キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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最近上司が忙しいみたいで麻雀に誘われなくなりました。おかげで筆が乗りますなぁ。もう一生誘わんでくれ。





EP.5

 

 

「二人きりが良いから。アラタと会う時は、誰にも邪魔されたくないの」

 

想像の斜め上を行く答えに俺は呆気に取られてしまった。そして、先程と同じように、嬢ちゃんに嘘をついている様子はない。

 

………おいおいおいそれって要は、そういうことだよな?女が、男に二人きりで会いたいって、その理由が誰にも邪魔されたくないからって、それ以外ねぇよな?俺の勘ぐり過ぎとか、そういうんじゃねぇよな?

 

…だから雰囲気がおかしかったのかぁ…

 

こりゃ完全に白と見て良さそうだな。俺の感覚も鈍ったもんだ。しかし、嬢ちゃんの方はコレ分かって言ってんのか?義兄さんにご挨拶ってか?

 

「あーっと、それは…そういうことで良いんだよな?」

 

「?そういうことって…?」

 

何を言っているのかといわんばかりの言葉に絶句してしまう。

 

自覚無しかよぉ…

 

いや、いや待て。落ち着け一ノ瀬シンイチロウよ。俺よりも随分歳下に見える娘に踊らされるな。向こうが全てわかった上でしらばっくれてる可能性も…

 

「?」

 

可能性…も……

 

相も変わらず頭上に疑問符を浮かべている嬢ちゃんを見て、俺は悟った。

 

これマジでわかって無いやつだぁ…

 

つーか意識せずにそんな事言うって、嬢ちゃんもうアイツのこと好きだよな!?傍から見てたらそうとしか思えんよな!?

 

これは、俺はどうしたらいいんだ?しっかり言ってやるべきか、それとも何も口出ししないか。

他人の恋路に口出しなんて出来る程高尚な人間になったつもりもねぇし、馬に蹴られんのも嫌だしなぁ。ここは見守る方向で行くのが正解か…?

 

しかし、向こうは自覚無しときた。アラタの方は分からんが、大事なとこでクソボケになるアイツの事だ。恐らくはこの娘の気持ちにも気づいちゃいねぇだろう。俺の弟は昔からそういうヤツだ。

 

こんな可愛い嬢ちゃんが弟の嫁に来るってんなら、押していった方がいいと思うんだ俺はよ。いつまでもこんな調子で仲良しごっこやらせてたら、アイツの未来の嫁さんを逃しちまう。

 

よし…言ってやる。馬に蹴られたらそんときゃそん時だ。

 

「嬢ちゃんは、アラタの事を好いてるって認識でいいのかって事だ」

 

「好いてるって…?…ッ!??」

 

ボン!!と爆発音が聞こえる気がしたくらいにテンプレな反応をした嬢ちゃんは、真っ赤になった顔を俯かせてしまった。だが、俺としちゃ黙っていられるのは困る。

 

「どうなんだ?好いてるのか、そうじゃないのか」

 

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

「どうなんだ?好いてるのか、そうじゃないのか」

 

私の前に座るアラタの兄、シンイチロウが改めて尋ねてくる。

アラタのことが好きなのかと。

 

そんな事、考えた事もなかった。

 

彼との時間は心地よくて。

彼と話してると楽しくて。

彼といると嬉しくて。

彼のことを見ていると幸せで。

 

初めて会った時からそうだった。

 

ただ、私にとってはそれだけだった。それだけで良かった。

この気持ちの原点を、源流を、考えようとは思わなかった。

 

…いや、気付こうとしなかっただけか。

 

気づいてしまったらきっとこの関係は終わってしまうと感じたから。

 

知ってしまったらもう今までのようには居られないと思ったから。

 

彼との関係を変えたくなくて。

もしかしたら終わってしまうかもと怯えて。

私は、自分の気持ちを知ろうとしなかった。ずっと知らないふりをして逃げていた。

 

でも、突きつけられてしまった。この感情の正体を。明確に言語にされてしまったら、嫌でも気づいてしまう。

 

もう知らないふりは通らない。

 

もう気づいてないふりは出来ない。

 

もう今までのようにはいられない。

 

心を、そのまま口にする。

 

「私はアラタのことが好き」

 

