俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第37話 ”そうして一日がようやく終わる”

 

 

 入り口から知ってる天井へ視線をずらせば、駆け寄ってくる音がし、

 

「お兄ちゃん大丈夫?」

 

 ああ、その声を聞くだけで何度でも蘇る。俺は諦めの悪い男……。

 

 とか言ってる場合じゃない。茉菜花(まなか)に心配をかけるわけにはいかないと腹筋を駆使して身体を起こす。

 

「ああ大丈夫大丈——わたた」

 

 ガッと背中に軽い衝撃を感じる。(めぐ)が抱きついてきて頭をぐりぐり擦りつけてきていた。

 

「お兄ー会いたかったー」

「おーごめんなー、俺も会いたかったよー」

 

 そのままおんぶをして、立ち上がる。巡がこういった形で甘えてくる時は、だいたい学校で何かイヤなことがあったときだ。俺も大概な一日だったが、巡もきっとタフな一日だったのだろう。

 

「よくがんばったなー偉いぞ」

「ん〜」

 

 おぶったまま、肩に乗っかる巡の頭を撫でると満足げな声をあげる。

 

 そうだ、誰かに褒めてほしい生き物なのだ、人間は。

 少なくとも妹たちにとっては、俺は無条件でどんなことがあっても何があっても褒めてあげたい。

 

 回転しながら巡をたたえる歌をうたっていれば、クロロンさんが意外そうな目でこちらを見ていることに気づく。

 

 今後もバイトを続けていればこんな感じで二人に会うこともあるだろう、お互いに紹介しておくが吉か。

 

 クロロンさんの前まで二人を連れていき、

「茉菜花、巡、紹介するよ、俺のクラスメイトの黒木さん。挨拶して」

 

 俺の意図を図りかねている様子で逡巡したあと、まず茉菜花がおずおずと一歩前に出て、

「こ、こんにちは、真条、茉菜花(まなか)、です……お兄ちゃんがお世話になってます……」

 

 まだお世話になっていないし、なんなら今日はバイトのパイセンとして世話した側だぞう。とは思っても口に出さない。

 

 頭を下げる茉菜花にならうように、

(めぐる)、です」

 

 ぺこりと巡も一礼する。

 

「ええと……こんにちは。黒木(くろき)稚奈(わかな)です」

 

 さしものクロロンさんもキューテストマイエンジェルスの覇気にあてられたのか雰囲気を幾分か和らげて挨拶を返す。強制武装解除の効果を持つから仕方ないね。

 

「……どうか、した?」

 

 小首を傾げるクロロンさんは、じっと己を見上げて固まっている茉菜花に問いかける。

 

「……わわっ、ごめんなさいっ……すごいキレイなお姉さんだなぁって……思って……」

 

 うーん、あざとい、これを天然でこなしてしまう茉菜花、恐ろしい子ッ! 見ろ、クロロンさんのATフィールドがこじ開けられていく。

 

「ありがとう」

 

 初めて見るクロロンさんの微笑にドキッとしたが、平常心平常心おちけつおちけつ——ん? なんです、巡さん?

 

 太腿(もも)の付け根辺りにぎゅっと抱きつき不満げな顔をしてくる巡は、

 

「……お兄はだめ」

 

 うぐっ、そんな意味でないのはわかるが、文字だけとると俺がダメ人間みたいな言い方でダメージを食らいかける。

 

「あげないっ」

「ふふっ、いらないから安心して」

 

 あの、そこ普通「取らないから安心して」だと思うんですけど。傷つく人間がここにいるってことわかってますかね。心は硝子って詠唱しってっか? お?

 

 そこに、ぐ〜という間の抜けた音がする。

 

 おいおい、誰だよ、お腹の虫が鳴いてるなんてぱじゅかしいやつめ。秋の夜長はまだまだ先だぞ。これだからデリカシーとTPOと空気のわからないヤツって嫌いだわ。

 

 挙手し、

「僕です」

 

 一同が失笑するなかで、俺はただ屈辱に耐える。くっ、ゴブリンやオークになぶられるくらいなら舌を噛み切る所存。スレイヤーさん助けて!

 

「さて、じゃあどっかの腹ぺこ小僧もいることだし、ご飯にするかね」

 

 万里子さんが立ち上がると同時にあかねーさんも動く。

 

「すぐ作るからちょっと待っててねー」

 

 二人がキッチンに消えると同時に、ハッとした様子でクロロンさんはスマホで時刻を確認し、

 

「……ごめんなさい、私もそろそろ」

 

 先ほどのPR云々の話は明日以降教えてと俺と麻倉さんに伝え、足早にココンを出ていった。

 

「さて、っと。じゃあ私も行くとしますかね」 

「へ、麻倉さんも?」

 

 てっきりまた『公私共になんで〜』と、ここに残りご相伴(しょうばん)にあずかろうとする作戦だと思っていたのだが、

 

「明日からまた忙しくなりそうですからね、ちょっと色々準備と報告をしないと。てなわけで、本日は営業終了とさせていただく次第です」

 

 鞄を肩にかけると、それでは楽しいお食事を〜と手をひらひらさせながら去っていこうとし、

 

「あ」

 

 何かを言い忘れていたのか、戻ってくると耳打ちしてくる。だからやめてほしい、なんかゾクゾクビクンビクンしちゃうから。必要な距離をとって話そう。

 

「万里子さんと茜さんにはアダムスのことはまだ内密にしておいてください」

「え、なんでですか?」

 

 別にわざわざわ不特定多数に吹聴する気はないが、二人は身内のようなものだから事情を説明しておいた方がいいかと思ったのだが、

 

「別に今後も絶対に話すなといっているわけじゃありません、ただ、”今ではない”ってだけです」

 

 とりあえず頷いておく。まぁ話すなと言われてるのに話したら、麻倉さんのことだ、即座に連絡が飛んできそうな恐ろしさがある。従っておくほうが得策なのは確かだ。

 

「あ、それと」

 

 まだあんのかよ……、

 正直に言えば顔に出ていたのだろうと思う。

 

 苦笑していた麻倉さんの表情が一瞬で変わり、

 

 

「これから本格的に”()()”してきますんで、腹くくってください」

 

 

 それって、どういう意味——と問いかけるより早く、

 

「シクヨロです。ではでは〜」

 

 言うだけ言って去っていった。

 

 それが契機だった。

 

 入り口の扉が音を立てて閉まると同時に俺はカウンターに突っ伏す。

 

 妹たちの心配の声がどこか遠くで聞こえるが、あかねーさんたちがまかないを作って持ってきてくれるまでの数分でいいから寝かせてほしい。

 

 ——まったくもって昨日今日と怒濤(どとう)のイベントの連続だった。

 

 麻倉さんとの出会い、借金の肩代わり、アダムスプログラム、痴漢騒動、総斎学園への転校、体力テスト、嬉し恥ずかし二人三脚、バイトの新人クロロンさんと、

 

 こんな盛りだくさんだった日はいまだかつてなかった。起きては一日中PCに向かいゲームをし、また寝て起きての繰り返し。そんな前の人生とは180度変わってしまった。

 

 あれはあれで少なくとも当時は楽しかった。それは間違いない。ただ、何も残らなかったし、残せなかった。その心残りはまだ今も胸にある。だから比べてみれば、今の方がきっといいのだろう……いいと、思いたい。

 

 ただひとつ、

 

 この調子が続くとしたら、はたして明日からもやっていけるんだろうか俺は、

 

 

 顔ぐらいしか、取り、柄……が、ない、のに————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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