俺の取り柄は顔しかない。〜キモオタがイケメン転生したら、ハーレムハッピーエンドを目指せるか〜   作:來馬らんぶ

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第46話 ”Oh 迷子!”

 

 

 

 一目でこちらを認識したというのがわかった。クロロンさんの表情の変遷をたどるとこうなる。

 

 は?(マジ?)

 ↓

 は?(なんでいんのコイツ?)

 ↓

 は?(どういうこと? え、こわ)

 ↓

 は?(戻る? どうする、どうする私)

 

 ちなみに括弧内は当方による意訳である。目は口ほどにものを言うとはなんと的確なことか。まてまて、おい、俺は同志だぞ、もう少し容赦のある視線でよくない? 

 

 ……冷静に考えれば、普通に怖いよな、こんな家の前で偶然とかキツいにも程があるし、ついてきたとしか思えんもの。

 

 せめてもっともらしい理由をでっちあげる間もなく、

 

「や、やぁどうも…………今日はよく会うね」

 

 自分でわざとらしすぎワロタと表現せざるを得ない言い訳を付け足す。が、

 

 表情をなくした顔のまま、クロロンさんは反応をよこさない。隣のショタだけが片手をあげて挨拶する俺とクロロンさんを交互に見やる。

 

「だれー?」

 

 至極当然の問いを無垢なる瞳とボーイソプラノでもって、投げかけるショタ。さすがにそれを無視することはできなかったのか、

 

「……クラスメイト、しりあい、ともだち」

 

 伝わる語彙(ごい)レベルにチューニングしてあげる様が見て取れた。ちなみに本意ではないニュアンスも俺クラスになるとくみ取れちゃう。

 

「わかちゃんのともだちー」

 

 クロロンさんの手を離し、俺の前までとてとてと駆けてくると、俺に向かって手を差し出してくる。え、これって間接握手……ドキドキする、わきゃない。さすがに。

 

「ありがとー、どーもー」

 

 しゃがみ込んで目線を合わして握手する。握手券もないのにしょうがないなーファンサだよ? 

 

 むふーと嬉しそうな顔のショタ。ま、まぁまなめぐには到底敵わないけど、かわいいんじゃない。

 

「えっと、……弟さん?」

 

 への字フェイスのクロロンさんに関係性を問えば、

 

「違うわ。……いとこ」

 

 さいですか。くっ親戚にこんな綺麗なおねーさんがいるだと。このショタ、いずれティーンで思春期になったら許さんからな。そんな俺の内心に恐れをなしたのか、ショタは今度は砂場へと興味関心を切り替えて向かっていく。

 

「どうして、こんなところにいるの?」

 

 案の定、冷えっ冷えなトーン。

 

 えーと、えーと、それね、ハハ、そうそれな、えー、どうしたもんかな、時間をかければかけるほど不信感は増すのにも関わらず、妙案が浮かばない。た、たちけて、アサえもん、

 

 天に祈りは——、

 

 

『あさくら:好きなのドゾ、①運命、かな? ②君に会いたくて…… ③黙れよ、そのうるせぇ口にキスするぞ ④俺がここにいると何か困るのか?』

 

 

 なん……だと、というか冗談……だろ、

 

 腕時計に表示されたメッセの選択肢がゴミしかないんですがそうですか。あまりの衝撃に目をかっぴらいてしまった。ゴミの中でもまだマシなゴミは④だが、どこか厨二感あるのがかなりキツい。ましてや③とかポリスメンにお縄を頂戴してしまう。全部の選択肢の最後に(放屁)をつけないと言える気がしない。

 

 ①運命、かな?(放屁)

 ②君に会いたくて……(放屁)

 ③黙れよ、そのうるせぇ口にキスするぞ(放屁)

 ④俺がここにいると何か困るのか?(放屁)

 

 アカン、これは麻倉さんには頼れん。第五の選択肢を作り出すしかない。

 

 考えろ、考えるんだ基。お前ならできる、そう、できる。ウソとホントを巧妙にまぜまぜしてアウトプットするのだ、それが一番ウソがバレない方法のハズだ。やってやるぜぇ、フハハ、

