ブルアカのイラストレーターが何人か離脱したって話聞いて、速攻検索かけたらカヨコの人もだった。
そんなんもう…ばにばにですわ…。
EP.1
眼下に広がる夜の街。
大小様々な建物が放つ光が、こんな夜中でも人々の営みが終わらないことを教えてくれる。
「⋯⋯」
真下を見れば、吸い込まれそうな程に真っ黒な水面。今も私に手を招いている。
きっと、ここに飛び込めば命を断てるだろう。
アリウスに突如として乗り込んできた、ヘイローの無い大人。
それが全てを変えた。
彼は支配者たるマダムを容赦無く殺害し、私達に選択肢を与えた。
アリウスに残るか。彼のツテを使い他校へと移るか。
それとも学園に所属せず、己を探してみるか。
それらの選択肢は全て、私にはどうでもよかった。
『VANITAS VANITATUM OMNIA VANITAS』
全ては虚しい。どこまでいっても全ては虚しいものだ。
私はそう教えられた。そう教えられて生きてきた。
全てが虚しいのであれば、生きることに意味なんて無い。
だから、何度もこの意味の無い命を終わらせようとしてきた。その度にリーダーに止められていたけど。
でも、そのリーダーは己を探してみたいと私達の元を離れていって。
姫とヒヨリと私の三人でしばらくは動いていた。
その二人も、最近留守が多くなった。
姫はシャーレの『先生』の元へ。ヒヨリは偶然知り合ったであろう、カフェのオーナーの元へ。
彼女等は自分の居場所を見つけることが出来たのだろう。二人の人生は虚しいだけのものでは無かったらしい。
それに比べて私には何も無い。
私だけが大切な人を見つけられない。
私だけが居場所を見つけられない。
私だけが生きる理由を見つけることが出来ない。
どうやら、私の人生だけが虚しいようだった。
吹き荒ぶ夜風が語りかけてくる。
その意味の無い人生を早く終わらせろと。虚しいだけの人生に終止符を打てと。
惜しむことは無い。⋯と言うと嘘になる。でも、その感情ですら虚しいものなのであれば。
今、私のことを止めるものは何も無い。
絶えず語りかけてくる夜風に背を押され。
絶えず手招きする水面に導かれ。
この命を終わらせようとした。
その瞬間。
「ーー何やってんの」
全く聞き覚えの無い声が聞こえ、それと同時に身体が後ろへと傾く。
完全に力を抜いていたから体勢を保てずに尻餅を着いてしまった。
前を向くと、私の目の前には飄々とした笑みを浮かべた男の姿。
…またしても邪魔をされた。
しかも今度は、見ず知らずの男に。
「…何」
「何じゃないでしょ。こんな遅くに何してるのかと思ったら飛び降りようとしてさぁ?」
「…貴方には関係無いでしょ」
「あぁそうさ。僕には関係無いね。それでも目の前で死のうとしてる人を見て、知らないふりが出来る程僕は人でなしでも無いよ」
なんなんだ、この男は。関係無いのなら関わらなきゃいいのに。態々面倒事に首を突っ込んで何がしたいのだろうか。
「私のことは放っておいて」
「いーや、無理だね。放っておいたらまた同じことするでしょ」
「……」
思うようにいかなくてイライラする。
あぁもう。面倒臭い。説得するより暴力に出た方が早いか?
