うまむすめし ダンジョン出張版   作:通りすがる傭兵

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第2話 人喰い植物のタルトもどきとサラダ

 

「なんというかダンジョンらしくないデース」

「石作りの通路や洞窟が続いているものだと思っていましたが、こうも広々とした空間が広がっているなんて思いませんでした」

「浮かれすぎて落っこちるなよ。落ちれば4層の水場か城のどこかまで真っ逆さまだ。この高さならトマトみたいに潰れちまうぞ」

「「はーい」」

「コイツら、遠足か何かと勘違いしてないか」

「まあまあチルチャック」

 

 地下広場を抜け通路を進めば地下とは思えないほど明るく、広い空間が広がっているのがダンジョン第二層の特徴だ。

 

 石造りの尖塔から見えるはずのない空へと高々と伸びる木々には木製の吊り橋や足場が渡されており、そこをライオスやエルコンドルパサー達は進んでいた。周囲を警戒しているにしては物珍しそうに目を輝かせて辺りを見渡すウマ娘の2人に、前を歩いていたライオスは声をかける。

 

「もしかして、君たちはここに来るのははじめてかい?」

「そうデース!」

「お恥ずかしながら」

「誰だって最初は初心者さ」

「ここはどういった場所なのです?」

「学者によれば、黄金城の尖塔らしい」

「黄金城?」

「このダンジョンの地下には黄金城という、金で覆われたお城が眠っているんだそうだ。実際、5年ほど前はあそこに見えるような尖塔は金で覆われていたらしい。今じゃ取り尽くされて見る影もないけれどね」

「まさにゴールドラッシュ、デスね!」

「昔は金剥ぎのために潜っていた冒険者も多かったんだ。俺も駆け出しの頃はファリン......妹とその金剥ぎの集団にお供させてもらったんだ、懐かしいな」

「ダンジョンにも歴史ありですね。勉強になります」

「とはいえ、詳しいことはほとんどわかっていない」「センシの言うとおりだ。。このダンジョンは狂乱の魔術師が作ったと言われているが、それが誰でどんな格好をしているのかもわからない。棲息する魔物の生態も謎だらけだ。わからないことだらけの場所だよ」

「ロマンがありますね〜!」

「はは、エルは冒険者向きの性格だな」

「ぎゃん!?」

「おいおいマルシル大丈夫か〜?」

 

 ダンジョン談義で盛り上がっている途中、小さく木が割れるような音とそれを掻き消すほどのカエルの潰れたような声。

 3人が振り向くと、床板につまずいて転んだらしいマルシルをチルチャックが心配そうに覗き込んでいた。

 

「隙間につまずいちゃって」

「随分と歩いている疲れも出たか。今日は野営地を決めて早めに休もう」

「もう少し歩けば泊まれる木のうろがあったはずだろ。そこにしようぜ」

「木のうろといえば、昔この辺の木のうろで一晩明かしたこともあったよな」

「あったあった」

「豚のスープを作ろうとして火傷したっけ」

「懐かしいな」

「スープ......」

「昼食のサソリ汁の残りなら少しあるぞ」

「いらない」

 

 物欲しそうに昼飯を思い出していたマルシルがセンシの誘いをキッパリと断ったとはいえ、そろそろ腹具合的にもお腹が空いてくる頃合いだ。実際、グラスはそろそろ夕飯のことを考え空腹を紛らわせ始めていた。

センシの鍋がいかに大きいものとはいえども、6人で分けてしまえば、大喰らいなウマ娘には少々少ない。

 

「野営地を決めるとなれば夕食の材料が必要では?」

「そうだなグラス。夕食になりそうな魔物を狩っていこう」

「はぁぁ〜やっぱり〜」

「あんまり乗り気じゃないみたいデスね。あんなに美味しそうに食べてたじゃないデスか」

「それはそれ、これはこれ」

「......マルシルは何が食べたい? 希望があればできるだけ努力するよ」

「そんなこと言ったって」

 

 マルシルの脳裏の浮かんだのは小腹が空いた時のさっと食べられそうなスシやパスタなんかの軽食、小腹が空いた時に食べたいプリンやクッキーなんかのお菓子の数々。

 

