俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第42話 ”モード反転、裏コード:THE FORCED(強制的)”

 

 

 旬のスムージーは『メロン』だった。

 

 迷わずLサイズを購入して、氷と色とりどりの野菜とフルーツがジューサーの中で粉砕&攪拌(かくはん)される様を眺める。程なくプラカップに注がれ、紙ストローと共に提供される。

 

 受け取り、カウンターの近くのベンチに腰掛けて、喉に流し込めば、

 

「あー極楽〜」

 

 自然と声がこぼれた。

 糖分とビタミンと食物繊維が五臓六腑に染み渡っていく。

 

 結局昼食を取らずにここまで来てしまったため、これが昼食代わりになりそうだった。

 

 ごくりごくりと小気味よく嚥下しつつ、スマホのマップアプリを開き、黒木稚奈(くろきわかな)と人型のアイコンが表示されている丸久百貨店をダブルタップするとビルを縦に角切りにした表示に切り替わる。

 

 先ほど、基と別れる前に見ていた全館フロアマップと同じ構図のある階に赤い点が浮かんでいる。

 

「本当は階数もわかっちゃうんだよなぁ、これが」

 

 7階の書店に稚奈がいることは最初(ハナ)からわかっていたが、それを簡単に教えてしまっては芸がない。そして何より、

 

 ——真条基には成長してもらわないといけない。

 

 共有される他のアダムスたちの担当者からの報告書を流し読みしているが、やはり基より先んじて候補者に選ばれた者たちのアクションと成果は早かった。

 

 同じ職務に従事している担当者たちは顔見知りも多い。

 

 たまに連絡をとったり、顔を合わせることもあるが、その際の愚痴やガールズトークで見解が一致するのはアダムスは異性にモテるということにおいて、まさに天才的な者たちばかりということだ。

 

 スペックや肩書きだけを切り取ってみてもそれは一目瞭然。

 

 国を代表する企業の創業者一族の御曹司、国内を越えて海外人気も高い超人気アイドル、メジャースポーツで前人未踏の記録を打ち立て続ける英雄のようなアスリートなどなど。

 

 よくもまぁというか順当というべきか、ここまで揃えたなと葵は思う。

 

 知名度であれ、財産であれ、才能であれ、フィジカルであれ、きらめく宝石というのは誰もが欲しいものなのだ。特に女の子の場合は。

 

 もっともあいにく葵の担当者はそんな大層な肩書きはまったく持ち合わせていないのだが。だがまぁ別に前例がないわけでもない。

 

 凄く甘い物を飲んでいるというのに、苦い何かが広がることを感じストローから口を離す。

 

 かぶりを振って、思考を仕切り直す。

 

 そんなある種の天才たちの中にあって、基の異常性は否めない。

 

 過去の経験、同僚たちからの情報など諸々を考えてみても、基の言動や行動は他の候補者のそれとは異なっている。

 

 ボディタッチは苦手だし、目を見て話そうとすると顔を赤くしてすぐそらすし。

 

 考えられる限り、あの見た目でもってして、相応の女子たちを虜にしているはずなのだが、あの免疫のなさはなんだ。

 

 わかっていて手を出さないのならばそれはそれでタチが悪い。が、わかっていないのならば、クソボケド鈍感の持ち主としてやはり打首獄門(うちくびごくもん)が妥当なところだ。陰日向(かげひなた)で被害者の会ができていてもおかしくない。

 

 不可解なところは多い。だが、我が国の誇るスーパー人工知能である『YAGOKORO』に彼は選ばれたのだ。一次スクリーニングだけなら数万人といるなかで、二次、三次、四次、五次と更なるふるいにかけられ最終的には候補者となったのだ。

 

 であるならば、()()()()()()()はず。

 

 とはいえ、放っておけば、芽吹くことなく終わるだろう。たとえ親友の死に直面したとしても、怒りで金髪に覚醒する可能性はないだろう。

 

 祖父の言葉をふいに思い出す。あのジジイは普段は終始ふざけたノリだが、時折金言のようなものを放つから油断ならないのだ。

 

『才能というのはな、(はぐく)まねばならんのよ。手塩にかける必要がある。まぁ……中には勝手に磨かれ光を放つっちゅう(タマ)もおるが稀だ。それにそういったもんは必ず(おぼ)れる。葵もわかっとろ? 世の中よーくできとるわい』

 

 無性に舌打ちをしたい気分になったが、こらえる。

 

 目の前にどこかの家の子であろう五歳くらいの少女が怯えたような態度で固まっていた。状況的にどうやらスペースが空いていたので隣に座ろうとしたが、お姉さんが怖い顔だったので近づくに近づけずにいたらしい。慌てて笑顔を作り、座っていいことを示す。おずおずとその子が隣に腰掛けるのを見届け、

 

 さておき、基には相応のカンフル剤がいる。そしてその注入口となるのは、この二週間そばで観察してわかったことである。

 

 妹か金。

 

 身も蓋もないが、この二つが真条基の急所である。故に動かないを動かざるを得なくするのならば、どちらかあるいは二つともを押さえるのが一番早い。

 