…いや、止めておこう。そんなことをしたって無意味だ。その行為も、この苛立ちすらも虚しいのだから。
「ほら、今日はもう諦めて帰りなよ。一晩経てば考えも変わるって」
「無い」
「無いって…」
「そのままの意味。私には、帰る場所なんてどこにも無い」
自然と、その言葉は口から出てきた。
何故だろうか。見ず知らずの男にこんなことを言ったって仕方が無いのに。
「親御さんは?」
「分からない。物心ついた時には居なかった」
私はどうしてしまったのだろう。こんな話をしたところで何も解決する筈もないのに。
「学籍とか…」
「今はどこにも所属してない」
それでも、聞かれれば答えが飛び出して行く。
話せば楽になるような気がした。
話せば何かが変わるかもしれないと思った。
彼に話してみたいと、そう感じた。
「『VANITAS VANITATUM OMNIA VANITAS』」
「え?…ばに…?」
「…全ては虚しいんだって。だったら、生きてる意味が無い」
「なにそれ?変なこと言うね」
変なこと、と言われても。私はそう教えられて生きてきた。他がどうかは実際のところ知らないけど、それが私の…アリウスでの常識。
「だってさぁ。虚しいって『何も無い』とか『空っぽ』とか、そういう意味なんだよ?」
「…それが?」
「君には何も無いの?君は空っぽなの?」
「…無い。私には何も」
そうだ。何も無い。
「居場所も無い。大切な人もいない。…生きる意味も、無い」
________
「居場所も無い。大切な人もいない。…生きる意味も、無い」
そう言った目の前の少女は、何かを欲しているように見えた。
仕事帰りに偶然見かけただけだった。別に知り合いでもなんでもない女の子。橋からその下に流れる川を見つめていて、何をしているのかなぁ。なんて思いながらその姿をぼんやりと眺めていたら、突然飛び降りようとして。
流石に目の前で自殺しようとするなんて思いもしなかった。
咄嗟に身体が動いてくれたから何とか止めることは出来たけど、その後話を聞いてみれば…どうにも込み入った事情が有りそうな様子。
この手の類の人間は、自暴自棄になっているせいで考えが一辺倒になっている。このまま放っておいたらまた同じことをするだろう。
その時に、また僕が居て同じように止められるかは分からない。僕と同じように止めてあげられる人間がいるかも分からない。
「じゃあさ」
曰く、全ては虚しいのだと。
どこでそんな哲学的なことを覚えてきたのかは分からないが、彼女の思考の根底にはそれが強く根付いているらしい。
居場所も無い。大切な人もいない。生きる意味も無い。
まだ生きて十数年程度であろう少女が、そんなふうになってしまっているのが僕は嫌だった。
まるで昔の自分を見ているようで吐き気がする。
…だから。
「取り敢えずウチに来なよ」
彼女が本当の居場所を見つけられるまで。
彼女が自分の大切な人を見つけられるまで。
彼女が己の生きる意味を見出すまで。
僕が助けようと思った。
「なんで?貴方になんの得があるの?」
「さぁ?ただの思い付きかな」
「なにそれ…」
これは自分勝手な我儘だ。彼女にはそれに付き合ってもらう。僕が満足するまでね。
「生きる意味が無いなら別にいいでしょ?少しだけその人生、僕に預けてよ」
「…はぁ、分かった。どうせまた止められるだろうし、貴方に従う。行く当ても無いし」
従うって…仰々しい言い方だなぁ。
念の為、彼女が逃げ出さないように隣を歩く。見ている限りはそんなことしそうにも無いけど。
「ねぇ」
「なに?」
しばらく無言で歩いていると、彼女の方から話しかけてきた。
「こんなことする理由は何?」
「さっき言わなかったっけ?ただの思い付きだよ」
「違うでしょ。…根拠は無いけど、何となくそう思う」
…ふーん。思ってたより鋭い子みたいだ。まぁ、別に話しても良いか。
「…僕もね。君みたいに自殺しようとしたことがあったんだ」
「……」
「両親が揃って自殺しちゃってさぁ。会社が倒産したとか、そんな理由だったかな」
十歳ちょいくらいのことだったと思う。
酷いもんだよ。自分等の子供をおいて二人で死ぬんだもの。
「人生に絶望した。だから愛する人と人生を終わらせる。二人が遺した遺書に書いてあった。…でもさ、一人残された僕は空っぽになったんだ」
