うまむすめし ダンジョン出張版   作:通りすがる傭兵

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ようやっとまとまりました。
始まります


第1話 大サソリと歩き茸の水炊き

 

 

 村の辺鄙な場所に建てられていたという地面を掘って開いた墓所の入り口を潜り、蛇のようにうねった暗い石造りの通路を20分ほど歩けば目の前に開けた場所が現れる。

 

 そこにはカビ臭い湿った空気とは裏腹に地面に物を並べて商売をする人や、何か飲み物を片手に談笑している人もいる。賑わい様はともすれば小さなお祭りのような活気に溢れた広場。

 

ここが、ダンジョンの入り口だ。

 

 そこには未知の領域に挑む冒険者らしく身を守る武器や革や金属の鎧を身につけ、大きなリュックに荷物を詰めているような、男女が多数行き交っている。

 

 その中で目を引くのは、その集団からも少々距離を置かれている二人組。行き交う人々の奇異の眼差しや下卑たような目線を浴びる中、目元をマスクで隠した少女が切り出す。

 

「すっごく悪目立ちしてるデス」

「やはりこの格好が硬派なファンタジー設定と似合っていないのではないのでは、エル」

「プロレスラーは見た目が派手じゃないと! でも、流石にジロジロとヤラシイ目で見られるのは不愉快デスね」

 

 不安そうに自分の体を抱きながら周りをキョロキョロとあたりを見回しているのは、オレンジを基調にした手甲と足の防具、ボディラインがはっきりを見えるような異国のモンク風の衣装を纏い、色味に合わせて新調したマスクをつけた濃い茶髪をポニーテールでまとめた、いちいちオーバーなリアクションが目立つ少女、名前をエルコンドルパサー。

 

 反対に我関せずと背筋を伸ばして、同じように辺りを見回しているが注意深く辺りの様子を探ろうとしているのは、白と濃い緑をベースにした分厚いローブと杖といった、いかにも回復魔法を使う魔術師であると宣言するようなクラシカルな衣装を身につけ、その帽子からは明るい栗色のストレートヘアーが見え隠れしている。名前をグラスワンダー。

 

 その頭上には細かい毛で覆われて忙しなく動くひし形の馬のような耳と、髪色と同じ色をした綺麗な毛並みのしっぽが揺れている。

 

 そんなか彼女たちはウマ娘、と呼ばれている。異世界からその名と魂を受け継いで走るという動物の特徴を持ったような存在と言われているが、ファンタジーゲームでは定番の猫耳や犬耳キャラはどうにも迷宮の中にはいないようで、そういった人間から大きく外れた部位を持つ存在が少ない、という面でも彼女たちは奇異の目線を浴びていた。

 

 VRゲーム「ウマネスト」を遊んだ時に制作された特製勝負服を再び身に纏いこの場所に脚を踏み入れた2人。しかし実用性ではなくあくまで勝負服であり、人に見せるような目立つ服であるためこの実用一辺倒の服装を身に纏う人々がほとんどのダンジョン内ではかなり浮いていた。

 

「......おや」

「どうしたデス?」

 

 周囲のその奇異の目線に対応するように注意深く周囲を見渡していたグラスの目に留まる集団がひとつ。

 

 襟首が妙に高くなっている、騎士の様な大きな鎧を身につけた短い金髪の青年と、青いローブを纏った長い金色の髪と尖った耳が特徴的な杖を持つ女性、そして首元に緑の布を巻いた身軽な格好の、耳がひとまわり大きな男の子という3人組のパーティー。

 

 彼らは、というより青年はこの広場のど真ん中で火を焚いてかまどを組み湯を沸かし、その鍋で紫色の大きなサソリを茹で、膝丈サイズの大きなキノコを包丁で刻み始めていた。ファンタジーな世界であってもおそらく常識から掛け離れた様子を見たエルとグラスは揃って目を合わせ、首を傾げる。

 

「紫のスコーピオンに、歩くマッシュルーム。道中で出会った(蹴飛ばした)モンスターデース」

「ここではモンスターを食べる様な文化なのでしょうか?」

「......ケンカしてるから絶対違うデース。たぶん変わった人の集まりに違いないデス。無視して早く先に進みましょうグラス。グラァス?」

 

 ああでもなければこうでもないそもそも魔物なんて食べられない、などと騒ぎ立てるその一団に巻き込まれて時間を浪費するのは面倒ごとだ、早いところ先に進みたいエルは彼らを無視して先に進もうと隣のグラスワンダーを急かそうと様子をずっと見ているグラスの脇腹を肘で突こうとしてバランスを崩す。隣を見れば、居るはずのグラスは忽然と姿を消していた。

