キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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これさぁ…どうかなって思ったんすよ。口調とかあってるのかよく分からんし。設定的にも…とね。なったんすよ。
でも、このキャラはこういうの合うよなぁって。
んで、気付いたら書き終わってました。

書いちゃったからにはもう……ネ…

それはそれとしてシロコ*テラー実装とはめでたいですなぁ。
いっぱい幸せにしてやるからな…!

〜追記〜

今話において、注意喚起をするべきだという指摘を受けました。
全くもってその通りです。申し訳ございません。
今後はこういった事が無いように努めていきますので、引き続き応援して頂けると幸いです。

という訳で…。
今回の話は近親恋愛的な内容となっています。
後、若干胸糞かもしれません。
そういったものが苦手な方はご注意下さい。




EP.short6 緑色の蠱惑

 

 

どこで間違ってしまったのだろう。

 

俺の人生は、控えめに言っても素晴らしいものだった。

 

学生時代に付き合い出した彼女と、そのまま結婚までして。

そこからも仲睦まじく過ごしてきたと思う。子供だって二人、授かった。二人とも妻によく似た子だった。

 

仕事だって上手くいってたし、子供達が成長していっても四人で仲良く過ごしていた。

休みの日は家族全員で必ず出かけたし、記念日だって忘れたことは無かった。

 

喧嘩の一つもなかった。不満なんて何一つ生まれないくらい、何もかもが幸せだった。

妻を他の誰よりも愛していた。娘達のことだって、当然愛していた。全てが順調だった。

 

なのに。

 

ある日、妻から一つの紙を渡された。

離婚届だった。

 

なんの冗談かと思った。ずっと上手くいってたと思ってたから。でも、向こうからしたらそうじゃなかったようで。

 

不満があったなら言って欲しかった。全然、おくびにも出さなかったから分からなかった。悪い所は直すからって。

そう、伝えたけど。何も不満じゃ無かったって、そう返された。

 

退屈だったらしい。

 

あんなにも幸せだったのに。ただ退屈だというだけで、なんの不満もないのにその幸せを壊して捨ててしまえることが理解できなかった。

 

娘達はどうするんだと聞いたら、一言。

 

『私は要らない』

 

俺達の幸せの証で、愛すべき実の子供。十五年間共に成長を見守ってきた、二人の愛娘。

 

要る要らないじゃないだろう。なんでそんなことが言えるんだ?

 

もう、何も分からなかった。目の前に居る、愛する人のことが。

 

そのまま、流れるように話は進んでいって。

気が付けば、妻は初めから存在しなかったかのように綺麗さっぱり消えてしまった。

 

痕跡すら残らずに。使っていた部屋も、何も無いまっさらな空き部屋になって。思い出の品も全て、何処かへ消えてしまった。

 

娘達は何も言わなかった。あまりにも突然の事で、何も言えなかったのかもしれない。

でも、二人共優しい子だから。俺の事を気にかけて励ましてくれたりしてくれた。母が居なくなって自分達も辛かっただろうに。

 

怒りが湧き出た。この子達にこんな思いをさせた元凶に。

だけど、何も出来なかった。

だって、それでも好きだったから。これだけのことをされても、未だに愛していたから。

 

段々と、自分が悪いのでは無いかと思うようになった。

俺が妻を引き止められなかったのがいけなかったんじゃないか?

俺がもっと妻を退屈させないような日々にすることが出来れば、こんなことにはならなかったんじゃないか?

