番外編より一話完結の方がネタが出てくるぅ〜。
不思議だなぁ(白目)
今回三人称にチャレンジしてみました。
トリニティ総合学園。長い歴史を持ち、ゲヘナ学園に並ぶキヴォトスでも有数のマンモス校。
そんなトリニティ総合学園の女子学部にはとある噂があった。
『男子学部には化け物がいる』と。
その化け物には複数の目撃証言が有り、目撃したという者達によると
曰く、二メートルもの身長の大男であった。
曰く、黒々と鈍く光る肌をしていた。
曰く、山と見まごう程の筋肉を有していた。
曰く、常にパンツ一丁で行動していた。
という、おおよそ常人とは思えないような特徴をしているのだとか。
更には『人に己の筋肉を見せつけるのを至上の喜びとしている』『無防備な状態で銃弾を受けても筋肉のおかげで無傷』『生身で戦車を止めることが出来る』『男子学部の晄輪大祭で姿を見せただけで他校の生徒が戦意喪失した』『そのせいで晄輪大祭を出禁になった』
等、挙げればキリがない程の話がある。あまりにも噂の内容が現実離れしているので、殆どの生徒が単なる噂話だと一蹴している。
目撃したという生徒達は皆声を揃えて『化け物は確かに存在している。噂は全て事実である』と言っているものの、他の生徒達からは白い目で見られたり、鼻で笑われたりしている。
そして、そんな噂話を信じていなかった者の一人であった浦和ハナコ。
彼女は今、目の前に居る存在を信じることが出来ていなかった。
「そこのお嬢さん。一つ聞きたい事があるのだが、よろしいだろうか?」
二メートルはあるだろう身長。黒々として、陽の光を浴びて鈍く輝く肌。まるで山のような、圧倒的質量の筋肉。何より、パンツ一丁というその格好。
まさに噂通りの化け物が、ハナコの目の前にいた。
丁度友人であるコハルを揶揄おうと思案していたところに、あまりにも唐突すぎるエンカウント。
普段の彼女なら、もしくは噂話を彼女が知らなかったのであれば。動揺はすれど冷静に努めて対処することが出来たであろう。
しかし、ふわついた脳にこの筋肉の塊はあまりにも衝撃が強すぎた。ましてや単なる噂話であると一蹴していたハナコにとっては特に。
初めて見る生き物だと思った。同じ人間であると脳が理解出来なかった。それ程までにその化け物は、彼女の知る人間とはかけ離れた体躯をしていた。かろうじては分かるのは男というくらいか。
彼女は恐怖で足が竦んでしまっていた。あまりの衝撃に声すら出せていなかった。だが、男はそんなことは知らんと言わんばかりに話し続ける。
「ところで、貴女のその格好は…スクール水着のようだが。これから水泳をするのだろうか?ともすれば、流石の目の付け所と言ったところだな。水泳というものは、有酸素運動と筋力トレーニングの両方の効果を期待できる。身体を動かすという意味では最も理想的な方法だろう。体に掛かる不可が少ない点も素晴らしい。怪我をする心配があまり無いからな。他の運動よりも安全に行える。それにーー」
そもそも私の格好を気にするよりも前に、自分の格好に意識を向けるべきでは?そんな疑問が彼女の脳裏をよぎるが、自身の理解が及ばないこの男にそのようなことを言っても無駄でしかないだろうとその言葉を口にしなかった。そしてハナコは話し続ける男をただ見ていることしか出来ずにいた。
「ーーつまり、水泳には免疫機能の向上やリラックス効果などの…っと、すまない。どうやら話しすぎてしまったようだ。私としたことが、ついうっかりしていた」
ずいっと、男がハナコに近づく。彼女の視界が筋肉で構成された巨躯で埋め尽くされた。どこを見ても筋肉、筋肉、筋肉。このまま自分は、筋肉に吸い込まれてその一部にされてしまうのではないかと錯覚してしまいそうな程の量の筋肉。まともな思考が出来ないくらいの恐怖がハナコの脳を支配していた。
「あ、あぁ……」
「さて、お嬢さん。実は私は今、人を探しているのだがーー」
「ハナコ!離れて!」
「ハナコさん!こっちです!」
銃声が響き渡る。その音で恐怖を打ち払うことができたハナコが振り向くと、同じ補習授業部のアズサとヒフミがいた。