 

「みっ、」

「み?」

 

 返答如何では許さぬと言わんばかりの目つきのクロロンさんに対し、俺は、

 

 

 

 

「道に、迷って…………」

 

 

 

 

 バキバキの目でそう答えた。今なら白目の部分の毛細血管まで自由自在よ。あ、ちなみにウソ百パーになっちゃった。てへっ。

 

 はい、終わった。

 

 沈黙が場を支配する。カラスだけが呑気にカーカーと騒いで間をつないでくれる。かくなるうえは、ハラキリをせねばなるまいかと思い始めた頃、

 

「そ、……そう……真条くんは方向音痴……なのね」

 

 かなり引いたトーンでコメントするクロロンさん。もう戻れないんだ、この道は、

 

「ここは、どこーー!?」

 

 さながら過酷な刑務所から脱獄した先で自由を味わうように雨に打たれる、かの名画の1シーンのように両手を広げ、叫んだ。ちな雨は降ってないが、心は滂沱(ぼうだ)血涙(けつるい)である。

 

「まいごなのー?」

 

 砂場から俺の魂の咆哮が届いたらしい、ショタが聞き返してくる。うん、おにーさん結構人生的に迷っててぇ……、

 

 砂場から無意味にがに股になって出てくると、ショタはクロロンさんの元へと駆けていき、

 

「わかちゃん、たすけてあげてー」

 

 やだ、このショタ、イケメン……。こんな嘘つきの汚れた年上のメンズであろうと助けようとする黄金の精神の持ち主だったとは。そのまますくすくと育ってくれ。そして国のためという名目でハーレム作れ。

 

 なんとも言えない顔になっているクロロンさんもいとこには甘いのか、嘆息しつつ、

 

「まぁもう深くは聞かないわ……」

 

 諦めてくれたようだった。首の皮がつながった。

 

 で、出来る女だわクロロンさん、情けのある女だわクロロンさん。これはモテる。ヒューヒュー。いやもう面倒だから思考を放棄した説もあるけど、スルーしないと心が砕け散っちゃう。

 

「それで、帰る道がわからなくなったの?」

 

 やべぇこの歳でその質問はなかなかクるものがある。人はどこから来て、どこへ行くのか、そんな永遠の命題に対する……背に腹はかえられませんね、はい。

 

 力なく、うなずいておく。すげぇかっこ悪いけど大丈夫かこれ。

 

「スマホのマップはあるかしら」

 

 あいてーによわよわなおじいちゃんの扱いなのよもうこれ。俺はよろよろとスマホを取り出すと半ばやけくそ気味に、

 

「あるけど、見方がわからなくてさ。北ってどっちだ?」

 

 どっちなのは明日だよぉ。

 首を傾けながらスマホを一回転させる。ふぇぇ、なんてアホな姿をさらさねばならんのだ。

 

「落ち着いて、大丈夫だから」

 

 なんかやけにクロロンさんが優しくなったのが心に刺さるよぉ。もう完全にあれじゃん、おバカさん認定くらったでしょこれ。リカバリー無理無理、麻倉さん、ターゲット変えましょう。

 

「ほら、ここが」

 

 隣にくるなり、スマホをバタつかせていた俺の手を取り画面をのぞき込む。ちらりと絹糸のような光沢を放つ黒髪からのぞく、うなじ、耳の裏。

 

 思わず生唾を飲み込む。

 

 麻倉さんとはまた違ったいい匂いが鼻腔をくすぐる。なんなんだよ、なんで女の子って良い匂いすんだよ、シャンプー? シャンプーなのか? シャンプーだけでこんないい匂いって放てんの?

