BOXER'S LIFE 世界王座獲得RTA 父子鷹ドキュメンタリーチャート 8時間41分8秒(WR) 作:変態拳闘士
私は幼い頃、ボクシングが嫌いだった。
ボクシングをしている時の母はいつも苦しそうで…あんな顔ばかりさせるボクシングの事が心底憎かった。
当時は母に向かって、何度もボクシングを辞めてほしいと泣きついていた事を憶えている。
私が6歳の時、母にとって久しぶりの世界戦が無効試合となってしまった時は特に酷かった。
その試合直後に伯母が亡くなった事もあり、母も余裕が無かったのだと思う。
家中大荒れの大喧嘩となってしまった。
当時の父は本当に居心地悪かっただろうな…
それから暫くして、母はロサンゼルスへ渡り、求を連れて帰ってきた。
求と初めて顔を合わせた時には、こんなに可愛い男の子が新しい家族になるという事実に素直に喜んだ。
求はその頃からずっと、感情を表に出す事は無い。
それでも、あの時涙を流していた求を見て、私が側に居てあげなければと思った。
それから私は求を実の弟のように可愛がってきた。
しかし、そんな可愛い可愛い弟も、私の大嫌いなボクシングをしていたのだ。
それも途轍もない熱量で。
当時、求は学校へも行かず、ボクシングの練習に明け暮れていた。
勿論、両親も求に学校へ行くよう説得するが、求がそれを断固として拒否した為、渋々といった様子で引き下がっていた。
何故、私の大好きな人達がそこまでボクシングに熱中するのか、当時の私には全く理解ができなかった。
だからこそ、私はそこで初めてボクシングに興味を持った。
2030年の5月6日、私と求は母の試合を応援しに会場へ向かった。
父はこの日の興行の中継を行う制作会社のディレクターである為一緒には来れず、求と2人で母を見守る事になった。
さいたまスーパーアリーナの控室、母はその日もいつも通り和やかに試合の準備を進めていた。
バンデージを巻いて、ウォーミングアップ、続いてシャドーボクシング。
普通は試合当日ともなればピリついた空気を纏うものだが、母はいつだって変わらない。
そして8オンスのグローブを嵌め、最終確認のミット打ちを終えれば、いよいよ入場を待つのみとなる。
するとここで、母は私と求を呼び寄せる。
私たちが母の元へ向かうと、母は私たちを両手一杯に抱きしめ、こう言った。
「未来…今までずっと心配かけて…ワガママなお母さんでごめんね…
モー君…私にボクシングをする理由をくれてありがとう…
今日で最後だから…2人の誇れるお母さんになれるように頑張るから…」
母の顔は見えなかった。
それでも、今日で最後…その言葉に込められた強い決意を幼いながら十二分に感じ取れた。
「美里、そろそろだ。行けるか?」
「はい」
小林会長が母の肩に手を置き声を掛ける。
母はそれに頷くと、もう一度私たちを強く抱きしめてから立ち上がった。
会場に鳴り響く入場曲が、控室まで聞こえてきていた。
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カン、カン、カン
ゴングが3度打ち鳴らされると、リング中央でマイクを持ったリングアナが選手紹介のコールを行う。
『これより、WBA女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ10回戦を行います。
まずは赤コーナー、プロ戦績は16戦15勝1ノーコンテスト、公式計量は114lb3/4。
本日が4度目の世界王座防衛戦。
第15代WBA女子世界スーパーフライ級チャンピオン!アナベル・スミス!』
名前がコールされたチャンピオン、スミスは彫りの深い顔立ちにブロンドヘアをドレッドにまとめており、その両目の碧眼には確固たる自信を漲らせている。
スミスは右の拳を高く突き上げ、リングアナのコールに応えた。
すると会場からは拍手が鳴り響くが、所々にノイズのようにブーイングも混じる。
しかしスミスはそれを気にする素振りも見せず、四方に向かって礼をする。
それらが一段落着いたのをリングアナが確認してから、今度は挑戦者のコールに移った。
