…こんなに期間空けるつもりはなかったんです。本当なんです。
ただ最近、仕事が忙しかったり…ダンジョン飯見たりしてたら…そのぉ…。
はい。すいません。次もいつ上げられるかは分かりませんが、できるだけ努力します。
今日は休日。週に一度有るか無いかの大事な日です。
そんな日は家に引きこもってダラダラと怠惰の限りを尽くす⋯なんてことはありません。そういった休日に憧れる気持ちもありますがね。しかし、寧ろせっかくの休みだからこそ。誰にも邪魔をされずに好きなことに没頭できるというもの。
私の好きなこと⋯即ち『恋』を観察すること。
世に必要なものは金でも力でもなく愛なのだと、過去に教えてもらったが故に。私は追いかけ、観察し、理解を深め。そうして心を満たしてゆくのです。
目立つようなことの無い最低限度の身だしなみを整えた格好。
嵩張る荷物は持たずにペンとメモ帳のみを携帯。勿論スマホと財布は持ってます。他は特に何もありませんがね。
今の私に隙などありません。誰にも邪魔をされることなく、満足のいく一日を過ごしてみせましょう。
ふふ。待っていてください。美しく瑞々しい、若き恋の芽達よ。私が今、行きますよ。
⋯⋯と、思っていた時が私にもありました。
「ねぇねぇお兄さん。ちょっといい?」
とある男女の噂を聞きつけた私は、トリニティへと足を運んでいました。
ゲヘナ出身の私が本来敵地であるトリニティに入り込むのは、少々危険が伴う行為ではあるのですが。そんなものは私には関係ありません。なにせそこにうら若き男女の恋があるのですから。それに私のツノは小さいですからね。毛量も多いですし、見た目ではまず分からないでしょう。
ともかく、噂を頼りにトリニティ内を練り歩いてようやく噂の男女と思わしき二人組を見つけたのです。そこまでは良かったんですが⋯。
「ちょっと!聞いてるー?」
「おにーさーん?」
いざ!というところでこの三人に捕まりました。制服を見た限り、トリニティの生徒のようですね。見覚えの無い方々なので私の知り合いでは無いです。
一体何なんでしょうかね。声をかけてくるということは何かしらの用事があるのでしょうけど、私じゃなくても良いじゃないですか。他を当たってもらうことは出来ないのでしょうか。
なんて思いの元、返事をせずにいたのですが向こうもそうはいかない様子。中々引くことをしません。
⋯無視を続けるのも良くないですね。
はぁ⋯面倒くさい。
「⋯なにか御用でしょうか?」
「あっ!返事した!」
「聞こえてないのかと思ったよー」
「ほんとにね」
私が返事をした途端に、三人で顔を合わせてキャッキャと騒ぎ出しました。騒ぎ出すのは構わないのですがね。そのまま内輪だけで話し始めるのも如何なものかと思います。声をかけて来ておいてそれは無いでしょうに。
「⋯あの」
「てかさ!やっぱり当たりじゃない!?」
「めっちゃかっこいいもんねー」
「あたしの言った通りだったでしょ?遠目から見てもビビッと来たもん」
⋯早く要件を伝えて欲しいのですが。いつまで三人で話してるつもりなのでしょうか。時間は有限。時は金なり。私にとってこの時間は無駄に等しく、金をドブに捨てているも同然です。
まして休みの日にこれでは目も当てられません。だんだんイライラしてきました。
「⋯聞いてます?」
「あ!ごめんごめん!」
「ちょっと話し込んじゃったー」
「⋯まぁ、いいでしょう。それで、何か用があったのでは?」
「それがさ!私達今暇なんだよね!」
⋯?話が見えませんね。それが?の一言で終わってしまうのですが。貴女達が暇をしていて、何故私に声をかけるのです?としかなりませんけど。
⋯まさか私が何をしているのか分かっていて、邪魔をする為に声をかけてきたのでしょうか?それなら納得のいく理由付けになりますね。
「⋯はぁ⋯?」
「それでーおにーさんも丁度暇してるみたいだったからー」
「お兄さんに声をかけたの。どう?私達とご飯でも食べに行かない?」
…暇?今この方々は私が暇をしていると言ったのです?
