パッと思いついて、衝動のままに書き上げました。毎回これくらい勢いで書けたら良いのになぁ…。
注意!
今話にはまたまた喫煙描写がありますが、決して!喫煙を勧めるものではありません!その辺を留意した上でお読み下さい。
夜の街。目に映るのは煌びやかに光り輝く建物の灯り達。
こんな時間だってのにご苦労なものだ。本来、光るものなんて月だけで充分だってのに。
これだけ明るいと目も冴える。ついでに夜風がひんやりと身体を冷やすもんだから尚更だ。
そんなよく冷えた空気を、燃える葉っぱと紙。それから意味があるのかよく分からんフィルターを通して肺に送り込む。
それをふぅ、と息を吐き出せば。もうもうと登る紫煙が夜の街を染め上げた。
今のご時世は喫煙者に随分と厳しい。嗜好品を自由に扱うことすら許しちゃくれない。吸ってるって知られたら煙たがられるしな。煙草だけに。
街のハズレにポツンと作られた、喫煙所なんて名ばかりの灰皿が無くちゃ煙草の一本も吸わして貰えない。こんなん隔離だろ。病気でも無いのにばっちい扱いだもんな。喫煙者にゃ人権が無いのかね?
だがまぁ、この場所自体は気に入っている。そも同類の母数が少ないからか、この場所は大体俺の貸切だ。
綺麗と言えば綺麗なこの夜景も俺一人のもの。邪魔が入ることも無く、こうやって物思いに耽るには丁度いい。
「はぁ…」
何かになりたくて、俺は地元を飛び出した。結果、何にもなれずに立ち止まっている。いや、喫煙者にはなったか。
高校の時、仲の良かった同級生が突然学校を辞めた。後から事情を知って、そいつの実家に皆で行った。
それは善意だった。それは哀れみだった。
それはどうしようも無いくらいに上から目線の、ガキのエゴだった。
元々片親だったのに、親父さんが亡くなってしまったらしい。
あぁ、なんて可哀想なんだ。学校を辞めるくらいだ。さぞかし辛かったんだろう。さぞかし苦しんでいることだろう。
俺に、俺達に何かしてやれないだろうか。
そうだ、皆で会いに行こう。
アイツは人気者だった。男子も女子も関係無く、皆がアイツのことが好きだった。面白いし、優しいし、格好良いし。でもそれを鼻にかけてこっちを見下したりとかしない。同じ目線で居てくれる。
きっと、アイツも俺達のことが好きな筈。
それなら、俺達が会いに行けば喜んでくれる筈。少しでも元気づけられる筈。
そう思って、大勢を引き連れてアイツの家に行った。
アイツは大人になっていた。
親父さんが経営していた店を引き継いで、立派に仕事をする大人になっていた。
辛くても、苦しくても。それを表に出さずにひたむきに頑張る大人になっていた。
俺は店の前で呆然と立ち尽くした。
アイツが変わったことに気づかなかった馬鹿共は、遠慮の一つも無くズカズカと店の中に入って行ったが。
俺はアイツとは話さなかった。
アイツが頑張っていることに気がつかなかった阿呆共は、『頑張って』とか『元気だして』とか、そんな侮辱とも取れる言葉を投げつけていたが。
さぞ邪魔だったろう。さぞ鬱陶しかったろう。
もう住む場所が、世界が違うというのに。