『青コーナー、挑戦者。プロ戦績は18戦15勝2敗1ノーコンテスト、公式計量は115lb、小林ジム所属。
現在の世界ランクは、IBF女子世界スーパーフライ級6位、WBA女子世界スーパーフライ級第1位。
第14代の元WBC女子世界フライ級チャンピオン!山口美里!』
挑戦者、山口の名前がコールされると、チャンピオンの時とは対照的に、会場全体から大歓声が上がる。
この試合は4つある世界戦の第一試合であるにも関わらず、会場のその殆どの席が埋まっており、異様な熱気に包まれていた。
そうなっているのも、この興行自体の注目度が高い事に加え、山口vsスミスが再戦である事、そして山口に対する人気や前回の試合後の不幸など、多くの要因が重なった結果であった。
コールを受けた山口は、強い決意に満ちた眼差しを湛え、肩に乗るプレッシャーを振り落とすように、3度その場で飛び跳ねる。
そして、近寄って来た中継カメラに向かいガッツポーズで応えた。
リングアナのコールが終わると、リング中央で2人のボクサーが顔を合わせる。
ここで真っ先に気がつくのは、両者の体付きの違いだろう。
山口の身長が166cmで細身であるのに対して、スミスの身長は155cmと小柄ながらも、その体には分厚い筋肉の装甲を身に纏っている。
2人の間に身長差はあるが体格差は無かった。
レフェリーからルールに関するアナウンスが行われた後、2人はグローブを突き合わせ、互いのコーナーに戻る。
「おい、深呼吸しろ。入れ込みすぎだ」
緊張で顔の強張る山口を見かね、チーフトレーナーの坂本が落ち着くように声を掛けた。
「すぅ…はぁ……少し…落ち着きました」
「いいか、1ラウンド目、ここの入り方だぞ。距離感間違えるなよ。相手を見て前手とステップワークな」
「はい……ふぅ」
坂本は山口へ指示を送りリングを降りる。
山口はそれに頷き一つ息を吐くと、真っ直ぐに対戦相手であるスミスの方へと向き直った。
カーン!
試合開始のゴングが響く。
山口とスミスが互いの前手でグローブタッチをすると、直ぐに距離を取り合う。
山口はサウスポースタンスに構え、前手である右手を触角のように動かし牽制していく。
それに対しスミスはオーソドックススタンスでガードを高く上げ、その前手に反応し過ぎる事無くじっと隙を窺いながらプレッシャーをかける。
ラウンド開始から1分、山口は身長とリーチの差を活かし、内外上下と打ち分ける多彩なジャブでスミスとの空間を支配し始める。
スミスは何度も懐へ飛び込もうと試みるも、山口の放つジャブがそれを邪魔していく。
そして山口が優勢の中迎えた第1ラウンド終盤、スミスが大振りの右フックを振りながら山口の懐へ飛び込む。
山口はそれをスウェーバック*1で避け、左ストレートのカウンターを合わせようとするが、スミスは右フックを振った勢いで頭を少し左に倒して左ストレートのラインから頭を外した。
そのままスミスはその左ストレートに合わせて、ストレート気味の左ジャブを山口のテンプル*2にクリーンヒットさせる。
これによって山口はたたらを踏み、ロープ際へと追い詰められる。
そこにスミスが連打をまとめた所で第1ラウンド終了のゴングが鳴り、レフェリーが間に割って入った。
1分のインターバルに入り山口は青コーナーへと戻り、坂本が山口のマウスピースを外す。
それから山口は置かれている椅子に自嘲的な笑みをこぼしながら、どさりと座った。
「ポイント取られたなぁ…こんなのじゃ…っ…美咲…」
山口は俯き唇を噛み締めボソボソと呟く。
その目の前に立っている坂本は山口の肩に手を置いて強く揺さぶり、その顔を上げさせた。
「今は相手に集中しろ。他のもんは全部頭から追い出せ。お前は挑戦者なんだよ。またチャンピオンになりたいんだろ?」
「…はい」
「なら自分らしく戦え!足を止めるな!手数で相手の前進を止めろ!もらった時は足止まってたからな!もうさっきのでタイミングも角度も分かっただろ?」
「はい」
ここでインターバル終了の笛が鳴り、山口は椅子から立ち上がる。
「大丈夫だ。お前の方が強い」