 

 すわモンスターか誰かの仕業かと緊張した面持ちで周囲を見渡すエルは、すぐに自分のパートナーを見つけた......彼らの鍋のそばで、大サソリを持ちながら質問するグラスを。

 

「これほどの大きさですしエビの様に背わた、内臓を抜くべきでしょう。鍋物なら頭のミソやハサミは捨て難いですが、尾は?」

「大サソリの尾や頭は不味いうえに腹を下すから外してしまったほうが良い。ハサミはちと筋張っていて食用には向かん」

「カニの様ではないのですか?」

「どうにも違うらしい、気になるならば試してみるか?」

「是非」

「では今回はハサミも入れてしまおう。この歩き(きのこ)だが、表面3センチと尻は捨てるが、足は汚れを布で軽く落とせば食べられるのだ」

「足が食べられるんですか?」

「むしろ美味い。独特の良い香りがするのだ。ほれ」

「まぁ、松茸の香り」

「なるほど個性的だが良い香りがする」

「な、何してるデース!?」

 

 グラスはいつの間にか青年の隣に座り、1対のヤギのようなツノの生えた兜を被る如何にもあやしげな小柄なひげむくのおじさんと肩を並べサソリと大きなキノコを料理する一団に加わっており、そこら辺を歩いていたキノコの魔物の足を嗅いで頬を赤らめていた。

 

 エルコンドルパサーの大声に我に帰ったらしいグラスワンダーは振り向くと、少しだけ恥ずかしそうにしながら、しかし何を言っているのかわからないと不思議そうに肩をすくめる。

 

「何、と言っても、見ての通りですよエル」

「ちょうど良い、この鍋に水を汲んできてくれ。その間にワシはかまどを整えねばならん。この鍋では大きさがな」

「グラス、こんなのほっといて早く先に」

「エル、水を汲んできなさい」

「水汲んでくるデース」

 

 グラスの絶対零度の冷え切った目と共に手渡された中華鍋を片手に、エルは近くにあった泉の方へ走った。彼女は一度やると決めたグラスがテコでも動かないほど頑固なことを知っていた。

 

 鍋に水を汲みに行く間にグラスと協力してキノコの下処理を進めていたそのひげむくの小柄な男は、悩ましい様子でふむむとあごを撫でる。

 

「サソリとキノコではちと具材が足りんな」

「確かに粗食になってしまいますね。バランスも悪い」

「となると、他の具材といえば」

「野菜の彩りが欲しくなるな」

「ふむ。ではコレを」

「ちょっと、それ木の根っこじゃん! しかもそこら辺に生えてた藻なんて食べられるわけないじゃない!」

「まあまあ」

 

 青年の提案に納得したその男はあたりを見渡し、慣れた手つきで壁に生える木の根や苔のようなものを包丁でスパスパと収穫しざるに積み上げもってくる。そんなもの食えないと耳の尖った女性が手でばつ印を作りながら拒否反応を示し、男の肩を掴んでまくし立てていた。

 

 そういえば初めて納豆の説明を聞いた時もこんなふうに騒ぎ立てたのでしたね、と昔懐かしい思い出にグラスが浸っていると、

 

「マルシル、上だ!」

「上?」

「っ!?」

 

 天井付近から聞こえた粘質的な音と何かの気配に、グラスはちょうど手に持っていた包丁を振り向きざまに投げつける。

 包丁の切先は天井から襲い掛かろうとしていた魔物、スライムの急所を捉え見事に真っ二つ。無力化されたスライムはただの緑色の粘液になってその女性の頭上に降り注ぎ、それを見ていた子供は感嘆するように口笛を吹いた。

 

「お見事」

「うえスライム、やだ気持ち悪い!」

「勿体無い、高級食材だというのにこれではな」

「あら、ごめんなさい」

「実はスライムも食べられるのだ。そのままではとても食用にはならないが、柑橘類の果汁と熱湯で滑りを落とし、よく干せばな」

「チルチャックふくものとってぇ」

「世話が焼けるな」

「水汲んできたデース!」

「おお、では、はじめてしまうとするか」

 

 少々トラブルはあったがなにはともあれ料理が先だ、と料理人たちはそれぞれの調理用具を手に取る。

 