それなら見当違いもいい所ですね。早いところどこかへ行って貰いましょう。ぶっちゃけ邪魔です。
「残念ながら私は暇ではありません。申し訳ありませんが他を当たってください」
「えー?そんなこと言わずにさー?てか声小さくて可愛いーねー」
「いいじゃんいいじゃん!ちょっとだけだから!」
⋯分からない人達ですね。暇では無いと口にしているでは無いですか。しつこい人は男女関係無く嫌われますよ。それともやはり、私の邪魔をしようとしているのでしょうか。
「この後用事がありますので、貴女達と共にいるのは難しいのですよ。ですから他の方に声をかけてください」
「その用事までの時間だけでいいからさ」
「そうそう!待ってる間暇でしょ!」
ほんと何なんですかね。アイカさんと聖園さん以外のトリニティの連中は皆、こうなのでしょうか。もしそうだとしたらトリニティ嫌いが再発しそうなんですが。
「…無理なものは無理です。諦めてください」
「じゃあさー。連絡先交換しよー?そしたら今日は諦めるからー」
「それいいね。モモトーク交換しよっか。暇な日があったら教えてよ」
…この人達は脳みその代わりに頭の中に綿でも詰めてるのでしょうか?でなくてはこんなに会話が出来ない訳無いと思うのですが…。
…あぁ、クソ鬱陶しいですね。ガチャガチャといつまで騒いでいるつもりなのでしょうか。
はっ倒して二度と知らん人間に話しかけられないようにしてやりましょうか。それとも、背中の翼を引きちぎって表に出れないようにしてやるのも良いかもしれませんね。
「お兄さん!早くモモトーク開いて!」
「ねーはやくー」
「ほらほら、皆待ってるよ?」
周りに人も居ませんし、やってしまっても大丈夫でしょう。所詮はお嬢様学校のボンボン。大した抵抗もできやしないでしょうから。
よし。やりますか。
「…それよりも先に貴女方のーー」
ドガァァァァァン!!!
「「「「!!?」」」」
唐突に背後から鳴り響いた破壊音によって、私の思考は正常なものに引き戻されました。振り返ればそこにはバラバラに砕け散った建物。そして、何かを殴ったかのような体制をとっている私のよく知る人物が。
「…聖園さん」
…えっと。
ここに何故いるのかはさておいて…まさかあの残骸を作り出したのは彼女なのでしょうか。建物だったもののすぐそばに居る訳ですが…その…粉々なんですけど…。
少しの間様子を伺っていても、ピタリとも動かない聖園さん。俯いていて表情すら分からない彼女に少しばかりの恐怖を覚えます。
いやだって、いつもあんなに騒がしい方がこんな感じだったら怖いでしょう?まぁ、彼女はとて静かな時は静かですけど…そういった時には、不安などのマイナスに近い感情が見て取れるのでまだ分かるのです。
しかし今回に関しては何一つとして分かりません。
これでも人の感情には機敏な方だと自負していたのですがね。ずっと黙っていて、体勢すら変わらないのが特に恐怖感を増す要因なのでしょうか。
兎にも角にも、このままという訳にはいきませんね。丁度良い口実もできたことですし、噂の男女のことは口惜しいですが…早いところ退散しますか。
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特に目的も無く街中を歩いていたらレンさんを見つけた。
ゲヘナの出身である彼がトリニティに居るとは思ってなかったから、少し驚いたんだけど…そんなことはすぐに気にならなくなるくらい嬉しかった。今日はお店もお休みだから会えない筈だったし。
だから、ラッキー、今日はツイてるな。なんて思ってたんだけど。そんな考えは一瞬で霧散した。
彼と一緒に女の子が三人居たから。
見たところトリニティの生徒のようで、レンさんと話しているみたい。
誰だろう、知り合いなのかな?でもそんな話は聞いた事ないし…。
とりあえず隠れつつ話が聞こえるくらい近くに行ってみよう。それでどんな関係なのかとか知ればいいや。
「⋯あ…」
「て…!やっぱ…あ…じゃない!?」
まだ聞き取り辛い。もうちょっと近くに寄って…。
「めっちゃかっこいいもんねー」
心臓がキュッと締まったような感じがした。
レンさんが格好いいのは分かる。私が彼の事を好きっていうのを抜きにしたって、それくらい整った顔立ちだから。
でもそれを態々面と向かって言うってことは、あの娘達も私と同じような気持ちを持っているということで。
私にあれだけはっきりものを言うレンさんは、何故か何も言わない。ここからだと背中しか見えないから、表情とかはよく分からないけど。でも、身動き一つとらずに黙々と彼女等の話を聞いている。
それがあの娘達を受け入れている証左になる訳で。
ーー私なんかより、あの娘達の方が良いんだ。
自然と、涙が零れる。
嫌だ。私はずっと、ずーっとレンさんが好きだったのに。初めて会った十数年前から、ずっと好きだったのに。
それがあんな、ぽっと出の娘達に取られるなんて耐えられない。
