にここに人が来たときから俺はさらなる進化を経ていた。
その結果、体がまた二倍に……ならなかった。俺の見た目はほとんど変わっていない。そう、たった一か所――『目』を除いては。
俺が二度目の進化で手に入れたのは『邪眼』である。充血したように真っ赤でだった目は今は怪しく紫に光るようになり、視界に全身が収まっている相手を硬直させることができるようになった。効果は威嚇と似たようなものだが、違うのは叫ぶ必要がないこと、そして『魔力』を消費しないことだ。要するに『MP消費ゼロ』というやつである。
これが思いのほか便利で、雑魚狩りには必須なのだ。
今まで威嚇では対象以外、あるいは効果範囲外の獲物は叫びによって逃げてしまうという欠陥があり、なおかつ一日に何度も使うには魔力的にも体力的にも消耗が大きかった。
一日に何度も大声で全力で叫ばなければいけないと考えればわかってもらえるだろうか。それを毎日である。いくら強靭なモンスターの体とはいえ喉を壊してしまう。それを解決してくれたのが『邪眼』だった。
実のところ今回の進化先については選択肢があった。
そのまま巨大化するか、大きさはそのままに邪眼という機能性を備えるかだ。進化できるようになってすぐに頭の中に進化先が浮かんできたのだ。そして俺は後者を選んだ。
……体が巨大化すれば喉も強くなるんじゃないのかって? 獣なんだから叫ぶくらい余裕だろって? うるせー! 体は獣でも心は人間なんだよ、いくらモンスターとして生きる覚悟を決めててもな!
てなわけで進化したわけだが……三十、六十と来てこの調子だと次の進化は九十である可能性が高い。しかし、雑魚のゴブリンではレベルが上がりにくくなってきた。もし、次に来た人間が俺と互角か――あるいはそれ以上だったら……俺は…………そのニンゲンたちを殺してでも、レベルアップしなければいけない。
そうでなければ、俺はきっとその次に来た人間に殺される。
強く。強く。誰よりも強くならなければいけないのだ。
俺が最終進化を迎える前に強い人間たちが来ないことを俺は祈っていた。
――だが、それよりも早く――
「グギャ!」「ギギ!」「キシャ―!」「ブモォォ!」「キシッ」「ガァ!」「グァ」「グォォオオ!」「ヴオオオオ!」「ギチギチ!」「アオォォォォォン!」「オオオオオオオ!」「ギャオオオ!」「ギチギチギチギチ」
――破滅の宴は近づいていた。