俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第14話 “影響されやすいタイプ"

 

 

 

 どうしてこうなった。

 聞いてない。俺は聞いてないですよ。

 

 体力×テスト。

 

 俺の嫌いな二文字のカップリングにより、二乗以上の破壊力となっているこのワードである。ゆで理論ならエライことになってる。つうかこんなの、どっちも攻めみたいなもんだろ。もう、自分でも何を言ってるのか訳がわかりません。

 

 だいたいですね、そんなの用意してないもん。と元々、麻倉さんから制服と一緒に渡されていた鞄の中身を確かめてみると、体操着とジャージのみが詰め込まれていた。衝撃的すぎる。

 

 いくら俺でもね、学生として他に必要なものがいくらもあることはわかるからね。卒業生が置いていった筆箱、河原で拾って(かわ)かしたノート、シール貼りの内職に必要なもの一式、これらがないと勉強とか出来ないだろ。授業中何をして過ごせというんだ。

 

 どうりで鞄を持った感覚として軽い割に(ふく)らんでるなって思ったんですよ。

 

「どうしたの? 真条くん、そんな体操着をじっと見つめて?」

「い、いや、その、気分が」

 

 もう体調不良で見学でよくないですか。先生、自分、慢性的な金欠病なんですけど、発作が苦しくてちょっと今日のですね、バカ体力のクソテストをですね、

 

「おーっし、何やってんだ真条。俺ら男子は体育館集合だぞ。いいか、さっさと来いよ」

 

 覚えさせられてしまった例の男子あらため生形(うぶかた)は、親指を突き出したまま、アップがてらと言わんばかりに足音を立てて廊下を快走していった。うん、体育教師っぽい音楽教師に見つかればいいと思う。

 

「……あれは、いつもあんな調子なのか?」

「うん、大体ね……」

 

 白峰が苦笑いをしているあたり察して余りあるところであるが、ところでこの中性的な少年は、もしかして、俺のことを着替えるまで待ってくれているのだろうか。

 

 いやん。だとしたら、なんといいヤツなんだ。よ、よし、ぜ、前世含めて、()えある俺の親友候補第1号にしてやってもよい、

 

「ごめん真条くん、実は僕も先生から準備頼まれてて、先に行かなきゃなんだ。案内できなくてごめんね!! 体育館の場所自体は階段降りて、一階の端だから、すぐわかると思う、それと、これカギ、教室を閉めてからきてね。それじゃっ」

 

 勇気を振り絞ろうとした俺に、両手を合わせて謝罪すると白峰は生形の後を追うように駆けていった。音楽教師、やれ、俺が許す。

 

「おのれ……」

 

 友達、ゲットだぜ!! のチャンスを体力テストに潰され、怨嗟の声がこぼれる。許さん、許さんぞ、体力テス――

 

「……あれ?」

 

 気づけば、教室には既に俺しかいなかった。あれほどまでに(あふ)れかえっていたむさくるしさがいつの間にか霧散(むさん)している。むさだけに。

 

「え、えぇ……」

 

 お前らもうテストのことしか頭にないんかい。この脳筋どもめ。こっちはかよわい転校生ちゃんだぞ。ちゃんと庇護(ひご)しないと絶滅しちゃうんだぞ。

 

 心で血の涙を流しながら、白峰に押し付けられたカギを見やる。

 

 いや、そんなもの転校早々にして出会ったばかりの俺に簡単に渡すなよと思うが、突っ返そうにもとっくに当の本人がいない。

 

 第一、万が一でも俺がなくしたらどうするんだ。責任を取る羽目になるのはカギ当番の白峰だろうに。そんな簡単に人を信用しちゃダメだろ。……嬉しいけどさ。

 

 なんにせよ、こうなってくると早いとこ着替えないことには遅刻してしまう。ええい、もう仮病(けびょう)大作戦は証人不在で実行に移せないではないか。

 

「だいたい、麻倉さんも一言くらい言っといてくれよって話で」

 

 その時、パサっという紙のこすれるような音が聞こえた。

 

 真新しい体操着に頭を通しながら、俺はその発生源へと目をやると、

 

 文庫本とどうやらそれから飛び出たらしい栞が落ちていた。

 

 拾い上げてみる。

 

 厚手のキルトで作られた紺色のブックカバーは地味に作りがしっかりしており、市販品のようには見えない。となると、オリジナルか。手芸部の仕業かもしれん。

 