同じように絶望出来れば良かった。でも、そうはならなかった。
「今まで愛されてたと思ってた。だけど両親は愛する者と死ぬことを選んだ。そこに僕は含まれていない。一緒に死ぬことすら選ばせて貰えなかったからね。つまり、僕は愛されてなんてなかった」
全部自分の勘違い。愛だと思ってたものが全然違うものだった。その事実を突きつけられて、世の中の全てが理不尽に思えた。
「生きる理由も無く、誰も信じられなくなって。路頭に迷いながら残飯漁ってその日を凌いで。こんな理不尽なことばかりの人生なんて意味無いなって思った時に、助けてくれた人がいたんだ」
懐かしいな。あの人のお陰で今、僕はこうして生きている。
「その人も似たような境遇だったらしくてね。僕のことを放っておけなかったんだって」
多分、それだけなら僕は差し伸べられた手を取ることはしなかったと思う。でも、その人の言葉に心を揺さぶられた。
「『世の中理不尽なことばかりなら、理不尽な救いが有っても良いでしょ』なんて言われてさ。あぁ、僕もこうなりたいなって、そう思えたんだ」
そして、そのチャンスがやってきた。今度は僕が見ず知らずの人を理不尽に救う番だ。
一体どんなことがあって、彼女が今の状況に置かれているのかなんて知らないけれど。僕が嘗てされたようにしてやろうじゃないか。
「君を助けるのは僕のエゴ。あの人に少しでも近付く為の糧だ。だから、君はただ理不尽に身を委ねれば良い」
「…そう。じゃあ、そうさせてもらうよ」
少し、ほんの少しだけ微笑みながら彼女はそう言った。その微笑は…なんでかな。今まで見た事が無いくらい美しく僕の目に映った。
「君、笑えたんだ」
「笑ってない」
「笑ってたよ〜?」
「笑ってないってば」
これ以上は怒らせちゃうかな。あんまりしつこくすると嫌われるしね。もう止めにしておこう。
「そういう貴方はずっと笑ってるでしょ」
「まぁね。人生笑顔が一番だよ。それに、辛い目に遭った時の顔はもう一生分したから」
教えてもらった人生観。人の受け売りではあるけど、僕にとっては生きていく上で大事な芯だ。
「君も笑ったらいいよ。そっちの方が似合うし」
「それは命令?」
「いや、命令じゃないけど…」
一々大きく捉えられても困るんだけど…。僕ってそんなに語気強いかな…?
「私の人生は一旦貴方に預けてる。だから、言われれば何でもするよ」
「そこまでしなくていいって…」
重いよぉ…。そんなつもりじゃなかったんだけど…。
これって育った環境に起因するものだったりするのかな。だとしたら、結構ヤバめな所の出なんじゃ…。
命令だとか、何でもするだとか、そんな言葉がぽんと出てくるような環境の場所ってキヴォトスにあったかな。
…レッドウィンター…とか?
…まぁ、いっか。今考えても仕方ないし。きっと向こうからそのうち話してくれるでしょ。
…あ。
「そういえば。君、名前は?」
「戒野ミサキ。今は主のいない猟犬みたいなものだから……リードはあげる。好きに命令して」
「ミサキちゃんね。おっけー」
すんなり教えてくれたな。…まぁ、従うとか言ってたし、聞いたら大概のことは答えてくれるのかも。
後の言葉に関してはスルーだ、スルー。もう気にしてたらキリがない。
「…貴方は?」
「…僕の名前?」
意外だ。てっきり聞いても意味無いとか思ってるのかとばっかり。こういう人って他人に興味を向けることも少ないし。
「一応、知っておいた方がいいと思って」
そう言った彼女はなんだか照れくさそうな顔をしていた。多分気づいてないんだろうね、これ。
…案外、本人に自覚が無いだけで人生諦めちゃってる訳でも無いのかも。
「僕は久我サギリ。よろしくね」
「…よろしく、サギリ」
〜キャラ設定〜
久我サギリ(25)
いつも飄々とした笑みを浮かべている男。
元々はかなり内気な性格だった。
今の彼の人格形成には己を救ってくれた恩人が深く関わっている。その人も現在は故人。
嘗て自身が受けた『理不尽な救い』を、同じように誰かに与えたいという願望がある。
趣味は写真を撮ること。風景や生き物、人物などその種類は問わないが、人を撮るのが一番好き。
撮る側なので、自分の写っている写真が全然無いことが少し悲しいらしい。
ミサキのことは、過去の自分と重なる娘、といった印象。『理不尽な救い』で、自分のように前を向いて歩けるようにしてあげたいと考えている。