米花町のスタンド使い ~マシン・ヘッドの死神的日記帳~ 作:兵庫人
〜四日目〜
マシン・ヘッドのお陰でトライクに乗っている間は安全だとは言え、それでも電車を使って移動することだってある。今日は隣町まで買い物に行ったのだが、買いたいものが道が入り組んでいる店にしかなく、電車で移動した方が早いので電車を使ったのだ。
しかし電車に乗って改めて分かったが、米花町って本当に評判が悪いな。
買い物を終えて電車で米花町駅に降りようとすると、他の電車に乗っていた利用客が慌てて止めようとしてくるし、中には米花町の名前を聞いて泣き出す子供までもいた。
確かに毎日のように殺人事件が起こる米花町に行くだなんて、普通に考えれば自殺志願者にしか見えないだろう。しかしそれでも俺のように米花町に自らの意思で向かう者だって少なからずいるのだ。
実際に俺と同じ電車に乗っていて、俺と一緒に電車から米花町駅に降りてきた人も一人いた。
その人は犯沢さんと言って、何でも今日島根から米花町にやって来たばかりだそうだ。
犯沢さんは自分の持っている切符を使って駅から出ようとしたが、生憎使おうとした自動改札機がIC専用で切符が使えず、困っている所に声をかけて切符が使える自動改札機のことを教えたら大変感謝してくれた。
そうして俺は犯沢さんと一緒に駅を出たのだが、この時の犯沢さんはまるで今から犯罪を犯す犯罪者のような怖い笑みを浮かべており、通りすがりの眼鏡をかけた小学生からも不審がられていた。
この米花町でそんな犯罪者みたいな笑みを浮かべていたら、それだけで警察に職務質問されてしまうだろう。そうなる前に忠告したら犯沢さんは逆に喜んでいたが、何なんだ? この人は?
~五日目~
昼に買い物に行こうと部屋を出たら、マンションの通路で昨日会った犯沢さんが不動産屋と一緒にいたのだが、何やら犯沢さんの様子がおかしかった。
話を聞いてみると犯沢さんは米花町に住む場所を探していて、今日はこのマンションの部屋の下見に来たが、あまりの好条件に信じられない気持ちでいっぱいなんだそうだ。
犯沢さんが下見に来た部屋は俺が借りている部屋と同じ条件で、俺には犯沢さんが驚く気持ちがよく分かる。
まず部屋以前に、このマンション自体が日当たり良好な上、駅やコンビニが徒歩五分以内の範囲にある好物件だ。そして部屋は見晴らしが良くて全ての設備が揃っているのに家賃が月三万二千円、しかも礼金敷金はタダ。こんな良い物件はそうはないだろう。
……事故物件でなければ、だが。
犯沢さんが下見に来た部屋は昔、プロゴルファーが愛人の女性を殺害した殺人現場であり、そのせいでこれだけの好条件なのに家賃が安く、事実を知った犯沢さんはそれはもう驚いていた。当然だろう。
しかしこれが凶悪犯罪都市米花町の悲しい現実なのである。
毎日のように殺人事件が起こるこの米花町では家賃が安い物件は必ず何かの訳ありで、事故物件ではない物件は例えボロボロの木造アパートの一室でも月五万から十万というのも珍しくない。実際このマンションにも事故物件ではない部屋はあるのだが、事故物件の部屋の十倍以上の家賃であったりする。
米花町の住宅事情を俺と不動産屋から聞いた犯沢さんは絶望の表情を浮かべたが、それは仕方がないことだろう。人が死んだ部屋に住んでいたら何か怖いし、俺も今では慣れたが最初は「幽霊が出るのでは?」という考えが頭から離れず中々眠れなかったからな。
しかも最近ではマシン・ヘッドというロボットのような幽霊も見えるようになったし。
犯沢さんは今日のところはとりあえず物件の資料だけをもらって帰っていった。
〜六日目〜
最悪だ。今日は一日の始まりから最悪の気分だった。
今日の朝、まだ日も出ていない早朝に目を覚ますと幽霊を見た。それもマシン・ヘッドではない、胸に刃物が刺さっている女性の幽霊だ。
女性の幽霊を見た瞬間、俺は思わずマシン・ヘッドの名を叫んだ。すると俺の言葉に答えてマシン・ヘッドが現れて女性の幽霊に殴り、女性の幽霊はマシン・ヘッドの拳が当たる前に姿を消すと、その日はもう姿を現さなかった。
俺の部屋は以前、女性が何者かに殺害された事故物件で、なんでもその女性を殺害した犯人はまだ捕まっていないのだとか。もしかしたらあの女性の幽霊は、この部屋で殺害された被害者なのかもしれない。
それにしても俺はこの部屋に住んでもう一年以上経つが、今まであの女性の幽霊を見たことがなかった。それなのにどうして急に見えるようになったのだろうか。
……もしかしなくてもマシン・ヘッドが現れるようになったせいで、霊感とやらに目覚めたとか? 全然嬉しくないんだけど?
やっぱり続かない。