 大サソリは頭、尾、脚、ハサミを落とし、身は背腸を外し殻ごとぶつ切りにしてハサミと一緒に鍋に入れて火を通しながらダシをとる。

 

 青年がぶつぎりにしていた歩き茸を食べられるところと食べられないところにより分け、鍋にちょうど良い大きさになるようにさらに半分に刻む。

 

 木の根は皮を剥いて1センチ幅に輪切り、藻は土汚れを落とすために水洗いと具材の下処理をしている中、グラスワンダーは下処理を終えていた木の根と歩き茸の足をじっと見ていた。

 

「あ、やっぱり変な木の根なんか食べたくないよね」

「いえ、少し遊び心が。包丁を借りても?」

「包丁? 構わんぞ」

 

 グラスワンダーは包丁を手に取ると、輪切りになっていた木の根を手に取って、ある細工をはじめた。

 

「そして木の根を......馬の耳の小娘、何をしている?」

「味に影響が出るものではありませんよ」

「そうか」

 

 木の根は火が通るまでじっくりと、藻は汚れをよく落としてから最後に鍋に入れてさっと煮る。最後にひげむくの男性が荷物から取り出した、大事そうに紙で包んであった謎の薄緑がかった半透明の何かを麺状に細く刻んで軽く火を通す。

 

「最後に入れたの何!?」

「スライムの内臓の干物」

「なんてもの入れてるのよ!」

「マルシル、良いから良いから」

「良くない!」

 

 最後に全体の塩味を見ながら塩や調味料で味を決めれば、

 

「水炊きの完成じゃ!」

 

大サソリと歩き茸の水炊きの完成だ。

 

 紫色に毒々しい色だった大サソリの殻の色は、熱を通したことですっかり見た目にも鮮やかで美味しそうな赤色にかわり、断面から除く薄桃色の身はプリプリと光って見える程。

 

 藻は熱を通すことでくすんだ緑から鮮やかな薄緑に変化して鍋に彩りを添え、芋のようにホクホクと煮えた木の根は脇役ながらも自分の存在をしっかりと主張する。

 

 歩き茸はその大きさとその香りで主役の大サソリに負けず劣らずの存在感を鍋の中で放っており、添えるようにされた足は十字の飾り切りで見た目にも映える。

 

 まるでダンジョンの中とは思えないような、立派な鍋ができた。

 

「おお、なんだか美味しそうデース! グラス、お皿!」

「はいはい」

「私はいい」

「でも結構うまそうな匂いだぜ、いいのか?」

「いいから!」

 

 大サソリやら歩き茸やらゲテモノを食すのに抵抗のあるらしいローブの女性を除く5人が鍋を囲んで席についた。

 

「では早速......」

「「いただきます」」

「?」

 

 早速鍋に箸をつけようとした青年が、グラスとエルの両手を合わせる不思議な掛け声に首を傾げる。

 

「君たち、それはなんの掛け声だい?」

「私たちの故郷の習慣です。生きとし生けるもの、食べるものにも命があります。それを『頂いている』感謝を込めて、という挨拶なのですよ」

「作った人にお礼をする意味もありマース!」

「確かに、生きているのは魔物も同じか。すまない、俺たち混ぜてもう一度やってくれないか?」

「回りくどいことすんのな」

「まあまあ、良いじゃないか」

「変わった習慣だな」

「ふふ。では」

 

 グラスとエルはいつものように、他3人は見様見真似で手を合わせて。

 

「せーの」

「「「「「いただきます」」」」」

「うまい!」

「そうだろうそうだろう」

「ん、いけるぞこれ」

「そうだろうそうだろう!」

 

 まず主役たる大サソリを口に入れた青年が感嘆の声を上げ、続いた子供も意外そうな言葉を漏らす。その様子に男は嬉しそうに相槌を打ちながら目を細めていた。

 

 「甲殻類の中でいえばエビに近いが、その大きさに似合わない繊細な味だ」

「クセがないわけじゃないが、悪くない。出汁もなかなか出てるしな」

 

 その様子を見ていた2人も続けて大サソリを口に入れ、めいめいに感想を口にした。

 

「ん! これは、普通に美味しいエビですね」

「カニのようなエビのような、とってもデリシャス!」

「歯ごたえは繊維質で思うよりもカニですが味がエビというか......ホロホロとほぐれるのにプリプリととした食感があって、不思議な感じです」

「確かに、食感はカニの身に似ているのか。本には書いていなかったな」

「そこな小娘、ハサミはどうだ」

「少し待ってくださいね?」

 