 

考えれば考える程、思考は傾いていく。

日を追う事に、自分でも分かるくらい窶れていった。

それでも、娘達に心配をかける訳にはいかないから。立ち直った振りをして、平静を装って。元の、元気な俺の演技をした。

騙すのは心苦しかったが、あの子達の為だと自分に言い聞かせた。

 

二人共、俺の事を心配する素振りが減っていった。騙されてくれたのか、それとも気付かないふりをしているのかは分からないけれど。

 

歪で、ひび割れたままでも。何とか取り繕って、前とそう変わらない生活を送ることが出来てきた。

 

ずっと自分のことで精一杯で、娘達にまで目がいかなかった。

見ていたつもりでも、見てやれていなかった。

 

だから俺は、気づけなかったんだと思う。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

丑三つ時。

コンコン、と部屋に控えめなノックが鳴り響き。次いで扉が開く。

 

顔を覗かせたのは、俺の子供。双子の娘。その、妹の方。

 

「…お父さん。まだ起きてる?」

 

「あぁ。起きてるよ、ミドリ」

 

こんな時間に一体なんの用だろうか。

 

「眠れなくて…少し、居てもいい?」

 

「大丈夫だよ。おいで」

 

ミドリは遠慮しがちにゆっくりと部屋に入って来て、ベッドの上に腰掛けた。常夜灯一つしか灯りをつけていないから分かりづらいが、どうにも表情が暗い。

 

「どうした?何かあったのか?」

 

「…お父さん、最近無理してない?」

 

その一言は、確信をついたものだ。上手く誤魔化せていると思っていたが…どうやら駄目だったらしい。

 

「いや、そんなことは無いさ。むしろ段々と調子が良くなってるくらいだよ」

 

それでも心配をかけさせたくないから、嘘をつく。娘達にはそういったことを考えずに生活して貰いたい。

 

「じゃあ、なんでこんな時間まで起きてたの?」

 

「…それは」

 

眠ると夢を見る。

嘗ての幸せな記憶。それが壊れていく瞬間を、何度も何度も見てしまう。だから、眠れない。寝たくない。

 

「あと、隠してるつもりかもしれないけど…クマ、酷いよ」

 

「………」

 

どう返したらいいものか分からずに、黙りこくる。

肯定すれば、また余計な心配をかけさせてしまう。とはいえこのまま黙ったままでも、自体は好転しない。

 

俺は、どうすれば良いのだろう?

 

「…お父さんはさ」

 

薄暗い部屋の中で、愛する娘の双眸が妖しく光る。その瞳は、何処かへ旅立ってしまった幸せのそれと酷似していた。

 

「まだあの女のことが忘れられない?」

 

あの女。それが誰のことを指しているのか、すぐに分かった。

 

「…止めなさい」

 

忘れたくても忘れられない、過去の幸せの象徴。嘗て愛した人。今も忘れられずに愛している人。

掘り返して欲しくなかった。そっとしておいて欲しかった。

 

それでもミドリは、俺の言う通りにはしてくれない。

 

「あの女がお父さんの事を苦しめてるの?」

 

「ミドリ」

 

止めてくれ。そうだけど、そうじゃないんだ。

俺が悪いから。俺が忘れられないから、苦しいだけなんだ。妻は悪くない。彼女が俺を苦しめてる訳じゃないんだ。

 

「あの女がーー」

 

「ミドリ!!」

 

自分でも驚く程の声量だった。今までこんなに声を張り上げたことは無かった。

ふと我に返り、ベッドに腰掛ける娘の方を見る。

 

「…ミドリ…?」

 

何故か、笑っていた。

笑顔というより、薄ら笑というか。仄暗い感情が表に出てきているような、そんな表情。

 

「やっぱり、忘れられないんだね。まだ、お父さんの心の中にあの女が居る」

 

「…お前の母親だ。『あの女』というのは、止めなさい」

 

なんだか無性に怖くなった。愛おしくて堪らない筈の娘が、自分の理外にいるような気がした。

恐ろしくて堪らなくて、目を逸らす。

 

「私はもう母親だと思ってない」

 

「…そんなこと、言わないでくれ」

 

妻と俺の間に産まれてきたのがミドリとモモイなんだ。娘達が母親を否定するのは、今までの幸福な日々をも否定されてるように感じて辛い。

 

「だって、お父さんがこんな目にあってるのも全部あの女のせいなんだよ?私は、それが許せない」

 

「違うんだ。俺が、忘れられないから。だから辛いんだ。…全部、俺が悪いんだ」

 

