俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第33話 “喫茶ココンへようこそ”

 

 

 

 登校してきたルートをさかのぼるように、ターミナル駅である『蔵橋(くらはし)』を経由してノギワ荘の最寄り駅である『珠野(たまの)』へと戻ってくる。

 

 若者集うイケてる街! といった覇王のオーラはないものの、近隣には住宅街が広がっており、専門学校や区役所、駅の南口からまっすぐ伸びる珠野スターモール商店街は個人商店、全国チェーン問わずがひしめきあい、衣食その他諸々を満たせるため、歩いているだけでなかなかに楽しい。この古き良きごった煮というかカオス感は逆に今はやりのスポットには出せないと個人的に思う。

 

「スターの由来とかあるんですかね?」

「なんだったかな、大昔に公募で決めたとかだったと思いますけど」

「なるほど、まぁ願いを込めたんでしょうね、光輝くようなアーケードになってほしいみたいな」

「そうすね。今となっては経年劣化でくすんじまってる感ありますけど」

 

 おじいおばあに学生、主婦、サラリーマンが行き交うアーケードを麻倉さんと二人して歩く。

 

 いやちょい待ち、

 

 お互い制服だし、ひょっとしてこれ噂、いや伝説上に存在する放課後デートにカウントできないですかね。なんかドキドキしてるの俺だけですかそうですか。

 

 これで片手におやつスイーツとかドリンク持ってブラついているのなら確実に「そうです、トム、これはデートです」と頷けるのだが、現実は厳しい。そんないっときの甘味程度の快楽に使う余計な金などないわ。というかなにより、

 

「ってか真条さん歩くペース速くないです?」

「や、普通に遅刻気味なので」

 

 誰かさんのせい、とまでは言わないが元の高校から離れてしまったので移動時間が当然かかってしまうのである。こりゃ今後もこうなるだろうし、今日終わったら万里子さんとかに相談するしかないな。いやん、俺ってば基じゃなくて真面目ちゃん。

 

「それじゃ、やむなしですね」

 

 言って、俺よりペースを上げて先行し始める麻倉さん。案内不要っぽいのはわかるけど足取り軽いなオイ。

 

 二人して半分競歩のようなスピードで人々の間を縫っていく高校生男女を周囲はどのように認識しているのだろうか。少なくとも色っぽい関係には見えないだろう。

 

 やはり現実は厳しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 商店街のアーケードを抜け、片側三車線の国道を挟んで広がる住宅街エリアの入り口にあるのが、目的地であり俺のバイト先である、『喫茶 ココン』だった。

 

 まずは外観から紹介しよう。

 

 元々あった築ウン十年な二階建て一軒家を味がある部分――たとえば今どきトタンじゃなく瓦の屋根などを残しつつ、一部をリノベする形で昨年リニューアルオープンしたばかりのため新旧の配合が秀逸だ。

 

 そんな入口前に掲げられた『Cafe&Foods 喫茶ココン』のプレートの横には『営業中』の札がぶら下がっている。そこから中に入れば枯れた色合いになった元白木のフローリングの上にペルシャ絨毯(じゅうたん)、ラタンの椅子、樫のテーブル、壁には明治か大正だかの日本人画家による抽象画がかかっている。

 

 元の家からあった縁側から外はちょっとした庭になっており、今の時期は青々とした木々が清涼感をもたらしてくれる。冬になり雪が積もったときなんかは、なかなかに風流だった。

 

 さて、そんな入り口の前に立った麻倉さんがお先にどうぞと言わんばかりに一歩引く。そこはゆずるんかいと思いつつ、俺は一息に開け放ち、お盆を前に構えてこちらを向いたその顔に、

 

「いらっしゃー――あ、基ちゃん!」

「すみません! 遅れました、今から入ります!」

 

 即座に頭を下げた。すぐさま駆け寄ってくる足音と共に、

 

「大丈夫? 遅刻なんて珍しいね。今日はなにかあったの? えっ、ていうかなんか感じが変わったというか……凄い格好良くなったね」

 

 聞いてくれますか、涙々(なみだなみだ)でほんとーーーーうに色々あったんですよと言いたいのをぐっとこらえ、

 

「ま、まぁちょっと。後で話します」

 

 苦笑いでやり過ごす。そしてちらと後ろの様子をうかがいに振り返ると、

 

「あ……、こ、こんにちは」

 

 ギョッとした。

 

 美少女がスペックステータスダイバーシティ眼鏡に変わっていた、なんてことはなく、当たり前に麻倉さんがいたわけだが、なぜか銀縁眼鏡な麻倉さんに変わっていた。どこから出してかけたのそれ。ありのまま起ったことを言うだけで頭がどうにかなりそうだった。

 

 先ほどまでのつかず離れずな距離感はどこへ行ったのか。寄り添うような絶妙に近い距離感のまま、俺のブレザーの二の腕のあたりを掴んで少し身を隠すように引っ込み思案で人見知りで内気アピールしてる。誰この人。

 

 唐突なニューキャラと化した麻倉さんに、柔らかく微笑みを浮かべ、

 

