俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第36話 ”ひとよんでインフルエンサー”

 

 

 

 

 閉店時間を迎えたため、ちょっ(ぱや)でレジ精算と店内清掃をこなしながら、万里子さんとあかねーさんにこの後、ちょっと時間をもらえないかと伝えて回る。

 

 怪訝そうな顔を向ける二人に事情は後で話しますからとどうにか誤魔化し、ついでに和装からさっさと制服に着替えてしまったクロロンさんにも絶対に帰らないよう拝み倒し、どうにかこうにかカウンターテーブルに皆を集めた俺を誰か褒めてほしい。ナデナデシテー。

 

 ココンのキッチンで軽食などの調理を担当しているめちゃくちゃなイケボを持つ藤巻さん(余談だが俺は勝手にダンディ藤巻と呼んでいる)をお疲れ様でしたー、と入り口まで見送りそっと扉を閉じる。

 

 いかん、さすがにぶっ倒れそうだ。深夜の肉体労働で体力には自信がある俺でも、ここまで色々あるとほぼ気力だけで身体を支えている。が、その気力すらも限界を大幅に超過しているのが正直なとこなわけで。

 

 おまけに腹も減ってきたし、BJ定食がもはや懐かしい。人は何故腹が減るのか。それは永遠の命題、あ、だめだ本格的に思考がとっ散らかって——

 

「基、早くこっち来な!」

 

 鬼の万里子さんの声に、はいただいまぁ!と骨の髄まで染みついた対応で答えると俺はカウンターまでダッシュで戻る。俺、健気すぎる。

 

「基ちゃんお疲れ様。今、葵ちゃんから色々話しを聞いてたんだけどね」

 と卓上に置かれた麻倉さんのスマホに映る画面を指さしながらあかねーさんが(ねぎら)ってくれる。いやー染みるしありがたいが、今はぶっちゃけ言葉よりもただ帰って寝たい。がもうひと頑張り……。

 

「すまなかったねぇ、話を続けておくれ」

「ええ。じゃあ、彼が戻ってきたところで改めて」

 

 万里子さんに促され、麻倉さんは画面に映る写真共有のSNSと思しき画面をスクロールすると、そこにはマス目上に揃って有名なカフェの映えるスイーツや店内の写真が所狭しと並んでいた。

 

「あ、ここ、菱ケ浜(ひしがはま)の有名なお店! 結構遠いけど、葵ちゃん行ったの?」

「ロンモチですー、ここの海をのぞみながらの生搾りモンブランはまさに天国に一番近い場所でした……」

「いいなぁ、うらやましい……、私もマロン大好きで」

 

 テンションの上がっているあかねーさんをよそに、俺の視線はどうしても()()に集中してしまう。

 

「……凄いわね」

 

 やはり同じところに着目していたらしいクロロンさんに内心高速で頷く。

 

 はたしてそれは麻倉さんが表示しているSNSのアカウントの——フォロワー数だった。

 

「しかし、よくもまぁこれだけファンがついたもんだねぇ」

「いえいえ〜そこはやっぱり好きこそ物の上手なれといいますか、継続は力なりといいますか」

 

 何桁だよこれ。いーち、じゅう、ひゃーく……げっ、13万もあるじゃん。普通にすげぇ。

 

 謙遜し、面前で手を振る麻倉さんの発言を思い出す。

 

『こう見えて、私、カフェ好きでして』

 

 いや、ガチ好きじゃん。特技レベルのやつじゃん。サラッというなし。

 

「手前味噌で恐縮なんですけども、まぁそれなりにフォロワーもいるので結構PR案件依頼とかの話も多くてですねぇ」

 

 ほーん、まぁこれだけ麻倉さんの発信を見たいと思う人を抱えているならそういう話しもくるもんなのか。

 

「たしかに。そういうSNSマーケを専門にしている代理店とかからウチもよく提案もらうよ」

「ですよね、そんな会社からフォロワー数×数円でなんとか〜って言われてもなんですよねぇ」

「「……は?」」

 

 思わずハモった俺とクロロンさん。一気に目が覚めた。嘘だろ、フォロワー数かけるって、一撃で数十万ってことじゃないか。あ、あり得ない、そんなことがスマホポチポチで成立してしまうのなら、俺はもう汗水垂らしてハタラクヨロコビを連呼することができなくなってしまう。

 

 少なからず同様の想いを抱いている様子のクロロンさんも口をあんぐり開けている。

 

「まぁそんなつもりでこのアカウントをやっているわけではないので、いつもお断りしているわけなんですが——ってどうしましたお二人とも?」

 

 う、うまく呼吸ができない。そんな大金を目の前にしてなお余裕を持って固辞することなど俺にとっては不可能に近い。ていうかMOTTAINAIというレベルじゃない。うらやま死とはこのことだ。

 

 胸を押さえて、カウンターに突っ伏しかけていると、ヨロヨロ……と今にも倒れそうなクロロンさんが視界の端に引っかかる。わかる、わかるぞ、ゾーマにいてつくはどうを連発されたような、これで伝わらんのなら身体を支える柱を抜かれた感覚。いや、顔が濡れて力が出ないが正しいかもしれない。

 