「違うよ。今までの幸せだった時間も、これからの幸せだった筈の時間も、全部壊したのはあの女。お父さんは何も悪くない」

 

「…ちが……」

 

違う。そう、言いきれなかった。

 

俺もそう思ってしまったから。

今まで目を逸らしてきたことを目の前に突き付けられて、苦し紛れの言い訳すら出来なくなった。

今まで自分のせいだと思い込んで気付かないふりをしていた感情が、まるで器から溢れる水のように湧き出てきた。

 

「お姉ちゃんは泣いてた。お父さんは辛そうだった。二人とも見てられないくらい、苦しんでた」

 

ミドリの言葉は、ゆっくりと紡がれていく。

 

「どうして怒らないの?どうして庇うの?全部悪いのはあの女だよ?」

 

「…それでも」

 

悪いのが妻だったとしても。俺は妻を庇うし、怒れない。

 

「どれだけのことをされても。幸せを壊されても。それでも…駄目なんだ」

 

今、この心には。

 

確かに怒りがある。

確かに恨みがある。

確かに憎しみがある。

 

…でも。

 

「好きなんだ。愛してるんだ。どれだけの感情が湧いてきても、それ以上に」

 

この気持ちは、きっと一生手放せない。

いつまで経っても、忘れられない。

 

「……ふーん」

 

ぶっきらぼうで、とてもつまらなさそうな声だった。

自分の求める答えとは違ったからだろうか。だが、俺はこの想いに嘘をつくことは出来ない。

 

「じゃあさ…」

 

唐突に、ミドリはベッドから立ち上がった。

そして椅子に座っている俺の元まで来て、今まで逸らしていた目線の先で立ち止まった。

 

「私じゃ、駄目?」

 

「…は?」

 

言葉の意味が理解出来ずに、素っ頓狂な声が出る。

そんな俺を置いたまま、ミドリは話し続ける。

 

「私があの女の代わりになるの。お父さんが好きな、あの女に」

 

何を言っているのか分からなかった。

娘が妻の代わりになる?

なんで、どうしてそんなことになる?

 

「忘れられないなら、忘れなくていいじゃん。でも、本物は戻って来ない…それなら、代わりがいれば良いでしょ?」

 

「…冗談は程々にしなさい。俺とお前は、父親と娘だぞ?」

 

そう。俺達は親子だ。そんな関係になる訳が無い。

 

「冗談なんかじゃないよ。だって私、お父さんのこと好きだもん」

 

「それは、親としてだろう?」

 

「ううん。私はね?……お父さんのことが、男性として好きなの」

 

男性として好き。そう言われた瞬間、ミドリと妻の姿が重なって見えた。

 

よせ。止めろ。

ミドリは愛する子供だ。俺の娘なんだ。

妻では無い。違うんだ。

 

「駄目かな?私の事は、愛せない?」

 

「…愛しているさ。娘なんだから」

 

口ではそう言っても。

目の前にいる人の。

 

姿が。声音が。表情が。

 

最愛の人と、重なっていく。

 

「娘としてじゃなくて、女として。愛して欲しいの」

 

「…それは、出来ない」

 

「なんで?よく言ってたよね?『お前達は母さんによく似たな』って。見た目が近いなら。私があの女と似てるなら。出来るんじゃない?」

 

これ以上話していたら、どうにかなってしまいそうだった。

だから、俺が俺である為に席を立とうとした。

 

だが、それは叶わなかった。

 

ぽすりと、力を入れた脚に重しが置かれる。

ミドリが俺の膝の上に向かい合うような形で座ったからだ。

 

「ねぇ、どうしても出来ない?」

 

「…今日はもう、寝なさい」

 

「話を逸らさないで」

 

とても軽い筈の重しが、酷く重たくのしかかる。

簡単に退かせる筈の娘が、どうやっても動かせない。

 

せめてもの抵抗として、再び目線を逸らす。

 

「なんで私じゃ駄目なの?」

 

「…駄目だ」

 