「こんにちは。えっと、そちらの方は?」

「こ、こちらの方はですねぇ……」

 

 やべ、あんまりにもキャラが豹変しすぎで脳がフリーズして言葉がうまく出てこん。

 

「真条くんの……クラスメイトの、麻倉葵です」

 

 かたわらから聞いたことない、かっほそい声で答えられてしまう。間違っていない。間違ってはいない、のだが。致命的に間違っている。

 

「あ、あ~~~」

 

 納得がいったようにポンと手を合わせて何度も頷くと、

 

()()基ちゃんの彼女さん候補だ」

「ちょちょちょちょちょ「……また?」

 

 聞いてねーぞ、オイゴラどういうことやワレェ? と顔をのぞき込まれる。ちなみに銀縁眼鏡の奥は笑っていない。お願いギブミースマイル。

 

「あかねーさん、それは違うんですよ。何度も言うように」

「うふふ、いいんだよ~、茜さんはちゃんとわかってますよ~」

 

 わかってねーから言ってんだよ……。

 いやもう初っぱなから最悪だ。麻倉さんのことは例のアダムスプログラムと合わせてどう説明したものかと思ってた矢先にこれだよ。

 

 眼鏡麻倉さんを応援するように握りこぶしを掲げて、

 

「ファイトオーだよ。がんばってね。基ちゃんは奥手だから、今まで何人もの女の子がトライしてきたんだけどなかなか手強いかも」

 

 オゥイ、何それ、聞いてないんですけど。何人もの女の子の詳細よろなんですけど。

 

「あ、あの……」

 

 目だけで、そういうあなたは? と訴える麻倉さん。ちょっと待ってさっきの言葉気になるから、後にしてくれって。

 

「ごめんなさい、名護(なご)(あかね)っていいます。よろしくね」

 

 わたしは——と、満面の笑みで、

 

「基ちゃ、じゃないね、真条くんの幼馴染のお姉ちゃんです!」

 

 オーバーオールエプロンを突き破りそうな豊満な胸を張る。ガン見したいのを鋼の精神力で天井へと眼の焦点を合わせた俺を誰か褒めていただきたい。

 

 ってか、小声で「おぅ……これは、なかなか……」って麻倉さんもつぶやくなよ……。でも気持ちはわかる、気持ちはわかっちゃう。だって男の子だもん。

 

「基ちゃんのことなら、なんでも聞いてね。茜さんは恋する女の子の味方です♪」

 

 サービス旺盛にウィンクまで飛ばすあかねーさん。やめてくれー、何度も言うけど俺のプライバシーどこいったしー。

 

 だが、ここに至って、ようやく違和感に気づいたらしいあかねーさんは、

 

「……あれ、というか基ちゃん、制服は?」

 

 至極当然の質問をしてくる。

 

「い、いやぁーその、色々あって、今日転校した感じです」

 

 色々あった、に万感を込めたがおそらく伝わらないだろう。

 

「え……、ええー! も、もしかして、は、基ちゃん、い、イジメられてたの? 大丈夫!?」

 

 ですよねー、いやイジメられてたのは前世です……。などとは言えるわけもなく、変な方向に思考を爆走させるあかねーさんになんと説明したもんかと考えあぐねていれば、

 

「ちょっと茜! 早くプリンセット持っていきな――って基、あんたも遅刻するなら連絡よこしな!」

「はいぃっ、すみません!「あ、お母さん」

 

 水をぶっかけられるように、オペラ歌手もかくやという張りのある声が店内に響き渡ると同時に俺は謝っていた。カウンターの奥からやはりオペラ歌手もかくやと言わんばかりの巨た――ワガママボディをした妙齢の女性が出てくる。

 

「とっとと着替えてきな! アンタ目当てのお客さんもいるんだからさ!」

「はい! すみません、万里子さん」

 

 あかねーさんの母であり、この喫茶ココンのオーナー兼店長の名護(なご)万里子(まりこ)さんのその声に弾かれるように、

 

「えっと、それじゃ俺着替えてくるので!」

 

 幸か不幸か、俺は少なくともこの場を離れることに成功するのであった。もっとも、まったくもって事態がよくなったわけではないというのがミソである。悲しすぎる。

 

 ……だがまぁ、しばし労働に従事するとしよう。お仕事モードにならんとやってらんねーっての。

 

 いったん庭へと出て、建物の陰へと回り込むと存在する物置兼男子更衣室に駆け込む。そしてロッカーに並んだ衣装と向き合う。

 

「今日はどうすっかな」

 

 ま、遅刻してしまったお詫びも込めてレアなのにしとくかと、それ――着流しを取り出す。

 

 自分でもいうのもなんだが、

 

「今日も元気に接客しますかね。サービスサービスぅ」

 

 パチッと顔をはたいて気合いを入れてから、ワイシャツ靴下を脱ぎ、足袋(たび)を履き、肌着に袖を通す。

 

 つつがなく着付けを終え、晴れて和な出で立ちとなった俺は、ロッカー横の全身鏡に映る自分に言い聞かせるようにつぶやく。

 

 

 ――これでも俺目的に来てくれるお客さんもいるだから、さ。

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