キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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鬼方カヨコの場合
EP.1


 

とある日の夕暮れ時、その日は雨が降っていた。

 

「あの子、大丈夫かな…」

 

少しばかりの早歩きで歩いているのは1人の少女。

彼女の頭に浮かぶのは、路地裏に居る1匹の猫。

 

角を曲がり目的の路地裏に入ろうというところで、彼女の耳に若い男の声が聞こえてきた。

 

(誰か居る…?)

 

ゆっくりと、声の主に気付かれないよう覗き込む。

 

「なんだ腹減ってんのか…?ほれ、コレ食うか?」

 

少女に背を向けてしゃがみこんでいる男は、手に持っていた袋から猫缶を取り出して猫に与えている。

そしてその背を眺めていた少女はというと

 

(なんだろう...凄く気になる)

 

普段の彼女なら絶対に抱かないであろう感情に心を支配されていた。

自分の知り得る者以外には基本的にドライな彼女は、必要以上に他人と関わろうとはしないし、理由も無く興味を持つようなこともない。だがその時は、その時だけは『何故か』興味を持った。

 

そして数瞬の後に

 

「…ねぇ、ちょっといい?」

 

声を掛けたのだった。

 

 

 

 

 

____________

 

 

 

 

 

「…ねぇ、ちょっといい?」

 

路地裏で見つけた猫に餌をやっていたら後ろから声を掛けられた。

振り返るとそこには1人の女の子が立っている。歳は俺とそんなに変わらなそうで、ちょっとだけ目付きが悪い。頭から生えてるツノのようなものからして、ゲヘナの生徒だろうか。

 

「何?」

 

ゲヘナは治安が悪いことで有名だ。まさかカツアゲじゃないだろうな...なんて考えながら返事をする。少しだけ腰を上げて、いつでも逃げられるようにしておく。

 

「君、猫好きなの?」

 

「……」

 

全く予想だにしなかった言葉にフリーズしてしまう。まぁ確かに路地裏で野良猫に餌やってたらそう見られるのもおかしくはないけど…というか事実好きではあるし。だと言うのに

 

「え、ーっと、人並みくらい?」

 

テンパって自分のことなのに何故か疑問形になってしまった。そんな俺を見てか彼女は目尻を下げて少しだけ笑っている。

 

「ふふっ、なにそれ」

 

えっ可愛い…つい見とれてしまう程の笑顔を見て、再び固まってしまう。今までカノジョのひとりも出来たことのない男に女耐性などないのだ。

 

「隣いいかな」

 

そう言うと彼女はこちらの返事を待たずにゆっくりと近づいてきて、俺の隣にしゃがみ込んだ。ふわりといい香りが漂う。そしておもむろに背負っていたバックから何かを取り出した。

猫缶だ。

 

「猫缶?」

 

「そう。猫缶」

 

「てことは、君は猫好きなんだ?」

 

「まぁ、人並みくらいにね」

 

再び少しだけ笑いながらそう言われる。完全からかわれている。クソ恥ずかしい。

 

「「……」」

 

しばしの無言が続く。なにか話題でも振った方がいいのだろうか?だが、この無言もなんだか心地いいし、このままでもいいか。なんて思いながら彼女の方を見つめる。

しかしながらとてつもなくいい顔をしている。今まで会ってきた女性の中で1番可愛いかもしれない。

 

「…どうしたの?」

 

「あ、いや、なんでもない…」

 

その一言で我に返った。会ったばかりの人の顔をじっくり見るなんて失礼にも程がある。

 

「やっぱり、私の顔怖い…?」

 

ふと、そんなことを聞かれた。

怖い?まぁ、確かに目付きがちょいと悪いとは思ったが、それもまた個性。綺麗や可愛い、といった感想は出てきても怖いとは微塵も思わない。

しかし質問の仕方的に普段から顔が原因で怖がられているのだろうか?

 

「なんで?」

 

「私、それでよく怖がられるんだよね」

 

「そーかなぁ…俺は怖いとは思わないよ。むしろかわ…いや、整った顔立ちだと俺は思うけど」

 

俺がそう言うと目を見開いた後にそっぽを向いてしまった。なにか気に触るようなことを言ってしまったのだろうか?少々不安になる。

今度はどう声をかけたものかと思案していると、ズボンのポケットに入れていたスマホから着信が鳴った。表示されているのは兄貴の電話番号だ。

立ち上がり少し離れてから電話に出る。

 

「もしもし?」

 

『 おうアラタ。お前買い物行くって言って結構時間経ってるけど大丈夫か? 』

 

腕時計で時間を確認する。既に家を出てから1時間以上が経過していた。

あたりもすっかりと暗くなっている。

 

「あーごめん。すぐ帰る」

 

『あーい、待ってるぜぃ』

 

通話を切ると同時に声後ろから声が掛けられる。

 

「帰るの?」

 

「まぁ、そうだね」

 

返事をすると彼女はゆっくりと立ち上がった。

 

「そっか。じゃあ私も帰ろうかな」

 

路地裏から出て同じ道を歩く。

何故かお互いに顔を見合わせて、2人で笑う。此方を見る顔はやっぱり見惚れてしまうくらいに綺麗だ。

 

「俺コッチだ」

 

「じゃあ、一緒の道はここまでだね」

 

分かれ道に差し掛かった所で別々の道になった。

彼女と二人でいた時間はなんだかとても居心地が良かった。これっきりというのはどうにも口惜しく感じてしまう。そう思うと突然足が重く感じた。歩くのが辛い。

 

だが、

 

「またね」

 

その言葉を耳にしたら、自然と足取りは軽くなった。

 

 

 

 





お互いに自己紹介とかしなくてもさぁ!
連絡先とか交換してなくてもさぁ!
待ち合わせとか予定合わせたりとかしてなくてもさぁ!
またねの一言で全てが伝わる世界。いいと思います
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