「どうして?」

 

「どうしてもだ。いいから部屋に帰りなさい」

 

答えになってない答えを続け、まともに答えるつもりが無いことを暗に伝える。

それでも、ミドリは動こうとしない。

 

「ただ、お父さんはあの女の事を愛すればいいだけなんだよ?それを受け止めるのは、私だけど」

 

ゆっくり、じんわりと。

俺の心にミドリの言葉が染み込んでいく。

 

「私はお父さんに愛して欲しい。たとえ私を通してあの女を見ていたとしても構わないから…一人の女として、愛して欲しいの」

 

出来ない。そう言おうとした。でも、声が出なかった。

目の前の女性が、あまりにも蠱惑的だったから。

 

「幸せが壊れる前に戻るだけ。人数は一人、足りないけど…それでも、あの時と変わらない生活が続けられる」

 

彼女の言葉を聞く度に、心のひびが広がっていく。歪なまま保っていたものが、段々とひしゃげていく。

俺の弱りきった心には、あまりにも劇毒だった。

 

「いいでしょ?何も難しいことはしないんだから」

 

己の中から否定の言葉を探す。

駄目でも、無理でも、出来ないでも、なんでもいい。

とにかく、否定しなくては。拒絶しなくては。じゃないと、受け入れてしまう。

 

だが、いつまで経っても出てこない。もう俺の中のどこにも、そんな言葉は無かった。

 

「…ミ、ドリ…」

 

どうしようも無くなって、逸らしていた視線を戻した。戻してしまった。

先程と変わらず妖しく光る双眸と再び目が合う。

彼女の表情が、にんまりと、蕩けたようなものへと変わる。

 

薄暗い部屋の中で、その瞳が。その表情が。何故か鮮明に視界に映った。

 

「もう一回言うけどね?私、お父さんのことが男性として好きなんだ」

 

するりと、首元に手を回される。

その行動は、目の前の女性とそっくりな人のそれと同一のもので。

もう、完全にそうとしか認識できなかった。

 

身体が、幸せを求める。

 

俺の上に乗る重しに手を回そうとして、寸でのところで止まった。

 

嘗ての記憶が、脳裏を駆け巡る。

幸せな、四人の記憶。俺と、妻と、二人の娘。

 

そうだ。

目の前に居るのは、妻じゃない。

 

俺の大切な、娘なんだ。

 

「…止めよう。こんなこと」

 

「………」

 

あぁ。良かった。超えては行けない一線を、超えずに済んだ。戻れなくなるところだった。でも、耐えきれた。

 

そう、思ったのに。

 

「『ねぇ』」

 

背筋にゾワゾワとした何かが走る。

重なるとか、そっくりとか、そんなものでは無かった。

まさに、そのものだった。

 

「『あなた』」

 

近づいてくる口元が、俺の耳元で止まった。

表情は見えない。でも、きっとそれすらも。全く同じなんだろう。

そのまま、あの声で囁かれる。

 

「『私を、愛して?』」

 

 

一体、何処で間違えてしまったのか。それは、分からないけれど。

 

鮮やかな緑色の蠱惑に惑わされ、今、この一瞬は。

 

間違えても良いと、そう思った。

 

 

 






その後どうなったのかは…ひとまずご想像にお任せします。

〜キャラ設定〜

才羽タイヨウ(40)

才羽姉妹の父。
家族を愛してやまない、ミレニアムの何処にでも居るような極々普通のサラリーマン。
突如として消え去っていった幸せが未だに心に残り続けているが故に、苦悩する毎日が続いている。それでも、表面上は完璧と言える程度には取り繕えており、それは一重に自身の娘達に心配をかけさせない為。
なのだが、モモイにもミドリにもしっかりバレている。
趣味は…無い。己の家族が全てであった彼にとって、愛する妻や娘達と接する時間が何よりも大切なものだった。家族が趣味と言ってもいいのかもしれない。
『先生』とは現状、関わりが無い。生徒じゃないからね。仕方ないね。


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