「……ちょい待ち」

 

 拾い上げてから、あれ、これ、と感づいてしまう。

 角度的に落ちたのはちょうど俺の左隣の机の中からとしか思えなく、

 

「クロロンさんのかよ……」

 

 ふぇぇ、もっと早く気づきたかったよ。もう拾い上げちゃったぞこれ。見て見ぬフリというのは何度も言うが、大切なのだ。

 

「たぶん指紋ついちゃったぞ。マジか……」

 

 なんとなくだが、いざとなったらあの人、アルミの粉とかで指紋採取してきそう。完全なイメージだけど。

 

「つか、何読んでんのあの人……」

 

 どうせ紙に指紋が残るなら、いざとなれば交渉材料になるだろう。どうせだからここは中身も確認してしまうかと俺はカバーを外し、

 

 

『ブスでも、お一つどうですか?』

 

 

 音速でカバーをかけた。

 

 なんだ、俺は今、何を見たんだ。でかでかとタイトルの書体が踊っていた気がするんだけど。

 

 そして周囲の安全を確かめてからおそるおそる、本文のページを読んでみる。

 

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「うわっ!?」

「キャッ!!」

 その時、今晩の献立を考えていてつい周囲に対する意識がおろそかになっていた。だからかも。運命は曲がり角から突然、やってくるって、私はその時初めて知ったんだ。

 尻もちをついた彼の名前は、

天上(あまがみ)(つばさ)……クン?」

 気づけば、つい名前を口にしていて、

「つつ、……そっちは、大丈夫?」

「う、うん、私は大丈夫だけど」

 やっぱ爽やかだなぁ。まず自分よりも他人の心配をしてくれるんだもん。そんなあたたかな気持ちがわいてくる。でも、

 軽くお尻をはたきつつ、立ち上がった天上くんは私を見るなり、

 

「――は? おブスかよ」

 

 物凄い形相(ぎょうそう)で、半歩分、身を引いた。なんだろこれ、バナナ虫みたいな動きだったけど。それにおぶすってなんだろう。バルサミコ酢とかと同じの新しいお酢のことかな。

 なんて考えてたのんきな私に、天上くんは詰め寄ってくると、人差し指を突きつけて、

 

「お前、性格くらいしか取り柄がないだろ?」

 

 グサッとくるようなひどい言葉を吐いた。も、もしかしてみ、見透かされている!? だって、たしかに昔から白黒写真顔とか、ごはんおかわり必ずするタイプでしょとか言われたい放題だったから別に怒るほどのことじゃないけど、いつもみんな最後に、小春は性格だけはいいよねってフォローしてくれてたし!! え、えーと、要するに、うん、たしかに――、

 

「そう、ですね。それに関しては返す言葉が、ありません……」

 

 縮こまって謝ると、

 

「俺は、お前みたいなおブスが嫌いだからな」

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 なんちゅう野郎だ。とつぶやきつつ、一体こいつがどうなるんだよといっきに終盤までページをめくり、

 

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 その所々、制服がやぷけて、(スス)がついたボロボロの姿で現れた。その人が信じられなくて、

 

「天上――、くん?」

「……なんだよ、相変わらずおブスな顔して。いつもより五割増しでひどいじゃんか」

 

 なんで、どうしてって思った。みんなの前で弱みを見せないため、いつだって爽やかであろうとし続けているって言ってたのに、なのに、

「そんなボロボロになってまで、どうして――」

「おバカだな。お前を助けにきたんだっつうの」

 既に赤く腫れ始めている私の足を見て、天上くんは背中を向けてしゃがみこむ。

「乗れ」

「だ、ダメだよ、私はいいから、早く逃げ――」

「うるせぇっ!! 俺に命令すんな」

 勝手に足を掴んでくるので、とうとう私は天上くんの背におぶさる形になって、

「づっ……おデブだねぇお前。これに懲りたら、少しは痩せろよ」

「……ごめんなさい」

 こんな状況だけど、自分の体型が憎らしくなる。これなら日頃のおかわりは控えるべきだった――と、途端によろけた天上くんの脇腹の辺りが赤く染まっていることに気づいて、

「た、大変、天上くん、ケガしてる!?」

「だから、うるせーよ……お前が言ったんだろうが。天上くんはいつもカッコいいよねって。だったら、――好きな女の前で、カッコ悪いとこ見せらんねーだろうが」

 きっと。ううん、絶対に、聞き間違いか何かだと思って、

「それって――」

「こっちはとっくに恋に落ちてんだよ。おブスなお前に」

===========================

 