俺達は子供で、アイツは大人。それだけであんなにも違うなんて。
でも、俺もそんな馬鹿で阿呆なガキ共と同類だ。
なにせ、俺はそんなアイツに。
心底憧れたから。
格好良いと思った。俺もああなりたいと思った。
アイツがどうしようもなく眩しく見えたんだ。
こんな感情、抱いてはいけないのに。
それで学校を卒業してから地元を飛び出して、この山海経に来た。
ただ、漠然とああなりたいと思っただけなんだ。目的も具体的に目指すものも無い。そりゃあ上手くいくわけが無い。
そんで失敗して、戻るのも怖くなって。
ウダウダしてるうちに気が付けばバイト暮しのフリーター。今の俺を見たら同級生達はなんて思うだろうか。後ろ指を指されたって何も不思議じゃない。笑われたっておかしくない。こんなに情けない人生になるなんて自分でも思ってなかった。
…アイツは、なんて思うのかな。今の俺を見て、なんて言うのかな。
過去を思い出すとどうにも煙草の減りが早い。
さっき吸い始めたばっかりだと思ったが、もう無くなっていた。
本当ならこれで帰るつもりだったが、何となくもう一本取り出して咥えた。キン、と甲高い音を立ててライターに火を起こして貰う。
息を吸えば、熱を持った空気が煙と共に再び肺に入り込む。
数瞬の後、肺の中身を吐き出せば。やっぱり紫煙が夜の街を染め上げた。
「…ハハッ」
まるで自分の人生みたいに見通しが悪くて、それを見て何故か笑いが漏れ出た。随分と乾いていたが、きっと煙草のせいだろう。
「あー!!」
ぼんやりと灯りばかりの街を眺めていると、後ろからこの場には似つかわしくない子供の声が聞こえた。
声の主が誰なのか知っているので振り向くことはしない。
「お兄さん、またこんな時間まで煙草なんて吸って!もう良い子は寝る時間ですよ!」
「…それならまず自分が寝るべきだろ。それに、ここはガキンチョの来る場所じゃ無い。さっさと帰って布団に包まってな」
何故か知らんが、最近付き纏ってくるガキンチョ。どうにも俺の事を家に帰したくて仕方ないらしく、面を合わせる度に帰れ帰れと騒いでいる。
元々子供自体は好きな方ではあるが…傷心中のおじさんが相手をするにはちとキツすぎる。だから強めに当たってるのだが、中々他所へ行ってくれない。
「私はガキじゃありません!ココナって名前があるんです!いつも言ってるじゃないですか!」
「へーへー。それは失礼しましたね、ココナちゃん」
「こ、ココナちゃんって呼ばないでください!小さい子みたいじゃないですか!」
「俺にどうしろと?てか実際小さい子だろ」
聞いてもいないのにベラベラと話してくるものだから、下手な知り合いより向こうのことを知ってしまった。
なんでも十一歳なのに、飛び級で高等部にいるのだとか。将来有望なガキンチョだ。俺みたいにはそうそうならないだろう。
「むぅ…!た、確かにお兄さんと比べたら小さいかもしれないですけど…でも、これでも一人前の教官なんです!」
「そいつはご苦労なこって。ピーマンも食えねぇ一人前の教官がいるたぁ、驚きで今日は寝れそうにねぇや」
「…シュン姉さんに言いつけてやるぅ!」
シュン姉さん俺と面識無いが…?
