キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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今日は上司との付き合いも、後輩の愚痴を聞くこともない素晴らしい日だ。
だから出来上がりホヤホヤを投稿させていただきやす。


EP.4

 

来ない。

 

もう日が傾いたくらいだというのに、彼が路地裏に来ない。今日はお店も定休日のはずだけれど、まだ来ない。

 

初めて会った時から、今まで来ないことなんて無かったというのに。

 

何故だろう?なにか気に触るようなことをしてしまっただろうか?まさかこの前の一件?

 

いや、あの後も何回か会っているけどそんな様子は無かった。先週は普通にこの路地裏にも来ていた。

 

…それとも、私が気付かなかっただけだろうか。これでも人の感情は読み取りやすい方だと思っていたのだけど。

 

どんどん思考がマイナスの方に偏っていく。

 

にゃー、と鳴き声が路地裏に響く。その鳴き声はここにいない彼を心配しているように聴こえる。

 

気がつけばもう辺りは真っ暗になっていた。

便利屋の皆に心配をかける訳にはいかないし、帰ろう。今日来なかった理由は、明日お店に行って聞いてみればいい。

 

立ち上がり、路地裏を後にする。

姿を見せなかった彼に後ろ髪を引かれながら。

 

 

 

 

 

〜~~~

 

 

 

 

 

「臨時休業…」

 

次の日、お店に行った私を出迎えたのは閉め切られたシャッターに貼られた張り紙だった。大きな文字で今日が臨時の休みである事を伝える文字の下に、小さな文字で休業の理由が書いてあった。

 

『急病の為、完治するまでの間は臨時休業とさせていただきます』

 

どうやら彼は体調を崩してしまったらしい。昨日来なかったのも、恐らくはこれが原因なのだろう。

 

連絡の一つでもくれれば良かったのに、なんて思ったが、私が彼の連絡先を知らないことに気がつく。

…とことん、その時にならないとこういったことに気がつかない。次会った時にモモトークを教えてもらおう。

 

とにかく、今日は帰るしかない。

 

来た道を戻っている最中に、前に彼が言っていたことをふと思い出した。

それは彼の家族に関してのことだった。

 

『もう両親は他界してるから』

 

ということは今彼は独りでいるのだろうか。

 

彼も大人だ。ちょっとした風邪などであれば1人でもなんとでもなるだろう。

 

…でも、それで大丈夫なのだろうか。

 

寂しい思いをしているかもしれない。辛い思いをしているかもしれない。

親が、家族がいないのであれば誰にも頼ることも出来ずに苦しんでいるのかもしれない。

 

そんな考えが浮かぶといてもたってもいられなくなった。

 

「……」

 

結局お店まで戻ってきたのはいいものの、何処か玄関なのかも分からずじまいで立ち往生してしまう。

 

やっぱり戻るべきかな…でも、もしかしたら…

 

考えが纏まらずにお店の前を右往左往する。

 

「嬢ちゃん。見たことない顔だが、こんなとこで何してんだ?」

 

突然かけられた声に思考していた脳から意識が引き戻される。

 

そこに居たのは、両手にレジ袋を持った筋骨隆々の男性だった。

 

「えっと…」

 

休業中のお店の前でウロウロしているなんて、傍から見たら完全に不審者だ。もしかしたら誤解されているかもしれない。どう答えたものかと考えるものの、それらしい言葉が出てこない。

 

「見ての通り、今日はウチはやってないが…」

 

その言葉に、違和感を覚える。

 

今、この男性はお店をウチと言った。だけど、ここはアラタ一人で開いているはず。他に人を雇ったという話も聞いていない。

 

「今ウチって…」

 

「ここは紛れもなく俺の家だが?」

 

「でもアラタは他に人はいないって…」

 

アラタの名前を出すと男性は訝しげな顔から物凄い笑顔に変わる。

 

「嬢ちゃん、アラタの友達か!だったら最初から言ってくれれば良かったのによ!アイツの様子見に来たんだろ?是非とも来てくれや!」

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

スタスタと歩いていってしまう男性の後を慌てて追いかける。

というか、この人は彼のなんなのだろうか?

 

「その、貴方はアラタの…」

 

「ん?あぁ、そういや自己紹介がまだだったな。俺ァ、一ノ瀬シンイチロウ。アラタの兄だ」

 

兄。アラタからそんな話は一切聞いていない。

まだ彼は私に話していないことがあったのか。…それか、あえて話さなかったのか。

 

チクリと、心が痛む。

 

「お兄さんがいたんですね…」

 

「タメ口で構わんよ。しかし、やっぱ聞いてなかったか。まぁ、俺も滅多に家に居ないからな。話す必要もないと思ったんだろうさ。それにアイツは家族のこと聞かれても適当にはぐらかしてるみたいだしな」

 

「…そうなの?私にはご両親の事は話してくれたけど」

 

「ほー、珍しいこともあるもんだ。たまたま気が向いたか」

 

アラタの兄…シンイチロウは此方を一度横目で見た後に、ボソッと、小さく呟いた。

 

「それとも、余程嬢ちゃんに入れ込んでんのかねぇ」

 

その声は普通なら聞こえないくらいには小さかった。恐らく、私に聞かれないようにしていたのだと思う。

しかし、聞こえた。聞こえてしまった。

 

アラタが、私に入れ込んでいる?

