キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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「ボウズ」

「…放っておいて貰えませんか」

「そういう訳にもいかんべよ…。…なぁ、レン」

「………」

「返事はしなくていい。聞くだけ聞け。いいか?…これから先、遠いか近いかも分からない未来に。本当の『運命』がお前に訪れる」

「……そんなもの、ないですよ」

「分からんぜ?世の中、必ず決まってることなんざ何一つ無いのさ」

「それでもです。…私は、あの人のことを忘れられない」

「忘れないに越したことはねぇさ。覚えてる方がアイツも喜ぶ」

「なら、やはり私にもう一度『運命』が訪れることなんてありません」

「…じゃあよ。約束しろ」

「…約束、ですか?」

「そうだ。これをお前にやる」

「それは…」

「お前がもし、もう一度『運命』だと思えるような出会いをしたら…その時は返せ。それまでは、お前が持っておけ」

「…良いのですか?だって、これは、貴方が…」

「良いも悪いもあるか。他人じゃないんだ。お前も俺とアイツのガキみてぇなもんだからな」

「…私、そんな倒錯的な趣味は無いのですが」

「カカッ!憎まれ口は凹んでても変わらんな!」

「……ありがとうございます」

「…気にすんな。お互い様ってやつよ」




EP.8

 

 

雲一つ無い晴天の空の下。私はとある場所を訪れていました。

 

「こんにちは。…お久しぶりですね」

 

挨拶をしたところで、返事が来ることは有りません。

しかし、確かに聞いてくれていることでしょう。

 

「今日は幾つかの報告を。お二人には話しておきたいことばかりです」

 

文字が刻まれた大きな石。それは良く手入れされており、私以外にもこの場所に来ている人が居る証拠となっています。

あと、缶ビールが置いてありますね。恐らくはシンでしょう。

 

「…シンが既に来ていたのであれば、聞いたとは思いますが…アラタ君、彼女が出来たのですよ」

 

彼がこの世に生を受けてから二十二年。その頃から彼を見てきた身としては、感慨深いものがあります。

私は彼らとは血の繋がりもない赤の他人ですが…それでも、あの兄弟のことは弟のように思っています。

 

「彼は自身への好意にはかなり鈍感ですから、どうなる事かと心配だったのですが。…猫吉さん。貴方もその辺は心配されていましたね」

 

時折、アラタ君とシンが寝付いてから一杯付き合っていた時のことを思い出します。

男手一つで二人の子供を育てていくのは大変だったでしょう。色んな愚痴を聞かされたものです。

 

「一度様子を見に行ったのですが…えぇ。とても良いものを見せてもらいました」

 

仲睦まじい、などという表現ですら足りないと私は思いますね。できることなら、一生眺め続けていたいくらいです。

…まぁ、ミカさんに大分怒られてしまったので、しばらくは大人しくしておきますが。

 

「そして…シンも、恐らくは。そのうち彼もここに来るかもしれませんね。その時は、目一杯祝福してあげてください。多分、私には話してくれないと思いますので」

 

彼の口振り的にはまだ、そういった対象としては見ていなさそうでしたが…。遅かれ早かれだと私は考えています。

自覚が無いだけでしょう、あれは。好意は間違いなく寄せています。私が同じような感じだったのでよく分かるのです。

 

「シンが好意を寄せている方は…アイカさん、貴女と同じ桐藤の人なんですよ。血は争えないのかもしれないですね」

 

外から来たヘイローを持たない大人が恋をしたのは、桐藤の女性。その息子もヘイローを持たずに大人になり、父と同じように。

 

こうして文字に表すと、何か運命的なものを感じてしまいます。

 

「…貴方達が遺していった子供達は、愛する人を見つけて立派な大人になりました」

 

あんなに小さかった子供達が、気づけば私と肩が並ぶくらいに大きく。シンは私より背が高くなりましたし。

 

もうあれから、それだけの時間が経ったのです。

 

「時が過ぎるのは早いものですね。…今でも、あの頃のことは昨日のように思い出せます」

 

お二人と初めて出会った時のこと。

シンと初めて顔を合わせた時のこと。

アイカさんに想いを伝えた時のこと。

猫吉さんに喧嘩をふっかけた時のこと。

アラタ君が産まれた時のこと。

 

良いことも、悪いこともありましたが…そのどれもが、今となっては懐かしい思い出です。

 

「お二人には感謝しています。私が今の私になれたのは、間違いなく貴方達と出会ったからです」

 

アイカさん。貴女は私の『運命』でした。とても大事な、初恋の人。

貴女がいなければ、きっと私は。未だに人を傷つけることを厭わない人間のままだったでしょう。

 

猫吉さん。貴方は私のことを、自身の子供みたいなものだと言ってくれましたね。私も貴方のことは父のように思っていました。

貴方がいなければ、きっと私は。あの時、立ち直ることが出来ずに自らの生を終わらせていたでしょう。

 

「…だからこそ、聞いて頂きたい」

 

今日、ここに来た理由。貴方達に話さなくてはならないこと。

 

「実は私、好きな人ができたんです」

 

