キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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※今回の話で飲酒描写がありますが、本作は飲酒を勧めるものではありません。また、未成年の飲酒は犯罪です。
未成年飲酒、ダメ、絶対。

月「いつまでもイチャイチャしとらんではよ寝れ!」


〜追記〜

今回の話において、フレンチキスという言葉を誤用してしまっていました。
誤字修正報告をしてくださった方、本当にありがとうございます。






EP.9

 

 

チン、と甲高い音を立てたグラスを煽る。

…まぁ、私のグラスの中身はただの緑茶なんだけど。

 

彼の方はウィスキーを飲んでいる。

ぎゅっと目を瞑ってしっかりと味わっている様子だった。

 

「ハァ〜…。美味いなぁ」

 

本当に、美味しそうに飲んでいる。

そんな反応をされたら、私も少し気になるかも。

 

「そんなに美味しいの?」

 

「最初飲み始めた時はあんまりだったんだけどね。今は、これが一番かな」

 

「ふーん…」

 

こういうものはゆっくりと飲むものだと思っていたのだけど、彼は物凄い勢いであっという間にグラスを空にしてしまった。

 

「飲む?」

 

「そうだねぇ…飲もうかな」

 

再び、アラタのグラスにウィスキーを注ぐ。今度は、さっきよりも気持ち多めに。

それなりの量の酒を少し眺めたと思ったら、またグラスを傾けた。そうして置かれたグラスの中身は、半分程度まで減っていた。

 

「皆こんな感じで飲むの?」

 

「いやぁ?他の人はもっとゆっくりなんじゃないかなぁ…」

 

そう言ってニコニコとしているアラタ。

なんだか彼の目が少しとろんとしている気がする。笑顔も、いつもよりふにゃふにゃで可愛い。

これも、初めて見る彼の表情だ。

 

「そういえば、彼女が出来たことないって言ってたけど」

 

「うぇ…その話するの?」

 

露骨に嫌そうな顔をされた。

でも、私は気になる。

どうしてこんなにも優しくて、かっこよくて、可愛い彼に女の人が寄り付かなかったのか。

 

「気になる…じゃ、だめ?」

 

「まぁ、別に良いけど…そんな大した理由じゃないよ。ただ、高校を途中で辞めたからそういう出会いが無かったってだけ。他校との交流会も参加出来なかったし」

 

その話は知っている。でも、それだけでは理由として弱い気がする。

 

「お店やってたらお客さんも来るんじゃない?それに、中学生でだってそういうことくらいあると思うけど」

 

「いやぁ、仕事は仕事だからねぇ。お客さんのことをそういう目では見ないかな。中学は…どうなんだろ?高校も含めてだけど、よく友達からは朴念仁だなんて言われてたけどねぇ…」

 

それって要は、彼が女子からのアプローチに気付いてなかっただけなんじゃ…?

 

頭の痛い話だ。だって、私も身に覚えがあり過ぎる。

どんなことをしても、全然意識している様子のない彼が。

いや、最近はそんなことなかった気もするけど。

 

そう、最近は段々私のことを意識してきてくれてる感触がある。

確証は持てないけど、なんだかそんな気がする。

 

一人思考の海に沈んでいると彼の方から話しかけてきた。

 

「カヨコちゃんと飲めるのは、あと二年経ってからだねぇ」

 

「別に、今飲んでもいいけど」

 

「だーめぇー。残念なことに、お酒は二十歳になってからってねぇ」

 

喋り方もいつもより少しおかしい。普段に比べてかなりふわふわとしている。顔も随分と赤くなっている。

 

…これはもしかして、酔っ払っているのだろうか。

 

「カヨコちゃーん」

 

「どうしたの?」

 

「…なーんでもないよぉ」

 

だろうか、では無い。間違いなく酔っ払っている。

いつもの彼とは全然違う、全く別のアラタ。でも、嫌な感じは全然しない。寧ろ好ましく感じるくらいだ。

 

とはいえこのまま放っておいたら多分、明日辺りに彼は後悔するだろう。そして私の前でお酒を飲むことが無くなってしまうかもしれない。

 

「アラタ、大丈夫?」

 

