キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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今回の話は単話にするかクソ悩みました。





聖園ミカの場合
EP.1


 

 

『おや、これは…はじめまして、小さなお姫様。本日はどのようなご要件でしょうか?』

 

今でも時折夢に見る、あの人と初めて会った時の記憶。

 

『成程。ご両親とはぐれてしまったと。貴女のお名前は?』

 

『聖園、ミカ…』

 

私がまだ、幼い頃の記憶。

 

『聖園様ですね、少々お待ちください。…シン、迷子センターまで連絡を』

 

『あぁ?なんで俺が…。ちっ、サングラス買いに来ただけだってのによぉ…』

 

私の、大切な記憶。

 

『あの…』

 

『心配なさらなくとも大丈夫です。そのような不安そうな顔もお姫様には似合いませんので、笑っていてください。こうやって…ええ、そちらの方がやはり似合いますね。とても可愛らしいですよ』

 

『…お前、そういう趣味だったのか……?…いっ!?痛って!!?』

 

『何を訳の分からないことを。張り倒しますよ』

 

『バカお前、口より先に手を出すなって!てか九歳下のガキに手ぇ上げんな!大人げな…ぎゃっ!?イダダダ!!?』

 

私が、恋をした記憶。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

ショッピングモールのとある一角。キヴォトス内でも有名な眼鏡屋に私は足を運んでいた。

 

理由は勿論、私の好きな人に会うため。

 

「やっほー☆遊びに来たよー!」

 

「おや、聖園様。本日はどのようなご要件で?」

 

「もー、相変わらず冷たいなぁ。遊びに来たんだってば〜」

 

東雲レン。私が幼い頃に初めて会った、私の初恋の人。

その時は名前も何も知らなかったけど、一年くらい前にたまたまショッピングモールで再会して、彼のことを知った。レンさんは私の事を覚えていないだろうけどね。

 

見た目からは全然分からないけど、三十七歳らしい。あの時と全然変わってないし、とてもそんな年齢には見えないから知った時は驚いちゃった。

 

「見ての通り私は勤務中ですので。個人的な用であればまた後程お願いします」

 

「レンさんのケチんぼ!」

 

「私はケチではありません。真面目と形容してください」

 

確かにお仕事中に来た私も悪いかもしれないけど、そんなにつっけんどんにしなくてもいいと思うんだけどな。

 

わざとらしく頬を膨らませてみれば、レンさんは分かりやすく顔を顰めた。

 

「…はぁ。そんな顔をしても駄目ですよ」

 

「でも、レンさん仕事終わったらすぐ何処かに行っちゃうじゃん」

 

「私だって休みたいですからね」

 

いつもこんな感じで、レンさんは私の相手をあんまりしてくれない。

お休みの日だって大体何処かに行っちゃってるし。なんなら勤務中の時間ですら何処かしらに行ってることもあるくらいだ。

 

ブーブー言ってると奥の方から店員さんが出てきた。呆れたような表情をしてレンさんを見ている。

 

「店長。私が店番をしておきますので、聖園様と一緒に息抜きでも如何です?」

 

「何を寝惚けた事を。店長たる私が店に居なくてどうするのです」

 

「寝惚けた事を言ってるのは店長でしょうに。カップルを見かけると勤務中であろうとすっ飛んでいくのは何処の誰でしたかね。ねぇ、店長?」

 

「⋯⋯⋯」

 

店員さんの言葉に黙りこくるレンさん。そうだよね、そんなこと言われたら言い返せないよね。というか、店員さんの圧が凄いや。

 

「ほら、早く行ってきてください。聖園様が首を長くして待ってますよ」

 

「⋯分かりました。では、少し行ってきますので。その間はお願いしますよ」

 

パタパタと手を振る店員さんに見送られて私達はお店を出る。

⋯さて、これからどうしようかな。正直な所、レンさんと居られればなんでも良いんだよね。

 

「⋯何しよっか?」

 

「特段やりたいことも無かったのですか?」

 

「うん。レンさんと居たかっただけだから⋯」

 

はぁ、と大きく溜息。そんなに分かりやすく呆れた感じを出さなくてもいいじゃん⋯。

 

「⋯貴女は本当に不思議な人ですね。では、適当に歩きながら気になった所に行ってみましょうか」

 

そう言ってスタスタと歩いていってしまう。そんな彼を慌てて追いかける。身長に比例して足も長いレンさんに歩幅を合わせるのは少し大変だけど、そんなことは気にならないくらい一緒に居られることが嬉しかった。

 

最初はブティック。その次は小物が売っているような場所へ。ジュエリーショップや本屋、文具屋なんかにも行った。全部私が気になって、でもレンさんは興味が無いだろうと思い入るのを止めようとした所。

素振りも見せてない筈なんだけど、彼にはお見通しのようだった。

 

「結構色々買いましたね⋯」

 

「ねー」

 

