キヴォトス人の『運命の人 』   作:Mr.@

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最近ようやく百花繚乱編読んだんですが、アラタ出てきてビビりました。
名前つける前にちゃんと調べんとね…
あ、また話長くなったんでぶった切ってます。


EP.8

 

 

「はぁ〜…」

 

高校時代の同級生連中と飲みに行った帰り道。

白い吐息を吐き出しながら、夜中の飲み屋街を歩く。ギラギラと輝くたくさんの看板が少し眩しい。

 

親父が亡くなってからすぐに高校を辞めてしまった俺と、それでも未だに関わってくれる気の良いヤツらだ。

歳相応と言えばそうなのだろうが、些か下世話なのがたまにキズだけど。

 

先の居酒屋での会話を思い出す。

 

『アラタ〜。お前いい加減彼女の一人でも作らんのかぁ〜?』

 

『そうそう。お前顔は良いんだから、その気になりゃ女の百や二百くらいすぐに捕まんべよ』

 

『うっせぇ、チェリーボーイ舐めんな。…でもまぁ、気になってる娘はいるよ』

 

『…え?マジ?』

 

『マジ』

 

『あの、クソボケの化身で、朴念仁という言葉の擬人化に?』

 

『誰がクソボケで朴念仁じゃコラ』

 

相当驚いたらしく少しの間ぽかんとしていたものの、その後すぐに再起動してぎゃいぎゃいと騒ぎ出していた。

 

当然そんなヤツらだったら色々と聞き出そうとしてくるわけで。

質問攻めにされる前に飲ませまくってダウンさせられたから良かった。こういう時に自分が酒に強くて良かったと思う。

なんなら飲み足りないから、帰ったらもう少し飲むとしよう。

 

「……こん…と…何を…」

 

「…い…だか……違…て……」

 

「ん?」

 

帰り道をのそのそと歩いていたら、先の道で言い合いをしているような声が聞こえてきた。こんな時間でこんな場所だし、酔っ払いの喧嘩とかだろう。

そういう手合いに関わると、ろくな事にならないからスルーしよう。

 

声が段々と近くなって、言い合いをしている人達も姿も見えてきた。

一人は警察のようだ。そしてもう一人は…

とても見覚えのある、というかよく知った人だった。

 

「あれ、カヨコちゃん?」

 

「あ、アラタ…」

 

一体こんな時間に飲み屋街で何をしているのだろうか?

 

「この娘の知り合いの方ですか?」

 

「はい、そうですけど…なにかありましたか?」

 

「それが…未成年だというのに、こんな時間に飲み屋街をウロウロとしているものですから。少々質問をさせて頂いていたのです」

 

要は職質を受けていたと。そういえば、カヨコちゃんは見た目で勘違いされてこういったことになる時が多々あると前に話していたな。

 

「そういうことであれば、自分の方でしっかり家まで送らせて頂きますので」

 

「分かりました。…君、今後は怪しまれるような事をしないように」

 

「……はい」

 

たまーにこっちの話を聞かない人とかもいるから、どうなるか不安だったんだけど…話を聞いてくれる人で助かった。

 

「…ハァ…」

 

警察の人が場を離れてから、カヨコちゃんは大きく溜息を吐いた。

 

「大変だったね」

 

「ほんとにね。ただの帰り道だって言ってるのに、全然私の話聞いてくれなくて」

 

前言撤回。どうやら話を聞かないタイプの人だったらしい。

 

「まぁ、たまたま通りかかってよかったよ」

 

「うん…ありがとうね」

 

「困った時はお互い様だから、気にしないで」

 

さて、彼女は帰り道だと言っていた。だが、今の時間は日付を跨ごうかというところ。そんな時間に女の子を一人で帰らせる訳にもいかない。

 

「時間も時間だし、送っていくよ。家族の人も心配してるんじゃない?」

 

「時間…?」

 

