キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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台風の影響で仕事が午前中に終わる…!忙しいとか言ってたの誰だよ。
まぁ明日から普段通りに戻るんだけどネ。




EP.EX ふしぎなくすり 後編

 

 

部屋に差し込む朝日を浴びて目が覚める。いつもは朝に弱い方の俺だが、今日は二度寝をすることも無くすんなりと起きることが出来た。

 

寝起きのぼんやりとした思考を回転させ、昨日の出来事を反芻していく。

 

昨日は…そうだ。仕事終わりにカヨコちゃんが来て…それで、突然キスをされて…。子供の体になって…。

 

…子供の体。

 

自身の身体を見てみる。…うん。子供のそれだ。間違いない。

確か一日以内に元に戻るって話だった。残念だけど今日は外には出られないな。

 

んで…確か途中で眠くなって…。

 

そこまで思い出して、気が付いた。

家に帰る途中で記憶が途切れている。帰ろうとした所までしか覚えていない。

 

…俺、なんで部屋に居るんだ?どうやって帰った?

え、分からん。まじで何も覚えてないのだが。迷惑かけたりしてないよな…?

 

「…すぅ…すぅ…」

 

「…ん?」

 

背後から寝息が聞こえる。其方を見てみると、まぁなんとも可愛らしい寝顔をしたカヨコちゃんの姿が。

成程。つまり、彼女が連れて帰ってくれたということか。

 

起きたらお礼を言わなくてはいけないな。

 

…しかしだ。

 

何故彼女は当たり前のように俺と同じベッドで寝ているのだろうか。

いや、まぁ…こういったシチュエーション自体は頻繁に…とは言わずとも多少はある。別に付き合っているのだから、問題自体も特には無いと思う。

 

ただ、こう…なんというかさ。

これはいつも思うことなんだけど…。

 

いくらなんでも無防備過ぎやしませんかね?

毎回毎回こんな感じだから、ちょっと気を許し過ぎなのでは…?と考えてしまう。

 

良い事、というか。俺にとって嬉しいことであるのは勿論なんだけども。

 

隣でカノジョが寝ている。そんなシチュエーションが嫌なわけが無い。

でも、俺だって男だ。そういったことを考えることも当然ある。というか、コレだったら考えない方が不自然だと思う。

 

信頼が故なのか。それとも期待されてるのか。結局分からないまま、そそくさとその場を後にするのだ。

 

まぁ、そんなこんなでいつも朝起きる度に悶々とした気持ちを抱いている。…抱いているのだが。

 

なんだか今日はそういった気持ちを抱かない。何故だろう。身体が子供だからだろうか。

それよりも…なんだ。こう、甘えたい…みたいな。そういった気持ちが物凄く強い。

 

聞いていた話だと薬は身体のみに作用して、精神には影響が無いとのことだったのだが。考え方というか、感情というか。そういったもの自体はどうにも身体の方に引っ張られるらしい。

 

過去に出来なかったことが頭を過ぎっていく。

それは、なんとも子供らしいもので。

 

当時は母親が居ないことが当たり前だったから、思いもしなかった気持ち。

少なくとも、二十二歳の男がやっていいことでは無いのは間違い無い。

 

未だに隣で寝ている女性を横目に見る。…起きる気配は無い。

 

………。

 

…ふむ。

変な気を起こす前に部屋を出ておこう。この身体の赴くままに動いていたら、一生モノの黒歴史になること間違い無しだ。

 

寝ているカヨコちゃんを起こさないように、こっそりとベッドから脱出しようとする。

 

そこで突然身体に腕が回された。

この場においてそんなことをする人間は一人しか居ない。

 

「か、カヨコちゃん?起きてる?」

 

「……」

 

返事は無い。その代わりに思い切り身体を引き込まれた。

ガッチリと抱きしめられ、身動きが取れない。

 

「おーい?起きてるよね…?」

 

再度問うものの、やはり返事が返ってくることは無かった。

まさか本当に寝ているのだろうか。こんなのフィクションの世界でしか見たことないぞ。

 

…どうしようかな。

無理に引き離そうとすれば寝ている彼女を起こしてしまうかもしれない。それは可哀想だ。したくない。とはいえ、このままというのもちょっとなぁ…。

 