これが、私の嘘偽りの無い本心だ。

 

私の言葉を聞いたシンイチロウは、どこかほっとした表情をしていた。

 

「そうか…そうかァ。とうとうアイツにも春が来たんだなぁ…今日は赤飯かねぇ」

 

「いや、まだそこまでは進んでないんだけど…」

 

「遅かれ早かれだろ…あ、俺の事はお義兄さんて呼んでも構わんぜ?」

 

「正式に付き合うことになったらね」

 

「つれないねぇ」

 

これは家族公認ということで良いんだろうか。よく分からないけれど、多分そうなんだろう。

 

「アイツ鈍感だからなぁ。彼女とか出来たことねぇし、女心ってもんを分かってねぇと思うからよ。ガンガン押してった方が多分いいぜ?」

 

「そうする。話したりとかしてるとそんな感じするし」

 

「ハハハ!よく分かってんなぁ!余計な心配はせんでも良さそうで安心したぜ!」

 

シンイチロウとアラタの話題で盛りあがっていると、ギィ…と居間の扉が開く音がした。扉の方を見ると、そこには話題になってる当人が居た。寝起きだからか、あまり意識がはっきりしていないような感じだ。

 

「兄貴ぃ…誰か来てんのかぁ…?」

 

「おっ!噂をすればってやつだな。お前に客来てんぞー」

 

「客が来てんなら起こしてくれ…よ…」

 

此方を見て彼が固まる。

 

「…カヨコちゃん、なんでここに?」

 

「カヨコだぁ…?」

 

私の名前を聞いたシンイチロウが訝しげな反応をしている。

 

「どうしたの?」

 

「…いやぁ、同じ名前を聞いたことがあっただけだ。気にせんでくれ」

 

「そっか」

 

少々気になるところではあるけど、今はそこじゃない。先にアラタの疑問の方を解決しよう。

 

「お店の張り紙見て立ち往生してたらシンイチロウに会って、そこからは流れでかな」

 

「お前が心配だったんだとさ。お熱いねぇ。仲がよろしいようで何よりだ」

 

「…あんまり人の事を揶揄うもんじゃないぞ兄貴。カヨコちゃんとはただの知り合いだ」

 

アラタがシンイチロウの言葉に対して少し不機嫌そうに返す。

 

確かにちょっと揶揄いすぎだと思う。でも、そんなふうに言われるのは私も気に食わない。私にとっては彼はただの知り合いなんかじゃないのだから。

 

「…アラタ」

 

「ごめんねカヨコちゃん、兄貴が失礼なこと言っちゃって。あんまり気を悪くしないで欲しいんだけど」

 

「そうじゃなくて。…私とは、ただの知り合いなの?」

 

何を言われたのか分かってないような表情をアラタが浮かべる。シンイチロウの言った通り、やっぱり彼は肝心なところで鈍感になる。

 

なら、私は彼が理解するまで言い続けるだけだ。

 

「アラタは、私のことをただの知り合いだと思ってるの?」

 

「…ごめん。ただの知り合いじゃなくて、友達だったね」

 

その言葉には嘘を感じた。まだ、足りないみたい。

 

「ただの友達?…私はアラタのことを、そうは思ってないけど」

 

彼の本心が聞きたい。今は取り繕った言葉でも構わないから。

 

だからどうか、私に教えて。

 

あなたにとって私は、何?

 

「…大事な、とても仲のいい友達だよ」

 

彼の顔には迷いと、恥じらいが見て取れた。多分まだなにか隠してると思うけど、これは良い方向と見ていいのかな?あ、シンイチロウがいい笑顔でアラタに見えないように親指を立ててる。

 

長い間アラタを兄として見てきた彼が、そう判断するなら問題ないだろう。

 

席を立ち、ぐっと背を伸ばす。

 

「今は、それでいいかな。…アラタの顔も見れたことだし、あんまり長居するのも悪いから帰ろうかな」

 

 

 

 

________

 

 

 

 

 

「今は、それでいいかな。…アラタの顔も見れたことだし、あんまり長居するのも悪いから帰ろうかな」

 

「それなら俺が」

 

「お前は大人しくしとけ、病人だろうが。俺が送っていく」

 