 手のひらサイズのハサミを貰っているグラスワンダー。堅い殻をどうするかと少しだけ悩んだところで、普段使うような器具もないし仕方ないかと素手の握力で殻を握り割って身を取り出すことにした。

 

「流石に殻は硬いです、ね!」

「うお、すっげえ馬鹿力だな。ドワーフみてえだ」

「エル達はパワフルですよ、ふっふっふ......」

「なんか生意気だなオイ」

 

 試行錯誤の末、ハサミの身を綺麗に取り出すことに成功したグラスワンダー。その身よりも肉厚なそれへ一口齧りついて、食べるべきではないという言葉の意味を身をもって知ることになる。

 

 青年とエルが注目する中ひと口齧った瞬間、グラスの眉間にそこそこ深い皺が寄った。

 

「こ、これは......とても、筋っぽくて、なんだエグ味がある」

「理由はわからんが、そうなのだ」

「ハサミが身よりも筋肉質だからなんじゃないか? よく使う筋肉は硬くなるというが、多分大サソリも同じなんだろう」

「それにしたとて筋っぽすぎますね。それに身よりもモソモソしているような」

「せっかくだし俺も食べ......食べ......待てこの殻、思ってたより硬いな」

「え? ソコソコ硬いだけじゃないですか」

 

 殻を砕こうと苦戦する青年の手からもう片方のハサミを取ると、バキバキと握力だけであっという間にヒビを入れて手元に返すエルコンドルパサー。

 

 自分よりも若い子供がとんでもない握力をしていることを気にする仕草も見せない青年はハサミを受け取り、殻を外して身にかぶりついたかと思えば楽しそうに笑った。

 

「うん、やっぱり言う通り美味くはないな」

「木の根もなかなか悪くないですね。切った時から感じていましたが芋に近いような食感です。もっとゴボウのような繊維質を想像していましたが」

「確かに変わった芋みてーだな、この木の根」

「正確には根ではない。迷宮に逆さまに生えた木の幹だ」

「へーえ」

「ん、スープもンまいですよグラス!」

「きのこも美味しいですね。エリンギっぽいから、焼いても美味しいかもしれません」

 

 ワイワイと味の感想を口にしながら食事を楽しむ様を、少し離れてみているローブの女性。彼女が羨ましそうにこちらを見ているのに気がついたグラスは隣のスペースを少しだけ開くようにエルとの間を詰め、使っていない食器に鍋の具材とスープをよそってニコリと笑いかける。

 

「遠慮しなくとも良いのですよ?」

 

 2人の目が目があった途端、大きく腹の虫が鳴る。

逡巡するような表情を見せてはいたが身体は正直だった。

 どかっと腰を下ろしたかと思えば素早く箸と容器を受け取り、意を決して具材を摘み上げる。

 

「何これ」

「スライムの内臓の干物」

 

 その摘み上げた薄紫の透明な何かを意を決してかきこんだ彼女は、

 

「うわ美味しっ!?」

 

そのままガシガシと器の中身を掻き込み始めた。

 

「スライムってこんな食べ方ができるんですね」

「果物の汁につけても美味いぞ」

「......スライムは心太、それとも春雨のような性質が?」

「グラス、今はそんなに悩む時間じゃないデス」

「スープもうまいじゃない!」

 

 具材がどうであれ美味しいことがわかってからはすぐだった。金髪の彼女も他の皆と同じように鍋に舌鼓をうちはじめる。

 

「お、この木の根っこ、花みたいになってる」

「飾り切りです。食事は見た目も華やかでないと」

「かわいい〜」

「このふやふやも美味しいでーす! これもモンスターデスか?」

「それは湿った所にわく普通の藻だ」

「ケ!?」

 

 それぞれがそれぞれに食事を楽しみ、それを肴に会話も弾む。大食いなウマ娘2人や働き盛りの青年を含む6人ともなれば、エルの両手ほどもあった大鍋ですら空っぽになるのはすぐだった。

 

「ふぅ、食べた食べた、お腹いっぱい、デース!」

「では後片付けだな」

「その前に、アレをしないといけませんね、エル」

「アレ? ああ、アレですか!」

「アレ?」

「食事をする前と同じに、終わった後にも挨拶があるんです。私に続けて言ってくださると」

「そうか。よし、やろう」

「ではいただきますと同じように手を合わせて」

 

 全員が手を合わせたのを確認してから、グラスが代表して口を開いた。グラスが大好きな日本文化のひとつ。いただいた命に感謝を伝える、自分の生まれ故郷にはない言葉。

 