私の両手には大量の紙袋。お店に入る度に何かしらを買っていればこうもなる。けどそのどれもがレンさんが選んでくれた物で、私としては買わない理由が無かった。

 

今は二人で並んで歩いているんだけど⋯なんだか違和感を感じて隣を見て、最初は上手く合わなかった歩幅がピッタリとあっているのに気付いた。

 

「レンさん、ありがとうね」

 

色んな事に対しての、ありがとう。どれだけ言葉を並べようと、この人は素直に受け取ろうとはしないから。

 

「はて、一体なんのことでしょうか。少々歩き疲れたので、歩く速さが少しばかり遅くなったのかもしれませんね」

 

「私、歩く速さの話なんてしてないよ?」

 

「……」

 

墓穴掘ったね。彼は私の言葉にそっぽを向いてしまった。恥ずかしかったのかな?

 

「え〜?レンさん歩幅合わせてくれてたんだ〜?やっさし〜!」

 

「⋯可愛くないですね」

 

あっ!それは女の子に言うべきじゃないでしょ!ちょっと今のは酷いんじゃないかな!?美容とかファッションとか、それなりに気を使ってるんだけどなぁ!?

 

そんな感じでしばらく歩いていると、少し先にゲヘナの生徒が三人くらい目に付いた。それを見て、つい歩みを止めてしまう。

 

「⋯うわ」

 

「聖園さん?どうされましたか?」

 

「あれ⋯」

 

「あれ?⋯あぁ、ゲヘナの生徒ですか。今日も元気ですねぇ」

 

皆が使う場所だっていうのに、大きな声で騒いでる。走り回ったりとかもしてて、それを近くのお店の店員さんが止めにかかっているようだ。

人に迷惑ばっかりかけて、本当にゲヘナって好きになれない。

 

露骨に嫌な顔をしてしまっていたからか、レンさんが声をかけてきた。

 

「聖園さんは、ゲヘナが嫌い⋯ですよね。その反応を見れば大体分かります。しかし、何故です?貴女はトリニティの方ですから、土地柄というのもあるでしょうけど…。過去に何かされたとか、そういった理由なのでしたら答えなくても良いのですが」

 

「うーん⋯特に何かされたこととかは無いんだけどね。でもゲヘナの人達って粗暴だし色んな人達に迷惑かけてばっかりだしさ、それにツノとか生えてて気持ち悪くない?なんかこう、生理的に無理って感じ?」

 

純粋に、ただ純粋にそう思っただけ。何かされたわけでもなく、何を言われたわけでもなく。トリニティとゲヘナの仲の悪さっていうのもあるし、私達とは根本から違うんだなと行動や姿から思ってしまう。それだけの事。

 

でも別にそれは特段おかしい事だとは思わない。だって皆そうだから。皆が私と同じように、そう思っているから。ナギちゃんやセイアちゃんみたいにエデン条約を結んで仲良くしていきたい…とまでは言わなくても、争うことを止めたいって娘も一定数居るけど。

 

大体のトリニティの人達は思ってる。ゲヘナは不倶戴天の敵で、汚らわしいツノ付きだって。

 

だから、そう答えたんだけど。

 

「……そう、ですか」

 

何故かレンさんはとても悲しそうな顔をしていた。まるで、仲の良かった友達に裏切られたかのような、とても悲しそうな顔。どうしてそんな顔をしているのか、私には全く分からない。

 

だってそれは私にとって普通のことで。

だってそれは他の誰にとっても当たり前の筈で。

 

「レンさんはゲヘナ嫌いじゃないの?」

 

そう思うのも当然の事だった。そんな悲しそうな顔をする理由は、私には思いつかなかったから。でも、現実はそんなに優しいものではなくて。

 

私が、彼を傷つけたんだと理解するのはそう遅くなかった。

 

私の言葉に対して、レンさんは何かを言うわけでもなく髪をかきあげる仕草をする。男性にしてはそれなりの量がある彼の髪の毛。それらを大きな手が分けて行って、そこでようやく気が付いた。

 

「……あ、え?」

 

ツノが、ある。

 

小さな、小さなツノ。髪の毛で隠れてしまうくらいには、小さな。

見せられなくては気付かない程度の大きさのツノ。

 

彼がゲヘナの人間であるという、動かぬ証拠。

 

彼はゲヘナの人とは内面も外面もかけ離れていると感じていたから。物腰柔らかで丁寧だし、いきなり暴れたりとかもしないし、優しいし。羽や尻尾があるわけでもなく、ツノは…あったけど。それも見せられなくちゃ分からなかった。

 

だから、レンさんがゲヘナの人だなんて、そんなこと。私は全く知らなかったし、全然そんな話聞いた事も無かった。

 

ふと、さっきの自身の言葉がフラッシュバックする。

 

『ツノとか生えてて気持ち悪くない?なんかこう、生理的に無理って感じ?』

 

ーーなんて、ことを。

 

「聖園さん」

 