彼女等の視点から見た今の場面は、怯えた友人が巨大な筋肉ダルマに詰め寄られているという図だった。それならば当然、助けに入るだろう。
アズサが男とハナコの間に割って入り、再び銃を構える。
「ハナコに何をするつもりだったんだ」
「ハナコ、というのはそちらのお嬢さんのことかな?であれば、私は彼女に人を探しているという話をしただけだよ」
銃を向けられているにも関わらず、男には全く動揺する素振りが無い。それが却ってアズサの警戒心を高めた。
「どうやってそれを信じろと?」
「うぅむ…そう言われると難しいが…。それなら、貴女に尋ねようか。この写真の女の娘を知らないかな?下江コハルという名前なのだが」
下江コハル。その名前を三人はよく知っていた。同じ補習授業部に所属している仲間だからだ。
この場には居ない彼女に危険が及ぶかもしれない。そこまで思考した時点で、再びアズサはその手に持つ銃のトリガーを引いていた。
「ハナコ!ヒフミ!今すぐこの場から逃げて!コハルにもこの事を伝えるんだ!」
「…っ!分かりました!ハナコさん!行きましょう!!」
アズサの覚悟を受け取り、その場から離脱する二人。全ては、狙われているコハルを助ける為に。
至近距離でワンマガジン、実に三十発の銃弾が男に襲いかかる。
だが、その全てをその身に受けたにも関わらず全く応えた様子は無かった。
「お嬢さん、どうか落ち着いて欲しい。貴女が私を攻撃する理由は無い筈だ」
「くっ…!もう一度…!」
優しく語りかける男とは反対に、半ば半狂乱で攻撃を仕掛けるアズサ。彼女からしてみれば、銃弾が効かない相手などまさに理外の存在であった。
マガジンを交換して再度攻撃を仕掛けるものの、やはり効いている様子は無い。
「私は争いを好まない。そして貴女に手を上げるつもりもない。だから私の質問に答えてーー」
「これならっ!どうだ!?」
完全に思考が暴走して男の話を全く聞かないアズサは、銃が効かないならとグレネードを取り出し、男に向かって投げた。
「ーーおや、それは危ないな。周囲に被害が出てしまう」
自身に向けて飛んできた爆発物をキャッチした男は、そのまま己の両手でグレネードを包み込んだ。
ボン!という音が手の中から聞こえ、指の隙間から黒い煙がもうもうと立ち上る。
そして男が手を解くと、役目を終えたグレネードの残骸がポロポロと落ちていった。
「全く。私だから良いが、他の人なら怪我をしているぞ?」
肝心の男の方はというと、無傷。外傷の一つも見当たらなかった。
まさかグレネードまで効かないとはアズサは思っても見なかった。彼女の心が、折れかける。
「…そ、んな」
「さてと、ようやく落ち着いただろうか?それでは、私の話を聞いて貰いたいのだが」
アズサの方に男が近づく。段々と視界を埋めていく筋肉を、彼女はただ呆然と見ていることしか出来なかった。
「貴女の様子を見るに、コハルの事をどうやら知っているようだな。彼女が今、どこに居るのかを教えて貰ってもいいだろうか?」
答えなければ、殺されてしまう。そう思わされるような圧力をアズサは男から感じた。まぁ、実際はそんなことないのだが。
それでも、彼女は口を開かない。補習授業部で得たかけがえのない友人を売ることは、例え殺されるとしても彼女はしない。
「…お嬢さん?聞こえているかな?……ふむ、参ったな。どうしたものか」
腕を組み瞠目する男。アズサはその様子を見てゲリラ戦に持ち込むことが出来れば足止めくらいなら…と考え、動き出そうとしたその瞬間。ほぼ絶叫みたいな叫び声が彼女と男の耳に届いた。
声のする方には顔を真っ赤に染めたコハルと、その後を追いかけるハナコとヒフミの姿が。
「おぉ、丁度良かった。コハル、君を探していたんだ」
「くぁwせdrftgyふじこlp!??!?」
「はっはっは。落ち着いてくれ。何を言ってるのか全く分からないぞ」
どうにも知り合いのようなやり取りをしている?二人にアズサは呆気に取られてしまう。そこにハナコとヒフミが歩み寄った。
「どうやら、私達の誤解だったみたいで…」
「誤解?」