言葉を全て口にする前に兄貴に遮られてしまう。

先程のカヨコちゃんとのやり取りから、心の中はずっとモヤモヤしたままだ。だから、聞きたいことが沢山あったのに。

 

「それに、お前はその気持ちに整理をつけた方がいい。安心しろ。何も分捕ろうってわけじゃねえんだ」

 

兄貴に耳打ちされてつい苦笑を浮かべてしまう。

全部分かった上での発言だろう。やっぱり、兄貴には敵わない。

 

「わかったよ。カヨコちゃん、またね」

 

「うん、またね」

 

居間の扉が閉まる。

 

二人が居なくなった居間は俺からすればいつもの風景の筈なのに、とても殺風景で少し寂しく感じてしまう。

 

「…はぁ。兄貴め、『分捕ろうってわけじゃないんだ』って」

 

とっくに俺の気持ちに気付いてた癖に、意地の悪いことを言うもんだ。

 

そうだとも。

 

俺は彼女のことが、鬼方カヨコのことが好きだ。俺の嘘偽りのない本心だ。

 

いつからだったかは分からないけど、いつの間にか好きになっていた。

 

こんなにも人を好きになったことは無いから、だからこそよく分かる。

 

そして、そんな俺だからこそ聞きたかったんだ。

彼女の心の奥底を。

 

向こうだけが質問攻めなんて酷い話じゃないか。

 

俺にも聞かせてくれよ。

 

どうしてあんなことを聞いたのか。

 

何が今はそれでいいのか。

 

俺の事をどう思っているのか。

 

彼女にとって、俺はなんなのか。

 

分からなかったから、俺は嘘をついた。最後の最後、心の奥底。本当の気持ちを。

 

この関係のままでいたいから、隠したいと思った。

この関係を壊したくないから、隠さなきゃいけないと思った。

 

隠したって良い方向に行かないことくらい分かってる。でも、隠しておけば悪い方向にも行かない。

 

今の関係が心地いいと思える俺にはそれだけで良かったのに。

 

迷わされてしまった。他ならぬ彼女の言葉に。

突きつけられてしまった。信頼出来る兄によって。

 

このままで良いのかと。

これで終わって良いのかと。

 

俺は一歩、進みたいと思う。

 

「ただいまー…っと、なんだ、ほんの少しの間に随分といい面構えになったじゃねぇか。どうだ?答えは出たか」

 

「もう、誤魔化しはしないよ」

 

「ほぉーう?と言うと?」

 

分かってる癖に。本当に、意地の悪い兄貴だ。

 

 

「カヨコちゃんは仲のいい友達なんかじゃない」

 

「俺の…初めてできた好きな人だ」

 

 

 





〜おまけ〜

「いやぁしかし、嬢ちゃんも攻めるねぇ」

「シンイチロウが振ったんでしょ」

「バレてらぁ。…あ、そういやよぉ。嬢ちゃん歳は幾つだ?」

「話逸らさないでよ…今18歳だけど」

「18か…18ぃ!?」

「何か変?」

「変も何も…てっきり20超えてるもんかと思ってたぜ。だがまぁ、それなら都合いいか」

「都合って?」

「それがよ、嬢ちゃんと同じくらいの娘が知り合いにいるんだがよ。その娘の趣味?が雑草を育てることなんだが…今、そういうの流行ってんのかね?俺ァどうにも近頃の流行りってのには疎いからよく分からんのだが…」

「雑草を?私の知り合いにも一人いるけど、他にやってる人なんて見たことないよ」

「そーか、別に流行ってるわけじゃねぇのか。安心安心…いや、安心出来ねぇな…」

「まぁ、人と違う趣味があってもいいんじゃない?それもその人の個性だと私は思うけど」

「そういうもんか。しかし、流行ってないってのにお互い知り合いの中でやってるヤツはいるんだなぁ。不思議なもんだ」

「私達が知らないだけで流行ってるのかもしれないね」

「そうかもしれんなぁ」



〜あとがき〜

カヨコはなんかさ、じっとりじっくり距離縮めてきそうだよね。
でもマッハで距離縮めてくるカヨコも俺は好きだよ。
要はカヨコって認識出来たらどんなカヨコでもそれはカヨコなんだよね。結婚しない?

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