俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第45話 ”ぷらいまるーる”

 

 

「ムグムグ……にゃーるほっど」

 

 ピーカンな青空の下ベンチに腰掛け、売店で買ったケバブサンドをコーラで流しつつ麻倉さんは包み紙をくしゃくしゃに丸める。

 

 それをバスケのフォームよろしく大げさに放ると綺麗な放物線を描いて燃えるゴミへと吸い込まれた。

 

 思わず俺もケバブをいったん膝の上に置いて、拍手する。

 

 同志クロロンとのわずかな邂逅の後、俺は再び屋上へと麻倉さんへ連れ出された。事情聴取がてら詫びの品だと言われ、ケバブとメロンソーダをおごってもらってしまったがいいのだろうか。ていうか俺普通にアイスティーかウーロン茶でよかったんだけど。なしてメロンソーダ? ベロを緑色にして少しはオシャレに気を使えるようになれってこと? それとも俺の知らないところでメロンでも食ったんか。

 

 なんにせよ、

 

 こういうのって普通男がおごるべきなんじゃないのか。幸いなことにまだバイト代が入ってすぐなため、昼食ぐらいならば血の涙と引き換えにどうにかこうにか捻出はできるが。強調しておこう、で、できるんだからねッ!

 

 でもタダ飯すぅきぇ〜〜、ありがてぇ、一食を浮かせられる喜びはあった。確かにあったんです。

 

 一口一口を噛みしめていると、

 

「まぁ良かったんじゃないです? その『ブスつか』とやらは私も知りませんでしたけど、その反応を聞くに黒木さんはだいぶ沼にハマってる感ありありですし。大事なことですよ。それだけアツく語れるものというのはその人にとって、同じくらい重要な事柄ってことですんで」

 

 ノートを取り出して、書き取っておく。

『ルール11、相手が沼っているものは大事にする。興味関心が高いので』

 

 まぁたしかになぁ。俺もまなめぐトークされたらいくらでも付き合っちゃうし。自分の中でめちゃくちゃハマっていたり、激推し中のヒトモノコトって誰かに共有したくなるのはわかる。

 

「——で?」

「え、で?」

 

 でっていう。からの〜? 的なやつやめろ。古傷がうずいちまう。からの〜から起死回生のギャグなんて生まれるわけがないんだよ。察せ。

 

「どうすんです?」

 

 そういって麻倉さんが指差すのはケバブとドリンクのトレーの横に置かれた文庫本。……はい、結局ちゃんと原作最新刊であるところの8巻を購入したワテクシを誰か褒めてほしい。ナデナデシテー。

 

 いやはや完全に余計な出費となってしまった。が、たしかに、8巻だけ買ってしまって、『で、どうすんの?』である。これでは音頭を踊るウマ娘たちにも聞かれてしまう。

 

「読まない……わけにはいかないですよねぇ……」

 

 くそっ、さすがに無知識で話を合わせ続けたらボロが出るのは間違いない。次にクロロンさんと会話する時までに超速で予習するしかない。ただ問題は、残りの7巻も全部買うとなるとぐぬぬぬぬ、ぴえんぴえんぱおん、うおおおあばばばば絶対他の事に使った方が有意義な気がしてらないいいい。

 

「そんな百面相しなくても……やれやれ、」

 

 今回は頑張ったということにしてあげますよ。と、おもむろに麻倉さんはスマホをいじると、

 

「今日中に誰かに真条さんちに届けてもらうんで、せいぜいしっかり読んどいてくださいね」

 

 か、買ってくれるというのか。し、しかも無料配送してくれるというのか。プライム会員じゃないのに。基、カンゲキ。

 

 いかん、俺が野比のび太だったらアサえもぉ〜〜〜んって抱きついているところだった。今日中にできるだけ安価にブスつかの既刊全部手に入れるひみつ道具おくれよぉって泣きわめかなくて済んだ。

 

 深い感謝の念を込めて、

 

「あ、ありがとございます……」

 

 頭を下げることしかできない。せめてうるうる目ができたらよかったのだが。

 

 はいはいと軽く流すと、飲み干してしまったのかストローをガジガジと噛みながら麻倉さんは、

 

「それはよしとして、せっかくですし、突き止めときますか。黒木さんのご住所」

 

 ……すげー軽く言うじゃんこの人。何度でも言うよ、せっかくだからプライバシーブッチするとは……。あとこれもう完全にストーカーになっちゃってる気がするんですけども。

 

「さてさてお腹も満たされ、本来ならお昼寝へとなだれ込みたいところですが、いきましょっか」

 