「コハルちゃん、あの男性とお友達らしいんです」
まさかそんな事が有り得るのだろうか。というか私の頑張りはなんだったのか。と、アズサは天を仰いだ。
「カズ君!!エッチなのは駄目!死刑!!」
「む?私のどこがエッチだと言うんだ?」
「なんでパンツだけなの!?服を着て服を!!いつも言ってるでしょ!?」
「それこそいつも言っている事だが、服など身体を覆い隠す障害でしか無いだろう?私の鍛え抜いた究極のボディを隠すだなんて、それこそ死刑になってしまう。むしろこの芸術とも呼べる肉体を赤の他人にも見せてあげているのだから、国民栄誉賞を貰うことだって出来るんじゃないか??」
「とにかく駄目なものは駄目!!エッチ!!しけぇ!!!」
なんとも言えない漫才を展開している二人。このままでは埒が明かないと感じたハナコが仲裁に入りに行く。
「あの…カズさん、でよろしいでしょうか?」
「…あぁ、そういえば自己紹介をしていなかったな。私は益岡カズヤ。トリニティ総合学園男子学部の二年生だ」
「私は浦和ハナコと申します。先程は大変失礼致しました」
「私は阿慈谷ヒフミです。話も聞かずに悪者扱いしてすいませんでした…」
「白州アズサだ。…さっきはいきなり攻撃してごめん」
「ハナコにヒフミ、それからアズサだな。これからよろしく頼むよ」
各々が自己紹介と謝罪を済ませた所で、ハナコが疑問に思っていたことを口にした。
「ところで、カズさんはコハルちゃんになにか用があったのですよね?」
「そうだ。コハル、これを君に渡しに来たんだ」
カズヤが取り出したのは、綺麗にラッピングされた半透明の袋だった。透けて見えるその中身はどうやらクッキーのようだ。
パンツ一丁の彼がどこからそれを取り出したのかは…割愛させて頂こう。
「上手くできたから、もし良ければ皆で食べてくれ。補習授業部だったか、その人数の四人分ある」
「あ、ありがとう。カズ君」
「どういたしまして。それじゃあ、私は目的も果たせたし帰るとしよう」
補習授業部の面々に背を向けてそのままあっさりと帰ろうとするカズヤに、コハルが待ったをかけた。
「待って!…その、カズ君さえ良ければ…皆でお茶でも…」
「ふむ。私は構わないが…三人は大丈夫か?」
「私達は構いませんよ。むしろ、コハルちゃんとの関係を色々とお聞かせ願いたいくらいです」
ハナコの言葉にアズサとヒフミが頷いて同意する。
「成程、そういうことなら是非ともお邪魔させていただこう。コハルとの出会いから、私がどれだけコハルの事を好いているのかまで。ありとあらゆることを話そうじゃないか」
「…えぇ!?カズヤさん、それって…!」
「ああ、私はコハルの事が好きだよ。何度も好意を伝えているのだが、『死刑!』としか言われないんだ。まだまだ私の肉体では満足いかないらしい。もっと鍛えなくてはいけないな」
コハルを除く全員が彼女に視線を向ける。一方のコハルは頭部の羽で自身の目を隠してしまっていた。それでも紅潮した頬が見え、照れていることが見てとれた。
「コ・ハ・ルちゃ〜ん?」
「うっ…。だ、だって付き合うって事は、その、…そういうこともするんでしょ…?だ、だめ!エッチなのは死刑なの!!!」
些か飛躍しすぎな彼女の理論に、各々が苦笑を浮かべる。
そしてハナコ一人だけは、今の発言からコハルの気持ちにも勘づいていた。
その後、補習授業部の四人にカズヤ、シャーレの『先生』も加わり六人で楽しいひとときを過ごしたのであった。
「というかハナコはなんで水着なの!カズ君もいつまでもパンツ一枚で居ないで!二人とも死刑!!」
〜キャラ設定〜
益岡カズヤ
トリニティ総合学園男子学部の二年生。
己の肉体に絶対の自信を持つ頭の良いバカ。
本屋で高い所にある本を取ろうとしていたコハルを助けたのが二人の出会い。
趣味はお菓子作りで、かなりの腕前。
常にパンツ一丁。理由は服が邪魔だから。
見かねたコハルから服をプレゼントされたことがある。でも着ない。プレゼントされた服は大事に飾ってある。
シャーレの『先生』との関係は良好。時折一緒にトレーニングをしている。
女子学部で流れている噂は全て実話。