嗚呼。一体、どんな反応をしているのでしょうか。見たくても見れない、というのはむず痒いものですね。

 

『これから先、遠いか近いかも分からない未来に。本当の『運命』がお前に訪れる』

 

失意の底に沈んでいた私に、貴方はそう言いましたね。

愛する人を失って。生涯を共にする伴侶を喪って。自分だって辛かった筈なのに。私などよりも、余程。

 

「猫吉さんの言った通りでした。…本当の『運命』。それがようやく、私の元にも訪れたのです」

 

嘗て抱いた想いと、同質のもの。

もう二度と抱くことは無いと思っていた、それ。

 

「ミカさんという方なのですが、とても綺麗な方なんですよ。それに、一緒にいると幸せな気持ちで心が満たされるんです。たまにおかしな事をする時もあるのですが、それも彼女の魅力だと私は感じます」

 

天真爛漫で明るい彼女。共にいるだけで嬉しくなります。

時折見える暗い彼女。支えたいと思えます。

 

色んな彼女を見ました。その全てが、愛おしい。

今までの誰よりも、私の大切な人。

 

「最初は全然そんな気持ちは無くて、むしろ鬱陶しいくらいだったのですが。彼女と関わっていくうちに、段々と心惹かれていったのです」

 

気付けば、聖園ミカという少女が好きになっていて。そんな自分の気持ちに気付くのは、少しばかり遅れてしまったけれど。

 

「…確かにアイカさんは私の『運命』でした。これ以上は無いと思いました。それだけ、貴女のことが…好きでした」

 

しかし、嘗ての想いよりも、今抱くこの想いの方が大きく、強い。

 

「今日。その想いも、恋慕も。ここに置いていこうと思います」

 

この気持ちはもう、必要の無いものだから。

大切な思い出として、貴方達の傍に。

 

そして。

 

「どうか、置いていったものを拾いに来るようなことが無いように、見守っていてください」

 

今、抱いているこの気持ちが砕ければ。

きっと私は拾いに来てしまう。きっと私は過去に縋りついてしまう。

 

そんなことにならないように、どうか。

 

「…あぁ。あと、コレを返さないといけませんね。…約束、ですから」

 

私がかけていた眼鏡。猫吉さんから預かっていた、アイカさんの形見。

 

本当なら、直接返したかった。

 

「……さて。話したいことは全て話しました。日も傾いてきた頃ですし、そろそろ私は行きます。約束の時間に遅れてしまうので」

 

あの時と同じ、あの場所で。私は想いを伝えます。

 

「それでは、また」

 

お二人に背を向けた瞬間、大きな手に背を押されたような感覚がありました。過去に何度も経験した、とても落ち着く感覚。

 

「……?」

 

不思議に思い振り向きますが…誰か居る筈も無く。

気のせいかと、再び背を向けて歩き出したその時。

 

一陣の風が私の横を通り過ぎて行って。

 

確かに、聞こえたのです。

 

「行ってらっしゃい」

 

もう二度と聞くことが出来なくなってしまった声が。

二十二年の間、ずっと、ずっと想い焦がれた人の声が。

 

確かに。

 

「…えぇ。行ってきます」

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

夕陽が辺り一面を照らしている。

空も。近くを流れる川も。地面を埋める草花達も。

 

その光景は、この世のものとは思えないくらいに綺麗なもの。見るのは今回で二回目だけど、その感動は初めて見た時と変わらない。

 

「…お待たせしました」

 

「あっ!レンさんやっと来た!」

 

「すいません。少し野暮用を済ませていまして」

 

今日ここに来ているのは彼に呼ばれたから。

でも、こんな時間になんの用なのかな?

 

「今日はどうしたの?」

 

「…やはり、綺麗ですね」

 

私の質問に対してレンさんは、何故か夕陽ではなく私の方を見ながらそう呟いた。

 

「う、うん。綺麗だね…?」

 

「……」

 

それから今度は夕陽を眺めだして、めっきり口を開かなくなってしまった。どうしたらいいのかよく分からず、彼の方を見てみる。

沈みかけた陽の光に照らされた彼は、今まで見た中で一番かっこよく見えた。

 

ドキリと、心臓が跳ねる。

 

目を離すことが出来なくてずっと見つめていると、いつもと違う部分があることに気が付いた。

 

「あれ?レンさん眼鏡は?」

 

そう。眼鏡をかけていない。今までに無かったことだ。

違和感とかは無いけど、なんだか不思議な感じ。

 

お店以外で会うのもそう。

夕方に会うのもそう。

眼鏡をかけていないのもそう。

 

今日は、いつもと違うことばかり。

 

「返してきました」

 

「返したって…レンさんのじゃないの?」

 

「はい。私が、愛した人のものです」

 

その言葉を聞いて、一気に血の気が引いた。

愛した人。それはつまり、彼に好きな人がいるということ。

 

「…そう、なんだ」

 

これ以外に、何も言えなかった。

 

「二十二年前、あの眼鏡を預かり。今日まで肌身離さず大事にしてきました」

 

懐かしむように語る彼の声は、優しさに溢れていて。

だからこそ、本当に好きなんだと分かる。

 