カヨコちゃんがスマホを取り出して時間を確認する。

そしてスマホの画面を見ると同時に再び溜息をついた。

 

「…もう電車ないじゃん」

 

「この辺じゃなかったんだ」

 

「うん、今日は…ちょっと用事があって」

 

「そっか。迎えに来てもらうのは?」

 

「この時間だと、今日はまだ皆帰ってきてないかな。でも、タクシーを呼べばちょっと高くつくけど大丈夫」

 

彼女の言葉につい苦笑いを浮かべてしまう。

実はこの辺、夜はタクシーが来ないのだ。

 

「あー…ここら辺一体は夜はタクシー来てくれないよ。酔っ払いがいきなり銃撃戦始める事があるから、安全の為にって」

 

事がある、とは言ったもののそれが起きていたのはもう六年前の話。

 

親父が亡くなってから、荒れに荒れた兄貴が酒に逃げた上にそこら中で喧嘩を売りまくったのだ。それはもう酷い有様で、今歩いてるこの辺も殆どの建物が壊されていたし、歩く場所もないんじゃないかっていうくらいの量の人が山積みになってたりもした。

 

でもその時の俺には、どうしても兄貴を止める事が出来なかった。酒に溺れて忘れたくなる気持ちも、女を追っかけて誤魔化そうとする気持ちも、喧嘩をして憂さ晴らししたくなる気持ちも、痛い程に分かってしまったから。それがどれだけ良くないことか理解していようとも。

 

まぁ、当時の俺は女には興味が一切なかったし、酒が飲める歳でもなかったから高校を辞めて仕事に逃げたんだけど。喧嘩なんて以ての外だ。

 

結局兄貴は警察にとっ捕まり、俺が迎えに行ってからはピタリと止まった。

 

兄貴が家を長いこと空けるのも、帰ってくる度に大金を置いていくのも全てそこに起因している。

俺はもう気にしてないし、兄貴には家にいてもらった方が嬉しいって言ってるんだけど、向こうがそのことを負い目に感じてるようで止めようとしない。

こればっかりは本人の問題なのでどうしようもないから、負い目が無くなるまでそっとしてくつもりだ。

 

「……どうしよう」

 

カヨコちゃんが困った顔でこちらを見てくる。つまり打つ手無しと。

 

…一つだけ、解決出来る方法がある。

だが、個人的にはそれは避けたい。

受け入れられたら社会的に問題になりそうだし、拒否されたら俺の心が傷つくという、どっちに転んでも俺にとって痛手しかない案だからだ。

 

とはいえこのままカヨコちゃんのことを放っておく訳にも行かないし…致し方あるまい。

 

「もしカヨコちゃんが良ければなんだけど…ウチ来る?」

 

「え…」

 

……これは不味ったかもしれない。怖くて彼女の顔が見れない。絶対ドン引きされてるよ…

そりゃそうだ。理由が理由とはいえ、成人男性が未成年の女の子を家に連れ込むなんて事案以外の何ものでも無いのだ。

 

カヨコちゃんの反応に怯えていた俺だったが、次の言葉でその気持ちは霧散した。

 

「…良いの?」

 

「流石に放っておけないからね。カヨコちゃんが問題ないならだけど…」

 

「行く」

 

行く、というただの一言に、『言質は取ったぞ』と言わんばかりの言葉の圧を感じた。

 

「そ、そう…。じゃあ、行こうか…?」

 

自分で言い出したことなのに、何故か疑問形になってしまう。

 

いつものように二人で並んで歩き出す。歩幅を合わせて、ゆっくりと。

 

「そういえば、それ。つけてくれてるんだね」

 

彼女の首から下がっているネックレス。前に俺がプレゼントしたものだ。最悪質屋に流されているものだと思っていたが、杞憂だったらしい。

 

「アラタから貰った大事なものだから。肌身離さずつけてるよ」

 

「そこまでしなくても…」

 