 おごってもらった手前せめてそれくらいはやろうと麻倉さんの紙コップを回収し、俺のゴミと一緒に捨てる。

 

 あれ、というか、よくよく考えてみると棚ぼたではあるが、年頃のかわいい女の子とお外で二人きりのランチをしてしまったのではないか。それを自覚するとなんか顔がほてるのを感じる。いやいや男の照れ顔とか誰もいらないから。またウブとか茶化されるのはごめんだ。俺はごまかすように、

 

「レッツラゴー!」

 

 麻倉さんが口にするより早く、やけくそ気味にこぶしを掲げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ×   ×   ×   ×   ×   ×   ×   ×

 

 

 

 ————かくして、再び麻倉さんのスマホで位置情報を特定し、おそらくクロロンさんのご自宅があると思われる団地の前の公園に我々はいたわけである。

 

「はい、では真条さん、ここでクイズです。女の子を口説くうえで最も大切なことはなんでしょう」

 

 麻倉さんからの突然の出題に俺はしばし頭を悩ませる。

 

 顔、っていったら話はそこで終わるだろうしなぁ。麻倉さんが最も大事っていうくらいだから、なんだろう。うーん、得てしてこういうものは(ちまた)でもささやかれているものじゃないのか。であれば、出会い方……とかか? よく大事と聞くし、あながち間違っていない気がする、

 

「出会い方、とかですか?」

「おー、悪くはない。全然悪くはないですし、それも大事ではありますが、最も大事なことです。じゃあヒント、」

 

 人差し指をピンと立てると、

 

「人と人とを結ぶものを昔から何て言いますかね、我々の国では」

 

 こちらもピンとくるものがある。

 

「ご縁?」

「正解」

 

 すかさずといった速度で、

 

「縁を途切れさせないこと。それさえ絶やさず保つことができていれば、どうとでもなります」

 

 それがお昼前に伝えなかったルール1ですと付け加える。

 

 正直言えば、腑に落ちたとは到底言えなかった。えー、そんなもんなんかね? と疑問が最初に沸き立ち、解消されることはなかった。それでも、麻倉さんがあまりにも力強く言い切るもんだから無言でノートを取り出して、最初のページにデカデカと書く。

 

『ルール1 縁を途切れさせないこと。それさえつながっていれば、なんとかなる!』

 

 ご丁寧にエクスクラメーションマークまで末尾に書き加えると同時に、クスリと笑う声が耳に飛び込んでくる。

 

「納得いってないって、顔に書いてありますよ」

「いや、まぁ……」

 

 顔に出てたのはまずかった。胸の内で留めていたつもりだったんだけど。ただ幸いなことに麻倉さんは怒った様子ではなく、

 

「この言葉の意味がちゃんとわかるようになったら、免許皆伝、かもしれませんね」

「麻倉流のですか?」

「ぷっ、そうそう」

 

 普通に強そうな流派だ、麻倉流。免許皆伝になれば履歴書の資格欄に箔をつけることが可能かもしれない。

 

 まぁ、現在白帯なのは自覚するところだから、免許皆伝といくにはまだ長い長い道程を、どどど道程ちゃうわ。道のりです。道のりを行かねばならないのだが。

 

 さておき、

 

「ってかここでいつまで待つんですか?」

 

 自宅なら、それこそクロロンさんがいつまでも出てこないことだってあり得るだろう。前世だったら俺の家を突き止めたところで無駄だ、効かねェ、ゴムだから、じゃない、ゴミだから、部屋から出なかった男だから。ヒッキーを無礼(なめ)るなよ。

 

 団地の棟の群れを見上げる。いったいこの内のどの一室なのやら。

 

「そうですね、もうちょいだと思いますよ——ほら、」

 

 スマホで時間を確認すると、何やら確信を持った口調で麻倉さんはつぶやくと同時に眉を上げる。その視線の先へと目をやれば、

 

 ——幼稚園くらいの男の子と手を繋ぎながら、棟の一つから出てきて、あろうことからこちらに向かってくるクロロンさんの姿がある。まだ俺を認識していないらしいが、もはや時間の問題だった。

 

 そしてすかさず、腕時計が通知を知らせる。送信者は案の定『あさくら』で、隣にいたはずの送信者は忍者のように忽然と姿を消していた。イリュージョン過ぎんのよ。それか『絶』の使い手でしょ麻倉さんて。

 

 冗談はよしこさんとして、慌ててメッセを確認する。

 

『Good Luck!』

 

 またかよ。

 

 どうやら第二戦のスタートだった。

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