 どれも迷宮では望むのもおこがましいものでもあり、

 

「でもどうせ魔物なんでしょ?」

 

 選択肢にあるのは魔物を使ったゲテモノ料理だけだ。

 わかっていたとはいえ図星のライオスはさっと彼女から目を逸らし、それを見たマルシルはガックリと肩を落としていう。

 

「もういいよ、食べられるならなんでも」

「どんな魔物が居るんです?」

「ええと」

 

 グラスが質問すると、ライオスは快く答えようと胸元から冊子を取り出した。その、ライオスが鎧の胸元から取り出した付箋まみれになるほど読み込んでいる冊子『迷宮グルメガイド』によれば、二層には多種多様な魔物が生息しているようで。

 

「大コウモリや大ネズミ」

「不衛生なのはダメ!」

「森ゴブリン」

「亜人系は論外! 倫理的に!」

「動く鎧」

「金属?」

「鎧が食えるわけないじゃないデスか」

「私たちも流石にゴブリンは、少し」

「もっとこう普通のはないの? 木の実とか鳥とか小動物とか!」

「いるよなー。こういう、なんでも良いって言う癖にこっちが案出すと嫌がる奴」

「私そんなわがまま言ってるかなチルチャック!? 言ってないよね2人とも!」

「迷宮ではつべこべ言わない方がイイデス」

「選択肢が限られるのは仕方ないので」

「ふたりは味方だと思ったのに!」

「マンガみたいなリアクションデース!」

「いちいちオーバーなんだよ」

 

 裏切られて悲しみのあまり突っ伏して地面を叩いているコミカルなリアクションをするマルシルを見て、エルコンドルパサーは思わず吹き出してしまう。

 

 エルコンドルパサーとグラスワンダーの2人は、日本語が堪能なのでよく忘れられているがアメリカから日本に渡ってきた留学生だ。日本のように意味不明な食文化を含むカルチャーショックを受けるのは一度通った道で、二度目ともなれば耐性もつき飲み込みも早くなるもの。

 

 ダンジョンに適応するのが早いのも、ゲテモノに近しい魔物食に慣れるのが早いのも、当然だった。

 

「それで、何を食べましょう?」

「木の実や果実なら心当たりがあるぞ」

「センシ!」

「ん」

「ありがとうセンシぃ〜」

「ああ、あれか!」

「あれ......ああ」

 

 マルシルは元気よくサムズアップしたセンシに抱きついて、その気遣いと優しさにオイオイと泣き始めた。

 

 ただ、マルシルは現実逃避せず思い出すべきだった。

ライオスが両手を叩いて納得しているのは何故なのかチルチャックが憐れむような目をしたのは何故か。

センシは迷宮内で『何を食って』生きてきたのか。

 

 天高く伸びている大木に巻きつくように生えているツタにぶら下がるようにそれはあった。

 

 人1人を軽く飲み込めるくらいの大きさの壺を持ったもの。

 腕ほどの太さのツルと、両手を広げたくらいの赤々とした花弁を閉じて待ち構えるもの。

 牙のような棘をつけ、獲物が飛び込んでこないかと口を開いて待ち構えているかのような花をつけたもの。

 

「わかってたけど人喰い植物じゃーーーん!」

「いかにもデース」

「本当に人1人食べてしまいそうな大きさですね」

「というより、亜人や大コウモリを捕まえるためだな」

「なるほど」

「ああマルシル、『人喰い植物』と言うのは俗称なんだ。たとえばあの花、白色の花弁に紫の模様が入ったアレはパラセリアといって」

 

 徐にライオスによる『人喰い植物』講義が始まったところでエルコンドルパサーはしゃがみ込み、隣にいたチルチャックに小声で問いかける。

 

「ところでライオスは何であんなに魔物に詳しいんデスカ? 魔物博士みたいデース」

「ん? ああ。あいつ、元から魔物について興味があったらしい。んでそれが捻くれて、ああなった」

「......変わった人もいるもんデス」

「全くだよ」

 