 俺が言いたいわ。

 

「――は? バカかよ」と。

 

 くっせー。マジくっさ。なんだこれ。

 いや、こう、その、文豪、夏目っちとか芥川っちょとかそういったの読んでたら、もう俺の(あらが)う手立てないぞとは思ってました。思ってましたけど……、

 

 どう見ても、女の子向けのラノベです。本当にありがとうございました。

 

 裏表紙に書かれたあらすじにも目を通す。

 

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 ※女は性格より、顔である。

 気づけばおブス、気づけばおデブ、気づけばおバカ、いつの間にか三拍子揃っていて、唯一残るは性格しか取り柄がない小柳小春(こやなぎこはる)

 華の高校2年生、季節は春。隣の席になったのは、学校1の爽やかイケメン、天上翼(あまがみつばさ)だった!? もしかしたら、これは恋の予感かも、とときめく小春に対し、

「オレ、おブスは嫌いだから」

 そう、学校1の爽やかイケメンは顔面至上主義のとんだドS王子様で――

 ここから始まる新感覚ラブスコメディ!

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 鳥肌。

 

 別に誰と会いたい訳でもないのに、身体が震えてきた。

 

 俺にも武士の情けくらいある。うん、これは俺の心のうちにとどめておくとしよう。出来ることなら蛍光ペンで、『とっくに恋に落ちてんだよ。おブスなお前に』のくだりは(フチ)取りたいくらいだけど、やらないぞ。てか、帯も「これがホントの、ラ"ブス"トーリー!?」ってやかましいわ。なんだこのキャッチコピーは。

 

 こんなん読んでるのかクロロンさん、キャラ認識を改める必要があるな。まぁただオタクに縁あるものとして、個人の趣味嗜好を馬鹿にしてはいけないとも思う。俺は好きじゃないけど、この方向の作品が彼女、引いては女オタクたちの琴線に触れるのだというならどうぞご自由にである。

 

 どこまで読んでいたのかわからないがとりあえず適当に栞を挟んでおこう。

 

 そっと机の中に本を戻し、さっさと着替えを終えて、しっかとカギを閉めて、たったと廊下をダッシュで、よっこら階段を駆け下り、

 

 ようとしたところ、死角から不意に現れた何者かと衝突しかけた。

 

 間一髪で互いに身をよじったおかげで事故発生は防げたものの、杖を探すおばあちゃんみたいによろめいていた誰かに謝罪しようとして、まずその正体に気づく。

 

 え、まじ? クロロンさんじゃん。

 

 ヤバいヤバい、俺は何も見てないので、嘘とか全然全くこれっぽっちもついてないですしおすし、だからこの場はクールに去らせてね、一応怪我してないか心配だけはしてあげるので、

 

真条(しんじょう)(はじめ)……」

 

 フルネームでクール系美少女に呼ばれると、こそばゆさが半端ない。つい、「探偵さ」と付け足して茶化したくなる。やったらぶっ飛ばされそうだけど。

 

 などと考えていると、申し訳程度に「くん」を付け足した黒ロンさんは不意に、

 

「あなた、顔しか取り柄がないの?」

 

 その寸鉄のような言葉は簡単に俺に刺さった。

 

 予想だにしない一撃に、視界が揺らぐ。

 

 こんな短時間で見抜かれてしまったのか。できることなら、その事実だけはもっと知られるのが遅くあってほしかった。確かに、俺は、俺は――

 

 

「そう、ですね。返す言葉が、ありません……」

 

 

 この()()()()()()()()()()()ことにした。

 

 ちょっというか、かなーり痛い子なのか……残念というかなんというか。

 

 このクロロンさんてば、すぐ、すぐ作品に影響されるタイプと見たね。俺のFBI並のプロファイリング能力だとそういうことになる。あのなに『ブスのなんちゃら』のワンシーンぽい状況になっちゃったもんだから、さてはつい口走っちゃったなこれ。

 

 正直、俺が言われる方かよと思わなくもないが、いいんです。ぼっちの妄想力なめんなよ。四六時中そんなようなことばっか考えてんだから。ふふ、俺も経験あるぞい。

 

 傘持っちゃうと聖剣の構えするし、「メンドクセーな」が口癖のやれやれ系主人公から口癖をゆずり受けちゃうよね。わかるー。やれやれだぜ。

 