「もー仲いいなぁ」

 

 ニヤニヤしつつも麻倉さんはパチと両手を叩くと、

 

「さておき、実は私、と〜〜〜っても、この素敵なお店が気に入っちゃいまして」

 

 一拍溜めて、

 

「ぜひ私のアカウントで激プッシュさせていただければと!」

 

 身を乗り出して熱意をアピールする麻倉さんに、まず目をパチクリさせながら反応したのはあかねーさん。

 

「えっと、それはなんというかありがたいけど……」

 

 ちらと、万里子さんを見やり、

「お母さんはどう思う?」

 

 腕を組んだまま万里子さんは、

「葵ちゃんって言ったね? そりゃうちとしてはありがたいけどねぇ、あるんだろう? 条件が」

 

 さすが年のこ……百戦錬磨の万里子さんだ。ウマい話に盲目的には食らいつかない。だが、それは百も承知といわんばかりの速度で麻倉さんは、

 

「もちろんあります。それはですねぇ、こちらのお二方をショート動画内でフィーチャーさせていただければな、と」

「「——は?」」

 

 同時に指さされた俺とクロロンさんがまたしてもハモる。フィーチャーってどういうことよ。オーバーキルされてたのに現実にリザレクションされたわ。

 

「今の時代、何にも勝るコンテンツが何かご存じですか? 茜さん」

「え、わ、私?」

 

 うーんとこめかみに揉みながら、

 

「なんだろう……あっ、やっぱりかわいい動物とかかな?」

 

 あーそれも不正解ではないんですがというあからさまなフォローをいれつつ、麻倉さんは、

 

「正解は美男美女、です」

 

 直球過ぎる。あーもうツッコむ余力すら残ってないというのに鞭打つような真似はやめれけれ。

 

 いやもう何を考えてんのこの人。

 

「これだけ眉目麗(みめうるわ)しい店員さんがいることは他のカフェと圧倒的に差別化できているポイントです。むしろその強みを理解しているからこそ、マスコミに取り上げられるときは基くんを必ず絡ませているんじゃないですか? 万里子さん」

 

 マリコンさんは無言をもって是であることを応える。まぁ俺が客寄せパンダであることは重々承知で俺も手伝っているわけですがね。ココンにくればシンシンとハジハジに会えるよ! ヨロシクね!

 

 だから俺はともかくとしても、だ。

 

「いや、待ってくださいって。それはちょっと……、ねぇ?」

 

 恐る恐るクロロンさんの反応をうかがう。渋面を作っていたものの、俺の意図するところを汲み取ってくれたのか頷く。

 

「……勝手に決められても困るんですけど、それに……忙しいですし、私」

 

 そりゃそうじゃ。ネットのおもちゃになる可能性だってあるし。

 

「あー、そんなに手間は取らせませんよ、黒木さん。今日のお仕事ぶりも勝手ながら素材として撮影させてもらってましたし。十分それだけでもどうにかできます」

 

 いや普通に盗撮でしょ麻倉さん。俺は若干フリー素材化が進み始めているような気がしてならないけどクロロンさんは別よ——と、

 

 

「よし、わかったッ」

 

 

 瞑目(めいもく)していた万里子さんがクワッと目をかっ(ぴら)き、

 

「協力しな、基! いいかい、前から言ってるだろう! あんたのツラは武器なんだからじゃんじゃん推してきな! 使わない武器ならそこら辺で売ってきちまいな!」

 

 いやいや売れないでしょ、大特価眉毛一本100円でーす!とか、余裕で10本売るわ。

 

稚奈(わかな)ちゃん! あんたにはこれ!」

 

 いつ用意していたのか懐から黒猫のキャラが描かれたポチ袋を取り出すとクロロンさんに突きつける。

 

「協力してくれたら、特別ボーナス!」

「……え?「ええええええええええーーーーーつ!!!」

 

 思わず椅子を弾き飛ばすように立ち上がっていた。

 

「万里子さんそれはズルいズルいズルい!」

 

 俺が協力してもなんもでないのに、クロロンさんには金一封って。

 

「お黙り! あんたは家族みたいなもんなんだからナシだよ!」

「それはないないない!」

 

 俺の絶叫をよそに、クロロンさんはじっと渡されたポチ袋を見つめると、花丸シールで固定された封をはがし、中身を自分だけが見えるように確認する。

 

「——ッ!?」

 

 一変した表情が雄弁に物語る。

 

「ちょ、いくら、いくらだった「——やります」

 

 まるでいないもののように俺を無視すると、協力する旨を淡々と告げる。このアマァ文字通り現金すぎる。

 

 ニッコリ一件落着ムードをかもしだす万里子さんと麻倉さん、オロオロしているあかねーさん、鞄にポチ袋をしまい、奪われぬよう抱え込むクロロンさん、ガッデームときりもみ回転しながら崩れ落ちる俺。

 

 閉店後の喫茶ココンはカオスだった。

 

 そんなさなかに入り口の鈴が鳴る。

 

 ()いたばかりの床に大の字になりながら、悟る。お、そうかもうそんな時間だった。

 

「「こんばんは〜」」

 

 救いの天使——マイラブリースウィートネスシスターの到着だった。

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