 木の実を狙う際に魔法を使って魔物ごと吹っ飛ばそうとしたしたマルシルをセンシが怒鳴りつけて、結果としてマルシルが人喰い植物に食べられかけたり、人喰い植物の中から死体が飛び出してきたり、助けたマルシルに対してかけたライオスの言葉がデリカシーのかけらもなくて全員がドン引きすることになったり......などちょっとしたトラブルはありつつも、無事に食材を集めることができた。

 

食材が集まったらやることはひとつ。

 

料理だ。

 

 

「見た目はパプリカにトマト、大きな木の実。ウーン、どうなるかわからないデス」

「他にも何か食材や調味料はありますか?」

「調味料は基本を一通り揃えている。サソリ汁は使うから分けてやれないが、少し残ったサソリの身は使っても良い。こちらはメインの料理を作るつもりだがどうする」

「では付け合わせなり副菜が欲しいですね。サラダ、となると葉物野菜が欲しいところではありますが」

「食べられそうな野草を取ってこよう。チルチャック、ついてきてくれ」

「へいへい」

「ありがとうございます、ライオスさん、チルチャックさん」

 

 まず、ミアオーク(トマト)の赤い身を1cm角ほどの大きさに切りわける。小さいものは半分に切ってセンシが作る料理用にとっておく。

 

 ライオスがとってきた野草は汚れや虫を布で拭き落とし、軽く洗ってから一口大の大きさにちぎる。

 

ドレッシングは簡単に。

 

 油(オリーブオイル)に少しづつ酢を垂らしながらよく混ぜる。よく混ざったら細かく刻んで炒っておいた木の実も混ぜる。

 

 これだとシンプル過ぎる、もうひとつ何か足したいとセンシの調味料入れを眺めていたグラスワンダーの目に一つの瓶が留まった。見覚えのある色味に思わず手に取って光に透かしたあと、作業中のセンシに声をかける。

 

「センシさん、これは?」

「東方で作られる珍しい調味料だ。知るものはおらんと思ったのだが」

「少しお借りします」

 

 ガラス製の容器から一滴を手の甲に垂らして舐めると、そのまろやかな塩味と慣れ親しんだ旨味に思わず顔が綻ぶ。

 

「......ふふふ」

「グラァス? どうしたデス?」

「お楽しみに、ですよ」

「?」

 

 首を傾げたエルコンドルパサーの口に指を当てて静かにさせてから、そのとっておきの調味料もドレッシングに加えてよく混ぜる。

 

 皿に野草、ミアオーク、ほぐしたサソリの身を入れて軽く混ぜ、上からドレッシングを入れてあえる。

 本当であればこんがりと焼いたベーコンを刻んで入れたり粉チーズを振りかけたりしたいが、無いものは仕方ない。

 

「あとは見栄えが良くなるように整えれば、人喰い植物とサソリのサラダの出来上がりです」

「こちらも出来たぞ。人喰い植物を使ったタルトだ」

「おおっ、うまそうだ!」

「おいしそー!」

「オイオイ、いつからダンジョンは食堂になったんだ?」

 

 サラダを仕上げると同時にセンシが作っていた料理も揃った。それぞれを取り皿に取り分ける様はまさに洒落た食堂のようで、口々に嬉しそうな感想が漏れた。

 

「豪華なブランチみたいデス!」

「地上で食べるご飯と変わらないかも、見た目は」

「甘いタルトではないぞ」

 

 蒸したパラセリアの実をすり潰して土台にしたタルトは、色味も相まってカスタードのようだった。

 しかし匂いは当然甘いものではなく、オーブンもないのでこんがりとした焼けた香りも控えめだが、その分どっしりとした根野菜のような香りが広がっていた。

 刻んで上に乗せられた木の実や小さなミアオークも熱を通して少し崩れているのがまた食欲をそそる。

 

 ケーキのように切り分けられたそれにフォークを入れると、端からボロリと崩れてしまった。それを溢さないように口に入れたライオスは、

 

「ん、うまい!」

 

と嬉しそうに目を細めて、

 