 前世で一度、食事中に「メンドクセーな」ってつぶやいた時は凄かったね。「あいつ噛むのすら面倒くさいらしいぜ」「だから、デブなんだな」「あいつのカレー食ってる時の勢い見た? ポカリみたいに飲んでたぞ」とか言われ放題だったね。いかん、鼻がツーンとしてきちゃった。

 

 過去のフラッシュバックで俺が自爆していると、

 

「私、あなたみたいな人、嫌いだから」

 

 ちゃんと例のシーンを再現して、黒髪をなびかせつつ去って行った。

 

 純度100%の気持ちのような言い方だったが、大丈夫なのか。俺はクロロン、貴様の秘密を知っているからダメージを激減させることに成功しているが、他の奴らだったらこうはいくまい。

 

 ……うん、マジで言ってないよね? ちょっと膝が震えてるけど、生まれたての子鹿の真似しているだけなので。

 

 少しだけ壁にもたれかかって呼吸を整える。

 

 気にするべきじゃない。仮に本気だったとしても、いいじゃないか。勝手に好かれるよりよっぽど、勝手に嫌われる方が慣れている。そうさ。

 

「まぁ、本当のことなんだし……さ」

 

 全然、ダメージなんてない。効いてない。無敵。へーちゃらなのだ。

 

 

 

 

 ×   ×   ×   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 

 

 さて、ようやく、体育館についた俺である。解放されている鉄扉をくぐり、照明でまぶしいくらいの明るさに目を細めつつ、既にかなりの人数が集合していることを悟る。 おそらくこの授業は他クラスと合同なんだろうが、

 

 うわ、これ、どう見ても俺が最後じゃん。前世では両親に無理やり登校させられた俺を社長出勤とかいじってきやがった奴らがいたのを思い出した。お前らみたいな社員だったら全員即刻クビだ、なんて夢かトイレでしか言えなかったよね。

 

 不幸中の幸いとして、教師はまだ来ていないようだ。

 

 でも、なんというか、二手に分かれてるんだけど、何故? 

 

 しかも先頭に生形(うぶかた)ともう一人の男子が今にも取っ組み合いを始めるかのごとく頭をごっつんこさせてメンチを切り合っている。

 

生形(うぶかた)、きみら5組ごときが我々1組にたてつく気か!!」

「事あるごとにつっかかってくんじゃねーよ神林(かんばやし)、当たり前だろうが、吠え面かかせてやんよ」

「ハッ、抜かす!! うちには(おぼ)れてるようにしか見えんフォームだが速度はイルカもびっくり、フライングフィッシュ阿藤(あとう)(水泳部)!! 今日もヒゲが芝生より青いぞ、いつも顔に絆創膏(ばんそうこう)のカミソリスライダー戸部(とべ)(野球部)、女は落とせんがボールは落とさん、涙のリフティング魔神中野(サッカー部)、と規格外のスペックを誇るタレントしかおらん! きみらにどこに勝てる要素があるんだ。せいぜい総学(ソーガク)の選抜になれるスペックを持つのは、生形ぐらいのものだろうに!!」

 

 おいおい、何これ? これからプロレスでも始まるのか。試合開始前からディスりあっているんじゃあないよ。

 

 とりあえず話聞く限り1組とやらのクラスは色物しかいなさそうね。むしろ5組でよかったのではないか疑惑がここにきて浮上してきた。いやぁ、まだマシって思える相手が出てくるとありがたいわぁ。

 

 さておくとして、まずは兎にも角にもカギを返すべく、白峰の姿を探してキョロキョロしていると、

 

「俺たちには新戦力がいるんでな、真条!」

 

 ほえ? と顔を向けると、集団をかき分けて生形が俺にズカズカと歩み寄ってくる。

 そして肩を組んでくるなり、「え、何こいつ、そんなに親しくないよ僕ら」という俺の内心をよそに先ほどごっつんこし合っていた別のクラスの男子生徒の元へと連行された。

 

「む、彼は?」

「おう、こいつがうちの新・最終兵器、真条(しんじょう)(はじめ)だ」

 

 なに、紹介してくれんの? わーい、友達百人できるかな。生形くん、僕が間違ってた君はいいヤツ――

 

「いいか、神林(かんばやし)、1組、テメーら全員、よく聞け!! こいつが、真条が、」

 

 一際、大きく息を吸うと、

 

 

 

「お前らを叩きのめす!!」

 

 

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