ガキンチョは薄らと涙を目に浮かべながらも、俺の事をきっと睨みつけてくる。
負けん気があるのは良い事だが、楯突く相手が如何せん悪すぎる。
「ガキが大人に口で勝てるわけ無いんだ。年相応に大人しくしとけ」
「嫌です!今日こそはお家に帰ってもらいます!あと煙草も辞めてもらいます!」
「あのなぁ…。大人は好き勝手に出来るんだよ。帰る時間も寝る時間も、煙草を吸うも吸わないも全部、各々が勝手に決めるもんだ」
「それでもです!夜更かしは身体に悪いですし、煙草だってそうです!…こんなことを続けてたら、本当に体調を崩してしまいますよ…?」
そりゃそうだ。毎日二箱は煙草を吸って、夜中の一時二時までは平気な面して起きてる。身体に悪くない筈がない。体調だってそのうち崩すだろうさ。
だが、俺には関係無いね。
「それがどうしたってんだ。俺の具合が悪くなったところで、誰が迷惑被るわけでも無い」
「私が嫌です!」
「…はぁ?理由は?お前が聞いてもないのにくっちゃべるから、俺はお前のことを色々知ってるがよ。お前は俺のこと、なんにも知らんだろ」
俺は自分のことをこのガキに話したことなんて一度も無い。こいつが俺の事を気にかける理由もまた、何一つとして無いんだ。
「分かりません!でも何故か嫌なんです!」
「なんじゃそら」
子供ってのは本能で動くから、こうも訳の分からないことになるんだろうなぁ…。本人に分からなかったら俺に分かるかってんだ。
煙草に口をつけて吸った後に、出来るだけガキに煙が行かないように上を向いて息を吐く。
その様子を何故かこいつはじっと見つめていた。
「どうした。こんなの見てたって面白くも何ともないだろ」
「…はっ!い、いや…なんだか、大人だなって…」
「今更かよ」
初めて出会った時からずっと煙草を吸っていたのに、今の今まで俺の事を子供だと思っていたのだろうか。だとしたら飛び級なんて嘘としか思えないのだが。
「お兄さん、あの…」
「なんだ?眠いか?」
「ちっ、違います!子供扱いしないで下さい!…そうじゃなくて、その…煙草って、美味しいんですか…?」
突拍子の無いのなんのって。しかも十一のガキが煙草の味なんざ気にするかね普通。聞いた所で吸えるわけじゃあるまいし。
「んー…美味くはないな」
「じゃあ、なんでお兄さんはずっと吸ってるんですか?私が辞めてって言っても辞めないのに…」
「落ち着くんだよ。考え事をする時とかに丁度良い」
「考え事…ですか?」
こてんと首を傾げて、ガキは聞いてきた。俺に悩みなんて無いとでも思ってたのかこいつは。なんて失礼な奴だ。
まぁしかし、こうも関わると可愛く見えてくるもんだな。別に子供は嫌いじゃないし。俺の対応が雑なのは、このガキが姑みたいにキャンキャン吠えるのが鬱陶しいってだけの話だ。
「大人ってのは悩みが多いんだよ。お前みたいなガキンチョと違ってな」
ガシガシと乱雑に頭を撫でる。嫌がられるもんかと思っていたが、存外されるがままになっている。
ぴょこぴょこ耳が動いているが、それがどんな感情を表しているのかは知らない。
少しして手を離すと、ガキは自分の手を頭に置いてこちらを見てきた。その顔は少し赤みがかっている。
「…い、一人前のレディーの頭を許可も無く撫でるなんて…!減点です!」
「あん?レディーだ?……はっ」
面白い冗談だ。どっからどう見てもちんちくりんのクソガキだろう。到底レディーとは言えまい。これでレディーを名乗れるのであれば、俺くらいの歳の女は皆ババアになってしまう。
「あっ!今、笑いましたね!?」
「いや、笑ってねぇよ。…ふっ」
「笑ってるじゃないですか!」
なんだろうなぁ。子供は皆、揶揄い甲斐があるとは思うが…こいつは特にだ。一々反応がオーバーだからかねぇ?
「悪かったよ。ほれ、飴ちゃんやるから機嫌直せ」
ポケットに突っ込んでいた飴玉をやると、分かりやすく目を輝かせた。やっぱガキンチョじゃんか。
「わぁ…良いんですか!?」
「おう。別に俺は飴なんぞ食わねぇからな」
「じゃあ、いただきます!」
包を躊躇なく破いて、ガキは俺のやった飴玉を口に放り込んだ。
…くく。引っかかったな。
「夜中に菓子を食うなんて、悪い奴だなぁ?」
「えっ……あ…」
俺に夜更かしするなと言っておいて、この時間まで起きてるし。その上に菓子まで食う始末。一人前の教官だかレディーだか知らんが、この有様で名乗れるのかねぇ?