 

最初は意味がわからなかった。

だけど、心の内で言葉を反芻しているうちに、段々と理解が追いついて。

本人から言われた訳でも無いというのに、昨日からずっと心の奥底に渦巻いていた薄暗い感情が霧散していく。

 

気がつけばあっという間に彼の家の前に着いていた。

 

「着いたぜ。さぁさ、あがってくれや」

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

「着いたぜ。さぁさ、あがってくれや」

 

「お邪魔します」

 

俺の後ろにいるアラタの友達だという嬢ちゃんを家にあげる。

しっかしアイツも隅に置けないねぇ。こんな別嬪さんといつの間にか知り合ってるだなんてよ。

…まぁ、少しばかりきな臭い気もするが。それはこっからの展開次第で判断するとしますかね。

 

「おーいアラター、友達来てるぞー」

 

居間へと進みながら呼び掛けるも、返事がない。

そのままアラタの部屋へ行ってノックをしてからドアを開けると、グッスリと寝付いてるアラタが目に入った。

 

「…寝てんな」

 

「寝てるね」

 

俺の横からひょっこりと顔を出した嬢ちゃんが呟く。

 

「どうすっかねぇ」

 

「起こすのも悪いし、良ければ待たしてもらってもいい?」

 

「構わねぇが…時間は大丈夫か?」

 

「今日はオフだから」

 

「そうか」

 

んじゃあ折角だし、色々と話を聞かせてもらうとするかねぇ?

 

居間へと戻り、椅子に座る嬢ちゃんと向かい合う形で俺も席に着く。

 

「改めて聞くが、アラタとは友達って事で良いんだよな?」

 

「うん」

 

友達…友達ねぇ。

 

「そういやアイツとはどこで知り合ったんだ?前帰ってきた時までは、俺が知ってる限りアイツに女との交友は無かった筈だが」

 

アラタは女経験があまりにもねぇからなぁ…兄貴としては心配になっちまう訳よ。

 

それこそ騙されてねぇか、とかよ。素直な奴だし、あんまり人を疑うような事もしねぇからな。アイツに悪い虫が着くってんなら、俺が追っ払わねやなんねぇ。

 

だが、俺の予想に反して嬢ちゃんは何故か嬉しそうな表情を浮かべる。

他の奴が見ても気づかないくらい結構分かりづらいが、先程までのクールで無表情な感じとは違う、なんというかぽやぽやしたような表情だ。

 

「そっか…他に女の子はいないんだ…」

 

声が小さくてよく聞こえなかったが…なんか、トんでねぇか?大丈夫かあれ?

 

「おーい?」

 

「…っ!?…あ、えっと…アラタとは何ヶ月か前に路地裏で知り合ってから、時折会うようになって。それからたまたまお店に入って、そこからはお店の方にも偶に行くようになった感じかな」

 

ワタワタと慌ててはいるものの、嘘をついている様子は無い。慌ててんのはどっかにトんでたからだろう。

 

しかし、うーむ。俺の思い過ごしかねぇ?それならそれで良いんだが、どーにも腑に落ちんというか…ただの友達っつうには、雰囲気がおかしいような気がしたんだがなぁ。

 

もうちょい話してみるか。

 

「なら、ウチの常連さんってわけだ。ウチは客同士でも仲が良いから、居心地も悪くねぇだろ?」

 

「いや、私は他のお客さんが居ない時間帯に行ってるから…」

 

「ほぅ?そりゃまたなんでだ?」

 

他の客が居ねぇ時間っていうと、夕方前か夜中くらいのもんだが。わざわざそんな時間に飯を食いに行くってのもおかしな話だ。

 

「それは…」

 

「話しづらいことなら別に言わなくても良いぜ?」

 

それとも、誤魔化す言葉を考えているのか。

 

しばらく視線を下に向けていた嬢ちゃんが、視線を戻し此方を真っ直ぐに見据える。

 

そしてようやく紡がれた言の葉は、俺を驚愕させるには十分過ぎるものだった。

 

 

 

「二人きりが良いから。アラタと会う時は、誰にも邪魔されたくないの」

 

 





カヨコにはさ、気になる人の事で変に考え過ぎて一喜一憂してて欲しいんだよね。分かる?分かれ。
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