あぁ…温いからかまた眠くなってきた…。

もういいや。このまま寝ちゃお。そうすれば変なことも起きないでしょ。多分。

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

「ん…」

 

暖かな陽射しと鳥のさえずりで目が覚める。時計に目をやれば午前の十時頃。随分と寝過ぎてしまった。

 

アラタはもう起きてるだろうか。本人曰く朝に弱いらしいけど、本当かと疑いたくなる程度には彼は朝早くから起きている。

 

ふと、私の服の袖が何かに掴まれていることに気がついた。

ゆっくりと掛け布団を捲れば、そこには昨日の件で子供になったアラタの姿。見たところはまだ寝ているようだ。

 

起こすのも忍びないし、目を覚ますまではこのままでいいかな。

 

…しかし、こうやってよく見てみると…本当に可愛い。髪が長ければ女の子と言われても分からないくらいに。

前にシンイチロウがアラタはお母さんに似たって言ってたけど、これなら確かにそう言うのも納得出来る。

 

大人のアラタはしっかり男性だからあんまり気がつかなかったが、実は結構中性的な顔立ちをしているのかもしれない。

 

…そういえば昨日、お願い聞いてくれるって言ってたな…。

 

女装とか…どうだろう。流石に断られるかな。似合うと思うけど…。

…押せば、着てくれるかも。うん。

 

どんなのが似合うかな。スマホで色々と調べてみよう。

 

…あ、そうだ。折角だし写真も撮っておこうかな。

 

枕元に置いていたスマホを手に取り、インカメにして写真を撮る。

パシャリと鳴ったシャッター音にアラタが若干反応した。…起こしてしまったかな。

 

「ぅ…ん…兄貴…それは……女物の服…」

 

起こしてしまったわけでは無いようだが…一体どんな夢を見ているのだろうか。

 

「いや…俺は着ない…着ないってば…」

 

寝言だけ聞く分には随分と愉快な夢を見ているように思える。眉間にシワが寄っているから、少なくとも彼にとっては悪夢の類なんだろうけど。

 

なんだかその顔が面白くてしばらく見つめていたら、突然アラタの閉じられている瞳から涙が零れた。

 

「ぁ…親父…お袋……」

 

寝ているというのに、その声はとても感情的だった。

苦しそうに、絞り出したような呻き声。

 

お父さんとお母さん。彼の両親は既に他界していると聞いている。

お母さんは彼を出産した後に。お父さんは六年前に事故で。

それ以上のことは聞いていない。この話をしている時の彼は、少し無理をしているような表情をしていたから。

 

きっと、まだ辛さを拭いきれていないのだろう。そんなにすぐ立ち直れるものでもないと思うし、引きずるのが普通の筈だ。

 

ぎゅっと、私の服の袖を掴む力が強くなった。

 

まるで、幼い子供のようだった。

不安や恐怖で竦んでしまっているような。それらの感情を抑えるために、親に甘えているような。

 

私には、今の彼がそんな子供のように見えた。

 

…仕方ないのかもしれないけど、彼には苦しんで欲しくない。

私では埋められない穴があるのかもしれない。それでも、どうにかしてその穴を塞いであげたい。

 

たとえどれだけ時間がかかろうとも。彼の辛い記憶を、幸せな記憶で塗り替えてあげたい。

 

「大丈夫」

 

そっとアラタを抱き寄せる。優しく、柔らかく。彼の恐怖が和らぐように。

 

「大丈夫だよ」

 

ふわりと頭を撫でる。丁寧に、私の想いが伝わるように。アラタが安心出来るように。

 

そうしてしばらくすれば、段々と呻き声が消えていき。

代わりに落ち着いた寝息が聞こえてきた。

 

よかった。落ち着いたみたいだ。

 

…アラタはあまりそういった感情を表に出さない。

意図的にそうしてるのか、それとも無意識なのかは分からないけれど。

でも、少なからず心の奥底には過去に抱いた思いが残っているのだろう。

 

「…もう少し、頼ってくれても良いのに…」

 

意図せず口から出ていったその言葉は、誰の耳に入ることも無く何処かへと消えていった。

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

再度、目が覚める。しかし、先程起きた時とは視界に入る情報が全然違った。

 