「謀りましたね…!?」
「けけっ!引っかかる方が悪いのさ。年の功ってやつだ」
あーあー。また目に涙を浮かべて。
小言さえなきゃ本当に面白い奴だ。
「見なかったことにしてやるから、煙草にも口出しするなよ?」
「…はぁい…」
そっからはしばらく無言。
俺は煙草に、ガキは飴玉に気を回して。互いに何を話すことも無く街灯りを見つめる。
どれくらい時間が経っただろう。よく分からないが、再びガキが話しかけてきた。
「お兄さんは、今…大切な人は居ますか?」
黙っている間にどんな思考をして、そんな質問をしてきたのかは分からない。だがその問は、今の俺には無意味なものだ。
「居ないな。なんでんな事を聞く?」
「誰も、私みたいに止めないのかなぁって思いまして」
「お前がおかしいんだ。普通は名前も知らない野郎のことなんざ心配しねぇよ」
「さっきも言いましたけど、私にも分からないんです。でも、お兄さんが体調を崩したりするのはなんか嫌だなって」
不思議なガキだ。俺にはとてもじゃないが理解出来ん。…出来ないが、何故か悪い気はしない。煙草は辞めないがな。
「お前みたいなちびっ子に気遣われなきゃいけない程、俺はヤワじゃねぇさ」
何本目かも覚えてない、吸い始めたばかりの煙草の火を消す。これ以上はこいつの親も心配するだろう。
「またそうやって子供扱いして!私はもう一人前なんです!」
「わーったよ。そら、帰るぞ。送ってってやるから」
踵を返して、帰路に着こうとした時。不意に袖を引っ張られる。
振り返ると、ガキが俺の袖を摘んでいた。
「どうした」
「…私が大きくなったら、ちゃんと話を聞いてくれますか?」
こいつが大きくなったら、か。果たしてそれまでこの山海経に居るかね。
あと何年先の話になることやら。
「どうだろうな。そもそもお前、大きくなるのか?」
茶化すつもりで小馬鹿にしたような言葉を吐いてみたが、ガキンチョは思った以上に真剣だったらしい。
俺の思惑には乗らずに真っ当に返してきた。
「なります。もう少ししたら、きっと」
…へぇ。なんだ。一人前ってのもあながち間違いじゃないかもな。
「良いぜ。そん時はちゃんと話を聞いてやるよ」
もう一度、ココナの頭に手を置く。
今度は少し優しめに、ゆっくりと撫でる。
またしばらく続けて手を離そうとしたら、先程と違いココナは俺の手に自分の手を置いた。
そしてもう片方の手で、俺の空いた手を掴み。それを頬にあてがって。
相も変わらず動く耳と紅潮した頬。それと無意識であろう、歳相応なふにゃりとした笑顔が。
こいつがやっぱり、まだまだ子供であることを教えてくれた。
〜キャラ紹介〜
二宮リュウジ(22)
何者にもなれていないヘビースモーカーのフリーター。酒はそれなり。
高校時代に仲の良かった同級生が大人になったと感じ、その姿を見て漠然と『自分もああなりたい』と思い地元を飛び出したものの、上手くいかずに燻ってしまっている。
件の同級生は皆が店に来てくれた時に、彼だけが話してくれなかった事を少し悲しんでいた。出来ることならもう一度、嘗てのように仲良くしたいと思っている。が、リュウジが既存の連絡先を全てブロックしてしまっている為、現状それは叶わない。
元々地頭はとても良く、変な気を起こさなければ本来は一流企業にも難なく就職出来ていた。
喫煙中に突如絡んできたココナを鬱陶しいと思いつつ、なんだかんだ彼女との時間を楽しんでいる。
ココナは彼への自身の気持ちがどういったものなのかを理解出来ていない。しかし、それも恐らく時間の問題だろう。少なくともリュウジの言う『そん時』になる頃には、ちゃんと自覚している。筈。
『先生』とは関わりがない。生徒じゃないからそりゃそうだよね。まぁ、彼の同級生は関わりがあるんだけどね。