坂本は最後にそう声を掛け、山口の背中を叩いてからリングを降りた。
『ラウンドツー!』
リングアナが告げると、カーンと第2ラウンド開始のゴングが響く。
スミスは先のラウンドから変わらず山口の懐へ飛び込んで距離を潰そうとする。
1ラウンド目で山口はスミスの攻撃をスウェーやダッキング*3で避けようとしていたが、第2ラウンドが始まってからは足を使い、距離で攻撃を外す場面が多くなった。
すると、スミスは空振りが目立つようになる。
次第に山口は、スミスのその打ち終わり、ややバランスが崩れた所にカウンターを合わせたり、コンビネーションをまとめるような場面が増えていく。
山口がリングをサークリングしながらスミスのプレッシャーを捌きつつ、クリーンヒットを積み重ねる展開が続く。
既に山口の動きからは硬さが完全に抜けており、リズムに乗ってチャンピオンを翻弄している。
体に触れる事さえ許さないフットワーク、止まらないジャブとフェイント、コンビネーションの間を縫うカウンター。
ひらりひらりと舞うように、踊るように試合をコントロールしていく。
2ラウンド目からは山口が優勢のまま試合は進んでいった。
そのまま3、4、5、6、7ラウンドと山口は勢いそのままにラウンドを重ね、ポイントを奪う。
そして第7ラウンドが終了し、山口は少し肩で息をしながらコーナーへ戻る。
山口が椅子に座った所で、坂本が頭から水をかぶせた。
「あと3つだぞ。1ラウンド以外は全部取れてる。ただ、ここからスミスは間違いなく倒しに来るし、さらにプレッシャーをかけてくる筈だ。スタミナはどうだ?」
「ちょっと飛ばし過ぎちゃったけど、あと3つならいけます」
基本的に、リング中央からプレッシャーをかけ前に出るファイターよりも、リングを大きく使いそれを捌くアウトボクサーの方が運動量は多くなる。
この試合の山口の運動量は普段のそれよりもさらに多く、足の疲労もこの時点でかなり蓄積していた。
「よし。相手の攻めも単調になってきてるから、このまま空回りさせていこう。余計なのもらわなきゃ勝てるからな」
「はい」
そして迎えた第8ラウンド。
ここで試合は大きく動く。
既に後がないスミスは、このラウンドからさらに圧力を強め、被弾覚悟で手数を増やす。
山口もそれに合わせてペースを上げていった。
そして山口がスミスの圧力から逃れるため、青コーナーで右から左へと切り返したその瞬間。
「!?」
水で濡れていた床に足を滑らせ山口が転倒する。
山口はすぐに立ち上がると、レフェリーに促されファイティングポーズを取る。
『スリップ』
会場にダウンではない事を知らせるアナウンスが響く。
「ボックス!」
レフェリーの声で試合はすぐに再開された。
するとスミスは、再び山口をコーナー際へと追い込む。
山口はスペースのある左側へ逃れようとするも、それを読んでいたスミスが右フックをガードの上から打ち込みそれを妨害する。
逃げ道を塞がれた山口は、今度は右側へ一歩踏み込んだ。
その瞬間。
「っ!」
山口の右足に激痛が走る。
痛みで動きが一瞬止まった山口をチャンピオンは見逃さない。
スミスが右フックを打った後の、体重の乗った返しの左フックが山口のテンプルを完璧に捉え、山口はたまらず膝をつく。
会場に悲鳴とため息が木霊する。
「ダウン!ワン!ツー!スリー!フォー!ファイブ!シックス!セブン!エイト!」
少しでもダメージを抜く為に山口はカウント8まで待ってから立ち上がり、両拳を胸元まで上げてファイティングポーズを取る。
しかし、スミスの一撃によって山口の右目の上の古傷がパックリと開いており、そこから大量の血が流れ出ていた。
試合が再開されると、スミスはここしか無いとばかりにラッシュを仕掛ける。
山口はロープ際でガードを固め、動けなくなってしまう。
それを見かねた坂本が声を張り上げる。
「詰まるな!回れ!クリンチでいい!」
その声を聞いた山口は、スミスのラッシュが一瞬途切れた瞬間を見計らって腕を絡める。
スミスはそれを振り解こうとするも、山口はガッチリと腕を固め離さない。
その後も山口はスミスの猛攻を必死で凌ぎ、ラウンド終了のゴングが鳴った。