まず、互いに向かい合うような形になっている。

次に、抱き合うみたいな感じの体制になっている。感じというかそのものだ。めっちゃ距離が近い。

 

そして最後に。

カヨコちゃんが起きている。バッチリ目が合っている。

 

「…おはよう」

 

「おはよう。やっと起きたね」

 

時計の針は十二時を指していた。やっと、と言われても仕方ない時間だ。

 

「ごめんね。二度寝しちゃったよ」

 

「大丈夫。…結構、楽しめたから」

 

楽しめたって…もしかしてずっと俺の寝顔を見ていたのだろうか。だとしたらめちゃくちゃ恥ずかしいのだが。

 

「そういえばアラタ、魘されてたけど…」

 

「うそ、ほんとに?」

 

「うん。女物の服がどうとかって寝言で言ってたよ」

 

「えぇ…?」

 

なんだそれは。俺は普段、意識していないところで何を思って生きているのだろうか。自分が分からなくなりそうで怖いぞ…。

 

「あと…」

 

言葉に詰まっている様子のカヨコちゃん。なにか下手な事を言っていたのだろうか。

 

…そういえば、二度寝する前に考えてたことって確か…。…いや、まさかな。流石にそれは無いと思い…たい。

 

「…お父さんとお母さんのこと、呼んでた」

 

あぁ、よかった。…こう、エッなことを寝言で口走ってたのかばかり。もしそんなこと言ってたら気まずいどころの騒ぎではない。

 

しかし…。

 

「親父とお袋のこと…ねぇ」

 

確かにそれも考えてはいたが、寝言として出たのは…まぁ、この身体になったからだと思う。俺はもう気にしてはいない。

偶に親父やお袋が生きてたらな、なんてことを考える程度だ。

 

恐らく、そんな気持ちが子供の身体になったことで強くなったのだろう。そして無意識のうちに口に出ていたと。

 

…恥ずかしいといえば恥ずかしい。まだ親離れも出来ていないと思われたかもしれない。

 

しかし一々彼女にそれを言うのもなんだかなぁ…と思う。変に重たい空気になるのも嫌だし、気を使われるのも俺としてはあまり嬉しいことでは無い。

 

どうしたものかと悩んでいると、カヨコちゃんはおもむろに俺の事を優しく抱きしめた。

 

「どうしたの?」

 

「…もう少しだけ、このままで居てもいい?」

 

返事はしない。しなくても伝わると思ったから。

 

触れ合っている身体から、彼女の温もりが伝わってくる。彼女の息遣いが聞こえてくる。彼女の匂いが鼻腔をくすぐる。

 

それら全てが、俺を幸せな気持ちにさせてくれる。

 

「どう?」

 

「すごく落ち着く」

 

それ以上は何も言わなかった。

時計の針が進む音だけが部屋に響く。でも、そんな静寂ですら心地良く感じる。心の中にあった空白が、ゆっくりと埋まっていくような気がした。

 

どれだけそうしていたかのだろうか。時間なんて気にならないくらいの多幸感があったから分からないけれど、カヨコちゃんは俺の事を離した。

 

「そろそろ起きないとね」

 

「…そうだね」

 

少し名残惜しいが…仕方ない。

のそのそとベッドから出ようとした時。突然肩を掴まれてベッドに転がされた。

そして馬乗りの体勢になり、俺はまたまた身動きが取れなくなってしまった。体重はかけられていないから苦しくは無い。

 

「ねぇ」

 

「えっ…な、何…?」

 

「アラタさ、こういうの興味無い?」

 

スマホの画面を見せられる。そこに映っていたのは…フリフリのドレスだった。…なに?どゆこと?急な展開すぎてついていけないんだけど…?

 

「えっ…えっ?」

 

「興味無い?」

 

言葉に圧を感じる。はいかイエスでしか答えることを許して貰えなさそうな…。

てか興味あるって言ったらどうなるのこれ?着てくれるの?