「んーん。全っ然、だいじょばないねぇ。いつもはこのくらいじゃ酔わないんだけどなぁ。カヨコちゃんと一緒に居るからかなぁ…?」

 

それは、一体どういう意味なんだろう。今聞いたら、答えてくれるだろうか。

 

「水、飲んだ方がいいんじゃない?」

 

「んー…いや、いいやぁ。酔ってた方が、都合のいいこともあるしねぇ」

 

そう言いながらも、彼がグラスを煽る手は止まらない。

 

「カヨコちゃんてさぁ」

 

「うん」

 

「彼氏、出来たこと無いんだよね?」

 

…なんでそんなことを聞いてくるのだろうか。

私が聞いたからその意趣返しなのか、それとも。

 

「出来たことないよ」

 

「作ろうとは思わないの?絶対、カヨコちゃんなら引く手数多だと思うけどねぇ」

 

今、好きな人が目の前にいるのだけど。

そう、直接言えたらどれだけ良かったことか。私にはまだそんな度胸は無い。

 

でも、もし付き合うならアラタ以外考えられない。

他の有象無象なんてどうでもいい。

私は、彼が良い。

 

「アラタは、なんで私が彼氏を作らないんだと思う?」

 

「うーん…そうだなぁ。そもそも興味無いとか?」

 

確かにそれもあった。アラタと会うまでは、私は恋愛なんて興味が無かった。

 

「前まではそうだったよ。でも今は違うかな」

 

「…へぇ。じゃあ、…カヨコちゃんは好きな人が出来たんじゃない?作らないんじゃなくて、その人が好きだから。その人と付き合いたいみたいな」

 

これくらいは言ってみてもいいかもしれない。

もしかしたら、なんて少しばかりの希望が芽生えた。

 

「正解」

 

「………」

 

ピタリと、彼が止まる。まるで映像を一時停止したかのように。目を見開いて、何かに驚いたかのような顔で。

 

「…そっか。……そっかぁ……」

 

それは、私の思い描いた希望とは全く違う反応だった。

とても残念そうに、とても悲しそうに。それでいて、なにかに納得しようとしている感じの。

そんなような声音だった。

 

「なら、応援させてもらおうかな。なにか相談があったら言ってよ」

 

無理矢理に作ったかのような笑顔で、私の好きな人はそう言った。

先程までとは違い、顔から赤みが抜けている。

 

どうして、彼はそんな残酷なことを言うのだろう。

まるで私がアラタじゃない誰かを好きになったかのように、それがさも当然かのように話せるのだろう。

 

こんなの、朴念仁とかいうレベルじゃない。

私は、こんなにも彼に対してアクションを起こしているというのに。

 

わざとだ。わざと、分からないふりをしている。もしくは、初めから自分のことを勘定に入れていないかのような、そんな口振り。

 

「あ、そうなるとあんまり俺と関わるのも良くないかもしれないね。その人に見られたら、変な勘違いされちゃうかも」

 

なんで彼はそんなに酷いことを言えるのだろう。

私には、あなた以外いないというのに。こんなにも、あなたの事が好きなのに。

 

どうして。

 

「でも、寂しくなるなぁ。カヨコちゃんと会う機会も減っていくんだもんねぇ…よぉし!今日は沢山飲んじゃおうかな!」

 

私はアラタのことが好き。どうしようもないくらいに、好きなの。

だから、そんなこと言わないで。もう会わなくなるだなんて言わないで。そんなこと思いたくない。考えただけで胸が張り裂けそうになる。

 

もう、吐き出してしまいたい。あなたのことが好きなんだと。

でも私は、その一歩が踏み出せない。最後の、たった一歩が。

 

もし言ったとして、彼がそれを拒否した時が。それを想像してしまうと、足が竦む。一歩を踏み出す勇気が出ない。

もしそうなってしまったら、それこそ彼との関係はここまでになってしまう。だから、それが怖くて言えない。

 

その恐怖を吹き飛ばしてくれるような、確証が欲しかった。だから彼にアプローチして、私がアラタのことを好きなんだと気づいて欲しかった。

なんなら、私のことを好きになって欲しかった。気がする程度じゃ足りない。確証が持てるくらいに。

 