これがナギちゃんとかならまだ諦めがつく。だけど、私はあの娘達を知らない。話を聞いたこともない。だから嫌で嫌で仕方ない。レンさんが取られるのが。レンさんがそんな娘達を選ぶのが。
手に力が入る。握りこんだ拳の中から血が滲み出してくる。多分、今までの人生で一番力を込めたかもしれない。
行き場の無い怒り、悲しみ。それ等をぶつける先すら見つからずに力の籠った拳は右往左往する。
そして私が丁度身を隠していた建物に触れて。
その瞬間。建物は大きな音を立ててバラバラに砕け散った。
レンさんと、一緒に居た女の子三人の視線がこちらに向く。別に見られること自体は慣れてるけど、なんだか無性にその視線が痛く感じた。
「聖園さん…」
呼びかけられるけど、答えられない。答えたいけど、声が出ない。
返事をするべきなのは分かってる。でも、自分でもどうしようもないくらいにこの気持ちの整理がつけられなくて。
彼が私の方を見ている。あの娘達よりも、私のことを優先してくれている。それがどうしようもないくらいに嬉しくて。
そんな気持ちを抱く自分の浅ましさに吐き気を覚える。自己嫌悪でぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
辛くて、悲しくて、苦しくて。色んな感情がごちゃ混ぜになって、ただ俯いていることしか出来ない。
コツコツと靴の音が鳴り響く。それは段々と私の方に近づいてきて、目の前でピタリと止まった。
俯いている私の視界に、男物の革靴が映る。
「待ってましたよ、聖園さん」
「…へ?」
「さぁ、早速行きましょうか。予定も押しているのでね。…では、そういうことですので。失礼します」
「え?いや、ちょっ」
手首を掴まれてグイグイと引っ張られる。急すぎる展開に頭が追いつかない。さっきまでレンさんと一緒に居た娘達もぽかんとしている。
訳も分からず、しばらくの間されるがままに歩き続ける。そうして人通りの多い場所まで来た所で立ち止まった。
「ここまで来れば良いでしょうか。…しかし、助かりました。まさか貴女があの場面で現れるとは」
「えっと…ちょっとよく分かんないんだけど…?」
「あの三人組に絡まれていました。食事だ連絡先だと鬱陶しかったので、病院送りにしてやろうかと考えていたのですがね。聖園さんが上手い具合にやってくれた訳です」
「え…?」
それはおかしい。だって、レンさんはあの娘達の話をちゃんと聞いてあげてたし、それに嫌なら嫌って言う筈なのに何も言ってなかった。
「で、でも…レンさん、結構あの娘達と話してなかった?会話の内容とかはあんまり聞き取れなかったから分かんないけど、そんな嫌がってる様には…」
「会話…会話?あれは向こうがベラベラと喋ったり誘ったりしてきて、それを拒否するだけの作業でしたよ。私は嫌で嫌で仕方なかったですし。とてもじゃないですが、会話とは言えないかと」
「じゃあ、あの娘達がレンさんのことかっこいいって言ってたのは?」
「そんなこと言ってました?仮に言われてたとしても、全く嬉しくないのでどっちでもいいですけど」
…つまり…全部私の勘違い?
「…良かったぁ〜…」
安心したら力が抜けてその場にへたり込んじゃった。
でも、そうなっちゃうくらいには色々とあの短時間で考えてしまっていた。それも全部杞憂だったみたいだけどね。
「大丈夫ですか?ちょっと無理に歩かせ過ぎましたかね…?」
「ううん、大丈夫。ただ、ちょっと安心したら力が抜けちゃって」
「安心したって…何か不安なことがあったので?」
…これ、言わなきゃいけないのかな。面と向かって言うのはちょっと恥ずかしいんだけど…。でも言わないとレンさんも分かんないままだし…。
「…その…れ、レンさんがあの娘達に取られちゃうんじゃないかと思って…」
「取られるって…私は誰のものでも無いのですが」
「う…それは、そうなんだけど…」
顔に熱が集まるのを感じる。多分、私の顔は今真っ赤に染まってることだろう。
そんな私を見てなのか、彼はクスクスと笑いだした。
「ふふ。顔、真っ赤ですよ」
「言わないで……」
「ですが、まぁ…」
そこまで言って、黙り込む。
私の方を見てレンさんは、いつもの無表情とは違う穏やかな表情をしていた。
「今後も含めて、私が誰かに取られるということはありませんよ」
その言葉の意味はすぐに理解できたけど、一つだけ気になることが。
彼の言う『誰か』の中に、私も含まれちゃってるのかな。
「それってさ…私も?」
「……さぁ?どうでしょうかね。ところで聖園さん」
「?どうしたの?」
改まって、なんだか真剣そうな声音。少し身体が強ばる。
「…先程壊した建物はそのままで大丈夫なのですか?」
「……ぴゅー…」
私って、案外口笛が上手いんだなぁ。
レンは機嫌が悪い時、声が小さくなるという設定があったりします。
ミカといる時に声が小さくなったことは無いです。