「マルシル、これはきっと君な好きな味だよ」

 

 と迷うマルシルの背中を押すようにやさしい口調で言った。ライオスが食べて元気そうなので、恐る恐ると言った様子でチルチャックとマルシルも口に運び、

 

「ん、塩味だ」

「おいひい!」

 

 それを見届けた残りの3人もタルトを口へと運び、それぞれに感想を言った。

 

「なかなか悪くないデース!」

「ポテトパイのような感じですね。美味しいです」

「やはりスライムだと固まり方が悪いな。あの粘液を使えばもっと水分を保ちつつしっかりと固められたのだが」

「死人を溶かした液を鍋に入れるなんて言わないで」

 

 少し悲しげに目を伏せるセンシに対して一瞬睨みつけたマルシルだったが、すぐにその目は丸くなって、皿の上の料理に向けられた。

 

「でも、これすっごく美味しい。ペタンは瑞々しくて味が甘いし、パラセリアは詰まっていて味が濃い。種類によって凄く味の方向性も違うし下手したら地上の野菜より美味しいかもしれない」

 

 口一杯にタルトを頬張ってリスのように膨らませながら、ふとこんなことを言う。

 

「でもライオス、こんなに美味しくていいのかしら? 美味しいってことは他の動物に食べられちゃうじゃない。せっかく実をつけたのに勿体無い」

「確か授業で習いましタ! 動物に食べられても固い種は消化されないカラ、遠くまで運ばれてフンをしたところで新しく芽を出せるんデス!」

「そもそも肉食動物だから実を狙う動物を捕らえて養分にしているんだ。万が一食べられてもエルが言うように別の場所で子孫が育つかもしれない」

「へー、このおいしさも戦略なのかな。なるほどなあ」

「キミが興味を持ちはじめてくれて嬉しいよマルシル」

「違う! 興味があるのはそうだけど違う!」

「バカやってんの......サラダうめえな」

「ありがとうございます」

「酢と油を混ぜてあるのか、確かにこれは葉物とよく合う」

 

 サラダの方も好評だ。一口食べたセンシは感心したように唸り、チルチャックは目を開いて驚きを隠さない。また一口と口に運ぶが、美味しさよりも不思議さが勝るのかマルシルのように首をかしげ始めてしまった。

 

「葉っぱは程よくパリパリしてて食感もいいし、サソリも鍋のやつと違って強めに下味がついてて別の食材みたいだ。散らされた木の実っぽいのもアクセントになって悪くない。ただドレッシングがわからないな。塩っけがあるが、塩の味だけじゃない、複雑な味がする。魚っぽい生臭さがあるのはわかるんだが、なんだ?」

「なんだ、小童は『しょうゆ』を知らんのか」

「子供じゃねえ。って、何それ」

「魚を発酵させて作る調味料だ。チーズのように強烈な塩気と旨みがあるが、それ以上に複雑な味を持っている調味料だ」

「私たちの住んでいたところでは豆を発酵させるものもありました。まさかこんなところで会えるとは思いませんでしたよ」

 

 ただ、と作った本人も複雑な表情を浮かべながら、先ほどからマルシルが一方的に怒っているように会話しているライオスの方を向いて一言。

 

「ところで、この葉も魔物ですか?」

「ああ、これも広い意味で言えば人食い植物のものだね。消化型に分類されるものでね」

「もしかして死体が入ってたやつじゃないでしょうね、って、ちょっと、目を逸らさないでよ、ねえライオス、ねえ!」

「......食欲無くなるデース」

 

ダンジョン飯。

食卓に貴賎はなく、食材もまた同じ。

しかし食卓の話題に賤しさは求められない。

 

ダンジョン飯、ああダンジョン飯。

 

(本当はその隣に生えてたヤツで、実の方には毒があるから食えないって嘆いてたヤツなんだよな、ライオスが)

「ところでこの葉、あまり食べすぎないほうが良いぞ」

「えっ」

「食べすぎると信じられないほど舌が緑色になる。それで一度ゴブリンと間違えられたのだ」

「......そうかよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

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