しかし、コーナーに戻る山口の足取りはかなりフラついており、足に力が入っていない事は一目瞭然だった。
「足動かせ!ロープで亀になるな!」
坂本が声を張り上げる。
「はぁ…はぁ…右足…力入んない…転んだ時やっちゃったかも…」
その言葉を聞いた坂本は目を見開き一瞬言葉に詰まる。
「…どうする?…棄権するか?」
「それは…絶対嫌です」
山口が力強い意志を瞳に宿し答えた。
それを見た坂本は仕方なしに頷く。
「…分かった」
「ねぇ坂本さん…もう足止めて打ち合うしか無いよね?」
「いや、それより接近戦でもデフェンスしっかり意識しろ。相手を見てボディーワークだ。もうクリンチでも何でもいい。こっからは気合いだ。根性見せろ!」
第9ラウンド。
リング中央で両者が頭をつけがっぷり四つで打ち合う。
これには会場から今日一番の大歓声が巻き起こった。
スミスも満身創痍だった。
ダウンを奪うまでのラウンドでは山口に翻弄され続け、先のラウンドも最後にラッシュを仕掛けており、疲労はピークに達している。
それでもフィジカルの強さは折り紙つきだ。
力を振り絞って手数を出し続け、徐々に徐々に山口を押し込み、後退させていく。
山口もクリーンヒット自体は許していないが、身長差によって下から突き上げられるように押される為、体が浮いて上手く踏ん張る事ができない。
それでも山口は必死で堪えようとする。
だがここで突然、スミスは一歩ステップバックした。
スミスに体重を預けていた山口は、それによって前のめりになってしまう。
前足である右足に力が入らない山口は当然バランスを崩す。
そこにスミスは大振りの右フックを山口のガードの上から打つと、山口はさらに体勢が崩れ、たたらを踏む。
もしここで倒れてしまえばダウンを取られかねないと考えた山口は、手でバランスを取る為、咄嗟にガードを解いてしまった。
そこにスミスが追撃をかける。
型なんて存在しない。
左右にスイッチ*4しながら、歩きながら打つ連打が山口の顔面を捉える。
山口は尻餅をつくように倒れた。
「ダウン!ワン!ツー!スリー!フォー!ファイブ!シックス!セブン!エイト!ナイン!」
「ああぁぁぁあ゛!!!!」
前のラウンドのダメージが残っており足元がおぼつかない山口は、右足の痛みにも堪え、叫びながらカウント9で立ち上がった。
ここで山口がコーナーに目をやると、タオルを投げ入れようと準備をしていた坂本と目が合う。
山口は坂本の方を睨みながら、絶対に投げるなという意志を込めてファイティングポーズを取る。
レフェリーが山口の両腕を掴み、まだ力が入っている事を確認すると、試合が再開された。
スミスは先のラウンドに続き、ここでも連打をまとめる。
しかし、疲労からか振りが大きくなっておりキレが無く、隙もあった。
それでも足に効いている山口を追い詰めるには十分であり、再びロープ際へと追い込み、左右のフックをがむしゃらに打ち込む。
山口はガードを固め頭を振ってそれを避けながらも、ハッキリとスミスを見据えていた。
スミスのコンビネーションの間を縫うように、山口の左ストレートが打ち抜かれる。
するとスミスは足をもつれさせながら後退した。
攻守が完全に入れ替わる。
「「「「「美里!美里!美里!───」」」」」
大歓声が巻き起こり、観客からの美里コールが山口を後押しする。
防戦一方となったスミスに、山口は全てを振り絞ってラッシュを仕掛ける。
しかし、それをスミスがクリンチで止めようとする。
踏ん張りが効かない2人はもつれ合い転倒。
そして両者が立ち上がった所で第9ラウンド終了のゴングが打ち鳴らされた。
山口は右足を引き摺りながらも、心からの笑みを浮かべ、コーナーに戻っていく。
「はぁ…はぁ…はぁ…あぁ…楽しい…」
「無理して倒そうとするな!流れで倒せるから!次でラストだけどしっかり相手見ろよ!」
「はぁ…はぁ…ラスト…」
「ここ最後取るぞ!踏ん張れ!」
最後のインターバルが終わり、山口はゆっくりと立ち上がった。
いよいよ運命の最終ラウンドを迎える。
『ラウンドテン!ラストラウンド!』
カーン!