 

…ちょっと見てみたいかもしれない。

 

「興味…ある、かな?」

 

「…そっか」

 

にんまりと、彼女は笑った。その表情が、昨日の夜。あの時のそれと重なって見えて背筋がゾクゾクとした。

 

「じゃあ、今日…これ、着よっか」

 

「…ん?………は?」

 

着よっか、という言葉は本人が着る時に出る言葉じゃないと思うのだが…。

…何か致命的な勘違いをした気がする。

 

「興味あるんだよね?」

 

「いや、カヨコちゃんが着るんじゃないの?」

 

「アラタが着るんだよ?」

 

さも当然のように、そう言われた。初めからそういう態で話をしていたということだろうか。

 

…あっ!よく見たら子供服じゃんこれ!?

 

「いや、いやいやいや!無理!無理だよ!」

 

「でも、昨日はお願い聞いてくれるって」

 

「申し訳ないけどこれはダメ!」

 

必死に拒絶する。これは流石に聞ける範疇では無い。俺が社会的に死んでしまう。

 

「というかさっきの流れでこんな話になる普通!?」

 

「暗いのは嫌かなって」

 

「黒歴史作るくらいなら暗い雰囲気のがマシだよ!?」

 

どうせそんなものはそのうち吹き飛ぶのだ。お互いそういうのを引き摺るタイプじゃないし。

しかし黒歴史は一生残る。どちらがマシかなんて明確だろう。

 

「…ダメ?」

 

「ダメ!」

 

「どうしても…?」

 

「だっ…ダメ…!」

 

ぐっ…そんな悲しそうな顔しないでよ…。俺が悪いみたいじゃんかぁ…。

いや、流されちゃいけないぞ一ノ瀬アラタ!これを通したら今後マジで何一つとして断れなくなる!

だから心を鬼にして断るんだ!

 

「……」

 

だ、だから…心を…。

 

「…か」

 

「か?」

 

「カヨコちゃんも、着てくれるなら…」

 

…ダメだ。俺にはカヨコちゃんのお願いを断ることなんて出来ない…。

だってさぁ…あんな目で見られたら無理だよぉ…。可哀想になってきちゃうんだよぉ…。

 

「ありがとう、アラタ」

 

「絶対だよ!?絶対カヨコちゃんも着てね!?」

 

こういうのは人を巻き添えにすればダメージが少なくなるんだ。親父が言ってた。

 

死なば諸共ってやつだ。彼女には俺と同じ思いをしてもらう…!

 

「くそぅ…!今日される恥ずかしいこと、全部来週やり返すからね…!」

 

「…へぇ」

 

瞬間、カヨコちゃんの目付きが変わった。まるで肉食獣のような、捕食者の目付き。

 

あ、ヤバい。なんか地雷踏んだかも。

 

「じゃあ、こういうこともやり返すんだ?」

 

「…うぇ!?」

 

そう言うと同時に俺のズボンに手がかけられる。

 

…いや、なんでそうなるの!?

 

「ちょ、ちょっと!?この身体じゃそれは無理でしょ!?」

 

「大丈夫。私はどんなアラタも好きだから」

 

「いやっ、そういう問題じゃ…!あっ…!?」

 

 

結局、俺の静止が聞き入れられることは無く…まぁ、その後どうなったのかはご想像におまかせするとしよう。

 

あと、流石にやり返さなかったよ。何をとは言わないけど。

 

 

 






〜おまけ〜

「うん、可愛い…!良く似合ってる」

「……」

「じゃあ、次はコレを…」

「まだやるの…?てか写真撮らないで欲しいんだけど…」

「誰にも見せないから、ね?」

「…ゔぅ〜…」

(泣きそうになってる…めちゃくちゃ可愛い…)

「おーっす。ただい…ま…」

「シン、どうしたのです?入口で固まっ……」

「「「「………」」」」

「あ、兄貴。コレは…」

「スゥー…あー…その、なんだ。色々聞きてぇことはあるが…」

「アラタ君、小さくなっているのですか。しかし、コレは…」

「東雲さん、違くて…」

「みなまで言わなくとも結構ですよ。安心してください。私は分かっておりますので。…シン」

「…そうだな。取り敢えず…あれだ。邪魔したな」

「いや、待って!話を聞いて…!違うんだって!ほんとに!!」

「…じゃ、次これね」

「カヨコちゃんもスルーしないで説明してよぉ!!」

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