 

 クロロンさんが、現在地であるこの公園と周囲の目印になりそうな通りやコンビニなどを解説してくれているが、一向に頭が咀嚼(そしゃく)してくれない。

 

「——真条くん?」

「は、はいっ!」

 

 呼びかけられ、どこかに飛びかけていた意識が息を吹き返した。慌てて、

 

「聞いてる聞いてる」

「それならいいけど、……理解はできてる?」

 

 若干、言葉を選んだ間が泣ける。ってか間近で見ると改めて思う。

 

 クロロンさんって、顔強ぇな……。普通に小顔だし、鼻はスッと通って外人と渡り合えそうなくらいでいて、ちゃんと東洋人らしさもあるし、切れ長の目や形の良い唇にどうしても目が行く。

 

 そして何よりクロロンという名の通り黒髪の艶やかさだ。かつて女性の髪はお金になったというが、それも頷けてしまう。

 

「……とにかく、できるだけ簡単に言うわ。最寄りの駅まで行くなら、この道をまっすぐ行って突き当たりを右、直進して突き当たりを今度は左、あとはまっすぐよ」

「り、理解したわ、ありがとう!」

「本当に?」

 

 まったく信用していなそうなクロロンさんに、俺は指でもって空中に説明されたルートを描く。要するに、

 

「こんな感じでしょ?」

 カギ括弧をつなげたようなものだ。直進し右が「、また直進して突き当たりを左が」

 

 そこまでしてようやく理解したかと、ふーっと息を吐き、

 

「合ってるわ」

 

 合格点をもらえたようだった。であればもう長居は無用。これ以上はちょっと俺の精神が持たんかもしれない、距離近いし。立ち去ろうと一歩踏み出し、

 

「そうだ、お礼にこれを」

 

 今後を考え、とにかく機嫌を取っておくに越したことはない。山吹色のお菓子は渡せないが、これならば問題ないだろう。

 

 俺は紙カバーをつけてもらた文庫本を取り出してクロロンさんに手渡す。

 

「え、……」カバーをめくり、「こ、これって……っ」確認したご様子。

「ラス1だったからたぶん買ってないんじゃないかって」

 

 今すぐ立ち去りたいため、早口でまくし立てるように、

 

「すげぇ好きなんでしょ。だったら俺より読んだ方が良いよブスつかの新刊——」

 

 クロロン氏はガチ、小生はニワカだからなとまでは言うつもりはない、と、

 その時だった、最後まで言い終える前にショタが、

 

「あ、ママ! パパ!」

 

 勢いよく駆けていく。思わずそちらへ目をやれば、

 

 公園の入り口に立っているのは、三十代くらいの夫婦と思しき男女が立っていた。特に女性の方はどことなくクロロンさんの面影をわずかに感じる。そして視線が交錯すると、向こうが先に会釈してきた。

 

 先手を打たれれば、こちらとしても返さざるを得ない。

 

「あっ……ごめんなさい、もう行くわ」

 

 一瞬だけ本を返そうか迷う素振りを見せたが、やはりガチ勢だから読みたかったのだろう。お礼の言葉の代わりにへこっと丁寧に頭を下げてショタを追いかけていってしまった。

 

 そしてその夫婦と思しき二人組と合流すると何事かこちらを見ながら会話をしているが、内容までは聞き取れなかった。やがてもう一度クロロンさんたちは俺に一礼していくと団地の方へと去って行った。

 

 それを軽く手を振りながら見送ると、

 

「どんな家族構成なんだろ——って思ってるでしょう?」

「うぉっ」

 

 いつの間にか真横にいた麻倉さんにのけぞる。ほんと心臓に悪いよ、この女忍者。いったいどこに隠れ身の術してたのかはしらないが、

 

「内心読み過ぎですって」

「一応リサーチ結果は手元にありますんでね。今後の作戦会議がてらインプットといきましょう」

 

 もう個人情報云々については言わんとこ。考えても無駄ってわかってきた。はじぃ、覚えた!

 

 さーて帰りますかといって麻倉さんは三歩ほど進んでから、くるっと振り返って面白そうに、

 

「完全に鼻の下伸びてましたね」

 

 そりゃ反論できませんがな。うりうり〜と軽い肘鉄砲もおまけでついてきたが甘んじて受け入れる他なかった。

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