だけど彼は、気付いてくれない。

私の方に振り向いてくれない。

 

「…ねぇ、カヨコちゃん。カヨコちゃんは、その人のどこが好きになったの?」

 

顔を伏せて、彼が言う。どんな表情をしているかは分からないけど、声が少しだけ震えていた。

 

どこが好きになったのか。そんなもの、全部に決まっている。

 

「…とっても優しい人で」

 

「うん」

 

「それに、すごくかっこいい。だけど、たまに可愛い時もあって」

 

「…うん」

 

「でも、私がどれだけアピールしても気付いてくれないくらい鈍感で」

 

「……うん」

 

「一緒にいるだけで楽しくて、幸せ。そんな人」

 

この程度では言い足りないくらいに、好きな所が沢山ある。

 

その優しい声音が好き。

料理が上手な所が好き。

コロコロと変わる表情が好き。

芯が通った所が好き。

お酒や煙草を嗜んでいる大人な姿も好き。

頑張って働いてる姿も好き。

 

全部、全部が好き。

 

アラタが顔を上げた。その表情は、さっきよりもずっと、苦しそうで、辛そうだった。

 

「そっか、すごくいい人なんだね。カヨコちゃんが、その人のことがとっても好きなんだっていうのもよく伝わったよ。…きっと、カヨコちゃんなら上手くいくと思う」

 

プチンと、何かが切れた音がした。

あぁ、駄目だ。ここで、このままでいたら。それこそずっとこのまんまだ。なんの根拠も無いけど、それだけは分かる。でも、どうしたら。

 

ふと、グラスの中の琥珀色の液体が目に入った。

 

「…ねぇ、アラタ」

 

「どしたの?…っあ!?!?」

 

彼を呼んで、しっかりと私の方を見させる。

そして彼が飲んでいたグラスを手に取り、その中身を口に含んだ。

…あまり、美味しいとは感じない。味わったことの無い風味が口の中を埋め尽くす。

 

「ちょっとカヨコちゃん!?飲んじゃダメだよ!?吐き出して!」

 

彼の言葉を無視して、口の中に含んだものを飲み込んだ。

喉が焼けるような感覚がして、つい顔を顰めてしまった。

どうやら私にはまだ早いみたいだ。

 

「飲んじゃダメって言ったじゃんか…」

 

別に酔ったわけでは無いけど、ワザとフラフラと彼の方に向かう。

そのまま彼に撓垂れ掛かった。

 

「だから言ったのに…ウィスキーは度数が強いんだから、お酒飲んだ事ない人が飲むものじゃないんだよ。そもそもカヨコちゃんは未成年だから、お酒自体ダメなんだけどさ」

 

力を抜いて彼に身体を預ける。しっかりとした男性の手が、私の身体を支えた。ドクン、と脈が跳ねる。

 

「お説教は後でするから。とりあえずお茶飲んで」

 

渡されたグラスの中身を飲み干す。

 

「大丈夫?立てる?」

 

アラタが心配そうにそう言う。私はそれに対して首を横に振った。

まぁ、ホントは全然平気なんだけど。

 

「うーん…横になった方がいいかも。ちょっと失礼するよ」

 

片方の手を前に、もう片方の手を膝の裏に回され、持ち上げられた。

所謂お姫様抱っこというやつだ。

心臓がかつて無いほどに暴れ回る。顔も段々と熱を帯びてきた。

 

そのまま私は運ばれて、彼の部屋のベッドに寝かせられた。

月明かりが射し込んで、少し眩しい。

 

「とりあえずビニール袋と紙袋用意しなくちゃ。あと水と、それから…」

 

「アラタ」

 

「大丈、ぶっ!?」

 

そのまま部屋から立ち去ろうとする彼を呼び止める。

そして手を掴んで、ベッドの中に引きずり込んだ。

 

「ちょ、ちょっと?カヨコちゃん?」

 

丁度アラタの顔が私の胸の辺りに来るような感じになった。ちょっと恥ずかしいけど、それ以上の幸福感が全身を支配する。ぎゅっと、彼を抱きしめる。

 

「あの、離して…?これは流石にマズいよ…?」

 

