転生した。剣と魔法、ファンタジーの世界に!
 しかも王と正妻の間に生まれた第一子として!将来は王様!ヒャッホイ!
 政に関わる身に転生した一般日本人オタクとしては、アレをやるしか無いよなぁ……?
 そう、現代知識チートって奴をよ──!

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金融王~打ち出の小槌の作り方~

「なぁ、親愛なる我が侍従……セバスよ」

 

 午後3時のティータイムの最中、ヴィジャール・ナヴデント・エリクルス王太子殿下は僕の名前を呼んだ。

 『親愛なる我が侍従』と僕を呼ぶ時は、必ずと言って良い程に僕を困らせる。

 はてさて、一体どんな悪巧みを思いついたのやら……。

 

「──なんでございましょうか、殿下」

 

「紙切れをカネにするには、どうしたら良いと思う?」

 

「……………………はい?」

 

 殿下は微笑みながら、クッキーの下に敷いてあった紙ナプキンをゆらゆらとはためかせた。

 くっ、顔が良いからどんな動きもサマになってしまう。今ここに貴族令嬢が居たらキャーッと歓声が鳴り響くだろう。

 

「……えっと、紙切れと金との交換を義務付ける、とか?」

 

「ゴールドスミス・ノートか。今も金匠銀行の手形が市場で使われているな。それも正解だ。だが、そうじゃ無い」

 

 そう言って、殿下はニヤリと微笑み、胸元のペンで『これで1ニューク分の納税義務を果たせるとする』と書いた。

 

「答えは……税だ」

 

「──税?」

 

「そう、税だ。税を特定の紙切れで徴収するのだよ。持っていなければ脱税だ。懲罰だ。そうなれば……どうなる?」

 

「罰から逃れる為に……国民が、その、特定の紙切れを、求める事になりますね?」

 

「それだけでは無い、誰もが求める紙切れは、取引に使える。林檎を差し出し、対価に紙切れを受け取るようになる」

 

「その紙切れを不換紙幣と呼ぼう。金貨銀貨は造るのに金銀が必要だが……紙幣を作るのには何が必要だ?」

 

「紙とインク……それと印刷機……つまり、ほぼ無尽蔵に作れる事になりますね……?」

 

 僕はごくりと唾を飲み込んだ。

 

「そうだ!これが!これこそが金属主義で貨幣不足を招いたジョナサン・クックに叩きつけるファックだ!二度と貨幣不足になぞ陥らせるか!デフレ撲滅!ヒャッホウ!」

 

「殿下、はしたない言葉遣いはおやめ下さい」

 

 テンションが上がり過ぎて化けの皮が剝がれ落ちている……。あの天使のような容貌では活発さで愛らしく見せるだけだが。

 

「では、後はよろしくな」

 

 そう言って殿下はニコリと笑った。

 よろしくとは、一体何を……ハッ!

 

「はい!国中の経済学者に殿下の仮説を検証させ、領地を実験場として提供してくれる貴族を探して参ります!」

 

「うむ」

 

 そう言って殿下は笑った。それは今日一番の笑顔だったように思う。

 

 

-----

 

 

「調子はどうだ?エレナード伯爵」

 

「これはこれは殿下!絶好調ですとも!私も、このワスレンナゴ領も!」

 

 不換紙幣を思いついたあの昼下がりから数年後……ヴィジャール王太子は不換紙幣の社会実験への参加を決心したワスレンナゴ領の領主、エレナード・マルクニフ・ワスレンナゴ伯爵の許へ挨拶に訪れていた。

 

「貴君も、領も絶好調……か。不換紙幣への移行に大して混乱は起きなかったようだな」

 

「はい!我が領の住民達は、不換紙幣の前からゴールドスミス・ノートを使いこなしていたもので!絵柄が違う程度で、どうして混乱などしなければならないのでしょう!」

 

「ははは、それもそうだな。産業の調子はどうだ?ここは森が近く、木材とその加工が特産と聞いたが……」

 

「それも絶好調ですよ!何せ元気が無い所に刷ったカネで注入すれば良いだけなのですから!」

 

「何代にも渡ってワスレンナゴ領を統治して来た、その蓄積と自信を感じる言葉だな……だが、インフレにだけは気を付けてくれ」

 

「消費の拡大、需要の肥大化、それによる供給の不足……危険性は、良く解ってますとも」

 

「ならば良い。……エレナード伯爵よ、私が王冠を被る日は近い。時が来れば、私は不換紙幣の流通と同時にある政策を手掛ける」

 

「そうなれば、この国から貧民は一掃されるだろう」

 

 

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 ヴィジャール王戴冠。その数日もしない内に行われた『不換紙幣宣言』によって、銀貨金貨から不換紙幣への移行が行われ、混乱も落ち着いた頃……。

 

「おい、聞いたか?新しい王様がこのスラム街まで来て演説するってさ」

 

「なんで王様なんかがこんな所に……でもまぁ、ここで行かなくちゃ王様の顔なんて二度と拝めないよなぁ」

 

「行くか?」

 

「行くかぁ」

 

 スラム街の広場に行けば、衛兵が貧民達を整理している他、炊き出しを振舞っていた。

 貧民達の胃袋が暖かいもので満たされながら、王が来る時を待つ。

 

 王が来た。

 

 近衛兵を引き連れ、王が来た。王冠を被り、朱いマントを羽織った王が来た。ぞっとするような美貌と、きらきら輝く目を持った王が来た。

 王は壇上に立ち、拡声魔導具を握りしめ、一呼吸。

 

「スラム街に住む、我が国の国民達よ!汝らは孤独である!」

 

 叫び出した。

 

「汝らは一般の人々と比べ、カネを稼いで無いし、カネを消費もしていない!経済というカネの流れから落ちこぼれた者達よ!取り残された者達よ!汝らは孤独である!」

 

「故に!」

 

 バッとマントを翻し、王は叫ぶ。

 

「汝らをその孤独から救おう!」

 

「余が送るのは、一人一月15万ニュークのカネである!」

 

 その言葉を理解した者から順に、一人、また一人と歓声が伝播して行く。

 

「汝らはそのカネで身体を清めることが出来る!汝らはそのカネで服を買い替えることが出来る!汝らはそのカネで1日の糧を得ることが出来る!」

 

「汝らはそのカネで、健康で文化的な生活を送ることが出来る!」

 

 歓声の雨の中で、王はより一層声を張り上げる。

 

「経済という激流の中へようこそ!汝らはこれから、『お客様』になるのである!」

 

「さあ、役所は既に準備を整えている!行け!そこに人としての尊厳があるッ!」

 

 

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 『金融王』ヴィジャール・ナヴデント・エリクルス。

 彼の打ち立てた『不換紙幣』『基礎所得保障』は、国を変えた。

 政府は徴税によってでは無く通貨発行によって公共事業を行うことが出来、一気に貧困層が消費者として流入した市場は活性化。モノが欲しいという需要に応えるように供給力を伸ばした。

 一方で、その財布の紐は緩かったとされ、度々急激なインフレを起こした事が語られ、現在のインフレ率を基準とした厳しい財政規律はこの頃に醸成されたとされている。




 勢いだけで書いたのでとても短いです。ごめんなさい。

 世を經め、民を濟ふ。経世済民と書いて経済。
 経済とは、とても優しい祈りの言葉なのです。

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