最終ラウンド開始のゴングが鳴ると、山口とスミスがレフェリーに促され、両手でグローブタッチを行ってから再び距離を取る。
このラウンドも両者激しい打ち合いになるかと思いきや、スミスの方から距離を取ってジャブを突き、アウトボクシングを始めた。
突然のスタイルチェンジに対応が遅れる山口は、顔面がジャブによって跳ね上げられる。
次第に右目の上の傷が開いていき、再び大量の血を流し始めた。
しかし、開始直後はこのスタイルチェンジに面食らったものの、リーチで分のある山口はジャブの差し合いで少しずつ優位に立っていく。
ラウンド後半、このままではポイントを取られると感じたスミスは、血で塞がっている山口の右目側へと回り込みながら接近する。
やはり接近戦での分はスミスの方にあり、右目の死角を利用した、左フックを中心とする攻めに山口は押されてしまう。
それでも山口は死力を尽くし、打たれた分だけ打ち返す。
しかし、ラウンド終了間際。
スミスの左フックのモーションから軌道を変えた左アッパーが山口の顎を捉えた。
ここで、これまでパンチを受け続けたダメージが噴出し、山口は膝から崩れ落ちる。
体から力が抜け、目が霞み、意識がぼんやりとしていく。
山口の耳には、レフェリーがカウントを数える声がどこか遠くから聞こえていた。
「お母ざん゛!!!立っで!!!おがあ゛ざん゛!!!」
「………」
リングサイド、涙と鼻水を垂れ流しながら叫ぶ未来と、いつも通りのポーカーフェイスでこちらを静かに見つめる求の2人と目が合う。
「───セブン!エイト!ナイン!」
山口は意識が朦朧としながらも立ち上がった。
試合をストップされないようにレフェリーと目を合わせ、すぐにファイティングポーズを取る。
「ボックス!」
カン!カン!カン!カン!カン!
ラウンド再開とほぼ同時に試合終了のゴングが鳴り響く。
山口はコーナーへ戻ろうと一歩踏み出すと足がもつれ、倒れ込みそうになってしまう。
すると、スミスが咄嗟にそれを支えた。
「グッドファイト。アリガトウ」
「こちらこそ、せんきゅー」
スミスは山口を支えたまま青コーナーへと向かい、置かれていた椅子に座らせると、山口の陣営に手短に挨拶を済ませ赤コーナーへと戻っていく。
観客はスタンディングオベーションで、2人の健闘を讃える。
ここでリングアナがジャッジペーパーを持ってリングに上がり、採点の発表を始めた。
山口は立ち上がる事が難しい為、青コーナーに置かれた椅子に座ったまま、採点を聞く。
『WBA女子世界スーパーフライ級タイトルマッチ、採点の結果をお知らせ致します。
ジャッジ、ヒル・フォード、95対92、アナベル・スミス。
ジャッジ、マルコ・ドルナム、94対93、山口美里。
ジャッジ、ボブ・バトラー、94対93、以上2対1のスプリットディシジョンを持ちまして、勝者、WBA女子世界スーパーフライ級───』
会場全体が静まり返り、その場にいる人物全てが息を呑んでコールを待つ。
『───チャンピオン!!!アナベル・スミス!』
レフェリーが勝ち名乗りを受けたスミスの左腕を持ち上げた。
そこにスミスのトレーナーが勢い良くハグをする。
スミスは両目から大粒の涙を流しながらそれに応えた。
会場は温かい拍手に包まれる。
敗れた山口は数秒間、ただ静かに天を見上げていた。
「美里、そろそろ降りるぞ。立てるか?」
「肩貸してください」
「おう」
山口は坂本の肩を借りてリングを降りる。
山口が会場の裏に下がるまでの間も、拍手が鳴り止む事は無かった。
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アツゥイ!