 だからこそ、ペナルティを提案した。そしてその責を負うのは基の妹御である。

 

 効果はてきめんだった。

 

 結果として、基の心証を損ねたろうし、悪役となってしまってもそれは仕方ない。冗談と捉えられていつまでもスイッチが入らない方が遙かに問題なのだ。

 

 スムージーを飲み干し、ゴミ箱に捨てる。

 

 活と発破(カンフル剤)は入れた。

 

「さてさて、お手並み拝見」

 

 スマホの画面には基から『発見』の旨が記載された通知が来ている。一応上の階から見ていくよう伝えたため、間が悪くエンカウントしなければそれとなく誘導するつもりだったが上々だ。

 

 それを確認すると、葵は裏コードを打ち込み、()()()()()()()()()()()()()

 

 簡単にいうとそれは基のスマホのマイクを強制的にONにし、通話状態とするコマンドである。もちろんそんなことは基に説明していないし、問われて正直に答える気もさらさらない。

 

 無線のイヤホンマイクを片耳に突っ込みつつ、葵は女児に手を振り別れを告げる。

 

 上に向かうエスカレーターに乗れば、どうやら基と稚奈が接触したらしい。

 

『——あ、』

 

 男と女の声がハモっていた。

 

 第三種接近遭遇。そんな言葉が脳裏をよぎる。

 

 どうしても通話になるため、外音やノイズも多く、またおそらくスマホ自体が尻ポケットに突っ込んであるため全体的にくぐもって聞こえるがなんとなく内容はわかる。イヤホンの位置を調整しつつ、スマホの音量を上げて、集中しようとして、

 

 

 

『——好きなんだ』

 

 

 

 吹き出した。

 

 今のは確実に基の声だった。まさかの初手告白。まっすぐ狙っていけというレベルじゃなかった。

 

 周囲の人間が白昼の往来で脱糞騒動レベルのざわつきとドン引きの表情で距離を取るが、気にする余裕はまだない。

 

 色々展開は頭で予想していたが、転校初日で懲りずにまた玉砕覚悟のパワープレイで突っ込むとはまさか思わなかった。もう少しは賢いと思っていた。なのに、

 

『だから、————好きなんだ!!』

 

「うっせ!?」と思わず口に出すほど、音量アップして繰り返す(バカ)がいた。

 

 思わずイヤホンを外し、盛大に自分に集中している白い目に羞恥を覚えつつも、乱暴に頭を掻いて葵は、

 

「——だぁぁ、もうっ世話の焼けるッ!!」

 

 国民性を表すような片側にお利口に並んでいる列から追い越し列にはみ出て、子供は真似すんなよと祈りながら半ば駆け上がるようにして進んでいく。

 

 1、

 

 2、

 

 3、

 

 4、

 

 5、

 

 6、

 

 フロアごとに掲載されている数字がどんどん変わっていき、

 

 ようやく7階にたどり着く。

 

 どこだ。ああそういや発見時のメッセで場所が書いてなかったか。『発見。7階小説』。小説コーナーか。我がことながら腹が立つが想像以上に焦っているせいか見つからない。新刊を並べている店員に声をかけ、肩で息をし、据わった目で尋ねる10代少女の姿を見て一体何事かと口をぽかんと開けているその人に、

 

「……しょ、はぁ、小説、コーナー、はぁ、どこ、ですか」

 

 真反対側だという店員に、「ども!」とだけ残して、反転する。店員に呼び止められない程度にダッシュと早歩きの中間のような速度で、

 

 コンピュータ、理工、看護・福祉、人文、社会、雑誌、実用、文庫・新書——

 

 この辺りのはず。

 

 対面から見たら、さぞかし黒目が左右に反復横跳びしていることだろうと思いながら、葵はとうとう目当ての(バカ)の背中を見つける。しかし、

 

 ——うん?

 

 なんか基の周囲に漂う妙な空気に、嫌な予感がした。

 

 おおかた戦略も何もなく突貫し、物の見事に(はかな)く散ったのだろう。とにかく押して押して押しまくるという攻撃一辺倒なやり方はたしかに古来より存在する、が、それはあくまで上級者の兵法だ。基のような期待のルーキーが取っていいものじゃない。

 

 いつものキャラで偶然この場に出くわしてしまったー感をかもしだせば、この撃沈ムードをどうにかごまかせるかもしれない。

 

 最初は任せてみようと思ったが、まさかこんなに早々にフォローをする羽目になるとは、

 

 ため息をこぼしながら、素っ頓狂気味な声をあえて出しつつ、

 

「あれあれあれー、基じゃーん、奇っ遇ー、こんなところでどしちゃっ、た——」

 

 若干というよりかは半分くらいイライラを込めた強さで基の背中をテニスのストロークよろしくぶっ叩きながら、隣に駆けつければ、

 

 背中越しには死角になって見えなかった、

 

 目を潤ませながら基の両手をぎゅっと握りしめている黒木稚奈の姿を発見するに至り、

 

 

「——あり?」

 

 固まった。

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