酷く冷たく感じる声音だった。いつもとそう変わらない筈なのに。

前を向けない。一体どんな表情をしているのだろうか。怖くて見たくない。聞きたくない。

 

「返事はしなくても結構ですよ。そのままで聞いてください」

 

ギュッと目を引き絞る。どれだけの叱咤が待っているのだろうか。それとも、何も言わずに立ち去ってしまうのかもしれない。もしかしたら、叩かれるかもしれない。蹴られるかもしれない。でも、その全てを私は受け入れなくてはいけない。

 

だって、私が悪いから。私が、レンさんを傷付けたから。

 

でも、彼はそんな事は微塵も考えていなかったようで。

 

「…私は聖園さんの事、嫌いじゃありませんよ」

 

「…へ?」

 

予想だにしない一言に間抜けな声が漏れる。顔を上げれば、いつも通りの無表情をした彼。

 

「そもそもの話、『トリニティだから』『ゲヘナだから』なんて区別を付けるのがおかしな話なのです。その地域の風潮や特色といったものは、どうしてもあるとは思いますがね」

 

私はただ、黙って話を聞く。でもそれは言い返せないからとか、そんな理由じゃなくて。レンさんの発言には、自然と惹き込まれるようなものがあったから。

 

「ツノが生えてる。耳が生えてる。尻尾が生えてる。羽が生えてる。何処の地域にも居るでしょう、そんなありふれた特徴の人達など。多少の偏りはありますが、それがなんですか。皆、等しく人間です」

 

その言葉は力強くて。確かな説得力があって。だからこそ、私の抱えていたものは簡単に砕けて無くなった。

 

「私は個人を見ています。産まれ育った場所なんぞに囚われずにね。…そして聖園さん。私は貴女のことを好ましく思っていますよ。貴女はどうでしょうか?私がゲヘナの出身だと知って、嫌いになりましたか?」

 

そんなわけない。私が貴方を嫌いになるだなんて、そんなことがある筈がない。だって、ずっと好きだったから。幼い頃からずっと。初めて会った時からずっと。

ゲヘナだとかトリニティだとか、そんなのは関係ない。

 

私はレンさんの事が好きだから。

東雲レンという男性のことを、私が好きになったから。

 

「…ううん。私はレンさんのこと、嫌いになんてならないよ」

 

自然と、笑顔になった。不安そうな顔は似合わないと、いつかに誰かが言ってくれたから。

 

「それはそれは。私のような者には勿体ない言葉ですね。それと…ええ。やはり貴女には笑顔が似合いますよ。お姫様」

 

ドキリと心臓が跳ねる。まさか、覚えてるとは思わなかったから。もう十年以上前の、たった一度だけ。偶然助けて貰った時の会話を。

 

「レンさん…それって…」

 

「一体なんのことでしょうかね?私はただ、思ったことを口にしただけですよ。それがたとえ、貴女が過去に聞いた誰かの発言と重なろうとも。これが私の本心ですので」

 

「…そっか」

 

「はい、そうです」

 

本当に、不器用な人だと思った。丁寧な口調の裏にはちょっとトゲがあるし、嫌なこととかがあると露骨に顔に出る。でも、節々から見て取れる確かな優しさがある。そんな彼だからこそ、私は好きになったんだと思う。

 

 

「因みにですが、私も昔はトリニティの人達が大嫌いでしたよ」

 

「…えぇ?そうだったの?」

 

「はい。ですから、聖園さんの考えもまるっきりおかしいというわけでもないということです。…良き出会い。それが人を変えるのですよ。私がそうでしたから」

 

そういう彼の表情は何かを懐かしむようで。

初めて見る、どこまでも楽しそうな笑顔だった。

 

 

 





〜キャラ設定〜

東雲レン(37)

眼鏡屋『Love glasses』の店長。
ゲヘナ学園を卒業して直ぐに店を立ち上げ、瞬く間にキヴォトス有数のブランド店にのしあげた凄腕。
初めは眼鏡自体にそこまで拘りは無く、自分で眼鏡を作れたらいいんじゃないか?という考えと初恋の人が眼鏡をかけていたからという理由で眼鏡屋を立ち上げた。
ミカとの出会いは彼が二十五歳の頃。両親とショッピングモールに来て迷子になった彼女を助けた。
ゲヘナ学園所属当初は今とは比べ物にならないくらい粗暴だったが、とある中華料理屋の女将さんに一目惚れしてから人が変わったかのように大人しくなる。しかし既婚者であった女将さん相手に玉砕。そこから様子がおかしくなり、現在の恋愛キチへと変貌する。
趣味は恋愛観察。ひとたび恋の香りを嗅ぎ付ければ、どこにでも現れる。
喫煙はしない。飲酒はするが、嗜む程度。
ミカのことは悪くは思っていない。だが、彼女の想いに気付いてはいるものの応えるつもりも無い。過去の思い出に気持ちが引っ張られているだけで、その内ミカにも良い出会いがあるだろう、程度に考えている。


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