残念ながら美里さんは負けてしまいましたが、まさかこんな熱い試合が見れるなんて思いませんでしたねぇ!
流石のホモ君も…あ、やっぱり無表情なのは変わりませんね。
それにしてもすごいなコレ。
スタンディングオベーションが鳴り止みませんよ。
この後の試合も楽しみですねぇ。
確か次の試合は…神崎朗vsカルロス・ラミレスのタイトルマッチですか…
ん?神崎朗?
神崎朗ってあれやん!
いつもジムで教えてくれてるトレーナーやんけ!
はえ〜あの人って現役の選手だったんすねぇ。
「もとむ、お母さんのとこ行こ」
やだよ(即答)
あ、腕掴まれて引っ張っていかれちゃった…
コレはダメみたいですね(諦観)
控室に着くと、美里さんがドクターの健診を受けている所でした。
ダメージが心配でしたが、取り敢えず意識はハッキリしてますし、大丈夫そうですね。
ここで、未来ちゃんが美里さんの元へ駆け寄ります。
ホモ君もガッチリと腕を掴まれているので、未来ちゃんと一緒に美里さんの方へ向かいましょう。
「応援してくれてありがとう。声聞こえてたよ。モー君も、見守っててくれてありがとうね」
美里さんはホモ君と未来ちゃんの頭に手を置いて感謝を告げました。
あぁ〜安心するんじゃ〜。
「お母さん…かっこよかった…でも…もうボクシング辞めちゃうの…?」
「うん。これで現役は引退。だからこれからはもっと沢山一緒にいられるよ」
「そっか…あ…じゃあ…ボクシング…おしえてほしい…かも…」
「えっ…」
おっと、これは驚きましたね。
未来ちゃんはボクシングを嫌っているとすら思っていたので、まさか自分からやりたがるとは考えもしませんでした。
ただ、もし未来ちゃんがボクシングを始めるのであれば、ホモ君にとってはかなりうま味です。
家で1人で行えるトレーニングには限界がありますし、競争相手が身近にいるだけでも効率は段違いに上がります。
これは是非とも未来ちゃんをボクシングの沼にハマらせたい所さんですね。
「本気なの…?」
「うん」
「えぇ…う〜ん…」
美里さんめちゃくちゃ悩んでますねぇ。
ここは未来ちゃんの背中を押してあげましょうかね。
「みくといっしょにやりたい」
「………分かった」
ホモ君からも説得を試みると、美里さんは渋々といった様子で了承してくれました。
この人、ホモ君のお願いには弱いんだよな。
「でも、やるからには絶対に手を抜かない。投げ出さない。自分に言い訳しない。いい?」
美里さんが未来ちゃんへ問いかけると、未来ちゃんは力強く頷きました。
美里さんの世界戦が終わり、未来ちゃんのボクシング人生が始まった所で今回はここまで、ご視聴ありがとうございました。
西田選手カッケェよ!マジで!
西田vsロドリゲスの世界タイトルマッチはabema様で試合後何日間かは無料で見られるので、まだ見てない人はマジで見ちくり。
5/6の東京ドーム興行も楽しみなんじゃ^〜
※出来が荒すぎたので内容をいくつか修正し、注釈を追加しました。