するりと俺の腕と胴の間に、自分のものでは無い腕が入り込む。

俺は腕を上げてそれを避けた。

 

「カヨコちゃん、今はちょっと…」

 

「なんで?」

 

ぶっちゃけた事を言うと、個人的には大変嬉しいことではある。

俺も男だ。好きな娘と腕を組むというシチュエーションが嬉しくない筈が無い。

 

だが、何も知らない他人から見たらどう思われるだろうか。

カップルに見られるのはまだいい。昼間なら大概はそう思うだろう。

しかし、今は夜。昼間とは見方が違ってくる。所謂パパ活だとか援助交際だとか、そういう風に見られる可能性が出てくる。そこが問題なのだ。

 

こっちは成人男性で向こうは未成年。ともなればそう見えてもおかしくは無い。

俺はともかく、カヨコちゃんにそういったレッテルが貼られるのは嫌だ。

 

あとドキドキしてるのバレたくない。恥ずかしい。

 

「腕組まなくても大丈夫でしょ?ちゃんと歩幅もあってるよ?」

 

「ダメ」

 

「周りの目とかね…?」

 

「ダメ」

 

前に出かけた時の焼き直しのようなやり取りが続く。

 

「他の人が見たら、良くないことをしているように見えちゃうかもしれないから。俺はカヨコちゃんがそういうことしてるって思われるのは嫌だな」

 

「……私は、アラタとだったら良いけど」

 

その言葉にはどんな意味が含まれていたのだろう。

俺には、分からなかった。

 

「カヨコちゃん、それはーー」

 

「隙あり」

 

「あっ…!」

 

再び腕が入り込む。今度は避けられないようにがっちりと腕を抱え込まれてしまった。こうなってしまってはもうどうしようもない。

 

「早く行こ?そうすれば他の人に見られることも無いでしょ。…それなら、いいよね?」

 

「……わかったよ」

 

諦めて歩き出す。しかし、彼女はどうしてこんなにも距離が近くなったのだろう。考えれば考える程不思議だ。

 

『だがそれは聞かれたくてじゃねぇ、気付かれたくてだ。その意味をよーく考えるこったな』

 

唐突に兄貴の言葉を思い出した。

 

『聞かれたくて』ではなく『気付かれたい』

それが本当なのだとすればこれも、気付かれたくてなのだろうか?

なら、何に気付いて欲しいのか。それを俺が理解しなくてはいけない。

 

だけど、俺には皆目見当もつかない。こんなんだから兄貴に女心がわからんだの、友人からクソボケだのと言われるのだろうか。

 

「難しい顔してどうしたの?」

 

カヨコちゃんの顔がすぐ近くにあった。

 

ヴッ。可愛い。

 

彼女は俺よりも背が低いので、必然的に上目遣いになる。それに加えていつもと違い、周囲の暗さと建物の看板の光が顔を照らして破壊力を増させる要因となっている。

 

心臓が、跳ね回る。

 

「なんでもないよ」

 

平静を取り繕って返事をする。するとカヨコちゃんは、抱えていた俺の腕をより一層強く抱いた。

 

「鼓動、早くなってるよ。…もしかして、照れてる?」

 

「…やっぱ腕組むの止めない?」

 

「照れてるんだ?」

 

今度は何も言わない。

言えるか。面と向かって、照れてます。だなんて。

 

「私もね、…照れてるの。これ、実は恥ずかしいんだよ?」

 

その言葉を聞いて初めて、彼女の鼓動を感じた。確かに、これを平常と言ったら心配になるくらいには早い。

 

「良かった。私だけじゃなくて。アラタも、私と同じなんだね」

 

「そりゃあね。俺、彼女とかできた事ないし」

 

女性とこんな距離感になることなんてなかった。残念なことに、俺はまだまだ真っ赤なさくらんぼなのだ。

 

「ふぅん…彼女、できたことないんだ」

 

カヨコちゃんが何か言っていたが、声が小さくてよく聞き取れなかった。

 