どうにかして抜け出そうと藻掻くアラタを、離すまいとさらに強く抱きしめる。

暫くしたら、ぱたりと動かなくなった。だけど彼のヘイローはまだ健在なので、意識を失った訳では無いと思う。

 

「…ねぇ。私の好きな人、わかった?」

 

返事は無い。でもきっと、聞いている筈だ。

 

「これも、アラタにしかしたことない」

 

「……」

 

彼は何も言わない。ここまですれば流石に分かると思うけど。

きっと、自信が無いんだと思う。そういう所は、私と一緒だから。

 

「それにさ。前にも言ったかもしれないけど…嫌だったら、こんなことしないよ」

 

ぴくりと、彼の身体が少しだけ動いた。

 

「……カヨコちゃん」

 

「うん」

 

「俺さ、分からないんだ。きっとそうなんだろうと思うんだけど…もし、違ったらどうしようって考えたら。どうしても、自信が持てない」

 

彼の独白を黙って聞く。きっとそれが、必要な事だから。

 

「今までこんなこと無かったから、こんな気持ちになったことが無いから。怖いんだ。間違えるのが。自分のことを信じるのが。…ここで、終わってしまうのが」

 

…あぁ、やっぱり。彼と私は似たもの同士なんだな。

 

抱きしめていた彼を離して、目線を合わせる。怯えや恐怖で今にも泣きそうになっている彼と。

 

「じゃあさ」

 

アラタが答えをくれないなら。

 

「答え合わせ、しよっか」

 

間違えるのが怖い。

自分の事を信じるのが怖い。

ここで終わってしまうのが怖い。

 

それなら。

 

間違えようの無い答えを。

自分の事を信じられる答えを。

ここから始まるんだと思える答えを。

 

私が彼にあげよう。

 

彼の両頬に手を添える。包み込むように、優しく、柔らかく。

 

そうして、顔を近づけて。

 

私とアラタの唇が、重なり合った。

 

子供騙しのバードキスでは無い。

愛し合う大人同士がする、ディープキス。

 

お互いの舌と舌が重なり、混ざりあって。

私と彼の境目が溶けて無くなったのかと錯覚するような。

 

好きだからする、愛の証明。

 

私がアラタを好きになったという、その答え。

 

どれくらいの時間そうしていたかも分からない。

ただ、気付いたら唇は離れていた。

 

お互いから伸びた糸が、艶めかしく垂れる。

 

「…これが、私の答えだよ」

 

私は、これ以上ない答えを出した。

だから今度は、そっちの番。

 

「アラタの答えも、教えて?」

 

彼の手が、ゆっくりと私の両頬に添えられる。

 

段々と、彼が近づいて。

 

再び、唇が重なり合う。

 

それは、私がしたことと全く一緒で。

自分の恋を証明する為の行為。

 

でも、私の答えはもう出ているから。

 

それは、互いの愛を確かめ合う為の行為。

 

ーーこれが、貴方の答えなんだね。

 

良かった。私と同じで。

アラタも、そう思っていてくれたんだ。

 

愛おしさが、好きという気持ちが溢れ出て。

今まで以上の幸福感が全身を駆け巡る。

 

しばしの口付けのあと、彼が、離れていく。

 

「あ…」

 

それが途方もなく切ない。物足りない。

 

「…怖がる必要なんて、無かったんだね」

 

「それはお互い様だよ。私も、ずっと怖かったから」

 

だけど、お互いの気持ちを知った。

好きなんだと知れたから。

愛しているのだと知れたから。

もう、怖くは無い。

 

彼が少し照れくさそうにしながら、太陽のような明るい笑顔で笑いかける。

 

「えーっと…。改めて、これからよろしくね。カヨコちゃん」

 

「…もう、離さないから」

 

 

三度、影が重なり合う。

 

窓から神々しく射し込む月明かりは。

まるで思いの通じあった私達を、祝福しているかのようだった。

 

 





はい。つーわけでカヨコの話はここまでとなります。
くっつくとこまでしか考えて無いからですね。

今後は番外編的なのを幾つか上げながら、他キャラの話を作っていく予定です。
どれくらい時間が掛かるかは分かりませんが、長い目で見て頂けると幸いです。


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