「ごちそうさまでした」

「「「「「ごちそうさまでした」」」」」

 

◇◇◇

 

「そういえば、自己紹介がまだでしたね」

 

 それぞれが後片付けをしているとき、青年が思い出したように口を開いた。彼に話を向けられたひげの長い男が自前の大きな中華鍋を拭きながら答える。

 

「ワシの名はセンシ。ドワーフ語では探究者と言う意味だ」

「俺はライオス。青いローブの彼女が魔法使いのマルシル、そして鍵師のチルチャック」

「モンクのエルコンドルパサー、デース! 気軽にエルと呼んでくだサーイ!」

「魔術師のグラスワンダーです。グラス、と」

「馬耳の小娘2人組は知らぬがそこの3人組はどうにも訳ありのようだな。実は少し前の会話を聞いてしまったのだがかなり急いでいるようだな」

「......実は」

 

 少しだけ迷うような仕草を見せてから、ライオスは話した。

 

 下層に潜っていたとき、大切なパーティメンバーが魔物に食べられてしまったこと。そのメンバーを消化する間に助け出したいこと。そのために食料も最低限に迷宮に足を踏み入れた、と。

 

 本来なら他人に話すべきでもない、このダンジョンでは『ありふれた出来事』だ。しかしライオスの隠しきれない狼狽ぶりが食べられた仲間の大切さを表しているようであり、それは話を聞いていた3人の胸に響いたのだった。

 

「大切なお仲間が食べられてしまったのですか」

「早く助け出してあげないとヤバいデース!」

「一体どんな魔物に」

「竜です。真っ赤な鱗の竜」

「赤い、竜、下層......炎竜(レットドラゴン)か!」

 

 センシはその長くモジャモジャとした髭を撫でながら、思い出すようにして言った。

 

「竜はその巨体を維持するためにほとんどを眠って過ごすという。消化も他の魔物よりずっと遅いはずだ」

「だと、いいのですが」

「ライオス......」

 

 一瞬、ライオスの表情が陰る。不確かな情報で、確証はない。もしかすれば、大切な仲間はとっくの昔に消化されているのかもしれない。そんな不安があるのだろう。

 

 人生経験の少ないグラスワンダーやエルコンドルパサーにもそれがわかるくらいライオスは動揺していた。パーティーとしての付き合いのあるマルシルやチルチャックですら見たことないほどに、冷や汗をかき焦点が少しぶれているように瞳があちらこちらへと動いている。

 

 決して彼女の大食いの友人のような底抜けのお人好しではないが、グラスは冷酷ではない。目的は別にあるにせよ、ライオスのその苦境に対して、助けてあげたいという想いがあった。

 

「あの......お手伝いします」

「頼む、ワシも同行させてもらえぬか」

「良いんですか」

「ハイハイ、私達も同行しマース! 囚われのプリンセスを助けるヒーローになってあげまショウ!」

「一宿ならぬ、一食の恩義もありますからね」

「君たちも......喜んで。こちらとしても助かります。君たちもありがとう」

「なんたってエルはスーパーヒーローですからね! 迷った人を放っておけまセン!」

「本当か、いや、有難い!」

 

 感謝を示すようにがっちりと握手を交わしたセンシとライオス。これから、彼らと仲間を助ける旅が始まるのだ。

 

 まるでおとぎ話の冒険譚の始まりのような光景に、この場にいた全員が興奮に心を躍らせた。

 

「炎竜を調理するのは長年の夢だったのだ!」

「......ん?」

「やはり王道にステーキか、それともハンバーグ。しゃぶしゃぶも捨て難いな、いや卵があれば親子丼という選択肢もある」

「スープやシチューにしても美味しいかもしれませんね。スパイスで味付けして焼いても」

「魔術師の小娘、話がわかるな! 炎竜、合間見えるのが楽しみだ!」

「ですね。どのような味がするのか気になります」

 

 パーティーメンバーを食べた炎竜を果たして食べて良いものだろうか。

 

 2人を除いて誰しもが思ったが、誰も口にはしなかった。

 

 

ダンジョン飯。それは食うか、食われるか。

そこには上も下もなく、ただひたすらに生は食の特権であった。

 

ダンジョン飯、ああ、ダンジョン飯。

 

 

「......イメージ的に辛そうですね、炎竜。エル、タコスにすれば美味しいと思いませんか?」

「ケ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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