「なんて?」

 

「なんでもないよ」

 

「そう?…ていうか、カヨコちゃんも恥ずかしかったんだね。前もそうだったけど、あんまりにも自然にやるもんだから全然分からなかったよ」

 

俺がそう言うと何故か、じとっとした目線を向けられた。

 

「…アラタ以外にやったことないから。それに、私も彼氏とかできたことない」

 

「そうなんだ。カヨコちゃん、可愛いのにね。皆見る目無いなぁ」

 

「…ほんと、そういう所だよ」

 

ぷいっ、という擬音が聞こえてきそうな感じで顔を逸らされてしまった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

そうこうしていると、あっという間に我が家に着いた。

鍵を開けて中へと入る。

 

「さ、上がって。人が来ることないから、ちょっと散らかってるけど」

 

「お邪魔します」

 

彼女を居間に通して座ってもらう。兄貴が家にいない時は俺以外に人が入ることはまず無いので、生活感が丸出しになってしまっていて少し恥ずかしい。

あんまり見ないで欲しい。

 

「…もしかしてアラタ、片付けは得意じゃない?」

 

「そういう訳じゃないんだけど、一人でいるとそんなに気にならないんだよね。ついついサボっちゃう」

 

とはいえ極端に汚いということも無いし、なんなら綺麗な方だと思う。高校時代の友人の家に遊びに行った時は、それはもう酷かった。

まぁ、女性から見たらまた違うのかもしれないけど。

 

「…これって…」

 

彼女の視線の先にあったのは、ウィスキーの瓶だった。

昨日軽く飲んだのを、そのままにしていたのを忘れていた。

 

「それ、中身酒だからカヨコちゃんは飲んだらダメだよ」

 

「お酒も飲んでたんだ」

 

「前に話してなかったっけ?なんなら今日友達と飲んだ帰りだったからね」

 

「初耳。…ねぇ、もう今日は飲まないの?」

 

そう言ってこちらを見る彼女の視線や雰囲気は、いつぞやの煙草の件を彷彿とさせる。ここで否定したら前と同じようになってしまいそうだ。

本当なら未成年の前では飲まないようにしているのだけど、彼女はかなり察しがいい。適当なことを言ってもすぐにバレてしまうだろう。

 

「…飲み足りなかったから、少し飲もうと思ってるよ」

 

瞬間、カヨコちゃんの表情がぱっと変わる。多分、彼女と関わりが無い人だと分からないかもしれないけど、それはもうものすんごい笑顔だ。

 

「ほんとに?じゃあ、お酌させてもらおうかな」

 

「え、そこまではいいよ…俺が勝手に飲むだけだし」

 

氷の入ったグラスとウィスキーを持って彼女の前に座ると、それを奪い取られてしまった。

 

「私がやりたいの」

 

「じゃあ、お願いしようかな。ロックで大丈夫だからね」

 

トクトクとグラスにウィスキーが注がれていく。だいたい半分くらい入ったところで傾けられた瓶が戻り、流れが止まった。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。カヨコちゃんはなにか飲む?」

 

「お酒?」

 

「普通の飲み物だよ。お酒は飲んじゃダメだって」

 

「冗談だよ」

 

時折こんな感じの、心臓に悪い冗談が飛んでくるんだよなぁ。茶目っ気と言えば聞こえは良いけど…。

彼女になにかをと思い冷蔵庫に向かおうとしたら、先に冷蔵庫を開けられた。

 

「お茶、貰うね」

 

「どうぞ〜」

 

一度ペットボトルを見せて来る。そんなことする必要ないんだけどな。

再び彼女が席に着いたのを見計らって、俺はグラスを持ち上げた。

 

「お疲れ様。乾杯」

 

「乾杯」

 

 

ふたつのグラスが、高い音を立てて重なり合った。

 

 

 





カヨコにお酌して欲しい…
して欲しい…して欲しくない?
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