「一度たりとも忘れたことはありません。それだけ、好きだった」

 

「…だった…?」

 

過去形で語られた想い。思えば、愛した人、というのも過去形だ。

 

「…故人ですので」

 

「……ごめん」

 

「大丈夫ですよ。貴女が生まれるよりも前の話ですから。いくら私でも割り切れます」

 

どう返事をすればいいか、私には分からなかった。

 

二十二年前、と彼は言っていた。そしてそれだけ好きだったと。

それはつまり、それだけの時間があってようやく。その人の不幸を、その人への想いを飲み込んだということ。

 

「…それでも、好きという気持ちはずっと残っていましたがね。正に、私にとっての『運命』でした」

 

「…そっか」

 

二十二年続く恋。『運命』と称する程の気持ち。

それは、どれだけの想いなのだろう。

きっと、言葉では表せないくらい途方も無いものなんだろうな。

 

それこそ、そこに私が入る余地なんて無いくらいに。

 

「…えぇ。しかし、返しました。約束したので」

 

「約束…?」

 

「私にあれを預けた人との約束です。もし私が、もう一度『運命』だと思えるような出会いをしたら。その時は返せと。……一生、そんなことは無いと考えていたのですがね」

 

でも、彼は返した。それは、つまり。

長い間続いていた恋慕が終わったということ。

その想いよりも、大きな想いを抱いたということ。

 

レンさんに、新たに好きな人ができたということ。

 

「しかし、違った。なので…あの人への想い。好きという気持ちも、返す時に一緒に置いてきました」

 

再び、こちらを見る。真っ直ぐな視線と目が合う。

 

「…貴女に、これを」

 

唐突に彼が懐から取り出したのは、箱だった。

それを受け取って、促されるままに開けてみる。

 

そこに入っていたのは…。

 

「…イヤリング?」

 

綺麗な黒のイヤリングが二つ。耳に挟むタイプのものだ。

 

「ここで、貴女に貰った隕石で作った物です」

 

「へぇ〜。でも、良かったの?」

 

レンさんが集めようと思ってるって言ってたからあげたんだけど…。

 

「貰った分は返す。基本ですよ」

 

「別に気にしないで良かったの「…ですが」

 

途中で言葉が遮られ、口を噤む。

彼は私が持っていた箱の中から、イヤリングの片方を取り出した。

 

「片方は私のです」

 

この世の何よりも綺麗な笑顔で、私の好きな人はそう言った。

再び、心臓が跳ねる。

 

「…ペアルック、みたいな感じ?」

 

少しおどけた反応をしてみたけど、多分隠せてないと思う。

それだけドキドキしてる。この音が外に漏れ出てないか心配になるくらい。

 

「いいえ。これは、私と貴女の共通の記憶を切り出した物。それを半分こするんです。…分け合いましょう、思い出を」

 

「思い出を分け合う…良いね、それ。なんだかとってもロマンチック」

 

素直に受け止めることが出来なくて、やっぱりおどけたような反応をしてしまう。そうしないと、変な勘違いを起こしてしまいそうだったから。

 

「それ以外にも、沢山あるんです」

 

不自然なくらい、彼の言葉が耳に入る。

なんだか、今彼が話していることは聞き逃してはいけないような気がした。

 

「辛いこと。悲しいこと。苦しいこと。嫌になることもあるでしょう。これからの人生で貴女が抱くであろう、そんな気持ちを」

 

気がつけば、彼はイヤリングの片方をつけていた。

耳から下がる漆黒の輪が、陽の光を受けて極彩色に輝く。

 

「楽しいこと。嬉しいこと。喜ばしいこと。幸せな気持ちにもなることがあるでしょう。これからの人生で私が抱くであろう、そんな気持ちを」

 

それに呼応するように、私もイヤリングの片方をつける。

彼の気持ちが、極彩色の輪を通じて伝わってくるような感覚がした。

 

「貴女と二人で、分け合いたい。そう思いました」

 

 

…勘違いなんかじゃ、ない。

 

だって。

 

どんな気持ちも分け合える。

それがなんという関係なのか、私は知っている。

 

私がずっと夢見たものだから。

私がずっと憧れていたものだから。

 

「気がついたのはつい最近のことですが…。再び、私にとって『運命』だと思える出会いがあったのです」

 

真っ赤な夕陽が、辺りを照らす。

 

「ミカさん。貴女のことが好きです。どうしようもないくらいに。…先の人生を、私と共に歩んでは頂けませんか?」

 

全てを優しく、包み込むように。

 

「…私も」

 

誰を特別扱いする訳でもなく、平等に。

 

「小さい頃に、『運命』だと思える出会いをしたの。それからずっと好きだった」

 

だけど、今。この瞬間だけは。

 

「……貴方のことが、好きだった」

 

私達のことを、一番に照らしていた。

 

 

 






ミカのお話はここまでです。
くっついた後の話はカヨコと同じように、番外編でちょこちょこ出せたらいいなぁ…。って感じで考えてます。
あとは、また単話と番外編を更新しながらぼちぼちやっていきます。


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